第260話 希望のペテン師

西園寺がカメラの目の前で覚醒者と名乗り日本を守ると宣言した後、一部のプレイヤー達はヘリに乗って移動する事になる。

最初に出会った軍隊の人から既に上に伝えてもらったので、今から移動して国の上層部の者達と話さねばらない。


向かうメンバーは西園寺、二階堂、松野、内野の4人だ。西園寺はリーダーなので当然であるが、残りの3人の選出理由は単純なものであった。

これから話す相手は国の首相や大臣達、彼らの前でスキルの力を見せねばならないが、重鎮の前で加害性のある危険なスキルを見せることは避けた方が良さげなので、二階堂の『ヒール』と松野の『テレポート』を見せる事にした。この二つなら特に危険もなく、見て効果が分かり易いから。

そして内野の選出理由は、学校でヤンキーをボコボコにした映像が出回りちょっとだけ有名人だからだ。魔物災害に抗う力について紹介する時に内野の知名度を使うつもりである。


「肩の力を抜いていいよ。交渉するのは僕だから」


「そうなんだけど…やっぱり国のお偉いさんが集まる重苦しい雰囲気の中に入ると思うとドキドキして…」


西園寺は肩に力が入っている二階堂にそう声をかけて安心させる。普段明るい人なのでそういう場でもなんとかなりそうな人だが、彼女は意外にもクエストの時よりも緊張している様に見えた。

松野も二階堂ほどではないが緊張しており、それを紛らわす様に内野に話しかける。


「どうだ勇太、お前も緊張してるか?」


「まぁ…緊張はしてるけど、それよりも心配が大きいな。

俺もテレビに出る事になるが、またマスコミだとか面倒なのが家に寄り付いて二人の迷惑に…」


「父ちゃん母ちゃんの心配か…自分の事はいいのか?

もう一緒に暮らせなくなるかもしれないのに」


「…大丈夫だ。仲間に支えられながら前に進むって決めたから」


「そうか。まぁ海外に家族には安全な国で暮らしててもらった方が安心できるしな、そっちの方が訓練にも集中出来るってもんだ。

てかよ、お前次学校行った時モテモテなんじゃね?」


「いや、もう覚醒者として名乗り出たら学校に通う事なんか無いだろ」


「あぁ…そういえばそうだった。俺もだけど…」


暗い話題から話を逸らそうと松野は学校の話をしてくるが、もうこれ以降普通の学校生活を送る事は無いので、明るい話題で話を盛り上げるのには失敗した。

慣れ親しんだ町から離れて暮らす事には寂しさはあるものの、一人になるわけではないのでそこまで深刻な雰囲気にはならない。


(正樹とか学校の皆…あと最近全然合ってないけど真子ちゃんにも別れの挨拶をしないとな。色々大変だが…仲間がいればどうにかなるだろう。

仲間が…仲間……新島…)


頭には今日死んでしまった新島の顔が浮かぶ。

クエスト終了後のプレイヤーの姿が透明になる時間の間に、工藤は『蘇生石』を使って新島を生き返らせた。

前回の魂のセーブポイントが3日前のクエスト発表の時、だから生き返った先は彼女の自宅で今は大阪にはいない。

プレイヤーの命は替えが利く。だから内野は彼女に支えられ続ける事が出来るが、やはり複雑な心境ではあった。



暫くすると首相と防衛大臣がいる内閣府庁舎の屋上へ到着する。

屋上にはスーツを来た男性が数人おり、ヘリを見上げている。

着陸して4人がヘリから降りると、中央にいた男が前に出てくる。


「官僚の藤崎だ。早速で悪いが閣議を今行っているので今すぐ会議室へと案内する。首相や大臣もいるから念の為ボディチェックをさせてもらうよ。

…まぁ、カメラの映像を見る限り武器を虚空から取り出せるみたいだが」


彼らは既に魔物を殺すと人離れした力が手に入るのを知っていたからか、特に西園寺達の力について疑わずに案内を開始する。

これから会うのがまさかの国のトップである首相と分かり、4人の緊張は高まる。だが西園寺は少し安心もしていた。


「こっちが異能力を持っているって分かっているのにこの薄い警戒…どうやら向こうも藁にも縋る思いでこっちを頼ろうとしてるみたいで焦ってるみたいだね。これは思ってたより交渉が楽そうだ」


「確かに…人を越えた力を持っている俺達と首相をそう簡単に合わせるとは思わなかった。それぐらい切羽詰まってる状況って事か」


話が早くて助かるが、上がこの様子だと恐らく対魔物災害の対策も特に良い案が出ていない状況なので、一概に良いとは言えない状況でもある。

4人はスーツの男に囲まれながらも会議室へと入る。


ノックをすると中から「入ってくれ」と了承の声がし、一同は会議室へと入る。

会議室の中は重苦しい雰囲気のまま魔物対策の話がしていたが、ノックにより一時話を中断した様だ。


この会議室に座っているのは全員が国の上層部にいる者。そして中には誰しもテレビやネットで一度は見た事ある者、国のトップの首相と防衛大臣も席についていた。彼らは一斉にこちらを向いて来る。

内野が知っているのは沖田首相と守山防衛大臣の二人で、自然と二人に視線が向かう。

一瞬首相と目が合うも、彼は立ち上がり席を指示する。


「良く来てくれた。緊張するだろうが取り敢えずそこの席についてくれ。

それにしても…若い者が多いな。中年の者もいたと聞くが君がリーダーなのかい?」


「ええ。カメラの前で披露した通り僕には特別の異能があり、覚醒者の中で最も強いので。

今この場で見せてみましょうか?僕のだけじゃなくてこっちの二人の異能も」


「き、危険は無いんだな?」


「はい。危なくない異能を持っている者を連れて来たので」


西園寺はこの場に居る全ての者にスキルを見せて異能力の存在を信じさせる。

西園寺は『色欲』で、片手で長机に触れながらもう片方手でそれを複製する。闇が出現した瞬間は恐怖に声を上げているものいたが、それが長机に変化すると「おおー」という驚きと称賛の声に変化する。

そしてその調子で二階堂の『ヒール』と松野の『テレポート』も披露して見せた。

これでもう覚醒者の力を疑う者はこの場から居なくなり、西園寺らの言葉の信用度が増した。

この場にいる者達は異能力の存在に希望を見出したのか、顔が先程よりも明るくなっていた。


「さて…先ずは君達について聞かせてもらえないか?

こっちが知っている情報はあまりにも少なすぎてな…人が超人的な力を手に入れるには魔物を殺す必要があるとしか知らないのだ。そんな異能の存在などこれまで発見された事もない」


「魔物を殺すと力が手に入るという事が分かっているのならば話が早いです。

力を手に入れた者が更に魔物を殺し続けると、更に超人的なパワーを得られます。ゲームで表せばレベルアップといった所でしょう。

そのレベルアップが起きた際に稀に異能に目覚める事があるんです。なので覚醒者の中には異能力に目覚めている者もいれば、まだ超人パワーのみで魔物と戦闘を行っている者もいます」


「ふむ…それじゃあ君達は最初の魔物災害に巻き込まれ、そこで異能を手に入れたのか?」


「いえ、僕が覚醒者となったのは一年以上も前の事です。

実はこれまでも魔物はこの世に来ており、それを僕らが狩っていたんです。この魔物災害と比べて魔物の強さも数の規模も小さかったですけど。

魔物災害以前から超人的な力を持っていたという証明に…彼をご覧ください。ご存知でしょうか?」


西園寺は打ち合わせ通り、ちょい有名人の内野を使う。

会議室にいる2割ぐらいの者達は内野の顔を見て、あの学校の暴力事件の被害者だと分かると納得する様に頷いていた。

納得する者達の様子が伝達するようにこの話も全体に受け入れてもらえた。

ただ、質問もいくつか飛んで来る。


「その魔物災害以前のものはこちらの調べでは見つからなかった。魔物を見たなどという証言も一切上がっていないのだが、何処で行われていたのだ?」


その質問が出るのも当然。だってこの話は嘘なのだから。

だがそこの言い訳についても考えてもある。


「僕らが何故か魔物災害が始まると透明になる通り、その時は魔物の身体も一部の者にしか視認出来ませんでした。

一体の魔物がある日突然目の前に現れ、何故か襲ってくる。周囲に助けを求めても誰もこちらの事を視認出来ず、自力で魔物を殺した者のみが生き残りました。ちなみに魔物の死体は時間経過で綺麗さっぱり消えました。

なので多分僕の知らない所でもこの現象に遭った者もいるでしょう。人の死体が出ていないのは、もしかすると人間の死体も魔物と同じく消えているからでしょう」


「私達が知らぬ間にそんな事があったのか…」


この作り話については、今まで魔物らしき存在が見つからなかったという点だけカバー出来ていればOK。

魔物災害が起きる様になってからはその現象も消えたと言えば、もう今後はその過去にあった現象の話などどうでも良くなるのだから。


「君達は魔物災害含めその現象についてどれだけ知っている?」


「今話した事が大体全てです。

ただ皆さんもうお分かりだと思いますが、魔物が現れるのはきっちり8時間で、しかも決まった範囲の中だけ。自然に起きたものとは思えません。

だから何者かが裏で僕達にこんな事をやらせているとしか思えない」


「…っ!黒幕がいるという事か!」


「8時間計れる知能と魔物を送ってこれる強大な力がある相手なのは確定ですね。それに人口が密集する日と場所を把握し、そこに魔物を出して大量虐殺を計っている極悪人という事も」


どよめきが止まらない。

この話はまるで映画の様に宇宙からの侵略者から地球が狙われていると言うのと同じであり、到底そんな簡単に受け入れる事は出来ない。人類の科学を越えた力を持っている者がこの世界を滅ぼそうとしているなどと言われて直ぐに受け入れるなど無理であるので、どよめきが止まらないのも仕方がなかった。


だがここで、困惑する彼らの声を西園寺が止める。


「ですが安心してください。

さっき宣言した様にこれからは僕達が国の協力の元、魔物達を殺し日本を守ります。これはその為の力ですから」

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