第259話 計画設計

「次のクエストで僕らの正体を明かそうと思う。覚醒者としてね」


3回目のクエストが起こる1週間前、西園寺がそんな提案をしてきた。

この場には内野、川崎、田村、西園寺の4人がおりとてもふざける様な空気間ではない。西園寺のその提案は本気だ。先ず最初に食いついたのは川崎であった。


「クエストについて話せないのにどう正体を明かすんだ?

力だけを見せても俺達が何も言えねば、お前が前に行っていた日本の希望となるって目的も果たせないだろ?」


「さっきこっち側に運を100にした者がいるのだが、そこで黒幕に確認した。クエストについて語るのはダメ、でも妄想を語るのは別に制限されてないってね」


一体どういう事かと3人は興味を引き付けられ、西園寺の話を黙って聞く。


「例えば…「今まで僕らは異世界に週2,3回ぐらい行って魔物と戦い続けていました。それが今では現世に魔物が出る様になり、僕らプレイヤーが魔物を狩っているんです」って言ったら絶対にダメだよね?まんまクエストの事を言っちゃってるから。

 じゃあ…「僕らはこれまでも現世で魔物と戦っており、授かったこの力で魔物と戦ってきました。今までは魔物は少数しか出た事が無かったので被害も少なかったのですが、突然こんなにも規模が大きくなって僕らも驚いています」って言っただろうだと思う?

実際魔物災害が起こる前に魔物なんか現世に出てなかったし、これってただ僕らが嘘を話してるだけだよね?

これならクエストについて話すなってルールには触れない…それを黒幕と話して確認出来た」


「ほう…つまり世間にはクエストとは違う嘘を話して納得させる事が出来ると」

「ルールの抜け道を見つけたってわけか。黒幕はどんな反応をしていた?悔しがっていたか?」


「その逆だよ。ルールのガバで得をするのはプレイヤーの側、つまりプレイヤーを勝たせようとしているあの黒幕にとっては嬉しい事みたい」


「へえ…じゃあ悔しがっているのは魔物側を勝たせようとしてる方の黒幕か」


黒幕が悔しがっている所を見たい気も一同にはあったが、あの白い空間で会う黒幕はこっちの味方なのでそれは叶わなかった。

続いて西園寺は自分の計画について話す。


「嘘の設定については色々考えているから、そこは後で教えるね。

で、ここからは僕の考えている計画について話そう。

簡単に流れを言うと、僕らは覚醒者としてこの力を世間に誇示して国と交渉する。覚醒者が十分に訓練出来る場所を用意してもらい、生活も保障してもらうというのが一番の目的だ」


「これで俺達プレイヤーと覚醒者は訓練に時間を費やせるな。

今まで学校やらに通っていたり、在住場所が離れていて訓練に参加出来なかった者達も全員訓練が出来るのは大きい。

それに覚醒者として魔物と戦う事を宣言すれば、他にも色々要求できそうだな」


「戦闘を決意し日本防衛覚醒者隊に入った者達の家族は優先的に海外に逃がしてもらったり…だとですかね。

これなら俺の父ちゃんと母ちゃんも安全な所に…」


川崎と内野の意見を聞き、西園寺は頷く。


「そうそう。こっちは今まで以上に戦い易くなるし我が儘も通る、国としては変異体の存在を知れて自分の元で管理できるからどっちも嬉しいって訳。

取り敢えず次のクエストが始まるまでに作戦の準備と、覚醒者として名乗り上げたい人をリストアップしておこう。当然僕はリーダーとして先陣を切って名乗るよ。

ちなみにお三方はどうするつもり?」


西園寺は川崎、田村、内野にそう尋ねる。


「俺はやめておこう。俺の魔物を出す力は人前では使わない方が良さそうだが、覚醒者として名乗り出たら外に出る自由が制限されるかもしれないし、このまま人気の無い山で過ごすつもりだ。

ちなみに慎二は覚醒者隊に参加させるつもりだ。慎二が覚醒者として参加すればどのみち俺の両親も安全だからな」

「私は川崎さんに代わり訓練の指揮の為にも、我が息子の為にも名乗ろうと思います。私の息子は優秀ですから海外でも上手くやっていくでしょうし」


二人は即決だったが、内野は少しだけ悩んでいた。

両親を安全な場所に逃がしたいとは思っていたが、息子が覚醒者として魔物と戦うなんて知ったら心配するだろう…と考えると即決は難しかった。

だが命の方が大切だ。プレイヤーじゃないので両親の命は一つ、新島みたいに生き返る事は出来ない。だから…


「…俺もやる。今後クエストの規模が大きくなっていったら、日本安息の地なんてなくなるかもしれない。

…その前に二人を外へ逃がしたい」


二人と離れて暮らす事にはなるだろうが、内野は覚醒者として名乗り魔物と戦う決断した。






この計画の話は他のグループのプレイヤー達にもされ、今回のクエストで実際に計画が行われたのだ。

魔物を殺す力の誇示の為に魔物の死体で山を作り、軍隊経由で上に話を通してもらう。そして何処かのテレビ局のヘリも呼び、覚醒者の存在を世に知らしめた。

残りのステップは、国の上層部と話をし、日本防衛覚醒者隊を正式に国公認の組織にするというものである。


その次のステップの為に、西園寺はあるメンバーと共に国からの迎えのヘリに乗った。

_______________________________

7つの椅子がある真っ白の空間に一つの黒い玉が浮かんでいた。ここは内野達大罪がクエスト終了後に転移させられる場所でその黒い玉はクエストの黒幕だ。

ここには黒幕一人しか居ないが、黒幕とはまた違うある者の声がその空間に響く。


「プレイヤー達が妙な事を考えているみたいだが…もしやクエストの事を発表するつもりなのか?」


「いーや、発表するのは作り話。だから彼らは何のルール違反も犯してないよ」


「そんなの認められるか。どのみち世間にプレイヤーの正体がバレたらクエストが機能しなくなる。今すぐやめさせろ」


声だけ聞こえるが姿が見えない。

彼は黒い玉と同じ様にこのクエストを支配している黒幕であるが、彼が勝たせようとしているのは魔物側。つまりお互い敵同士である。

男は怒りながらも黒幕にそう指示をするが、黒い玉は軽快な口調なまま反論をする。


「このゲームのルールを作ったのは君だろ?

今更そう言われても困るよ、急なルールの変更はプレイヤーのみんなも困っちゃうだろうし」


「…勝手にルールを作ったのはそっちだろうが。プレイヤー一人につき5人までにはクエスト範囲から逃げる様に警告して良いってルールを勝手に作りやがって」


「それは何も定めなかった君が悪いよ~これでも無制限にしなかっただけ僕とっても優しい方だと思うよ。

君、ちょっとプレイヤーを自身の手で殺す事に夢中になり過ぎて視野が狭すぎたんじゃない?」


黒幕の言葉に反論できなくなったので、相手は小さく舌打ちをする。


「…っち、別にもう良い。一般人が避難させられた所で影響は微々たるものだ。大罪を殺せれば問題無い」


「何か策を練ってるみたいだね、あ~そっちの状況が見えないのがもどかしいよ。それにプレイヤーの皆にの注意を出来ないのも凄いもどかしいぃ~」


「そうだ…そういえば今はお前はこっちの様子を見えないんだったな。じゃあとっても優しいお前に言い事を教えてやるよ。いずれ2回大虐殺が起こるってな」


「…2回?1回じゃなくて?」


本気で何を言っているのか分からず、黒幕は本気のトーンでそう返す。黒い玉の黒幕が本気で悩んでいる事に気分を良くし、もう一人の黒幕は気分上々で一言言い捨てる


「せいぜい悩んどけクズ野郎」


「言うね~」


まるで友達にいじられたかの様なノリで黒幕は返すも言った方は本気だったらしくそのふざけた反応にまた腹を立てていた

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