第258話 希望宣言

魔物災害が発生して8時間以上経過した。

大阪の街は東京で起きた魔物災害と同じく崩壊し、大量の死者が出た。8時間経過すると魔物が完全にいなくなるのはこれまでの事から分かっているので、軍隊による救助活動などにはこれまでよりもすんなりと行えた。


とある部隊は魔物災害が発生した領域の中心部へとヘリで移動していた。

軍隊の乗る大きな戦闘ヘリ3機、救助者を乗せる為の救難ヘリが5機共に行動している。


操縦者達はいずれもベテランでこの3度目の悲惨な光景に慣れず胸を痛めていた。


「酷過ぎる…数時間前まで町があったとは思えないぐらいだ…」


「俺は一度目の魔物災害で直接この目で魔物を見たが、あんなのがうじゃうじゃ現れたら町なんてあっと言う前に消えるのも頷けるぐらい恐ろしい生き物だった。ミサイルでもなきゃ殺せないサイズの奴もいたぞ」


「確か透明の英雄様が殺したんだよな。そして今回も透明な奴らが魔物を大量に殺してたって報告が上がってる」


「俺らは魔物に対して無力っつーわけか。せいぜい透明の英雄様が日本が滅びる前に魔物を狩り切ってくれると助かるぜ」


無線でそんな会話をしながらヘリを操縦していると、戦闘のヘリの操縦者がとんでもない光景を目の当たりにする。

それは建物が消えて平らになった町にポツンとある小さな山。よく見るとその山の正体は数百体もの魔物の死体が積み重なって出来た山であった。その異様過ぎる光景に、操縦者や他の者達も窓に食いつく。


「なんだよあれ!何匹死体が積み重なってるんだよ!」

「軍…の仕業じゃないよな…」

「おい!あれだけ魔物を殺せる兵器が投入されてたなんて聞いてないぞ!?」

「ミサイルだとかは使われていないはず…

こんな魔物災害の中央で大量に魔物を殺せる奴なんて…さては透明の英雄様がお出ましか!?」


「おい見ろ!山の近くに生存者が多数いるぞ!救助だ!」


山の近くに数十人も座っている事に一人が気が付きヘリは降下する。

通常瓦礫のせいで降りれる場所を探すのに手間取るのだが、今回はその山の近くには不自然に瓦礫が除去されている場所があり、そこに全てのヘリが効果する事が出来た。


部隊はヘリが降下するや否や飛び出し、生存者達の安否を確認する。彼らの身体は血だらけになっているので、いち早い救護が必要だと考え救急セットを所持し。

血だらけになって魔物の死体の山の近くにいた者達は、部隊がこちらに駆け付けてきたのを見て、待ってましたと言わんばかりに手を振ってくる。

近づいて見た所、そこには年齢バラバラの男女がいるが誰一人深刻な怪我は負っていなかった。彼らの傍らには武器と思わしきものが色々あったりもする。


部隊の隊長はキョロキョロと彼らの顔を見回しながら、先頭にいる男に尋ねる。


「大丈夫か!?負傷者はこっちのヘリに…」


「全員今はもう大丈夫ですよ、傷は治しました」


妙な事を言う男であったが、魔物災害の中心部であるにも関わらず全員が無傷、近くに魔物の死体の山が積み重なっている事から、馬鹿馬鹿しい彼の言葉を鼻で笑う気にはなれなかった。


「た、確かに無事そうだな…ちなみに付近に他の負傷者はいるか?

それに…この死体が何なのか知っているか?」


「この死体は僕らが積み上げたものです。

殺す所から積み上げる所まで全て自力でやりました」


「き、君…今は非情事態なんだ。だから正直に答えてくれ」


「今のが真実です。

自己紹介から行きましょう。どうも、『変異体』改め『覚醒者』のリーダー西園寺 輝です」


西園寺は片栗に『ウォーター』で水を出してもらい顔の血を洗ってもらい、髪をなびかせながら軍隊に挨拶した。





「あなた…勇太が6チャンを見ててだって」


内野家にて、内野の両親は息子の帰りを待っていた。

内野は今日も友達と遊んで来ると言って朝早くから出かけており、魔物災害の場所から離れた場所にいるので大丈夫だと連絡はしてきていた。

だが19時を過ぎても帰って来ず、連絡が来たかと思うとテレビを付けろという訳が分からない事を言ってきた。

魔物災害が起きたので二人は元々テレビを付けっぱなしにしていた。だからチャンネルだけ変えて二人はそのままリビングから動かずテレビを見つめる。

すると内野の連絡から1分経たずで速報が入り画面が切り替わる。


「速報です!先程今まで変異体と呼ばれていた魔物を殺していた謎の存在であった者達が正体を明かしました!現場のカメラへと移ります!」


さっきまで被害状況の予想や新兵器の討論が行われていたが、アナウンサーのその声と共に突然画面が切り替わる。

画面に映ったのは最近流行の5人ユニット『フェイクフェイス』の西園寺の姿だった。今時のアイドルについてあまり詳しくない二人でも名前だけ知っているぐらいの者で、今画面には服が血だらけの彼が立っている。

良く見えないが背後にも数人血だらけの者がおり、その更に後ろには魔物と思わしき変な生き物の死体があるのが分かった。


「改めまして、僕らが今まで変異体と呼ばれ魔物を殺していた透明の者の正体です。自分達では覚醒者と呼んでいますので、今後はその呼び名でお願いします。

取り敢えず物証として僕の後ろにある山を映してくれませんか?」


西園寺はカメラマンにそう頼み、テレビに魔物の死体の山をでかでかと映してもらう。

その時、多くの者がその山に目がいっただろうが、二人は魔物の死体よりも死体近くにいる者に目がいった。


一瞬だけだが確かにそこに内野がいたのだ。


「「勇太っ!?」」


声を合わせて二人が驚いていると、内野から母のスマホに通話がかかってくる。母はすぐにそれに出て、父もスマホに顔を近づけ耳を済ませる。


「今多分カメラに少し映ったけど見えた?」


「勇太!?今の本当に勇太なの!?」

「おいどうしてそんな所にいるんだ!?東京にいるんじゃなかったのか!?」


「ごめん…嘘ついてた、今まで色々。

でもその嘘ももう終わり、これから本当の事が分かるから」


内野はそれだけ言うと通話を切った。再びかけてみるも通話には出ず、二人は混乱しながらもテレビを見るしかなかった。


「僕ら覚醒者は、この魔物災害より前からこの世界に現れた魔物を倒していました。この授けられた力を使ってね」


西園寺はカメラの前で武器を取り出したり、闇を出して色々な物を作ってみせた。これにはプレイヤー以外にいるその場の者達もどよめきの声を出しておりカメラも少しブレる。


「他にも身体能力が超人並みになったりもしてるから、ああして魔物を狩れたんだ。今僕しか力を見せてないけど、後ろにいる彼らも同様の力を持ち、共に魔物を狩っていました。

どうして透明になっていたのか、今まで正体を隠していた理由などを話すのは後日になりますが、今ここで一つだけ言っておきたい事があります」


西園寺は一拍貯めを作って大きく息を吸った後、宣言する。


「僕ら、日本防衛覚醒者隊が日本を守ります。僕らがこの世界に攻めてくる魔物を狩って皆さんを守ります!」


西園寺のその宣言は、魔物災害の被害に苦しんだり怖がったり、人々の心にあった影に光を照らす様な希望へとなった。

そして彼の話題はその日の日本の全ての話題を掻っ攫う程大きなものへとなった。

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