第257話 前進のみ

突然闇が空を覆い3人は驚く。

闇のドームに2㎞ほど包まれており外の方は全く見えないが、物を視認する明るさは普段と全く変わらない。太陽の日が完全に遮断されているというのに。

そして一番の驚きは、さっきまでの光の槍の猛攻がピタリと止まった事だった。


驚き固まる3人であったが、直ぐに術者の声が聞こえてくる。


「恩を返しに来たわ。負傷が酷い人は声を上げて!

詳しくは後で説明するけど、この闇の中じゃスキルは使えないから!回復が必要な場合は私に言いなさい!」


そう声を出しながらこちらに走ってきていたのは暴食の涼川であった。

その後ろには5人ぐらいその仲間達と思わしき者達がおり、彼らは内野達を発見すると、一人だけこちらに寄ってくる。残りのメンバーは周囲を捜索していた。


「無事そうだな…あ、君は強欲の…」


「はい!お陰様で命拾いしました」

「助かりました!」


「礼と話は後、取り敢えず今ここにいる人数を教えてくれ」


相手は辺りを見回しながらそう言うので内野らもそれに答え、川崎達との合流を急いだ。彼らが全員生きている事を祈って。




この闇のドームのお陰で光の使徒の攻撃は通らず、捜索は安全に行えた。

まだ詳しい説明はされていないが『暴食』で生成したこのドーム内では全てのスキル・パッシブスキルを使えないらしく、魔力感知系のスキルでの捜索は出来ない。だから一同は必死に声を上げて皆を探した。


数十分かけた捜索の上、見つかったのは8人。

大砲を持っていた傲慢・嫉妬グループの者達は全員死亡し、その上色欲グループの灰原 啓も死んだ。

彼は『トルネード』を相手の近くで使うという作戦の要である者で、最初の攻撃時にも最も光の使徒の近くにいたので攻撃を防ぎきれなかった。

死んだのがターゲットじゃないのが不幸中の幸い…とも言えるが、西園寺・小町兄弟がいる所でそんな事など言えない。

日が見えないドーム内、その場の空気や西園寺の顔にも陰があった。

そんな彼に対し、涼川は気まずそうな顔をしながらも移動する提案をする。


「悪いけどこれ以上はドーム維持に魔力が掛かるから向こうに行くわよ」


「…ああ、問題無い。別に味方の死はこれまで何度も味わってきたし…行こう」


平常心を装っているも、普段の様なキラキラとしている笑顔は出来ない。灰原とはそこらのプレイヤーよりも関りが濃かったので精神的ダメージも多いのだろう。

ただ、それでも西園寺は当然自分が大罪という重要ポジションである事を自覚しているのでそれで足など止めずに前に進み続ける。

内野はそんな彼の後ろ姿が妙に自分に重なった様な感じがし、一瞬なにか嫌な予感を覚えた。そしてその嫌な予感が直ぐに当たる事になる。







「それでね…新島…死んじゃったの…」


「…」


サボテンの使徒の残骸の近くまで戻ってきた。

『暴食』のドームを張られて攻撃が入らないと分かった光の使徒は直ぐにその場から身を引き遠くに逃げたので、一同は攻撃を喰らう事なくここまで来れた。

その先で工藤達に会えたので内野は最初は喜んではいたが、彼女達のその様子から徐々に色々と何があったのか察する事が出来た。

そして今、工藤の口から何があったのか語られ内野は固まっていた。

泣きながら話す工藤の声は震えており、彼女も内野と同じく心に傷を負っているのは目に見えて分かる。彼女は自分のせいで新島が死んだと考えているようだが、当然誰も彼女を責めたりなどしない。


「ごめんね…私が、私がもっと…もっと…」


「…誰のせいでもないし仕方が無かったんだろ。

それに…新島は自分より誰かの命を優先する奴だって俺は知ってる。新島の死は工藤のせいじゃない。

それよりさ、誰かのせいだとか暗い事考えるよりも、新島のお陰で生きられたって考えよう」


「…内野って強いね」


「…弱いよ。そう思わないと前に進めないんだから」


さっきの西園寺の姿を見て、自分もそれに追随しなくてはと思った。

だから大罪として大切な人の死も受け入れ、内野は前に進む決意をする。この時の彼の背中はさっきの西園寺のものにそっくりだっただろう。


内野と工藤は落ち着きを取り戻し、川崎・涼川・西園寺・他無事なメンバーがいる所へと戻る。

基本的に工藤と二階堂のヒールで怪我は直されているが、2人のみ怪我を直されても気絶しているままだった。


その者は進上と吉本。

進上はサボテンの使徒の攻撃にギリギリ耐え、山に埋もれて気絶していたのだ。暴食グループに魔力感知を使える者がいなかったらこのまま生き埋めになって死んでいたでろう。

吉本は誰の近くにもおらず光の使徒の攻撃を一人で受け止め、避けていた。だが光っていて視認しにくい上にホーミングしてくるので、いくら吉本でも全て避けきるのは困難だった。

二人は気絶しているが傷は何処も問題なく直してあり、脈も正常。時期に意識を取り戻すだろう。

吉本の事を慕っている小町兄弟は「お姉ちゃん…」と心配そうに彼女の傍にいる。


他の者らも各々休憩していたが、ある場所では大罪である川崎、西園寺、涼川が集まっていた。他にも二階堂や田村もいる。

そこに内野と工藤がやってくると、暴食の涼川は手を振ってくる。


「もう大丈夫そ?強欲クン」


「は、はい…なんとか…」


「それは良かった。じゃあ早速で悪いけど、今皆に私の能力を話してたから君にも簡単にさっきしてた説明をするね」


内野は近くの瓦礫に腰をかけ涼川に向かい合う。


「さっきも見た通り私の『暴食』は闇のドームを作れる。その闇が広がった空間では魔力が消えるの。

つまりあの中ではスキルで生成したものが一切入れないし、あの中ではスキルを使えない、それに魔力の自動回復も無い。私以外はね」

「それで魔力感知スキルやヒールを使えなかったから、君達を救出する時も急いでいたという事だ」


涼川の隣にいる『スズちゃん愛してる』というハチマキを付けている妙な格好の男性も捕捉する。

彼の姿についても一言言いたい所であったがまだ話は続く。


「そこで私が暴食を使う直前、『コッチダ』って言う妙な声が聞こえたの。私達全員ね。そして自然とその声がする方向も分かって、その先には君がいた。

…二階堂ちゃんの話を聞く限り貴方には心辺りがあるのよね?」


「はい。あの声は確実にこの指輪の黒狼のものでした」


内野が指輪を見せながらそう言うと、川崎が話に入り込む。


「黒狼の力はサボテンの使徒と同じ…となると、魔物を引き寄せるあの力を涼川達に使ったと考えられるな。

行動だけ見ると涼川達が直ぐに君らを救出出来る様にスキルを使ったとしか思えない」


「やっぱり黒狼はもう俺の味方って事で良いんでしょう。偶にスキルを使って手助けもしてくれますし」


「それどころか俺達の味方でもありそうだ。

君らは負傷しておらずまだ余裕があった。それなのに救出を急かしたとなると、黒狼が能力を使った目的は内野君らの救出だけではなく、俺らの生存確立を上げる為だったとも考えられる」


「ですね。現に私がある程度皆が居た場所を覚えていたので操作が捗りましたし」


二階堂が暴食グループの者に皆が元居た場所を教えたのもあり、瀕死だった吉本を救えたのは事実。だから黒狼が内野の味方でありプレイヤーの味方でもある可能性はかなり高かった。


「で、これからどうするつもりだ?

使徒はかなり離れたみたいだし、俺らはチマチマレベル上げをしながらの為に動くつもりだが」


「十分恩返し出来たし私達はまたこっちで個別に動くわ。使徒のアイテムもゲット出来たしその性能も試してくる」


涼川がインベントリから取り出したアイテムを一言で表すなら、『超大きな釘バット』だった。

金属部分があのサボテン同様に緑色で、釘が針になっている。長さは3メートルほどあり、人がすっぽり入るほど太い。

興味津々に一同がそれを見ていると、涼川がアイテムの説明をする。


「『守護神の化身』消費QPは80。

説明文には〔主を失い守るべきものを失った悲しきサボテン。これが彼の本来の姿〕ってあるけど、彼って事はオスだったのね」


「サボテンに性別なんて…って話よりも気になる事があります」


今の説明文は以前読んだとあるアイテムの説明文に似ている個所があったので、内野はアイテムの性能よりもそっちに意識が向かう。


「『哀狼の指輪』というアイテムの説明文の最初の方にも〔を止める為に自ら命を捨てる選択をした哀れな狼の魂〕ってありました。

ど、どちらも同じく強欲グループの使徒でという単語があるとなると…」


「その主ってやつは強欲グループの所の王だと考えられるが、サボテンの使徒の所に〔主を失い守るべきものを失った〕とあるのが不自然だと…そういう事だな?」


川崎に先読みで全て言われたがまんま内野が言いたい事だったので頷く。


「そうです。

それで疑問が浮かんだんです。どうして既に王が死んでいるのかという…」


このゲームはは『七つの大罪』か『七人の王』が全滅するまで続き、プレイヤーから見れば王はラスボスだ。だがこのサボテンの使徒の説明文からだと、その王が既に死んでいるとしか思えないのだ。


ただ、今その考察をいくらした所でヒントが少なすぎる。それに黒狼がそれについて語ってくれるわけでもないので、この話は一度ここで切り上げる事になった。


そして内野達は涼川と離れて以降、の為に行動を開始する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る