第255話 美女の恩返し

インターンシップだとかがあって最近更新できませんでした。今後も少し更新が遅れる事があるかと思います。

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進上が剣を魔物の首に振るうと、機械の魔物は態勢を低くしてそれを避け、スラスターを吹かして前に高速移動する。

反撃をしてくる様子はなく、ただひたすら前に進もうとしている様子だ。

反撃してこないならば強気に出れると、進上はより深く踏み込んで剣を振る。相手はそれを両手の刃で防ぎながらも、やはり反撃はしてこない。


「ひたすら前に前に進もうとしてる所悪いけど、ここで止まってもらうよ」


進上はこの魔物を止める為、まだ練習中だが確実に相手の不意を突けるある技を使う事にした。

進上はさっきと同じく剣を振るう。機械の魔物が刃でその剣を防ぐ。ここまでは同じだ。

だが刃と刃がぶつかる瞬間にインベントリに剣を引っ込め、相手の刃を通り過ぎた所で勢いを殺さぬままインベントリからさっきの剣を取り出す。


「ッ!」


相手からしてみれば相手の刃が自分の防御の刃を透過してきたようにしか見えず、その不意打ちに相手は反応出来ない。

進上の刃は相手の頭を両断する事に成功する。


「進上さん!本体を潰してください!」


機械の魔物の頭を断った進上の元に皆掛けてきており、田村はスキルを既に飛ばしてあり、両断した方の頭を潰していた。だから進上は残った身体の方へ攻撃をしようとする。

だがその顔を上げた一瞬、進上のみサボテンの使徒の針が全てこちらを向いている事に気が付いた。田村達はこちらに向かって来ており、背後のそのサボテンの異変には気が付いていない。


(針がおかしい…明らかにこっちに針の先端を向けている!

サボテンの針攻撃は広範囲に適当にばら撒くだけのものだって報告しかなかったけど、今、僕の頭にある嫌な予感が当たるとしたら…)

「皆っ!後ろ!集中砲火だ!」


進上は皆に向かいそう叫ぶも、身体に生えている針は完全に進上の周りをロックオンして終えており、サボテンの使徒から針が発射された。

サボテンの使徒は全長200mもあり、その表面にはこの世界のサボテン同様に無数の針がある。しかも全ての針の大きさは電柱並みの太さがあるものである。


今までサボテンの使徒の針飛ばしは全方位に適当にばら撒かれるもので、こんな風にロックオンをして放たれる事など無かった。

だから誰もそれを警戒しておく事など出来ずにいた。そしてその無数の針がプレイヤーの集まる一か所に向けて放たれればどうなるか、想像は難くない。


針が放たれた一帯は針山という表現どころじゃ済まないものであった。

針を放った範囲に対し、針の量があまりにも多すぎた。だから先に地面に刺さった針を後続の針が破壊し、それを更に後続の針が破壊するというのを繰り返し、もはや壊れた針の瓦礫が山の様に積もっていた。


このサボテンの針は魔力で生み出したものではないので一向に消えず、付近にいたプレイヤーは全員この山に埋もれてしまう。


「…『フルスイング』!」


最初にその山の中から現れたのは笹森であった。スキルを使いハンマーを振ると、上部にあった針の瓦礫が吹き飛び、笹森の視界に赤い空が映る。

そしてその飛んだ瓦礫のお陰で近くにいた牛頭も瓦礫の山から脱出出来た。

牛頭は一番早く進上の言葉に反応でき、笹森と一緒に針を対処したお陰で二人の負傷はそこまで酷くなかった。


「み、皆ー!生きてるなら返事して!」


一番最初に脱出できた笹森は、サボテンの使徒と未だ光の槍を落としている光の使徒がこっちに攻撃してきてないのを確認してから声を上げる。山の上からじゃ誰の姿も確認できないから。

一瞬静寂が訪れ、自分達以外死んでしまったのではないかと嫌な予感が過った直後、二人が山の中からある者が現れた。

脱出してきたのは田村と、一人の怠惰グループプレイヤー。無名の怠惰プレイヤーの者は頭を打って気絶しており田村に抱えられている。だが田村も万全とはいかず、右半身はかなりボロボロになっていた。


「うぐっ…二人…だけですか…生き残っているのは…」


「良かった…田村さんが無事で…」

「この感じだと俺ら以外に生き残ってる奴はいないみたいだ…」


指揮役の田村が生き残っていたのは幸いだが、あまりにも生存メンバーが少なすぎた。

進上の警告に素早く反応出来なかった者達はその針に潰され殺され、たとえ反応出来てもその針をスキルで壊せない者達も殺された。

針一つを破壊するのはそこまで難しくもないが、それが雨の様に降ってくるとなると、無詠唱でスキルを連発出来る者でなければ厳しい。だから生き残りメンバーがこれしかいなくても何ら不思議は無かった。


生存者はこの4人だけ…

そんな嫌な考えが一同の頭を過った瞬間、山の中から小さな声がする。


「ヒール…ヒール…ヒール……」


「っ!埋もれてる!『ヒール』持ちの奴がこっちに埋もれてるぞ!」


牛頭がいち早くその声を聞きつけ、針の瓦礫を掘り始める。笹森もそれを手伝い、瓦礫の中から女性を救出した。

その『ヒール』を唱え続けていた女性は工藤であり、彼女の兜は壊れてはいるが身体は完全に回復しており、ヒールの重ね掛けのお陰もあり五体満足の状態であった。

救出された工藤は、目には涙を浮かべている。


「工藤ちゃん!大丈夫!?」


「に…新島が…新島が…」


「え?」


「新島が…『ポイズンウィップ』で助けてくれたの…私を突飛ばして…」


涙の正体は痛みのせいではなく、自分を庇って死んだ仲間を思ってのものだった。


新島は進上の表情の変化を目にし、他の者より早くこちらに針が向けられている事に気が付いた。

そしてどうするべきかと思考した判断の上、『ポイズンウィップ』で飛んで来る針が少ない方へと工藤を突飛ばしたのだ。

加減などする暇が無いので工藤の身体には毒が回るものも、工藤なら『ヒール』でそれを直せると踏んで。

工藤はその新島の庇いがあったお陰で大した怪我をせずに瓦礫に埋められるだけで済み、ヒールで毒と怪我を直していた。最後に見えたに新島の顔を思い浮かべながら。


そして救出された今も、工藤は泣いていた。


「私を庇って…新島が死んじゃった…死んじゃったよぉ………」


「「…」」


誰も直ぐに彼女に言葉を掛ける事が出来なかった。

新島はナイスな判断をした、それは間違いない事であった。

そもそも新島と工藤にはまともに針を破壊する能力が無いので、これは生存者が一人増える良い判断である。その上その生存者が『ヒール』持ちなので、このままでは出血多量で死にそうな田村までも生かせる。

新島の咄嗟の判断は素晴らしいものであった。


そしてそれ故にその判断を下した者が死んでいる現実に心が痛んだ。

特に牛頭は前回のクエストで正しい判断を下した笹森が苦しみ死んだので、胸の痛みは皆よりも一層大きかった。


(良い判断を出来た奴から死ぬなんて耐えられないよな…でも…)


牛頭は仲間の死を悲しみ泣く工藤を見て胸を痛めながらも、工藤の手を触れる。そして手を引いて立ち上がらせながらも言葉をかける。


「…託されたんだ。生かされた者としてやるしかない…辛くても」


口下手の彼女が精一杯出した本心からの言葉だった。

同じ思いを前回味わった者からの言葉。それを聞いて工藤はハッとし、そして血で濡れた袖で涙を拭う。


「うん…やる…頑張る……」


まだ泣いてはいるものの、彼女の目は真っすぐ前を向いていた。自分の足で一人で立てていた。


周囲を見ると、まだ空には光の使徒がおり明かるかった。さっきのサボテンの使徒の攻撃に合わせて光の槍を落としてたいが、こっちには光の槍は来ておらず内野や川崎の方に集中砲火しているようだった。

まだ内野達は死んではいないだろうが、恐らく彼らは身動きできない状況であるので、ここの5人は直ぐに動き出さねばならない。


工藤は取り敢えず田村達の怪我を直そうと歩み出す。するとそこで一瞬足元に違和感を感じる。


(ん…何か今地面が動いた気が…)


その違和感を感じて下を向いた瞬間、瓦礫の山の下部から一人飛び出してきた。

一瞬まだ生き残りがいたのかと思うも、よく見ればその者の身体には首は泣く、機械の装甲に身を包んでいた。

サボテンの使徒の攻撃から生き残っていたのは工藤達だけではなく機械の装甲もだった。

工藤の魔力感知付き兜があればいち早く気が付けただろうが、残念ながら今はもうこの瓦礫の山の藻屑になっている。


機械の魔物は未だに洗脳を解かれていないのか、ボロボロの身体でもスラスターを生やしてサボテンの使徒へと向かって行っていた。


「っ!あいつまだ生きてやがった!」


あまり負傷していない笹森、牛頭、工藤の3人はすぐに機械の魔物を止めようと動くも、もう相手はサボテンの使徒の真ん前まで到着していた。

機械の魔物は残った左手の刃を緑色の光で包む。そしてその緑色の光は細く真っすぐに伸び、その刀身は50m程に一瞬で伸びた。

そして機械の魔物はその長い刀身をサボテンの使徒へと振った。


この魔物の使っているスキルは『次元斬』、自分が切ろうと思ったものだけを斬れるものなので、これを喰らってもサボテンの使徒の身体が何とも無かった。刃は綺麗に透けた。

だが恐らく内部にいる暴食グループのプレイヤーは別で、今の攻撃に透ける判定は無かったであろう。

中がどんな様子かは確かめられないが、中の者達からすると完全に不意打ちの攻撃なので、今の攻撃で誰かしら死んでいてもおかしくなかった。


そしてそんな攻撃をもう一度しようと機械の魔物が腕を振り上げた所で、サボテンの使徒に異変が起こる。


サボテンの使徒の身体が少しずつボロボロと崩れていくかと思えば、次の瞬間にはサボテンの使徒の内部から何者かが外装を突き破って飛び出してき、その勢いで風のスキルを使用して機械の魔物の身体を細切れに切り裂いた。


その中から飛び出してきた自分はその場の全員が一度は顔を見た事がある人物


「感謝するわ、お陰でこのサボテンの使徒は殺せた。今度は恩返しといこうかしら」


機械の魔物を瞬殺したのは、ボロボロの白い鎧を身に着けながらも笑顔で清々しい表情をしている『暴食』の涼川 佳恵よしえだった。


彼女の背後では、さっきまでとてつもない存在感を放っていたサボテンは今も崩れ続けていた。

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