第254話 破滅の雨

憤怒の笹森達と合流した田村達は、川崎の命令でサボテンの使徒の元へ向かっていた。もう既にサボテンの使徒の近くには来ているが、彼らの目的は使徒ではない。


「川崎さん曰く、向こうから恐怖を植え付ける使徒と同じ見た目の機械の魔物が来るみたいです。なにやらサボテンの使徒に操られて不審な動きをしているみたいなので私達でその魔物を殺します」


恐怖を植え付ける使徒と聞き、牛頭の顔は若干強張る。前回のクエストで使徒に笹森を殺されたので動揺が顔に出てしまった。

記憶が無い笹森も自分の前回の死因が使徒だというのは知っているので、牛頭の表情の変化の理由も分かり牛頭の頭を撫でる。


「大丈夫、無理はしないよ。それに今回の相手は使徒じゃないし前回よりも弱いだろうから安心して」


「…うん」


二人のやり取りを邪魔する様な野暮な事は誰もしない。だが、ここで一度会話を切る事になる。

川崎達がいるであろう方向から大きな眩い光と倒壊音が発生する。何があったのかと全員がそっちを見た頃には、いくつかの光の槍がこちらに向かってきていた。


「ッ!」

「サンダーランス!」


いち早く反応出来た田村と笹森はそれぞれスキルを使いその光の槍を打ち消す。田村の『ショットストーン』は散弾型の『ストーン』で、無詠唱を極めた田村ならマシンガンの様に連射したりできる。今回は多数飛んで来る光の槍を消す為にただの散弾として撃った。

笹森の『サンダーランス』も加わり全ての攻撃を打ち消せ、この場の全員は無傷で済む。


「っ!なんの光!?」


「光の使徒がいるという報告があったのでそいつでしょう。

…私が見る限り、今飛んできた攻撃はただの流れ弾。向こうはもっと悲惨な状況になっているでしょう。進上さん、少し確認して来てください」


「了解です」


田村は進上に偵察を任せる。田村は訓練を通して彼の高い近接戦能力を知り、多少一人で行動しても問題無いという判断で任せた。

進上は素早くその方向に走り出して残っている建物の屋上へと向かうと、そこで驚愕の光景を目の当たりにする。


その今自分が立っている建物の先にはもう建造物は一つたりとも残っていなかった。遠くの方に何人か立っているのは見えたが、それよりも目につくのは上空にいる大きな光の鳥である。

雲にも届きうる高度にいるにもかかわらずその鳥は要塞の様な大きさで、建物の屋上にいない田村達からもそれは見えていた。


そしてそんな大きな鳥から光の槍が落ちてくるのを確認すると、田村は急いで一同を集めて指示を出す。


「進上さんこっちへ!他の者達も一か所に集まって真上の光の槍を撃ち落としますよ!」


「軌道がおかしい!多分あれホーミングしてくるやつよ!進上早くこっちに!」


工藤はいち早く光の槍がこっちをホーミングしてきているのを察知し報告し、急いで進上にこっちに来る様に命じる。だが進上は一度こっちを向いて固まると、なんと田村達との逆方向へと走り出した。

到底一人で防ぎきれる攻撃とは思えず、自殺行為に走ったのかと新島と工藤は大声を上げて引き戻す。


「戻って進上さん!」

「聞こえなかったの!?あれホーミングしてくるから避けられないの!」


「大丈夫、耳は良い方だから聞こえてるよ!」


進上は呑気に普段のテンションでそう返してくる。


「じゃあなんで…」


「ここから奴が見えた!光の使徒が守ってるっていう機械の魔物がね!」


進上の目に映ったのは、サボテンの使徒に向かい走り続ける機械の魔物。

さっき田村からの報告でその魔物が光の使徒が守っている魔物だと聞いていたので、その魔物の近くにいれば光の槍のホーミングを解かれると思ったのだ。

だが田村の頭にはある考えがあり、それが出来ない可能性を伝える。


「光の使徒は周囲の魔物までまとめて殺しました!もしかすると既に洗脳が溶けている可能性もありますよ!」


「…あ」


やらかした…と進上は心の中で思ったが、もはや今から田村達の元に向かっても間に合わない。それに帰還石を使う時間も無い。もはや詰み状態である。

進上もそれが分かってしまい、もう機械の魔物へ向かう足を止める事は出来なかった。止まったら死ぬと分かってしまったから。


どうやら機械の魔物にも光の槍のホーミングは付いている様で、光の槍は進上と機械の魔物の二人に向かっていっている。

流石に機械の魔物もこの攻撃を喰らえば死んでしまうので、一度足を止めて上を向き、自分に向かってくる光の槍を見ていた。

その敵の様子を見て、進上は魔物に対して一言叫んだ


「ここは協力しよう!」




進上に声が届くかなくなり田村は半ば彼の命を諦め、今ここに居るメンバー生存できる道を示す。


「かなりの量の光の槍ですが、こっちも固まっていれば全て撃ち消せます!私は『メテオ』で一掃を狙いますが、恐らく何発か消しの残すのでそれは皆さんに任せます!

魔力の出し惜しみはしない様に!」


「「了解!」」


新島、工藤、笹森、牛頭、それに残りのメンバーは田村の命令を聞き、一か所に固まってスキルを放つ準備をする。


「いきますよ、皆さん吹き飛ばされない様に捕まってて下さいね…『メテオ』」


田村が手を上に掲げてスキルを発動すると、大きな爆発が上空で起きる、その爆風は雲をも吹き飛ばすもので、メテオによって半分ぐらいの光の槍は完全に消えた。

だがまだ大量の光の槍はプレイヤーを狙い降ってくる。


それらを他のメンバーがスキルをしようち打ち消していき、激しいスキルの打ち合いの果て、どうにか全員が負傷無く相手の猛攻を耐える事が出来た。

全員なんとか耐える事ができホッと一息つく。だが工藤と新島は進上の安否が不安で気が気ではない。

そこで工藤は一息つく前に『魔力感知』が付与されている鉄の兜を身に着け、進上の安否を確認する。


「だ、大丈夫?進上さんは…」


「あっ…赤と青、プレイヤーと魔物の反応が両方とも動いてる。しかも、二つとももうこっちに向かって来てる」


進上が生きていると分かり二人はようやく安心出来たが、魔物の反応もあると言うので直ぐにまた臨戦態勢へと入る。

それにまだ空の光の使徒は消えていないので油断ならない。またいつあの攻撃を仕掛けてくるか分からないので、出来れば早めにここを立ち去り、内野達の安否も確認したい所だった。


工藤の報告で田村達も「まさかあれを生き残るなんてっ…」と驚いてはいたものの、直ぐにこちらにやってくる魔物の警戒をする。

そしてその数秒後、残っている建物の裏から進上と機械の魔物が出て来た。二人とも少し負傷しているものの、何故か争う事なく並んで走っている。


「皆!この魔物と協力したお陰でなんとか生き延びたよ!」


進上は服をボロボロになってほぼ上裸になっているものの、酷い怪我はしておらず機械の魔物と並走して走っている。


ついさっき、進上は光の槍から逃げながらもこの魔物の元まで辿り着いた。そしてそこで進上が『炎斬一閃』で光の槍を切り落としていると、機械の魔物も光の槍を切り落とした。

機械の魔物は自分の方へと向かって来た攻撃を消しただけだが、結果的に協力してお互い生き残った形となる。なので進上はこの魔物に対して妙な仲間意識を抱いていた。


「この魔物を家で飼う方法ってありますか!?」

(機械は殺しても楽しくないし)


「馬鹿じゃないの!?さっさとやりなさい!」

「魔物はクエストが終わったら消えるって知らないの?」

「進上さん、その魔物が使ったスキルを教えてください?」


工藤と牛頭は厳しく突っ込むも、田村はツッコミよりも魔物が使用した力について聞くのを優先する。すると進上は魔物の両腕の刃を指差しながらスキルについて語る。


「両手の刃が緑色に光って伸びて全てを切ってましたよ」


「緑色の光の刃……もしや『次元斬』!

原井さんが使うスキルだから知っている。そのスキルは壁を透けて向こう敵を切ったり、盾を透けて相手本体に攻撃したり、スキル使用者が望むものだけを切れるものです!」


田村は進上の言葉からスキルを予想しそう告げる。すると新島はサボテンの使徒の方を振り返ってハッとする。


「透ける……もしかして魔力を温存してサボテンの使徒に向かってるのって…サボテンの使徒の中にいる暴食グループのプレイヤーだけを切る為!?」


「なるほど、サボテンの使徒が操っているのだとしたら納得できますね。皆さん中にいる暴食グループの為にもこの魔物はここで止めますよ」


田村のその指示を聞き、最初に仕掛けたのは進上であった。

共に使徒の攻撃を凌いで少し愛着が湧いていたが、やらざる得ないので並走しながらも魔物へと切りかかった。

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