第253話 殺意の光
光の使徒は、サボテンの使徒の元に向かう機械の魔物の護衛をしており、攻撃するのは近づいてくる者に対してのみだった。
ただ攻撃と言っても光の槍を撃ってくるだけなので相手は特攻してこない。灰原の『トルネード』で吞み込むには、相手が接近してくるか自分から接近していかねばならない。
相手が迎撃のスタイルを取っている以上相手は止まらないので、ここですべき動きを川崎が指示する。
「吉本が使徒に接近して奴の目を引いている間に、灰原は回り込んで相手の前に行け。内野君は二人にバリアを張り、西園寺以外の残りのメンバーは吉本のサポートだ」
「了解!」
川崎の指揮により、回避能力が一番高い吉本を主軸にして相手の目を引く作戦を開始する。
先ずは始めに、内野によってバリアを張られた吉本が機械の魔物へと接近する。使徒は機械の魔物を守る様に光の槍を吉本に飛ばすも、吉本ならそれを全て避ける事が可能で一つもカスったりしない。
最前線を吉本とし、他のメンバーその少し後ろに着く。
大砲持ちメンバーは光の使徒から少し離れた所に散開し、トルネードに巻き込まれない一定の距離を保つ。布陣はこれでほぼ完成した。
「よし、吉本が急接近したのを合図に灰原は回り込め!」
「へ、へい」
杖を不安気に持ちながらも灰原は返事をする。
単独で使徒の前に出るので不安になるのは当然だが、彼にはこの役をやってもらわねばならないので一同は彼を信じて各々役割を全うする。
吉本は灰原が心構え出来る時間を少し待った後、光の使徒へと急接近した。
すると今までの適当に光の槍を放つ迎撃とは違い、光の使徒は素早く後ろに方向転換すると、大きな閃光弾を3つ発射する。50m離れていたとしても目を開いていれば数秒は全く目が見えなくなるほどの光量で、ギリギリの所で目を瞑った一同は数秒の間は目が使えなくなる。
ただし、精鋭メンバーの者らの内の数名は各々スキルを使いその対策を立てていた。
内野は自分の目が潰れたとしても『第三者視点』で見れる。
川崎は自分の目代わりに他の魔物を出して動ける。
西園寺は端から『魔力透過』という魔力を透過するスキルを使っていたので目は潰されない。
灰原は皆と異なりそもそも光の使徒の方を見ていないから目を潰されない。
残りのメンバーは完全にこれを防ぐ手段はなく、各々少なからず数秒は目が見えなくなるも、それは内野、川崎、西園寺がカバーする。
光の使徒が飛ばしてくる攻撃も内野は『ゴーレムの腕』やバリアで弾いたり、吉本を抱えて避けたり、なんとか吉本の目が回復するまで時間を稼ぐ。川崎や西園寺も色々なスキルを使用し、周囲の者達を守った。
だが絶えず光の槍が飛ばされてくるので、内野の実力ではずっと彼女を庇う事は出来ない。
「美海ちゃん、もう前出れる!?」
「は、はい!もう目は回復しました!」
内野の護衛の甲斐あり、陽動取りのエースとなる吉本の目の回復時間を稼げた。そして吉本は再び光の使徒へと詰め寄る。
光の使徒はもう閃光弾が通用しないと今ので分かり、今度は光槍を放ちながら上へと飛び上がる。護衛をしていた機械の魔物から離れる程の警戒具合だ。
光の槍の弾速は早いが、吉本なら至近距離で発射される光の槍も全て完璧に避ける事が出来た。
「させないよ、上に行かれたらトルネードに上手く巻き込めないからね。『グラビティ』」
西園寺が上に飛び上がる使徒を見ながら詠唱込みでスキルを発動すると、使徒の上昇スピードは突然下がる。使徒の上空の重力をかなり強くしたのだ。
そしてその更に上には予め空へと上がっていた川崎がいた。
川崎は空で大きな口を持つカバの様な魔物の顔を出すと、その魔物に大きく息を吐かせた。
打撃などの攻撃は避けられるかもしれないが、広範囲に強い向かい風を吹かせればその心配も無く使徒を地に落とせた。
(動きが単調だし、光の槍の威力も低い。サボテンの使徒に操られている間はかなり弱体化してるな。これはチャンスだ、サボテンの使徒が何を考えているのかは分からないが、これは光の使徒を殺すチャンスだ!)
川崎は心の中で決意を固めなおし、灰原にアイコンタクトで合図する。
時間稼ぎのお陰で灰原は前方に回り込めており、機械の魔物を攻撃出来る位置にいる。光の使徒は機械の魔物を護衛する様にサボテンの使徒に操られている、だから灰原が機械の魔物へ攻撃を仕掛ければ光の使徒が向かうのは…
「っ!きた!」
機械の魔物へ攻撃をしようと灰原が杖を振り上げた瞬間、地に落ちていた光の使徒は直ぐに立ち直り、自分の身体で灰原の攻撃をブロックしようとしてくる。
灰原と使徒の距離が縮まったという事は、これから例の作戦が行われる合図。西園寺はトルネードに巻き込まれないギリギリの地点でプリズムの準備をする。
「トルネード!」
灰原は杖を掲げてスキルを使用すると、その直後ここら一体の空気が変わった。灰原を中心に風が巻き上がり始める。
その巻き上がる風は徐々に大きくなっていき、周囲の建物、空を覆っていた雲、そして作戦の為に近くにいたプレイヤー達も巻き込む勢いて竜巻は大きく強くなっていく。
当然灰原の最も近くにいた機械の魔物と光の使徒はそれに巻き込まれる。
光の使徒だけでなく機械の魔物も巻き込めたのは想定外だったが、作戦通り西園寺は『色欲』で大量のプリズムを出して竜巻の中へと放つ。小町片栗はプリズムのダミーとして『ウォーター』で竜巻へ水を放出する。
竜巻の風に巻かれて上がり、宙をプリズムと透明な水が舞う。空は赤く淀んだ禍々しい色をしているが、太陽の光を浴びた水が虹を作り、プリズムは虹色に光出す。そして竜巻の中心に光の使徒がいるのも相まって竜巻は綺麗に輝く。
まるで綺麗に飾り付けされたクリスマスツリーの様に。
光の使徒は宙を舞う透明な物体が何なのかは分からないながらも、この竜巻を生成している灰原を仕留めようと光の槍で灰原に攻撃する。
だが、ここで灰原の背中から闇が発生した。川崎が予め灰原の身体に張りつけていた魔物から闇が現れたのだ。
その闇から多数の魔物の腕が現れると、それらの腕は灰原を守る様に光の槍を防ぐ。流石に使徒の攻撃なので多数の腕は破壊されるも、無数に腕が生えてくるので埒が明かないと踏んだ光の使徒は、攻撃をやめて竜巻から出る事にした。
使徒の身体は細い光となると、真横に高速で動いて竜巻から出ようとする。だが竜巻には多数のプリズムと水が浮いている。光の使徒は得体の知れない透明な物体に触れない様に避けながら竜巻から出ようとするが、数が数なので竜巻から出るギリギリの所で1つのプリズムに触れてしまった。
「ッ!ギイィィィィィ!」
光となった使徒がプリズムを通過した瞬間、使徒は元の魔物の身体へと戻る。初めて見る使徒の本体、その本体はほんの手の平サイズの金色の鳥であった。だが使徒の嘴はプリズムで光が分散されてしまったので裂けており、苦しみ声を上げていた。
「今だ!一斉射撃!」
使徒は苦しみ地面に落ちているが、川崎は慈悲なく攻撃を命じる。大砲を持っていたメンバーは一斉に使徒へ砲身を構え、レバーを引く。灰原はここで皆の攻撃の邪魔にならない様に『トルネード』を解除し、スキルの追撃に参加する。
大砲は爆風と爆音を同時に発生させ、落下する使徒へ弾が発射される。使徒は急いで光の槍で飛んで来る弾を相殺する。
対象が小さい上に彼らは大砲を撃つ練習をしておらず、更に光の槍で弾が相殺されてしまった。大砲の弾は一つも使徒に当たらなかったのだ。
だが大砲から発射された弾が煙を使徒の周囲に撒いてくれたおかげで、本命の攻撃が通りやすくなる。
本命の攻撃とは、この場にいる大罪3人の猛攻だ。
西園寺の砲身を右腕に付けての最大威力の『ストーン』
『オーバーパワー』でステータス強化された塗本の使徒の核の投擲
内野が前回手に入れたスキルレベルマックスの『マジックショット』
大砲の砲撃の後に放たれたその3つの攻撃に使徒は反応出来ない。おまけにそれらは大砲と違い大きな音を発さないので使徒の意識外からの攻撃となった。
「ギ…グギァ…」
西園寺のスナイプは光の使徒の頭蓋骨を砕き、川崎と内野の攻撃は光の使徒の胴に直撃して胴体を潰す。貫通まではいかなかったが、臓器を潰す事は出来た。
攻撃がクリーンヒットした事に一同は歓喜するも、まだ殺しきれていないので確実に使徒の息の根を止めに掛かる。
「いける!確実に今ここで殺すぞ!」
川崎に命じられる前に既に一同は使徒を殺す為に追い打ちの攻撃を放っており、内野の二弾目の『マジックショット』は相手に直撃する所だった。
手に入れ始めからスキルレベルが10で一回の使用でMPを200も消費するスキルだが、威力はそれに見合ったものである。
傲慢の使徒のガトリング砲の様に魔力の弾を高速で発射できる。使徒の使用していたものは多弾数だったが、内野がスキルを発動すると単発のみしか出ない。だが威力と弾速は使徒が使用していたものを上回る。
だから当たれば確実に光の使徒を死に至らしめる事が出来ただろう。
だが弾が当たる直後、瀕死の使徒の身体が大きく発光したかと思うと、数百もの光の槍がその身体から放出されマジックショットをかき消した。
しかもそれだけでは済まず、その数百もの光の槍は雨の様に辺り一帯へと降り注ぐ。一つ一つがプレイヤーを殺しうる威力があるもので、そこら一帯の全てを破壊する。
使徒の周囲1㎞に残っていたものはその槍の猛攻を防げたプレイヤー達のみだった。
自分の真上に振る光の槍にスキルをぶつけて相殺した者や、ガードスキルで防いだ者、およそ10人程しか残っていない。
さっきまでは川崎が出していた魔物含めて27人いたが、半数以上が死体もほとんど残らず死んだ。
精鋭メンバーは各々方法で生き延びてはいたが、全員が無傷とはいかなかった。
内野は近くに二階堂と小町希望がおり、二階堂が『ウォーターフィールド』という水のバリアを張っていたので無傷。川崎と西園寺と片栗、それに吉本もそこまで負傷は負っていない。
だが使徒の近くいた灰原は攻撃を防ぎきれず、両腕が骨ごと抉れプラプラ揺れており、今にも腕が身体から落ちそうになっている。
使徒のスキルの威力に驚くも、内野は直ぐに視線をさっき瀕死の使徒がいた所へと戻す。
(なんだよこの馬鹿げた威力のスキル!
もうプレイヤーの身体しか周囲に残ってないじゃねえか!いや、それよりもさっさと使徒のトドメを……あれ…)
内野達が視線を戻した時にはもうそこに使徒はいなかった。逃げられたかと一瞬思った。
だがその直後、上空で大きな光が発生した。
光ある場所に使徒がいると分かっている一同は、一斉にスキルを使用する準備をしながら空を見上げる。
今、上空には大きな鳥の形をしている光があった。
光なので輪郭は視認出来ないが、その大きさは東京ドーム一個分は余裕で超える程のもので、もはや二つ目の太陽とでも言うべき輝きと存在感であった。
そのあまりの大きさに、地に足を付けている一同は相手との距離感を掴む事すら出来ない。
一同は驚き目を見開くも、驚きと絶望はそれでは終わらない。
その巨大の光の鳥の身体からは再び大量の光の槍が放出される。しかも今度は雑に放出したものではなく、全てプレイヤーをホーミングしているものだ。
サボテンの使徒の操作から解放され、命の危機から脱した光の使徒が殺意を持って本気で
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