第252話 光絶殺トルネード

内野達は機械の魔物を追い駆けながら、上空にいる光の使徒の攻撃を躱していた。

光の使徒は最初出会ったときの様に目くらましの光と光の槍を落としてくるが、それだけだ。今回はその二つを適当に仕掛けてくるだけだった。


「操られているからか動きが単調ですね。もしや今が光の使徒を倒すチャンスなのでは」


「それはある。今からここに援軍を呼んだりすれば行けるかもしれない。

それにここには今、光の使徒の討伐に欠かせない西園寺と灰原もいるしな」


川崎の言葉に西園寺は頷く。


「そうだね、正直今の状況で光の使徒をやるのはアリだよ。その場合は機械の魔物は放置する事になるけども、他にも人はいるし、僕らは光の使徒に集中してあいつは逃がすってのは良いかもしれない」

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「光の使徒は自身の身体を光にして高速動く能力がある。その時の光は魔力の光じゃなくて物理的な光だ、懐中電灯が出す光みたいにね。

その性質を利用して僕らは1ターン目のクエストで使徒を討伐した」


内野、川崎、生見が魔物解剖研究会を開いていた時、川崎からの質問で使徒の話になった。生見は解剖をしながらも西園寺の使徒の話を聞く。


「それは以前俺にヒントとして話していたな。物理の光だから鏡だとかで光を反射させられると」


「そう、討伐のカギになるのは高威力なスキルだとかじゃなくてこの世界にあるものだ。さてここで問題、これは一体何でしょう」


西園寺は片手を前に出すとそこに闇を出し、とある三角柱の水晶の様な物を生成した。内野はそれを見て暫く悩むと、頭に浮かんだ名を口に出す。


「それは…プリズム?」


「そう、良く分かったね。

プリズムって簡単に言えば光を分散させるものなんだけど、光状態の使徒がこれを通過すると、身体の光が分散するから身体がバラバラになるんだ」


「えっ!?じゃあ一発で使徒を…」


「残念ながらそうはいかない。光の身体の先端が分散してバラバラになると、その瞬間に光化が解除される。今回の鳥の使徒ならきっと嘴辺りがボロボロになるけど、その瞬間に身体が元に戻ると思う。

でも相手は絶対にビックリするだろうね、無敵だと思っていた形態で突然負傷するんだから」


西園寺の言葉に納得し頷くも、今のを聞いて真っ先に浮かぶ問題点を口にする。


「問題はどうやってプリズムを当てるかって事だよな?適当にばら撒いてどうにかなるとは思えないが…」


「うん、適当にばら撒いても無駄だろうね。僕のスキルなら大量のプリズムを生成できるけど、それでも当たるとは限らない。

でもプリズムが空中で動き、尚且つ数え切れないほどのダミーがあったら話は別だよね。

灰原には『トルネード』という上位スキルがある。名前通り大きな竜巻を生成するってものだよ。

これにプリズムを大量に放り込めばプリズムは風の流れに巻き込まれ上がる。そして更に大量の水を竜巻に放出すれば、水も風の流れで巻き上がる。

普通の状況なら水とプリズムを見間違うなんて事有り得ないけど、どちらも動く上に透明で見えずらいしその場では水でも十分ダミーになるんだ。

光の使徒を絶対に殺すトルネードという名前を省略し、名付けて『光絶殺トルネード』と言う」


ネーミングセンスはさておき、前回の使徒もこの方法で倒したみたいなのでこの作戦で使徒を倒す事が決まった。

条件としては、プリズム大量生成が可能な西園寺と、『トルネード』を持っている灰原がその場にいる事。そして出来れば使徒がトルネードの中央にいる状態でそれを行いたいので、灰原と光の使徒の距離が近い時にスキルを使わねばならない。

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全員にその作戦は伝わっているので、今ここで直ぐに作戦を実行に移す事は可能であった。もう機械の魔物を放っておくという方針で。

だが問題は、使徒の光化を解いた後に使徒を倒し切れるかどうかであった。

これは初見殺しの技であり、二度目以降も通用するかは分からない。だから出来れば一発殺し切りたい。だが今ここには物理攻撃力最強の清水も、防御力関係無く相手の身体を削る事が可能な『憤怒』の平塚もいない。

ここに来て相手を殺し切る火力不足という問題が一同の頭に湧いた。


「塗本に嫉妬の使徒の球を投げさせても殺し切るのは難しいだろう。強欲と怠惰で呑むのも、相手を足止め出来ないと厳しい」


「…それと『トルネード』を使う私が光の使徒に抓まれる恐怖に耐えられるかどうかも重要ですよ」

「大砲丸は?」


「…大砲の威力でも1個じゃ厳しいふだろう。そして使徒に抓まれるその恐怖は…耐えられる様に『バリア』を張ろう、内野君が。

一斉スキルを浴びせるにしても、レベル80越えがもう十人ぐらい欲しいな。今ここには人が集まっているが、向かっている面々は皆今他の敵と戦っていたりして到着にはまだ掛かる。

それにサボテンの使徒の魔物を呼び寄せる範囲は徐々に広がっているみたいだし下手する時間経過で更に状況は悪くなる。」


片栗の大砲丸推しと弱音を吐く灰原にも一応反応しつつ、作戦実行の上の問題点を述べる。問題点は要するに攻撃手不足という点。

だが他の者達が合流するのを待つのもリスクがある。なのでこのまま作戦を行うか、足止めして待つか、どちらを選択すべきか川崎は迷っていた。

だが今こうして悩んでいる間にも状況は変化していくので、時間を無駄にしない為に川崎はスマホで全プレイヤーに呼びかけ、更に発煙筒を付けて周囲のプレイヤーがここに集まる様にしていた。


他の者達も頭を悩ませる。内野もどうするか考えてはいるもの、良い案はあまり思い浮かばない。他の者達も同じ様子だ。

だが西園寺だけは横を向いて眉間に皺を寄せていた。そっちの方向に魔物やプレイヤーは見当たらない。


「…6,7個の反応が固まってこっちに動いてきてる。あっ、こっちからも同じ感じの反応がある。挟み撃ちみたいな形になってるから警戒して」


「魔物かプレイヤーか…プレイヤーだとありがたいが…」


魔力探知スキルで感じた魔力の反応を西園寺は言う。

その反応はこちらに一直線に近づいて来ているみたいで、全員その魔力の反応を警戒する。

前方にいる光の使徒と機械の魔物の警戒を解かないまま。


「あっ、怠惰と色欲!あと強欲もいる!」


建物の奥から現れた魔力の反応は、6人グループで動いていたプレイヤーだった。そして逆の方向から現れた者達もプレイヤーで、同時に14人ものプレイヤーと合流出来た。


今合流した二つのグループの者達は発煙筒に釣られて来たようだが、まさかそこに大罪が3人いるとは思ってもみなかったので驚く。そして前方に光の使徒がいる事には更に驚く。


「し、使徒!?」

「やべぇ!こっちはダメだ逃げろ!」


使徒を見て彼らは逃げ出そうと方向転換をする。だがここで川崎は大声を出して彼らを引き止める。


「待て!お前ら何処のグループだ!?」


「お、俺らは傲慢グループ…」

「俺らは嫉妬グループ。ここらには大罪もいるし少し無理してでもレベルを上げようかと思って来たのだが…流石に使徒は相手が悪い!」


「そうか、全員レベルは?」


「俺らは大体60ぐらい」

「俺らもそんぐらい。だから使徒相手のサポートだとかは出来そうにない!

悪いけど俺らに手伝えることは…」


「ある、全員手を貸してくれ!」


大罪がまさか自分らの力が必要だと言ってくるとは思わず、2グループの者達は全員「え…」と声を漏らして驚いていた。

嫉妬グループと傲慢グループの大罪はそこまで他プレイヤーと関わる者ではなく、彼らは大罪に頼られるというのは初めての体験であった。


「内野君、西園寺。これから人数分の大砲を作るぞ。レベルが低いとはいえ彼らに持たせれば立派な戦力になる。

大砲持ちには離れた場所からの狙撃を頼みたい!」


「お、俺らでも使徒討伐を手伝えるのか…?」

「大砲…?良く分からないが武器を作れるのか!?」

「わ、私達でよければ手伝います!」

「死なない程度になら頑張りますよー」


川崎の作戦を聞き、それぞれのグループの者達はそれに乗る。

こんな危険な場所に自ら足を踏み入れる者達なので、全員動ける方ではあるし、ほとんどが戦闘への参加に活発的な者。だからレベルが低い自分らでも使徒討伐に貢献できると聞き、彼らは少しこの話に惹かれていた。


発煙筒による人集めが功を成し、これで人は揃った。

内野と西園寺は使徒と機械の魔物を追いながらも大砲を作って球を装填し、全員に大砲を与える。

ついでに川崎が出した大砲を扱える程度に知能がある魔物にも大砲を渡し、戦力は整う。


内野、西園寺、川崎の大罪3人。

精鋭メンバーである小町兄弟、灰原、二階堂、吉本の5人。

大砲持ちであるプレイヤー14人、魔物5体。



今、光の使徒との戦闘が始まる。

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