第251話 大罪の大号令
光の使徒が放った槍によって機械の魔物は内野達の包囲を解放される。すると直ぐにサボテンの使徒の方面へと走り出す。
すると光の使徒も上空からではあるがその魔物に付いて行く様に動き出した。内野達に追撃して来ようとはしていない。
訳が分からない行動をする二体の魔物だが、グループの指示役として川崎に判断が委ねられる。
(なんだコイツら…少しおかしいぞ。
機械の魔物は言わずもがな、謎にスキルを温存している。
光の使徒は、以前出会ったときは殺意の塊の様に俺らを殺しに掛かって来ていた。なのに今は何故か俺らへの攻撃よりも機械の魔物の護衛を優先している。明らかに前回とは行動が違う。
もしや…)
「サボテンの使徒は…他の使徒すらも操る事が出来るのか!?」
ここで一同ハッとする。サボテンの使徒が操っているのならば機械の魔物の奇行にも納得出来るからだ。
「じゃ、じゃあもう1時間経過したらもう一体使徒が来るって可能性も…」
「ああ、最悪残りのまだ正体が分かっていない使徒達とも戦う事になる。
機械の魔物がスキルを使わない理由は分からないが、もしも二体ともサボテンの使徒に操られているのならば、このままこの二体を行かせるのはマズいぞ。あのサボテン何か策を考えているかもしれん。下手すると『暴食』が死ぬ可能性がある!
全員で二体を追って足止めする!プレイヤーを全員集結させて『暴食』を守るぞ!」
一同はサボテンの使徒に向かう二体を追い駆ける。追い駆けながらも川崎は全てのグループのプレイヤーが集うチャットグループに、現在の状況を伝え、サボテンの使徒の元に集まる様に訴えかけた。
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川崎の連絡はスマホを所持している全てのプレイヤーに伝わった。
強欲、怠惰、色欲、憤怒のプレイヤーは当然その連絡通りにサボテンの使徒の元へと向かう。そして現在最も危険な状況にある『暴食』の涼川、彼女の危険を知って暴食グループの者も一斉に動き出した。
サボテンの使徒の能力で集う魔物は凄まじい勢いではある。だがそこへはプレイヤーも大量に集う、大罪の大号令によって。
新島が今回共に動いていたのは工藤、進上。
怠惰グループのプレイヤーは3人で、その中には田村がいる。そして新規プレイヤー20人だ。
新規プレイヤーを連れてはいるものの、サボテンの使徒の元に集う魔物を殺さねばならないので今は全員で大移動を行っていた。
田村は川崎に代わる指揮役であるので、戦闘よりも情報収集を優先している。
「サボテンの使徒の元にかなりの人数集っていますね…これだけ集うとなると魔物の一掃は直ぐに済みそうです。ただ…妙ですね」
「妙?」
田村が少し険しい顔をしてそう呟くので、新島は何がおかしいのか尋ねてみる。新島は家が離れているので訓練にはあまり参加していなかったが、内野関係の事で田村と色々話していたので普通に話せる間柄ではある。
「ええ、魔物を呼び寄せる範囲が徐々に伸びているみたいです。5㎞以上離れて場所にいる魔物までサボテンの使徒の元へ向かい始めたみたいで、前回よりも既に1㎞程範囲が伸びています。
…サボテンの使徒が集うプレイヤーに対抗する為に魔物を呼び寄せる範囲を増やしていると考えるのが妥当ですね」
「…魔物は常に新しく沸き続けますし、それ以上範囲が広がるとマズイですね。あまりにも範囲が広がり過ぎればプレイヤーの数より魔物が上回る様になりますよ」
「もしも今空からここら周辺の景色を見れたら過ごそうね」
「僕は魔物の数が増えるのは構わないけど…」
新島、工藤、進上はまだそこまで取り乱さない。
だが問題は新規プレイヤー達だ。彼らは既に1時間魔物と戦闘し、人によっては精神の限界を迎えていた。
「い、一旦安全な所まで連れて行って下さい…」
「もっと沢山魔物がいる場所に行くなんて正気じゃありません!」
「もう戦闘は無理ですって…」
彼らは田村達にそう縋る。だが田村は人情に訴えかけてどうにかなる相手ではない、相手が悪かった。
「『暴食』の涼川と貴方達の命、優先順位は確実に向こうの方が高いです。なので私達はこのまま川崎さんの命令通り動きます。
別に貴方達だけでクエスト範囲外にまで逃げるのを止めるつもりはありません。自由に動いてもらって構わないですよ」
「あんたら違って俺らは今日初めてなんだ!昔からこの変なのに参加してるあんたらは余裕かもしれないけど、俺らはもう限界だ!
頼む!死にたくないんだ助けてくれ!」
「ええ。その死にたくないという気持ち、良く分かりますよ。
私達も死なない為に動いているんです。大罪が一人でも欠けて状況が厳しくなれば私達の未来の死は色濃くなる。それを避けたいという一心で他の者達も大量の魔物がいるの場所に向かっています。
全員考えている同じ、貴方達みたいに目先を見ているか、先を見ているかの違いです」
「俺らがそんな先をの事見るなんて…」
「今で精一杯なのにそんな先なんか見れる訳がないでしょ!」
「プレイヤーになる時が悪かったですね」
新規プレイヤーの者達も田村も間違ってなどいない。どちらも正しい意見だ。だが力の差がある故に考え方が相いれないのは仕方が無い事である。
新規プレイヤーは自分達だけでクエスト範囲外に出れるとは思えず、渋々田村達に着いて行く判断をする。不満不安はあったものの、田村に従う以外の判断をすれば死ぬとしか思えないからだ。
こうして一同はサボテンの使徒の元へと向かった。道中現れる魔物を新規プレイヤー達に倒させながらも、出来るだけ素早く辿り着ける様に田村ら怠惰グループのプレイヤーが先陣切って魔物を瀕死にさせ。
そして暫く動いていると、何処からか聞き覚えのある声がする
「あれ…あんたら…」
「あっ、久しぶり!」
それは後方からやってきた牛頭と笹森の声だった。
(『牛頭 一咲』16歳
憤怒グループのプレイヤー。中性的な顔立ちをしているが女性で、精鋭メンバーに選ばれる程の実力を持っている。昔虐待に合っていた事により血の匂いに敏感。
『笹森 夕陽』16歳
憤怒グループのプレイヤー。高身長で短髪の女子高生。内野と同じ学校の生徒で、初対面は仮面の者達に襲われた時。前回のクエストで無残な死を遂げたが、蘇生石により生き返った)
彼女達は他憤怒グループのプレイヤー4人と共に行動しており、全員がそこそこ手馴れの者。彼らもサボテンの使徒に向かっている最中だが、先に田村達が魔物を倒していたので簡単に田村達に追いつけたのだ。
怠惰と強欲は常に一緒な感じになっているが、憤怒グループの一定のメンバーとは深い付き合いがある。
偶に怠惰グループの訓練に参加しに来る者もいるし、手伝いに来てくれる者もいる。顔見知りの面々だと『憤怒』の大罪スキルを持つ平塚、そして精鋭メンバーの笹森と生見だ。
前回の精鋭メンバで来ていないのは牛頭と高遠だが、高遠は住んでいる場所の関係で訓練場にこれない。
牛頭は別の問題で訓練に来ていない。それを以前平塚の口から告げられていたのを進上は思い出す。
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「あの子が来ないのは笹森の事で気負っているのもあるが…一番は内野君に対して特別な感情を抱いているからじゃ」
訓練場で進上が休憩していると、平塚と川崎のそんな会話が聞こえて来た。今内野は清水と訓練をしているのでこの場にはいない。それに他の者達は訓練でへばっているので、それを聞いていたのは進上だけだった。
進上は耳に入ってきた「内野に対する特別な感情」というものが気になったので、休憩しながらも耳を澄ませてその会話聞いてみる。
「女性が男性に抱く感情………恋愛感情…ではないみたいですね」
「一言で言えば恐怖じゃ。
彼女は血の匂いと殺気に敏感なのじゃが、彼の殺意が不気味だったと言っていた。心の整理をするのにはもうちと時間が必要じゃな」
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進上がそんな事を思い出している中、先頭にいる田村は足を止めないまま彼女と話す。こっちのリーダーは田村で、向こう側のリーダーは笹森である。
「貴方達も命令通り使徒周囲の魔物を倒しに来たのですね」
「いえ、私達は周辺の魔物ではなくて光の使徒の足止めがメインですね。一応ここにいるメンバーはそこそこ戦える面々なので。
周辺の使徒はもっとレベルが低い人達に任せれています」
「ちなみに憤怒グループはどれぐらい動いています?」
「ほほ全員ですよ。レベル上げにしてもこっちに来た方が効率が良いのでね~」
「なんか総力戦って感じがして少しワクワクするわね。それに沢山プレイヤーがいるって思うと安心出来る」
笹森の言葉で憤怒グループからも200人程動いているのも判明し、工藤は呑気にそんな事を言う。
実際かなりのプレイヤーが集まっているのは確かだ、他の大罪もここにやってくるだろうし。だがそれは魔物も同じ、今までの比にならない程の量の魔物が迫ってくるので、決して良い状況ではないのだ。
それに田村に注意されている間、進上は牛頭の方を見る。
今は何も考えていないのか澄ました顔をして走っている。
(彼女は内野君を怖がってたらしいけど……彼の何がそんなに怖いんだろう…)
もしも進上にデリカシーなどがあったらここで聞いていただろうが、彼は生き物の死を楽しむ事以外は普通の人間なので、彼女の為にもここでそれを聞くのは避けた。
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