第248話 プラント

川崎はよほど日本語を喋るという魔物について調べたいのか、全速力で向かってきたので20分ほどで合流出来た。

川崎と二階堂が『怠惰』で出した魔物に乗ってきており、そこには元使徒の塗本もいた。

同じく日本語を話す魔物という事で予め出しておいたのだ。


到着すると、川崎は希望が持っている生首の魔物を塗本に見せる。


「これが例の魔物か。どうだ、コイツを見た事あるか?」


「いえ、私達の集落を襲った王国人と言う魔物とも違いますし、見た事ありません」


今もまだ生首の魔物は目をギョロギョロ動かすだけで抵抗してこない。

ここには高レベルプレイヤーが集っており、魔物を回復させても問題無い。なので二階堂には魔物の首辺りに『ヒール』をかけてもらい、喉を再生させた。

すると…


「は、はは!やっぱこの身体は凄い!首だけになっても痛くもないし死なないし、意識もずっと保っていられる!魔王様万歳!」


魔物は喜々としてそんな事を言い始めた。

魔王という気になる事を口に出していたが、生首の魔物はそのまま喋る。


「どれだけミンチにしようと俺を殺す事は出来ない。そして痛みも感じないから拷問だって出来ない!どうだざまあ見ろ!」


「…お前は何者だ?何故日本語を話す?」


「馬鹿が。どうして俺がお前らにそれを話さねばならん、どうせ俺はある程度時間が経過したら元の世界にも帰れるし、貴様らの質問に答える必要なんてないんだよ!ざまあないぜ人間共!」


「…ふむ、このままじゃ何も話してくれなさそうだな」


「たりめぇだ。気が済むまで拷問だって何だってやってみろ、俺は口を割らんぞ!痛みも感じず、絶対に死にはしないからな!」


「そうか、じゃあ試してみよう」


煽る魔物の頭を川崎は掴むと、『怠惰』の闇を出してその魔物を呑み込んだ。

その魔物は「ちょ…」と一言漏らしながらも闇に呑まれ、川崎の身体へと取り込まれていった。


そして川崎は今取り込んだ魔物を『怠惰』で出してみる。

闇がさっきの生首の形を形成していき、数秒でさっきと同じ生首の状態で目の前に現れる。


するとさっきまで煽り散らしていた生首の魔物は、黙り込んでいた。


「…これでお前は俺の使い魔だ。

今のお前の身体は俺の闇で作ったもの、つまりいつでもお前を消滅させる事が出来る。それにもうお前はクエストの時間が終わっても異世界には帰れない。

これがどういう事か分かるか?」


「…先程のご無礼を謝罪いたします、申し訳ございませんでした。何なりとお命じ下さい」


生首の魔物は即落ちした。

そして川崎の質問にベラベラと答え始めた。


「お前は何者だ?そもそもとは王国とはなんだ?」


「それでは先ずは私の自己紹介から。

私の名、コードネームはNo.1129。この数字のせいで私だけ良い肉と呼ばれていました。

私はこの世界の情報収集担当の王国兵です。

王国と言うのは私達の世界で、魔王様が納めている国の事。全世界の領土の9割が王国を占めており、残り1割が人間の領土です。構図で言えば、魔王様の王国VSカラサワアズサの保護下の人間達というものですね」


まだ少ししか話していないのに、驚きの連続だった。

カラサワアズサという名は以前塗本の話で耳にした。カラサワとは内野らプレイヤーが相手しなければならない『7人の王』の一人である(123話)

だがそこでは人間がいるなどという話は出て来なかった。それに異世界に人間がいるなどという報告は他のグループからも無い。

一応西園寺達も塗本の話は聞いており、その魔物の話を興味深々に聞く。


次に質問をしたのは塗本。


「王国人?お前は王国人なのか?俺が知っている王国人とは見た目が違うのだが」


「その説明には、王国のプラントという施設について説明しないとなりませんね。

王国は世界の9割の領土を所持していますが、その内の80%以上がプラントという施設になっています。

そこでは様々生物を区間ごとに自由に住まわせたり、研究などをしています。

そしてここで研究した魔物の身体を元に、王国兵は自らの身体を改造して役割に特化した身体へと生まれ変わるのです。

私は生き伸びて少しでもこの世界の情報を収集する為に、生存に特化した身体となりました」


「魔物を改造して兵士としている」という事を聞いて川崎はハッと何か思いついた様な反応をする。


「…塗本、確か王国人はお前の村を襲った時に「カラサワを殺す為だ」

「オーガはカラサワの攻撃対象にならない」だとか言っていたんだな?」


「は、はい」


「もしや…オーガを生かして連れ去ったのは、彼らの身体を改造して対カラサワアズサの兵士にしようとしたからじゃないのか?」


「「っ!?」」

「はい、多分そうですね。

王国の一番の目標はカラサワアズサを殺す事。その為に、カラサワアズサが攻撃しない種族の魔物を調査しています。

オーガもその中に入っていたのでしょう。私はただの一般王国兵なので知りませんが」


川崎の考えは合っていた。ただそれを聞いた塗本は僅かに額に血筋を浮かべて静かに激怒していた。


「…じゃあ俺達オーガは、自分達が崇める神と無理やり戦わされるって事か?」


「そうだな。てかお前…カラサワアズサの力で人間に乗り移って、その身体で使い魔にされたのか。

そりゃ散々だな。自分に力をくれて崇めていた神と戦わざる得ないなんて」


川崎と話す時とは違い、魔物は塗本に話す時はフラットな喋り方となった。

生首の魔物に皮肉気味にそう言われた塗本は、一瞬間を開けた後


「今はもう覚悟は付いた。自分が一瞬でも崇めた神と戦う事に」


「奇遇だな。俺もご主人様に命を握られてるから王国に歯向かう決意が付いた。これから仲良くしような」


「黙れ…王国兵とやらが俺の家族にやった事を許してなどいないからな」


塗本はそう言い捨てると、近場にあったベンチに座って頭を抱えて下を向く。

元魔物だがその姿はもはや普通の人間にしか見えない。異世界の人間の味方をしているカラサワアズサがオーガを襲わない理由が分かった気がした。塗本が特別ってだけかもしれないが、仕草などが全て人間臭いのだ


一瞬沈黙が流れるも、西園寺が話を切り出す。


「で、僕らはどうカラサワアズサをどう相手にすれば良いんだろうね。

クエストのルールでは『7人の王』を殺さないといけないから、カラサワアズサを殺さなきゃならないのはほぼ確定。だから敵の敵は味方って単純な理論で考えると、カラサワアズサと敵対する王国とプレイヤーは協力出来る…

と行きたい所だけど、今の話を聞く限り王国とやらは相当危険だよね」


「そうだな。もっと詳しく話を聞き出さねば何とも言えないし、俺はここでコイツの尋問を…」


「あの…一つ良いでしょうか」


西園寺と川崎が話していると、そこに生首の魔物が口を挟む。


「実は…私ってこの身体に改造されて2日目で、記憶が曖昧なんですよ。

だから今言った王国の事以外特に何も覚えてなくて…」


「なっ!他のほんの些細な事すら覚えていないのか?」


「ええ。家族の顔だとか、ナンバーコードではない本当の名前だとかも特に覚えていません。

不思議ですよね、自分の事よりも国について覚えているだなんて」


「…まぁ、お前から聞き出せなくても良い。他にも王国兵とやらは出現するかもしれないからな」


という事でここで魔物の話は一旦終え、一同はクエストに集中する事にした。

ちょうどクエストが始まり1時間経過した時間で2体目の使徒が現れるので、その場所を確認して連絡しようと川崎はコンパスを確認した。

____________________________


皆がレベル上げをしている最中、柏原は少し離れた場所からサボテンの使徒の動向を探っていた。

川崎から命じられたので従ってはいるものの、不満はあった。


「川崎さんには「サボテンを見張り、何か異常があったら直ぐに知らせろ」って言われたけど。ここで見張りばっかりしてたら梅垣に差を縮められる…魔物倒しに少し目を離すぐらい良いかな…」


柏原は暴食のプレイヤー達数人が内部に侵入している所を見ており、それからもう40分以上経過していた。

暴食プレイヤー達が侵入する前は普段通り針を周囲に飛ばしていたが、侵入して以降はそれがピタリと止んだ。


「…つまらない、訓練ぐらいしてても怒られないよな。

この前模擬戦で清水さんがカッコイイ動きをしてたしその練習をしよ」


柏原は基本的に弓以外の武器を扱えるが、憧れの清水が槍を使っているので槍を使っている事が多い。

先日の模擬戦の時の清水の動きを思い出し、柏原はサボテンの使徒を見張りながらもその動きを一人で練習し始めた。


「…一体何をしているんですか?」


ただその直後、背後から女性の声がした。

振り返るとそこには4人のプレイヤーがいた。アイテムを装備しており、柏原の事を見えているという事でプレイヤーなのは確実。

声をかけてきたのはその先頭にいる柏原と同じ年ぐらいの女性だというのも何となく分かった。

何故か話しかけられるまで一切気配がしなかったが、敵ではないので柏原はそのまま槍の練習を行う。


「見ての通り槍の練習だ。少しでも憧れの人に近づける様にな」


「どうしてサボテンの使徒の近くで…しかも、クエストの最中にそんな事をしているんですか?」


「あの使徒を見張れって言われてんだが暇でな。あ、俺は怠惰グループで最強の3角の内に入っていると噂されている柏原な、よろしく」


「え、ええ…僕は『補田ほだ 翡翠ひすい』です。

僕らは暴食グループのプレイヤーで涼川さんの命令で今サボテンの使徒の方に向かっている最中です」


「ふ~ん、命令って?」

(僕っ子って珍し)


「実はあのサボテンの内部は…」

「おい補田、そんなベラベラと情報を話して大丈夫なのか?」


補田の話を、彼女の仲間の一人の男が遮る。そしてその男の意見に残りの二人も同意する。


「誰にも話すなとは言われてないが、一応喋らない方が良いと思うぞ。俺あとで怒られたくないし」

「私も黙っておいたほうが良いと思う」


「そ、そう…?じゃ、じゃあ黙っておこうかな。

それじゃあ柏原さん、僕たちはこれにて失礼します。『シャドウコート』」


「ちょい待て」


補田が『シャドウコート』という周囲の者の姿を隠すスキルを使おうとした瞬間、柏原は彼女の肩を掴んで止める。


「別に怠惰グループは暴食グループの使徒を横取りしようなんて思ってない。前回川崎さんとそっちの涼川って人と大罪同士で話合ったし、そこは信用してくれ。

俺ももうそろそろで1時間ここにいるわけなのだが、そろそろ我慢の限界でな。せめて中が今どうなっているのか教えてくれ、あとどれぐらいで倒せそうなのかも。

もうサボテンを見つめるのは飽きた」


「あっ…そういえば「怠惰グループの川崎は話が分かる奴」だって涼川さん言ってましたね…

それじゃあお話しましょう…と言っても、私達もあまり詳細には知らなんですけどね」


柏原の説得のおかげで補田達が話だそうとした所で、サボテンに動きがあった。前回みたいに上部から花が咲かしたのだ。その黄色い大きな花はグルグルと回転を始める。


「あっ、花が回転したって事は…またあれが起きるのか?

あの魔物が一斉に動き出すやつ」


柏原は補田達にそう尋ねると、一同は青い顔をしながらも頷く。

これは前回のクエスト後に公開された情報だが、前回突然魔物が一斉に動き足したのはあの花が生えて回転し始めてから。なので花が回転する事でサボテンの使徒は能力を発動できると考えられており、それは全グループのプレイヤーに知らされてあった。


とりあえず柏原はそれを川崎に報告しておき、槍を持った方の腕を回す。


「んじゃ、魔物と戦いながら今どういう状況なのか話を聞かせてもらおうか」


「い、いえ…私達は早くサボテンの上部まで行かないといけないのでそんな悠長に話してる暇は…」


「なら俺が護衛してやるよ。最近新人の内野に活躍の場だとか取られてむしゃくしゃしてたんだ、見せてやるよ俺の力」

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