第247話 人語の魔物

転移後、内野の傍にいたのは西園寺と片栗だった。

転移で場所も変わっており、土地勘が無い内野が全く知らない場所だ。近くにある目立つものは川ぐらいである。


先ずは西園寺がコンパスで使徒の方向を確認し、川崎達と位置情報を送り合う事で使徒の場所を特定する。


「ああ、灰原達が転移した場所からも結構離れてるから大丈夫っぽいね。じゃ、取り敢えず川上に向かいながらレベル上げでもしよう。灰原達はこっちに合わせて動いてきてくれるみたいだし」


「分かった」

「はいパパ!」


取り敢えず3人で行動を開始した。

もう3度目なので慣れた事だが、次第に周囲は阿鼻叫喚の声に包まれ始める。


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」

「パパッ!起きてよパパッ!」


「だ、誰か!警察をっ…ごほっ…!」

「魔物だ!これは魔物災害だ!」


何処からか聞こえてくる悲鳴が耳に入るのに慣れてしまっている自分が恐ろしいとは思うも、慣れられて良かったと安心もする。


魔物を現れた殺そうと片栗が手に短剣を出した。だがそんな片栗を西園寺は手で止める。


「ちょっと待って。まだあまり魔物の数は少なくて余裕だし、試しに内野君にこれを使ってみてほしいんだ。まだ改良の余地とかありそうだけど取り敢えず試作品ね」


西園寺は身体から闇を出すと、その闇は大砲の様なものへと変化した。ただそれは砲身のみで、台は無い。

それを見て真っ先に片栗は「あ、パパが昨日作ってた大砲丸!大砲丸と違ってタイヤが無いね」と声を上げる。

大砲丸と言う名前からこれが大砲だという確証を得て、内野は大砲をのぞき込む。


「…弾はまだ入ってないのか」


「これは内野君が『ストーン』で作った岩を弾にして撃てるものだよ。普通の弾だと魔物に通用しなかったりする相手も、高ステータスの君がスキルで生成した岩なら効く。しかも岩を飛ばすのに魔力を使わないから君はMPを節約できるって優れものだよ。ちなみに構造自体は普通の大砲で、違うのは弾と台。

昨日は試作品として作ると同時に、二人の遊び道具にする為にタイヤを付けて乗れる様にしたけど、流石に内野君はタイヤいらないよね?」


「要らないに決まってるだろ。で、どう使うんだ?」


「『ストーン』で弾を詰め、このレバーを勢い良く引くだけ。そうすると火薬の燃焼ガスに急激な圧力が掛かって爆発して撃てるっていう簡単な構造さ。

ガスに圧力をかけるパワーと、台の安定性はプレイヤーのステータスに任せされるからかなり作るのが簡単で、少ないMPで作れてコスパが良い。

しかもこれを覚醒者達に渡せば、彼らだけじゃなくて弾生成者である内野もレベルが上がるんじゃないかと思ってね。

ま、僕に経験値が入らなくてレベルが上がらないって欠点はあるけども…」


「じゃ、じゃあこの大砲はステータスの力を持って身体能力が強化されたプレイヤーや覚醒者達が台代わりに抱えて撃つのか…

物理防御と物理攻撃のステータスが高い奴限定の武器って事だな」


「そうだね。取り敢えずあの川の中に現れた魔物に撃ってみてよ。弾道を見たい」


ちょうど川の中に魔物がいるのが見えたので、内野は西園寺の言う通り『ストーン』で弾を詰めてから大砲を抱え、レバーに手をかける。

そして狙いを定めてからレバーを引く。


レバーを引いた瞬間、弾が発射され川の中の魔物と周囲の水が激しく飛び散る。

内野の耳には爆音が響くと共に大きな衝撃が腕から身体全体に伝わるも、尻餅をつくことなく立って耐え、鼓膜も破れなかった。全て物理防御力のステータスのお陰だ。


大砲の岩をもろに暗い魔物の身体はぐちゃぐちゃに弾け飛んでおり、ここらの川の水は真っ赤に染まる。


「大砲片手に持って撃っても何ともないって…いよいよ人間戦車の完成だな」


「多分君の全力タックルなら普通の人の身体はぐちゃぐちゃに出来るし、あながち間違いじゃなさそうだね」


「私の大砲丸は戦車より強いよ!今度お兄ちゃんの大砲と勝負しよ!」


3人はそんな話をしながら、希望達のいる方向へ魔物を倒しながら向かっていった。




クエストが始まって30分。

他グループからの連絡によって、最初に現れた使徒が強欲の所のサボテンだと分かった。現在サボテンの使徒に対しては暴食グループが対処しているそうで、今さっき『暴食』の涼川が仲間を引き連れてサボテンの内部に侵入したという。


近場に希望達がいるというので、分かり易い様に建物上で待機している。

そこから見える景色は、耳に聞こえる音はどれも地獄の様なもの。

だがそれも見慣れた地獄で、3人は特に気が乱れる事なく平静に話していた。


「話だと、サボテンの中に奴を倒す弱点あるそうだね。

でも暴食の涼川は中に何があったのか話すつもりが無いから、僕らは誰も中身を知れてない…協力的じゃないのは頂けないね」


「涼川さんの言い分としては「私達がサボテンを倒すんだから、別に教えなくてもいいでしょ?」ってものらしいな。

詳しくは川崎さんに聞かないと分からないけど、どうやら他の情報もあまり落としてないみたい」


「どうしてもサボテンの使徒を倒したいみたいだね…

初対面の時から気に食わない女性だったけど、僕の勘はよく当たるものだ。取り敢えず次に大罪が集まる会議を開く時は彼女は呼ばないでおこう。

外見だけが良い腐った中身の女は嫌いだからな」


西園寺は涼川に対して愚痴を漏らしており、普段とは違って少し怒りが籠った声だった。

そんな怒りを少し露わにしている西園寺を見て片栗が不安そうな目をし、それに気が付いた西園寺は直ぐに片栗の頭を撫でる。


「ああごめんごめん。パパはそんな事で当たり散らしたりしないから大丈夫だよ」


「う、うん…は違うもんね」


「お父さん」が元親、「パパ」を西園寺として呼んでいるのだと何となく分かった。

さっきまで魔物との戦闘で内野と同じぐらい動けていた片栗。その時は彼女の年を忘れてしまうぐらい頼りにしたが、今の不安そうに西園寺を見つめている彼女を見てようやく彼女が小学3年生だとという事を思い出す。


(幼少時の親からの虐待に加え、今はクエストという殺し合い。

もしかして希望君が少し倫理的にズレた事とか言うのもそういう生活を送っているからなのかな…)


内野がそんな事を思っていると、建物を飛び越えて向かってくる3人の姿が見えた。

全員無事でホッとするも、希望が手に魔物の頭を持っているのが見えてギョッとする。


「パパー!見て!この魔物の頭!」


希望は喜々としてその頭を掲げるが、その生首だけの魔物の目はまだ動いており、どう見ても生きている状態だった。

横の吉本と灰原は武器を持ち、いつその魔物が暴れ出しても良い様に常に目で見張っている。


『魔力感知』を持っている西園寺はその魔物が生きてる事に気が付いており、灰原に声をかける


「灰原、どうして生きている魔物なんか連れてきた。しかもそんなのを希望に持たせて…」


「違うんです、この魔物…日本語らしき言葉を喋ったんです」


「「…え?」」


本当かと内野と西園寺の二人が聞き返すと、その時の話を灰原が始める。


「ここに向かっている間は吉本さんが先頭だったのですが…吉本さんがこの魔物の首を切り落とそうとした瞬間、「ぎょえぇぇぇぇ!」って言ったんです。

首を切り落としてしまい最後まで喋れていませんでしたが、人と変わらぬ驚き方をしていました」


「言葉を話す魔物だと…?

それは興味深いな、ちなみにそれ以外には何か言ったか?」


「いえ、首を切って喉が無くなったので何も喋れていません。ただ、生きてはいるので『ヒール』を使って身体を再生させれば喋らせる事が出来るかと思い、持ってきました」


言葉を話す魔物というと、川崎が『怠惰』で呑み込んだ元使徒の塗本がいる。それ以外には話す魔物について聞いていないのでこの魔物で二体目だ。


「吉本さん曰く、川崎さんにこの魔物の話をしておいた方が良いかもという事なので、既に彼に連絡しておきました」


「分かった。で、彼はなんと?」


「「二階堂を連れて直ぐに行く!」と…とても興奮した様子で言っていました」


「はは…彼が興奮してる所なんて生見と魔物の生態について話してる時以外見た事無いな」


こういう世界の謎を解ける様な事には興味津々な川崎は、レベル上げという重大な作業を置いてでも二階堂を連れてこっちに向かってくるという。

これでなんとなく田村が以前言っていた、「川崎さんはわがまま」という言葉の理由が身に染みて分かった。(233話)

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