第246話 親代わりのヒーロー
西園寺との集合場所は大阪城。
内野は東京住み東京育ちであまり遠出などもしないので初めての大阪だが、観光する為に来たのではないのでワクワクはしない。
大手門前に到着すると、そこには西園寺と双子の子供がいた。
西園寺は顔バレを防ぐ為にマスクやサングラスを装着し、双子もその真似をしてマスクとサングラスをしている。そんな奇妙な格好の3人は嫌でも目が入る。
元々西園寺から顔を隠して行くと言われていたので、内野は遠目から見て直ぐにそれが西園寺だと分かった。
「おっ、おはよう内野君」
「おはようございます!」
「はよ~」
3人も内野に気が付いて挨拶をしてくるので、挨拶を返す。
「おはよう。
あれ、灰原さんは?確かこの集合場所に一緒に来るって…」
「ああ。灰原には大阪城の全貌を映せる良い感じの場所にカメラを設置しに行ってもらってる最中」
「ん?なんで城を撮影するの?」
「
実はさっきまで
なんで希望君はそんな瞬間を見たいんだ…とは思うが特に内野は止めはしない。
と、そんな話をしていると灰原が城内の方からやってくる。
彼と会うのは前回のクエストぶりだ。西園寺や双子はちょくちょく訓練場に来ていたが、彼は西園寺の芸能活動のマネージャーでもあって忙しく訓練場に足を運んできてない。
そして内野は前回のクエストから、彼に無口な人という印象を抱いている。
(『灰原 啓』 36歳
前回精鋭メンバーに入っていた色欲グループのプレイヤー。いつも西園寺の傍にいる大柄な男。前回のクエストではほとんど言葉を発さなかったので、彼についてはあまりよく分かっていない)
「西園寺さん、しんどい作業終わらせてきましたよ。先に言っておきますが、後でアングルが駄目だとか文句は言わないで下さいね」
前回のクエストの時の無口な者という印象がある彼とは違い、今の灰原は気だるげな雰囲気でそう愚痴を漏らす。
内野にとっては新鮮な彼の一面だが、こっちが素なのか西園寺達は特にその事には何も反応は示さない。
「別に撮りたいって言ったのは僕じゃないのだが」
「でも何かと私にはキツく当たるじゃないですか」
「それはいつも仕事でヘマしたりするからだろ?
お前こっちのスケジュールを一切考えずに仕事を受け取るから、ここ最近超過密スケジュールになってたじゃん。少しは僕に休ませろ」
「事務所の稼ぎ頭なので上からの圧が…」
「『グラビティ』で物理的にお前に圧を掛けてやっても良いんだぞ?」
灰原と話している時の西園寺は普段自分と話す時よりもフラットな感じで、二人の仲の良さがよく分かった。
取り敢えずクエストと関係が無い会話はそれぐらいにしておき、西園寺からクエストについての動きについて説明される。
「昨日連絡しておいたけど、念のためもう一度説明するよ。今回防衛対象になった片栗と希望とは僕らが『契りの指輪』で繋がっておいて、使徒を避けながら出来るだけ早く合流できる様に行動する。
僕と内野君は『契りの指輪』で片栗と繋がる。そして灰原と吉本ちゃんは『契りの指輪』で希望と繋がる」
「え…吉本って、美海ちゃんの事?」
まさかここで怠惰グループの吉本の名前が出るとは思わず、内野は思わず聞き返す。
「うん。前回のクエストで希望が彼女に惚れちゃってね、こっちを手伝ってくれないか彼女に頼んだら受け入れてくれたよ。勿論川崎さんの了承も得てね」
「お姉ちゃん、超優しいし強い…」
希望は吉本の話題が出ると下を向いて照れ始める。
訓練に顔を出しに来た時も「希望君、やけ吉本の近くにいるな」とは内野達も思っていたので、これで合点がいった。
前回吉本に助けてもらって時に惚れたのだろうと何となく察する事も出来た。
「美海ちゃんの話は分かった。
取り敢えずクエスト開始時の転移で3:3になって、合流した後にレベル上げって事だな」
「そそ。『色欲』で色々なモノを作ってると魔力水の消費が激しくてQPを稼がないといけないから、今日は効率重視で魔物を狩りまくるよ」
吉本は今川崎達の方にいるらしいが、前日に『契りの指輪』を渡しておいたので、クエストが開始したら同じ所に転移するようになっている。
そして内野達はクエストが始まるまでの間、恐らく最初で最後となる大阪市観光を堪能していた。
「ところで希望。どうして城が崩れる瞬間を撮りたいって急に言い出したんだ?そんな城に興味とかなかっただろ」
たこ焼きを食べながら歩いている西園寺はそう尋ねると、希望は子供らしい純粋な笑みで答える。
「お姉ちゃんがね、お城とか見に行くの大好きって言ってたからこの映像をプレゼントするんだ!」
希望の口から出た答えを聞き、内野は直ぐにそれを止めようとする。
「おっと希望君、それは流石に不味い。そんな事したらきっと美海ちゃんにに嫌われちゃうよ」
「な、なんで嫌われちゃうの?お城が崩れる瞬間なんて中々見れないし、その瞬間を見れてもお姉ちゃん嬉しくないの?」
「…希望君は大切な人…例えば美海ちゃんや家族が怪我する瞬間を見れたら嬉しいと思う?」
自分のしようとしていた事が分かった希望は「あ…」と小さく声を漏らした後、首を横に振る。
「嫌…そんなのいやぁ…パパもお姉ちゃん達も怪我したら悲しい…」
「でしょ?きっと美海ちゃんも大好きなお城が崩れる瞬間を見たら希望君と同じ気持ちになると思う。だからやめておこう」
「う、うん…」
希望は内野の説得の甲斐あって考えを改め、カメラは取り外す事になった、灰原が。
そしてその灰原を待っている間、内野はトイレに行こうとしたら西園寺も一緒に行くと言い、連れションする事になった。
二人はトイレまで歩きながら話をする。
「僕の代わりに希望を説得してくれてありがとう。希望は片栗と違って少し倫理観がズレてる所があるから、もう少し話を聞いておくべきだったよ」
「忙しいんだしそれも仕方ないだろう」
「プレイヤーとしての活動とアイドルとしての活動の両方があって時間が無い…なんて言い訳をするつもりは無いよ。
あの二人を養う事を決めたのも、アイドルとしてトップに立つ事を決めたのも全て僕だしね」
同じ年ながら、その責任感が強く美しい見事な精神には称賛の念しか浮かばなかった。
「凄いな…そんなに沢山の事をいっぺんに出来るなんて」
「昔からマルチタスクは得意な方でね、基本的に二つの事を同時に行って時間を効率良く使ってる。
だけど…僕の能力が低いばかりに、どうしてもあの二人に構ってあげられる時間を作るのが厳しくてね。クエストの時ぐらいしか構ってあげられないこんな僕が彼らの親代わりとして本当に務められてるかは…正直言って自信は無い」
西園寺は二人に対して親らしい事が出来てない事の自分への不甲斐なさを漏らす。
西園寺の事を知れば知る程、能力もあって、性格も素晴らしいという事が分かる。もはや仲間同然の間柄で、彼に少しでも自信を持ってもらいたいので、内野は彼への慰めの言葉をかける。
「前のクエストで聞いたが、あの二人は元両親からの虐待を受けていたんだっけ。そしてそんな二人を放っておけなかったから自分で二人を育てる事にしたんだろ?
俺はその話についてあまり知らないが、少なくとも二人にとって西園寺は自分を救い出い出してくれたヒーローみたいな存在ではあると思う。きっと二人とも西園寺と暮らせている今が幸せなはずだ」
「そうだろうね。あの二人の親は正真正銘のクズだった。
職場でのストレスを家で発散する父親。そしてその父親によって貯め込んだストレスを子供二人に当たり散らす母親。まだ幼い二人は学校が終わっても外で時間を潰すか、親に怯えて暗い部屋の隅で過ごすしかない。
きっとそんな生活をしていたせいで他の家の子供に生まれたかったって思い、ずっと負の感情を貯め込んでいたんだろう。でも二人は心優しい子で、それを発散出来ず貯めるしかなかったんだと思う。
そしてその貯めた負の感情のせいで…いや、貯め込んだ負の感情のお陰で二人共この年でプレイヤーに選ばれたんだと思う」
西園寺から語られる二人の過去を、内野は静かに聞き続ける。
「そして同じくプレイヤーとして選ばれた俺は二人から話を聞いて、僕は思った。二人を助ける為に二人の両親を殺して養おうと。
ただ、二人が本当にそれを望むのか分からなかったから聞いてみたんだ。「君の両親を殺しても良い?」ってね。
そしたらそれを聞いた瞬間、二人とも目に希望を灯したんだ。それが二人の答えだと分かり、僕は宣言通り二人の両親を殺した。この両親よりも良い親として二人を育てるという決意をしてね。
…で、そんな決意をして二人を育てる事になったのだが、今君の言葉を聞いて思ったんだ。ヒーローじゃなくて
最後の親という所で少し声色が強くなっていたので、親として二人の傍に居る事が重要であると西園寺が思っているのが窺えた。
無責任に言葉を掛けるのは好きでは無いが、本当の両親に比べて西園寺が良い親として二人を育てられているのは確実である。
じゃなかったらあんなに笑顔で西園寺の事を「パパ」などと呼ばないだろう。
…と、内野はそれを言葉にしようとした時。空が赤くなった。
そしてそれと同時に二人の身体は青色の光に包まれ、転移した。
時刻は10時20分、3度目のクエストが始まる。
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