第245話 模型店での出会い

各々がクエストまでに出来る事を成し、遂に3度目のクエスト当日となった。


今回のクエストは大阪と、内野が住んでいる東京からはそこそこ離れている。なので仲間と席を予約した新幹線に乗って大阪へと向かっていた。

クエスト場所が出るのが3日前なので全員近くの席とまではいかなかったが、仲間同士で近くの席の予約は出来た。

これも、これまで2回の魔物災害が全て日曜日に起きて休日に遠出する者が減ったからだ。駅に行っても明らかに人が魔物災害発生前よりも少ないのが目に見えて分かる。


新幹線に乗車し、暇な時間はトランプやUNOをして遊んで時間を潰す。

今遊んでいるメンバーは内野、工藤、進上、松野の4人。


「そういえば今回俺は西園寺と動くからあまり聞いてなかったけど、今回はどんな感じに動くんだって?」


「最初はある程度固まった状態で使徒の場所を確認して、それからグループごとに分かれて動く予定。

覚醒者の人達にも、同じ様に使徒の場所を確認してから指示を出すみたい。

それに新規プレイヤーも多いし無理せず動いていくってさ」


松野が質問にそう返すと、工藤がある事に気が付いてババ抜きの手が止まる。


「てか覚醒者達も来るってさ…あの人達にクエスト場所を教えても大丈夫なの?

黒幕は「プレイヤー以外へクエストの警告をしていいのは5人だけ」って言ってたし、あの40人もの大所帯にクエスト場所を教えるのはルール違反にならないのかしら?」


あまり覚醒者達についての話を聞いていなかった工藤がそう言うので、内野は知っている事を話す。


「これは川崎さんの考察だけど、恐らくクエストについて話してはならないというルールはクエスト範囲にいる一般人が少なくなるのを防ぐ為だ。

だから覚醒者達をクエストに来させるのは問題無い…って事で試しに覚醒者達にクエスト場所を教えてみたら、特にペナルティは無かったみたい。

あの黒幕はプレイヤーを勝たせるのが目的だし、多少の事には目を瞑ってくれるんだろうな」


「でもさ、そうなったら今度は覚醒者達がクエスト場所を一般人に広めたりするんじゃない?

そうなると結局クエスト範囲から人が少なくなっちゃうし、もっと厳しいルールを課せらりとかしない?」


内野の説明を聞き、進上が更なる問題点を口にしたのでそれにも答える。


「今回覚醒者達には当日まで場所を教えず、しかも新幹線に乗る前に全員のスマホを回収したみたい。だから今回のクエストではその心配は無い。

でも…今後のクエストでどうなるかはまだ分からない状態だ。

皆も知ってると思うけど、今回のクエスト終了後に西園寺はをするから、黒幕がどう動くのかは現時点じゃ予想は付かない」


「あ~ね。確かにあれをしたら黒幕がどう対応するのか予想は出来ないわ。

ま、説明が少なくてガバガバルールになってる黒幕の落ち度だしね、私達は悪くないわ。とことんルールの穴を掻い潜ってやりましょ」


こうしてクエスト関連の話は一度止め、大阪に着くまで心安らぐ一時を過ごした。






内野は西園寺達色欲グループと行動する予定なので強欲メンバーの仲間とは駅で別れ、別の集合場所へと向かっている最中。

まだ時間は10時前でクエストが始まる時間ではないので、道中で見つけた模型店へと足を運んでみた。

内野はバイトをしておらず基本的に金欠だったのであまりプラモデルやフィギュアは買わないが、店のディスプレイに飾ってあるものを見たりするのは好きなので、暇な時にはこうして店をぶらぶらしたりする。


ただ内野が店に入って数分ぶらぶらうろついていると、レジであるフィギュアを購入している男性の姿が目に入った。


それは2ターン目の最初のクエストで見かけた、小脇にフィギュアを抱えてクエストに参加していた者。あの時はてっきり彼の事をプレイヤーかと思っていたが、クエスト後に彼が覚醒者であるというのを知った。

身体は血塗れなのにフィギュアには一滴も血が付着していなかったのが印象的で、内野はパッと彼があの時の者だと分かった。


(あの人…まさか今回もあの時みたいに小脇に箱を抱えて戦うつもりか!?

な、なんて余裕だよ…まだ3回目のクエストなのに自分にそんな枷を付けるなんて…)


正気かと彼の心を疑うも、同時に尊敬の念も抱く。

彼の鋭い目つきからは不安や恐怖などを一切感じず彼の肝の太さが分かり、これから覚醒者として訓練や実戦を行って更に強くなってくれると思うと、なんとなく頼もしく感じた。スキルもなく自分より弱い者なのに。


ただ内野はあまりにも彼を凝視し過ぎた為、会計を終わって店を出ようとする彼に気づかれて目が合ってしまった。

帯広は山での訓練の時に内野の顔を数回見た事があったので一応顔は覚えており、お互い「あっ」と一瞬固まってから一礼する。



何故か、なぜか二人は模型店の前にあるベンチに腰をかけて座っていた。

話した事が無い者同士だが、帯広は何故だかこのまま内野と別れるのを名残惜しく感じ、彼を引き止めた。


「ご、ごめんね。まだ名前も知らない相手なのに呼び止めちゃって。

私の名前は『帯広 太知』、一回目の魔物災害で覚醒者になった者だよ」


「え、あっ、内野 勇太です。よろしくお願いします。

ちょうど俺も聞きたい事があったのですが…どうしてフィギュアを抱えて戦うんですか?

相当自分の実力に自信があって、わざと枷を付けて修行してるとかですかね?」


「ちょ、それは誤解!私は強くなんかないし自信も無い、誰よりも臆病さ。現に日本防衛覚醒者隊を抜けようと加藤君に話をしようと思ってたし…

これはね、自分の好きなモノが近くにあると現実逃避出来るから持ってるだけなんだ。頭が真っ白になって恐怖だとかいやなもの全て消せるから」


「恐怖を…消す…」


他人事とは思えなかった。自分にも似たような事が思い当たるからだ。

自分でもまだ良く分かっていないが、負の感情が膨れ上がると突然その感情が消え、頭の回転が速くなるという謎の現象がある。

帯広のそれは自分のこの現象と似ているものだと思い、内野は一気に彼に対して親近感が湧いた。


「俺にもあるんです、それに似たような現象が。

負の感情が消えて頭の中が澄み渡るような事が起きたりしました。でも…そうなるともう一人の自分が現れたかの様に普段の自分が絶対にしないような事も壁で出来ちゃうんです。

だからその現象が終わった後にそれを思い出して胸が痛くなったりするんです…」


「…ねぇ、似た者同士二人で一緒に辞めちゃうのはどう?

君はまだ高校生だよね、そんな君が魔物と戦ってそこまで心を痛める必要も無いと思うんだ。

私ももう魔物の前に立ちたくないし…ちょうど辞めたいって思ってた所だった。

実は君を呼び止めたのも、君経由で私が辞める事を伝えてくれないかと頼む為だったんだ。話しやすそうな雰囲気の子だったから…」


帯広の口から出たのは、もう魔物と戦わないという道。プレイヤーについて良く知らない彼だからこんな事を言えるのだ。

彼から見れば、プレイヤー達はわざわざ魔物災害の起こる場所に行って魔物と戦っている者達。なら魔物災害の起こる場所に行かなければいいじゃないかと考えるのは当然だ。


だがプレイヤーが魔物と戦わないという道を選べば、3ターン目以降のクエストで死ぬのは確実。

それに2ターン目の最後のクエストでは大罪が防衛対象に選出されるので、内野に魔物と戦わないなんて道など無かった。


「それは無理です。俺はたとえ心がボロボロになっても進み続けないといけません。引き返せる道なんて無いんですよ。

…プレイヤーは皆そうです」


「わ、私は逃げようと思えば逃げれるけど、君達は逃げられないって事……?

…ご、ごめん、そうと知らずに…」


帯広は彼らプレイヤーの気など知らずに発言してしまった事を謝罪する。

魔物と戦闘している時などは帯広の頭は真っ白になっているので鋭い目つきで表情が変わらぬ彼だが、今は心の底から申し訳なく思っているのが分かる程表情が変化していた。普段の鋭い目つきも緩んでいる。


彼に悪気が無いのは分かっているので、内野は特に気を悪くせずに許す。


「大丈夫です、貴方達にあまりプレイヤーについての情報を教えられないので、そう考えるのは当然ですから。

それにプレイヤーになって心の底から繋がれる仲間が出来たので、全部が全部悪いわけじゃありません。支えてくれる仲間がいる限り俺は進めます」


帯広は内野の仲間という言葉に反応する。

頭に浮かぶのは、自分の事を頼ってくれる仲間達の顔。自分はただ頭を真っ白にして戦っているだけだが、そんな自分を慕ってくれる者達の事だ。


「…わ、私の事を頼ってくれる仲間がいる。

仕事の能力も社交性も大して無くて職場では腫物扱いだkど、そんな自分を認めてくれる仲間がいます。

あれだけ頼られたのは初めてだった…」


ガタイの大きさと目付きの悪さ、そして口下手という要素が悪い方向にマッチしてしまい学生の時から人が寄り付かず一人でいる事が多かった。

だからこんなに誰かから注目され慕われるというの経験は初めてのものであった。

それが気持ちよく、彼らの期待を裏切りたくなかったから自分は皆に日本防衛覚醒者隊を辞めると言い出せなかったという事に、帯広は今気が付く事が出来た。


「今分かった。魔物が怖いのに魔物と戦うのを辞めたくなかったのは…仲間の期待を裏切りたくなかったからなんだと思う。こんな自分を慕ってくれる人がいて、その人達の期待を裏切りたくなかった。だから言い出せなかったんだ」


「俺も分かります、自分を信じてくれる仲間の期待を裏切りたくないんですよね…」


期待されているお陰で戦えるのか、期待されているから戦わざる得ないのか。

正直な所、帯広はその中間に居た。仲間からの期待という初めて向けられた暖かい思いが帯広を戦わせているといった所だ。

だが帯広はそれを悪く感じていなかった。だから彼が出した答えは…


「…もう少し考えてみようかな、脱退するかどうか。

ここが自分の唯一の居場所なのかもしれないし、今此処を捨てるのは早計…なのかもしれないから」


結局の所保留だった。

だがその保留はさっきまでのものとは違い、自分がどうしてここに居るのか分かった上でのものであり、決断を保留している事が重荷にはならなかった。

彼のその決断を聞き、内野はゆっくり立ち上がる。たった数分しか話していないが彼との会話で自分の心も落ち着き、今は穏やかな顔をしていた。


「そうですか…頑張ってくださいね。ですが、命は一つだけですから無理はしないで下さい」


「う、うん。君こそ無理しないでね!

あっ、引き止めちゃってごめんね。これからまたあれが起きるって時に…」


「大丈夫です。俺も覚醒者の方とは一度話してみたいと思っていたので。

今日はお互い頑張りましょう」


「うん、また会おう!」


こうして内野は西園寺との待ち合わせ場所へと向かっていった。

その歩いている間、内野は彼との会話で思う事があったのでそれを考えていた。


(…俺も退くという選択肢があったら、きっとああやって迷ってたんだろうな)


覚醒者には魔物と戦わないという選択肢があり、羨ましいと思う反面、その選択肢が無くて良かったとも思った。

選択肢が無い故に迷わず前に進めるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る