第243話 様々な動向

内野達が行っていたスキル使用ありの異能サッカー。

やってみたいという者がかなり多く、現在は11対11の勝負となっていた。


だがあくまでこれは訓練の間の遊びなので、次の訓練の時間となったら内野や柏原達は抜ける。

ただ休憩時間がずれている他の者らはまだサッカーをしたいそうで試合は続行したままである。



「俺らの遊びがまさかあそこまで人気になるとはな…」


「僕はサッカー苦手だったけど楽しかったし、またやりたいね!」


さっき同じチームだった内野、進上、柏原が横に並んで歩いている。

次の訓練場所が同じなので3人共同じ所へ向かっている。


「何が楽しかっただ、梅垣に勝てなきゃ俺は楽しくねぇ!

よし…これからは訓練の休憩時間にサッカーの練習でもするぞ!それに試合の時の作戦も考えておくから、全部頭に入れろよ!」


柏原はこの結果に納得出来てないらしく、内野と進上は半強制的に以降の休憩時間でサッカーの練習をする事になった。

ただ、二人は正直そこまで嫌ではなかった。

内野は中学生時代佐竹と共にサッカー部に入って挫折したが、その時とは違って結構動けるのでサッカーを楽しく感じていた。


(佐竹がサッカーにドハマりした気持ちがようやく分かったな…今度あいつにサッカーの練習方法とか聞いてみよ)


(『佐竹 正樹』 16歳

幼稚園からの幼馴染。中学でサッカー部に入るまでは内野と同じく特に冴えない者だったが、現在はサッカー部に所属しておりイメチェンして学校の人気者になった。プレイヤーではなく一般人)





そして次の日、内野は佐竹の家に行ってみてそれを聞いてみた。


「サッカー部の練習ってどんな事やってんの?」


「わざわざそれを聞くために俺の家に来たのか…もしかして今からサッカー始めるつもりか?」


「いや…松野の友達と今度一緒にサッカーする事になったから少し練習しようと思ってな」


「なるほど。でも遊びで楽しむサッカーなら、ガチガチな練習をするよりも基礎的なものだけで良さそうだな。お前少しの間はサッカー部に入ってたからドリブルとかは出来るだろうし、試合中の立ち回りを気を付けるだけでかなり活躍できるんじゃないか?

…お前足速いし」


佐竹視点ではここ数か月で内野の運動能力が突然上がったので言葉に詰まってはいたものの、以前した約束通り内野が変わった理由については何も尋ねて来ない。


「立ち回り?」


「例えば俺の場合はフォワード…完全に攻めの役だ。

だから相手の守備を抜けてどうにか仲間からボールを貰ってシュートしたりしなきゃならん。

それで俺が常に意識してるのは、視線を見て相手の死角を探したり、味方の意識が向ている方向を知る事。これさえ把握出来れば自分の進むべきルートが分かってな、自ずと最適な動きが出来る」


「思っていたものより数倍難しい話が始まったな…」


「プレイ中にこんなの出来るのは学校でも俺ぐらいだし、別にこれをしろって訳じゃない。

ただ相手の頭が向いてる方向を意識しながらプレイしてみろって事だ。それだけでも相手の意表を付いたプレイとか出来る…かもしれんし、結構盛り上がるかもしれないぞ」


「そう簡単には出来なさそうだが…とりあえずやってみる」

(これ…戦闘にも使えそうだな)


佐竹のこのアドバイスを、内野はサッカーと戦闘にも取り入れてみる事にした。

そしてその後は久々に佐竹と家で遊ぶ事になった。

久々に佐竹の両親とも顔を合わせ、二人で部屋でゲームをする。


ただ、内野がトイレに行こうとリビングに降りた時、佐竹の両親の会話が聞こえてくる。


「スイスにいる俺の友人が家に泊めてくれるから、行くとしたらスイスだな」


「ほ、本当に海外で暮らすの?私は良いけど正樹が…」


「命には代えられない。早い内に他国で暮らせる様に準備しておかないと後々大変そうだし、今やらないときっと後悔する。

だから…あいつには悪いが、学校は向こう所で通ってもらう事になる」


それは魔物災害が起こる日本から逃れる為に海外へ移住するという話。

そうするのは当然だ、今の暮らしよりも家族の命の方が大切だから賢い判断とも言える。

だが正樹が海外へ移住したら、もう内野は会えなくなってしまう。幼稚園の頃からの顔馴染みの親友と別れてしまう。

それを思うと寂しかったが、その一方で安心もしていた。


(…これであいつがクエストに巻き込まれる事も無くなるんだよな。そっちの方が絶対に良いし…寂しいけど仕方ない、笑顔で海外移住するあいつを見送ろう)


内野がそう思いひっそりとトイレに行こうとした所で、ちょうどリビングから今話していた佐竹の母親と鉢合わせる。


「あ…勇太君、もしかしして聞こえちゃった?」


「…はい、海外に移住するって…」


内野が話を盗み聞きしていた事に怒ったりなどせず、佐竹の父は詳しい話を始める。


「佐竹家は早い内に海外へ移住する事にしたんだ。

まだ手続きだとかは済んでないし時間はかかるけど、2ヶ月以内には日本を出たいと思ってる。

実はまだ正樹には話してくなて今日の晩飯の時に言おうと思っていたが…まさか勇太君に先に聞かれるとはね」


「すみません…」


「いや、良いんだ。正樹に話した後に君と内野君のご両親にも言おうと思っていたから。

ところで内野君の家ではそういう話は出てるかい?」


「いえ、今は聞いてませんね。もしかすると俺が居ない所でこういう話をしてるかもしれないですけど」


「そうか…悪い事は言わない、そっちも早めに日本を出る準備をしておいた方が良いよ。

これからこの国がどうなるのか誰にも分からないからね」


「…そうですね」

(父ちゃんと母ちゃんは海外に行く事とか考えてるのかな。正直二人にはクエストが起こらない海外に行ってもらいたいけど…俺はクエストを受けなきゃならないから一緒に行く事は出来ない。かと言って「俺は残る」とか言ったら二人も絶対に日本に残る。

…まぁ、二人がクエスト範囲に行かない様に毎回俺が上手く誘導すれば大丈夫か)


内野は佐竹両親の話を聞いた後、何気ない顔で部屋へと戻り、何気ない顔で1時間ぐらい遊んでから帰宅した。




内野は帰宅後、両親に佐竹一家の事を話してみたが、両親からは特に海外移住の話は出て来なかった。


リビングについているテレビで報道されるニュースは相変わらず魔物災害の事ばかり。主に魔物の救助の現状などだ。

ニュース以外の番組も、魔物に襲われ見事生存出来た者の悲痛な体験談などが多い。


そして晩飯を食べている最中、遂に国からある重大発表をされた。

それは魔物を殺して周る透明な魔物の存在の事。つまりプレイヤーの事だ。


実はネットで、透明な者が魔物を殺してる映像が写っており、それが話題にもなったりしていた。だがほとんどの者がフェイク映像だと思っており信じていなかった。

実際に軍隊らがその目撃証言を多数の場所で上げていたので、国はこの存在については一回目の魔物災害時点で既に知ってはいた。

ただこの不確かな存在を国民の希望にさせてしまうのは避けたかったので今までこの存在の公表は避けていた。だが募る不安の声の多さから、今出さざる得なくなってしまった。


カメラの先で防衛大臣は壇上に上がる。

魔物災害が起きてからろくに休めていないのか少し顔色が悪いが、なんとか背筋を伸ばし顔を引き締め、堂々とした態度で臨む。


『一回目の魔物災害の時から目に見えない存在が魔物を殺しているという報告は多々ありました。なのでその真相を明らかにすべく今回の魔物災害では撮影可能なドローンの数を増やしてより多くの情報を収集しました。

この存在についてはネットでも話題になっており『変異体』『奇行種』『友好的魔物』などと言われていたので、暫くは『変異体』と呼び名を統一します。

この変異体は魔物災害が起こっている範囲に大量におり、人は襲わず魔物のみを襲うという事が判明しました。

この変異体は町を破壊する様子も無く完全に人類に友好的な存在であり、無人の家の扉を開けている所も目撃しているので、ある程度の知能がある生き物だというのも判明しました』


内野一家3人は晩飯を食べながらテレビを見ていたが、3人の目はテレビにくぎ付けになり箸を持つ手が止まる。

内野はその変異体の当事者だから。

両親二人は一回目のクエストで川崎の策略により、透明な魔物に連れ去られそうになったから。

そんな理由があり、3人共魔物災害関連のものにはよく耳を傾ける。


『現在、隊魔物組織の発足と新兵器の開発を行っている最中ではありますが、まだ実際に魔物災害が起こった際に成果を出せる程ではありません。

なので次回の魔物災害でも軍は魔物の殲滅は叶わない可能性が大です。

ですがまだ希望を捨ててはなりません。諸国から本格的に軍の救援要請を受けられ、魔物災害時のみ高殲滅力のある兵器の使用許可法の制定も完了すれば魔物の殲滅は十分可能です。

それに…不甲斐ないのは承知ですが、我々には変異体という味方もいます。このまま魔物に国を壊滅させたりなどさせません。

どうか国民の皆さんは魔物に絶望せず、心を強く持って下さい。共にかつての平和の日本を取り戻しましょう』


そして防衛大臣は一礼をし、壇から降りた。

変異体(プレイヤー)の公表と、これ以降の魔物災害への対策、大方川崎が想定していたものと内容は同じであった。


(やっぱり魔物を殺すと身体能力が上がるって事は言わなかったな。

まぁ…そんなのを公表したら、クエスト範囲内にわざと向かう者とかも現れてより一層混乱が起こるかもしれないから当然か。

銃で一度も触れずに魔物を殺すとレベルは上がらないが、一度でも肌に触れた後に魔物を殺せばレベルが上がって身体能力が上がるってのは多分判明している。

だから次のクエストでは軍の人達も出来るだけレベルが上がる様に魔物を殺す様になるだろう。

それでどれだけ魔物に太刀打ちできる様になるかによって今後の被害の大きさがかなり変わりそうだ)


内野はそう思いながら食べ終わった食器を片付けようとすると、テレビの時計に目がつく。


19:29


19時半にはロビーへの転移がある事があるので、普段は常に時間を意識し、転移がある時間になる前には部屋にいた。だが今日はテレビに夢中になっていたせいで1分前になるまでそれに気がつかなかった。


「ご、ごちそうさま!」


幸い既にご飯は完食していたので、内野は急いでリビングから立ち去り自分の部屋へと向かう。


そして部屋に足を踏み入れた段階で時計の表記は19:30に変わり、それと同時に内野は意識を失った。


次に意識を取り戻した時、目の映るのは見慣れた大聖堂の室内だった。

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