第242話 異能力サッカー
柏原の提案でサッカーをする事になった。
なので木が無く少し平坦になっている場所で、内野達は地面にサッカーフィールドの線を書いていた。ゴールも適当にそこらの棒を使って作ったもの、フィールドの線もゴールも形は歪だ。
『柏原・内野・進上』VS『梅垣・中村・工藤』というチーム分けで二点先取。そこまでフィールドは広くなくルールは緩い。訓練を兼ねているものなのでオフサイドなどファールなどもなく、スキルで相手への直接攻撃をしたり地形を変えたりしなければ何でもOKという適当なルールだ。
ただプレイヤー達が本気でボールを蹴るとなると、普通のサッカーボールでは耐久がもたない。なので今回使うボールは…
「川崎さんから嫉妬の使徒を借りて来たぞ。そんでキーパーをしてもらう為にゴブリンも二匹連れて来た」
「ギャァ!」「ギャギャギャ!」
柏原が持ってきたのは、川崎が前回のクエストで『怠惰』で捕まえた嫉妬の使徒の核だった。大きさはサッカーボールと同じぐらいでちょうどよく、耐久力も使徒なので問題無い。
弾力は普通のサッカーボールと違うのであまり弾まず違和感はあるものの、これ以外にボール代わりになりそうなもののも無いのでこれをボールにする事にした。
そして審判を務めるのは、眩暈がまだ続いており自力で立ち上がれず座っている松野だった。
「…今から内野チームVS梅垣チームの試合を始めるぞ」
「おい!内野チームじゃなくて柏原にしろ!これは梅垣と俺の勝負なんだ!」
「うわぁ、眩暈が酷くなるから大声出すの辞めて…」
さっそく審判に野次を飛ばす柏原だったが、眩暈のせいで松野が手に持っていたボール(使徒)を落とす。
そしてそれを真っ先に蹴り拾ったのは中村だった。
「ちょっ、汚ねぇぞ!まだジャンケンで順番決めてないだろうが!」
「すまんすまん。俺が小学生の頃に友達とやってたサッカーは、審判がボールから手を放した瞬間がゲーム開始の合図だったからな、つい身体が動いちまった」
謝りはするものの中村は止まらずドリブルをし、サイドからゴールへと着々と近づく。そして工藤と梅垣も前に出て来ていた。
内野は中村の前へ立ち塞がり、進上と柏原は敵二人をマークしてパスコースを塞ぐ。
「それで塞いでるつもりか?
シュートコースががら空きだぞ」
「流石に俺を舐めすぎですよ中村さん。
俺の方が敏捷性が高いのでシュートしようと振りかぶったら確実に俺がボールを取れます」
「はは、試してみるか」
中村はそう言うと右足を振りかぶる。
内野は相手の足からボールが少し離れたこのタイミングで前へと詰め、ボールへ足を掛ける。
だが内野の足が触れる直前、ボールは何にも触れていないのに宙へ浮いた。
そして中村はその浮いたボールをヘディングし、内野の頭上を越えて飛ばす。
「あれは中村の『グラビティ』だな。
スキルの操作に長けている彼だから良い力加減でボールを浮かせ、上手く内野を越えた先にボールを落とせた」
審判をしている半分ダウン状態の松野の隣に、さっき訓練を終えて休憩に入った森田がぶつぶつと言いながらやってきた。
(『森田 明 』18歳
内野とは黒狼のクエストで初めて出会った。頭の回転が速く非情にもなれ、プレイヤーとしての適性がかなり高い者。
何に使うのかは分からないがプレイヤー間の関係をメモに示していたりしている。容姿は、背が高くメガネを付けている、そしてキリッとした鋭い目付きが特徴)
森田は突然解説をしながら現れたと思うと、そのまま解説を続けながら松野の横へと座る。
「これがスキル使用ありの特殊なルールのサッカーだというのを忘れていた内野は見事突破された訳だが…あの場において中村の突破を予想して既に動きだしている奴が一人いるな」
眩暈でテンションが低い松野は「何言ってんだこいつ」と思いながら森田を無視し、試合へと目を向ける。
森田の言う通りこの場で一人だけ中村の突破を予測していた者がいた。
それはこの場で彼と一番交流関係がある梅垣。梅垣は柏原にマークされていたが柏原よりも一歩先にボールが来るであろう場所へと駆け抜けていた。
「ッチ…馬鹿!普通のサッカーの型にハマるな!」
「す、すまん!」
柏原は内野へ愚痴を言いながらも梅垣を追い駆ける。敏捷性では梅垣の方が上だがドリブルしているので、速さは同程度。
なので柏原は梅垣の肩を掴むのに成功する。(ファール無しなのでこういうのもアリ)
梅垣は肩を掴まれると、ボールを斜め前方に高く蹴り上げた。このままでは確実にボールはラインを超えるであろう方角と強さである。
だが相手には『グラビティ』持ちの中村がおりボールに何をしてくるのか分からないので、進上は工藤のマークから離れてそのボールの落下地点へと向かう。
流石の梅垣の機動力でも追い付けず進上の方が先にボールに触れる距離なので、ここから反撃に切り返せると思われた。
だがここで、中村が『グラビティ』をボールに使える範囲にまで来たので、ボールにグラビティを使い軌道をセンターの方へと変える。
そして梅垣と柏原は、こちらに返って来るボールに向かい跳躍する。
まだ柏原は梅垣の肩を掴んではいたが、梅垣が空中で『ステップ』を使い身体を翻した事で柏原の手は振り払われ、空中のボールへ先に近づいたのは梅垣だった。
そして梅垣は身体が空中で逆さまになった状態のままシュートを撃った。
ゴール前にはゴブリンがキーパーとして構えてはいるものの、そのシュートには微かに触れる事しか出来ず、さっそく一点を相手に取られてしまった。
アニメや漫画でしか到底出来ないようなシュートをした梅垣は綺麗に着地すると、皆の方へと向き直る。
「今のも自分の足を正しく認識出来ていたから打てたシュートだ。ゴールとボールを見て、その視界の情報に自分の足を正しく合わせるんだ」
「すげぇな梅垣、サッカー選手にでもなってみたらどうだ?」
「私は何も出来なかったから、ほぼ二人だけのゴールね…」
梅垣のゴールに中村は喜び、何も出来なかった工藤はしょんぼりする。
そしてゴールを決められた柏原は顔を赤くして地団駄を踏む。
「やっぱあいつムカつく!スーパープレイからの澄ました顔の解説もムカつくし、主役感を取られたのもムカつく!てか『グラビティ』はもう禁止だろ!」
「まぁまぁ、窮地に立った後にそれを巻き返すのが一番カッコイイ勝ち方だと思うしそうムカムカしなくても…」
「そ、そうだな。そっちの方が圧倒的にカッコイイよな。
ヨシ!二人とも次はこっちから激しく攻めるぞ!」
内野は柏原のなだめ方を分かっていたので、直ぐに柏原の怒りを抑える事が出来た。
そして次は点を取られた内野チームの方がボールを所持して試合再開。
順調にドリブルをして柏原が前に出る。
すると梅垣が前に出て柏原をブロックに入る。
柏原は元サッカー部なのかドリブル捌きはこの中でも一番高い。だが梅垣相手には一人で切り抜けるのは厳しい。
「梅垣と柏原のサッカーでの能力は同程度と見ても、相手にはこのルールにおいてのチートみたいな『グラビティ』を使える中村がいる。だからこの戦い、中村をどう抑えるのかが勝敗を分けそうだ。
もしも中村を抑える事が出来れば、内野チームにも勝機は見えてくるはずだ」
外野でそんな事を言っている森田の声が聞こえてくる。
それを聞いた進上は中村をマークし、腕でブロックして一歩も中村を動けない様にした。
「うわぁ、あの外野の独り言のせいで徹底マークされた」
「僕はサッカーが苦手だしルールもあまり知らないからこれぐらいしか出来ないけど、貴方を抑えるだけでかなりの働きをした事になるみたいですね」
これで二人がお互い身動き取れない状態になり、ボール周りでは梅垣・工藤ペアVS内野・柏原ペアの勝負になる。
現在柏原がボールを持っているが、内野がマークしている工藤を振り切って前に出たので、柏原は内野へパスを出す。
内野が現在走っている場所からかなり前の方にボールは飛んだ。内野は一切ボールを見ずに前に進んでいるにも関わらず進んでいる方向は正しく、そこはボールの落下地点だった。
「内野…ボールを見てないのになんで落下地点が分かったんだ…」
「『第三者視点』でボールを見てるからだろうな。そして自分の目では中村と梅垣の動向を見ている。
あのスキルがある以上、内野の裏を取ってボールを盗むのは無理そうだ」
「お前なんでそんなにパッと人のスキルの名前を言えるんだ」
「全部メモしてあるんでな」
森田の言う通り、内野は『第三者視点』を使っていた。
前回のクエストまではこれの視点移動は黒狼に任せていたが、自分でも使えた方が良いのでスキルの練習として今これを活用している。
(よし!常に集中しとけば難なくこれを使える様にはなってる!
そして今、中村さんと梅垣さんのカバーは間に合わない距離。今ならシュートを撃てる!)
内野はボールを捕まえたと同時にシュートの形へと入る。
右足の『ブレードシューズ』に刃を生やして軸足を固定し、丁度いい角度にまで身体を動かす。
そして左足を振りかぶってボールを蹴る。
ただ内野の足がボールに当たる直後、工藤は氷柱を飛ばしてきており微かにボールがズレ、シュートの軌道は逸れる。
このままではゴールを外れてラインを出てしまい相手のボールから始まってしまう。
だがここで、梅垣と共に柏原がそのボールを追いかけていた。
梅垣はボールを取ろうとする柏原を防ごうとし、柏原はボールを取ってゴールを決めようと二人は競っている。
「どけぇ梅垣!」
柏原はこのままではボールに触れずボールが線から出てしまうと思い、『フルスイング』で大きなハンマーを思いっ切り前に振りかぶり、それで起きた風圧で目の前の梅垣を吹き飛ばす。
まさかハンマーの風圧で自分を飛ばしてくるなどと思ってもみなかった梅垣はその風圧を避ける事が出来ず前方に飛ばされ、空中でボールに当たる。
これでこのままボールが外に出たら、最後に触ったのが梅垣なので内野達からのボールで試合再開となる。それが柏原の狙いだった。
だが梅垣はボールが線から出る前に体勢を立て直し、空中で内野達のゴールの方へとボールを蹴る。
ボールが戻ってきた訳だが、柏原はそのボールの進路の先にいるので結果的にボールは内野達の手に渡る。
「ははっ!判断を間違えたな!そのままボールを外に出せば良かったものを!」
柏原は今度は足に『フルスイング』を使い強烈なシュートを放つつもりだ。
だがまたしてもボールはシュートの足に当たる直前に、工藤の氷柱によって動かされてボールの弾道がズレる。
「私自身は全然動けないけど、『アイス』でのブロックは超得意みたいね!
ディフェンスは私に任せなさい!」
「よくやった!」
「おお、スキルの操作技術やばっ!」
「あの氷女…厄介な事を!」
味方である梅垣と中村は工藤を褒め、シュートを邪魔された柏原はキレながらボールを拾いに向かう。
ちょうどそこで他の訓練をしていた者達も戻ってくる。
「なになに~超楽しそうなサッカーやってんじゃん。俺も混ぜてよ」
「わ、私もやってみたいです…参加して良いですか?」
参加したいと言い出したのは薫森と吉本で、そう言ってくる。
(『薫森 一紫』19歳
見た目はごく普通の青年。語尾を伸ばしたりする喋り方の癖があって一見ほんわかとした雰囲気のある者だが、本性はその雰囲気とは真逆。戦闘好きで人の命をなんとも思わない残虐さを持っている。
『シャドウウェポン』で地面や壁から槍や剣が生えるスキルを巧みに使い攻める。
『吉本 美海』14歳
基本的に普段はオドオドしている女子中学生。あまり大きな声を出したりするのが苦手で一見弱そうだが、実は怠惰グループ内で一目置かれておりかなり強い。彼女の目は軌道を読むのが得意で、飛び道具や遠距離攻撃などは先ず当たらない)
すると審判役の松野は、その二人に参加チームを指示する。
「じゃあ薫森が内野側、吉本ちゃんが梅垣側のチームね」
松野はプレイ中の6人に一切報告も無しに勝手に二人をゲームに入れる。
すると試合を見ていた他の者達も、次々と自分もやりたいと名乗りを上げてきた。
「お、俺もやってみたい!」
「私も参加して良いですか!?」
「楽しそうだから参加させて!」
新規プレイヤーから熟練プレイヤーまで様々な人が名乗りを上げる。そして松野は一切彼らを拒まずにチームを振り分けていった。
「お、おい!これは俺と梅垣の決闘なんだぞ!?」
「審判の俺がルールだ!眩暈でしんどい俺を審判にした自分を恨むんだなぁ!」
松野が全員を参加させたので気が付けば11対11にまでメンバーは増えており、本格的な試合が始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます