第239話 大罪の進むべき道

内野は白空間から戻ってきてから皆にロビーでの大橋について聞いた。

今まで彼がキャラを演じ続けていたなど知らず驚愕するも、皆と同じく今の彼を受け入れようと思った。


そして一般人から姿が見られない30分間の間にクエスト範囲外に出る為直ぐに動き出し、その日は各々帰宅した。


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クエスト範囲から魔物が消えた事によって軍隊は進行、救助へと動く。

二回目の魔物災害で前回のものから3週間程経過していたが、次に魔物災害が発生したらどう動くかはまだ決められておらず、結局今回も軍の動きは前回同様のものだった。

街中で使える兵器の火力では倒しきれない魔物がおり、そのせいでクエスト範囲深部への救助は進められずに魔物が消えるのを待つしかないというのにやきもきする者は多かった。

戦闘ヘリなども魔物に軽々と落とされてしまうので出す事は出来ず、魔物が居る間はクエスト深部の様子はドローンで確認する事ぐらいしか出来ない。

2回も魔物災害が発生したので対魔物用の隊や兵器の開発も行われるだろうが、今回の被害を直すのにもお金をかかる上に国中は大パニックの状態。

次のクエストまでに新兵器の開発を行うのは厳しく、次魔物災害が起こっても軍で被害を抑えるのは難しいと言わざるを得なかった。



魔物災害深部へ進行しているとある部隊の隊員は、軍が進行出来てないはずの深部にある大量の魔物の死体を発見した。


「まただ、また魔物の死体だ。

30…40体ぐらいの魔物同士がここで殺し合ったのか…」


「魔物同士で殺し合った…にしては死体が一か所にまとまりすぎていませんか?

15㎞×15㎞の範囲に均等に現れたのならば、もっとバラバラの所に死体があると思うのですが」


「ドローンの映像で魔物が固まって動いている所は確認済みだ。だがその映像では魔物は争っていなかったらしい…」


「じゃあその固まって動いてた魔物を蹂躙出来るぐらい強い魔物でもいたのでしょうか…うげ、この死体の魔物、銃効かなかった奴じゃないですか。

軍でも敵わなかった魔物を容易く殺せる魔物って一体…うう、考えるだけで恐ろしいですね」


下っ端の一人がそう言っていると、部隊の隊長が無線を繋げて全員に情報を送る。


「ここの映像を撮影していたドローンがあった。

どうやらこの魔物達を殺したのは透明な魔物らしい。カメラにも映っていないが、魔物達はその透明な奴を視認出来る様で戦闘していたという。

映像に映らない特殊な能力を持っているのかもしれないというのが今の上の見当だ」


「魔物には見えて人間には見えない相手って可能性もありそうですね」


「そうだな…もう普通の生物の常識で考えても無駄だからその可能性も考えられる。

まだ情報はまとめ切れていないみたいだが透明な存在が魔物を殺しているというのは、至る所で報告が上がっているみたいだ。

だからもしかするとその透明な存在は人類の味方なのかもしれない…」





この透明な存在はプレイヤーである。

一般人やカメラではプレイヤーの存在を視認出来ない。プレイヤーが出したスキルも、服も、武器も。しかもプレイヤーが魔物の返り血を浴びるとその血までも透明になる。

だが道にプレイヤーがいると、一般人は無意識にそれを避けたりするのだ。

見えていないはずなのに避けるというよく分からない状態である。


なので監視カメラの映像で透明な存在を避けて走っていた者に尋ねてみても、「何を避けたのか覚えていない」という答えのみだった。

だがこの透明な存在はこの二度目のクエスト以降、急速に世間に広まる事になる。


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内野が帰宅したのは21時頃で、日はとっくに出ておらず普段なら晩飯を食べ終え部屋でゴロゴロしている時間だ。


内野はあらかじめ両親や正樹に、「今日は松野と一緒に出掛けてくる」と言っていた。それもクエスト範囲から離れている所。

それに定期的に連絡もしており、交通機関が止まっているから帰るのが遅れるというのを言っておいた。なので二人にかける心配は少なくしてある。


内野が玄関を開け「ただいま」と言うと、二人は直ぐに駆けつけてくる。そして息子の顔を見ると二人ともホッとした顔になる。


「良かった…松野君も無事なんだよね?」

「道路が混んでなければ迎えに行けたのだが…」


「魔物が出た場所からは少し離れてたから大丈夫。てか道路めちゃくちゃ混んでたから車で来るのは絶対に無理だったし仕方ない。

電車も止まってるしタクシーにも乗れなかったからこうして歩いて帰ってきたわけだが…めっちゃ疲れた~」


「今日はステーキよ。疲れただろうし食べたら直ぐにシャワー浴びで寝なさい」


内野はここまで歩いて帰ってきたから疲れていると嘘をつく。

実際に8時間のクエストで疲労が貯まっていたのでそれが演技だというのは二人にはバレなかった。



内野は飯を食べた後はシャワーを浴び、自分の部屋でゴロゴロと寝転びながら今日の事を振り返る。


(黒幕の言う通り今回のクエストの結果は良かった。使徒を2体殺せ、ターゲットが死ななかった、クエストのルール的にプレイヤーの圧勝と言って良いだろう。

でも…犠牲は出た。クエストだから誰か死ぬのは当たり前だし、今後も出るだろう。でもやっぱり辛い…顔見知りの人が死ぬのは…)


訓練を経て更に味方ととの友好関係も広くなり深くもなり、より一層味方の死が辛くなる。そして今後も仲良くなった者達が死んでいくのだと思うと胸が痛くなる。


(これがまだまだ続くのか…自分でも自分のメンタルの事は考えて動かないとな)



その後、内野はベッドの上でスマホをいじってクエスト中にあった様々な情報を確認する。クエストの最中は戦闘中だったり、大橋を探すのに手いっぱいで確認出来なかった情報だ。


といっても、あるのはほとんど使徒の話だ。

前回と今回で3体使徒を討伐し、残る使徒は4体。

現在判明している残りの使徒は2体。強欲グループの魔物を引き寄せる能力を持つサボテンと、色欲グループの使徒である光の能力を使う鳥。

どうやら暴食グループはサボテンの使徒を殺しきれなかったみたいで、次のクエストでリベンジするという。


そしてここで問題なのが、残る二体の使徒だ。

先ず西園寺、平塚、川崎の3人が持つ使徒の方向を指すコンパスには、クエスト終了前に反応していた針が4つしかなかったという。

残る使徒が4匹で、反応している針は4つ。なんらおかしい事は無い様に思えるが、違う、その内の一つは内野が所有する『哀狼の指輪』の反応なのだ。


なので生存しているはずの使徒の数と針の数が合わないというのが第一の問題である。

黒幕も今回のクエストで死んだ使徒は2体と言っていたので、既に死んでいるという事はありえない。

そうなると、そもそもクエスト範囲にいない使徒がいるという事になる。


そして2つ目の問題はもう一方の使徒の事。針の反応はありクエスト範囲にはいるが、その使徒の情報を誰一人として持ってないというのが問題だ。

前回も今回も誰一人その使徒の情報を持っていないというのは奇妙な話だ。今回コンパスの針でその使徒の場所を確認してそこに『隠密』スキルを持つ者を何人かを送り込んだが、途中から連絡が途絶え、クエスト終了後に死亡したのが判明した。


これで使徒の情報が一切無いのは、そいつに遭遇した者が誰一人生還していないからという可能性が高くなり、その使徒はかなり危険だと川崎達は判断した。

なので次のクエストでは使徒の場所に向かうのは精鋭プレイヤー隊だけとし、無駄な犠牲が出ない様にするつもりだという。


ちなみに消去法でいくと残る二体の使徒は、怠惰グループの魂を乗り移れる使徒、もしくは暴食の大量の魔力を保持している使徒のどちらかである。



これらの情報を確認し、内野はその日は眠りについた。

心と体に貯まった疲労が大きく、ぐっすりと眠れた。


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日曜飛んで月曜日。

魔物災害があって世間は大パニックになり、学校は休校になった。

そして前回同様に魔物災害地へのボランティアが行われるというので、内野は松野と佐竹と共に被災地へと向かう。


今回も学校の市ごとに集合場所は異なるので、工藤とは一緒ではなかった。だが彼女も少しでも被災した者達を救う為にボランティアに参加しているという。


そして同じ学校の者で、内野はある者とも現地集合する予定でだったので、一旦松野と佐竹と離れてその者と合流しに行く。

どうしてわざわざ分かれるのかと言うと、その会いに行く相手がプレイヤーだからだ。

そしてその者とは一度直接二人で話さねばならないと思っていたので、松野に佐竹を見張ってもらい内野は一人でその者を探す。


そして見つけた。


「あ、内野君…じゃなくて内野さん。お久しぶり…ではないですよね、私には一昨日の記憶がないので違和感がありますけど」


それは前回のクエストで使徒に身体を乗っ取られて殺された『笹森 夕陽』。クエスト終了後に平塚が『蘇生石』を使った事で蘇ったのだ。


今周囲に人は居ないので、笹森は普通にクエストの話をする。


「使徒を2体も倒せたみたいだね!しかも片方は内野さん、もう片方は川崎さんの能力で呑み込めたとか…凄い!私は覚えてないけどよっぽど精鋭メンバーの皆凄かったんでしょ!

…私は使徒から一咲ちゃんを庇って死んじゃったんだってね。心臓を貫かれて一瞬で」


笹森は少し暗い顔をするも、死んだ記憶が無いのでその顔は絶望というよりかは困惑に近かった。自分の記憶が途切れているのがおかしく感じ、自分でも何を言っているのだろうという困惑の顔だ。


生き返った笹森にある記憶は5日前のロビーでの記憶まで。そして平塚達は笹森には本当の事は話しておらず、一咲を庇って即死したとしか言ってない。

本当の事など誰にも話せなかったのだ。


今の笹森は内野がしでかした事を知らない。あの死んだ笹森とは別人だ。

でも内野は謝らずにはいられなかった。

心が耐えきれず涙と共に謝罪の言葉が口から出てくる。


「ごめん…ごめん笹森…俺…」


「そんな悲しそうな顔しないでよ。私は正しい判断を下せて超有能ムーブ出来たんだよ?

きっと死ぬ直前まで自分の事を誇っていたよ~私が私を一番分かってるからね、絶対そうに決まってる!」


笹森にそう優しく声をかけられ、内野の頭の中には使徒に身体を乗っ取られた時の彼女の声が駆け巡る。


『ああもう…一咲なんか救わなきゃよかった、動かなきゃよかった、こんな目に遭うならあんな事しなければよかった!』

『何で私だけこんなに苦しんでるの!?なんでよ!なんで私がこんな怖い目に遭わないといけないのよぉぉぉぉぉぉぉ!』

『そんなの嫌よ!絶対に死にたくない!

死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!

私の代わりにお前が死ねぇぇぇぇぇぇぇ!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!』


そしてその頭の中を巡る声と同時に、笹森は更にやさしく声をかけてくる。


「だから泣かないで。私は精鋭グループの中でもかなり働きをしたって事ですし、悪い気はないから

ほら、ヨシヨシヨシヨシ……って、ごめんさい!

なんか弟に似てて手が勝手に…」


笹森は内野の頭を撫でていた。

泣いている内野の頭があまりにも弟に似ていて、つい泣いている弟を宥める様に撫でてしまった。


内野自身は自分が泣いている理由が分からなかった。

今の笹森とあの時の彼女の差異が怖いのか、また仲間を失うのが怖いのか、彼女に嘘を付いしまっているのに申し訳なく思い罪悪感を感じているからか。


ただ、内野は泣いていても胸の底には決意があった。

今抱いているこの感情にも揺さぶられない決意が。


(…これも…あの笹森が死ぬ前に感じていた恐怖に比べたら塵程度の大きさなんだろうな。

でもすまない、俺は進まなきゃならないんだ。大罪だから、誰よりも強くなってこのクエストを終わらせないといけないんだ。

だから…もしもまた誰かを切り捨てないといけない状況になったら俺は仲間を切り捨てる。

そうしなきゃ前に進めないのなら、俺は仲間を切り捨て、仲間の屍で道を作ってでも前に進む。

大丈夫…俺の心は大丈夫だ…だって俺には仲間がいるから。心の支えになってくれる人がいるから)


「…俺は皆が居る限りは前に進み続けられるから。だから安心して」


内野の泣いている顔を弟そっくりだと笹森は思っていたが、最後に見せた内野の目は、笹森が今まで見たことも無い様な力強く、まるで闇を宿したかの様な目であった。


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これにて3章の傲慢な罪人編は終了です!ここまで読んでいただきありがとうございます!

この章までで登場したキャラがメインキャラになるので、今後新しいキャラなどはあまり出ません。キャラの名前を覚えるのが苦手で「このキャラだれだっけ」となる方の為にちょくちょく思い出せる様な補足なども加えて執筆する予定です。特に章の初めの方は。


今のところエタる気配はありませんが、本格的に就職活動が始まってきたら投稿頻度は落ちるかもしれません。

ここまで約80万字もあるので、ここまで読んでくれた方は既にいいね、ブックマーク、レビューしてくれた方が多いと思いますが、もしもまだという方は是非評価などお願いします!

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