第238話 暴食の望み
(前話で入れ忘れていた川崎と暴食グループの話を入れました)
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クエスト終了1時間前。
川崎は柏原と原井と共に行動していた。
柏原は内野と同じ年の青年。精鋭メンバーにも選ばれるぐらいには強いが、直ぐに付け上がり自信過剰の言動をしてしまう残念な頭をしている者だ。そして梅垣に対抗心を、清水には憧れを抱いている。
「川崎さん!俺今日まだ一度も負傷してないんですよ!凄いっしょ!」
などと、普段彼を止める田村が居ないので今は非常にうるさい。
それとは対照的に、原井は物静かな女性。というか静か過ぎる。
今日の精鋭メンバーにも選ばれ共に行動しているが、今日一度も話している所を誰も見ていない。
二人とも強いのは確かだが、少し性格に何がある者達だ。
そんな二人を引き連れている川崎は、他のグループから『サボテンの使徒の元で戦闘を行っているのは暴食グループ』だという連絡を受け、今サボテンの使徒の元に向かっている最中だった。
サボテンの使徒は能力で魔物を操りプレイヤー達の元に大量の魔物を送りこんできて、その相手をしていたので川崎は到着に少し時間が掛かった。
現在サボテンは頂点辺りに花が咲いており、その花がレーダーの様にグルグルと回転している。
その間は針を飛ばせないのか、川崎達が接近しても一切針を飛ばしてこなかった。
なのでじっくりと周囲を見渡せるが、そこに他のプレイヤーの姿は無かった。
「もしや暴食プレイヤー全員あの魔物達に殺された?」
「可能性はあるが…報告だと40体の魔物を一人で蹴散らした奴もいたらしいし、その確率は低いだろう」
「ええ、全滅なんかしてないわよ」
無口の原井を除いた二人の会話に、後ろから一人の女性が割り込んでくる。
3人が振り返ると、そこに立っていたのは全身に白い鎧を纏っている者。あまりにも重装備なので声をかけられていなかったら女性だと分からないレベルのゴツさである。
川崎は警戒しながらも彼女に何者なのか尋ねる。
「あんた、暴食グループのプレイヤーか」
「グループもなにも『暴食』本人よ」
自身を暴食だと言う彼女は兜をインベントリに仕舞う。
すると兜の下から現れたのは『涼川 佳恵』の顔だった。整った綺麗な顔なので一度見たら忘れなどしない顔である。
涼川は兜を脱いだ後に顔を動かし前髪をなびかせる。
「悪いのだけれど、この使徒は暴食グループが頂くわ。だから貴方達は手を出さないでちょうだい」
あの白い空間の時などではもっと余裕があり声が高かったが、今は焦っているのか少し早口で素っぽい口調である。
一体何故暴食グループだけで使徒を討伐しようとしているのか尋ねる。
「何故暴食グループだけで対処しようとする。それに全グループでやりとり出来るグループチャットだってあるのに、何故そこで一切助けを求めなかった、情報を渡さなかった」
以前全グループが集合した時に作ったグループチャット、クエストの最中はあそこで色んな情報の公開が行われていた。
使徒の場所など、このサボテンの能力による魔物の大移動などもここで話し合われていた。
だが暴食グループはそこで一切これについての情報を提示していなかった。
「そんなの決まってるじゃない、ボスアイテムよ。ほら、強欲の子が憤怒の所の使徒を一人で倒した判定になって手に入れてたあれが欲しいのよ。
だからこの使徒は少人数で私達が倒すの」
涼川は川崎の質問にぶっきらぼうに返答すると、『フライ』で空を飛んでサボテンの上の方へと向かって行った。
そう言われて簡単に引き下がる訳もなく、川崎は飛べる魔物を闇から出して柏原と原井を乗せて涼川を追いかける。
「そこまで使徒のアイテムが重要か?とっとと使徒を倒して沢山魔物を倒しレベルとQPを上げる方が良くはないか?」
「私の『暴食』の能力上、そっちの方が絶対に良いのよ。だから私の為を思うのなら退いてちょうだい」
彼女の『暴食』の能力が分からないので何とも言えないが、嘘を付いている様には見えなかったのでここは彼女の言う通りにした。
大罪の戦力アップに繋がるのならばと。
「…分かった、それならこの使徒について教えてくれるのならここで退いてやる。ここに向かって来ている他の仲間にも退く様に指示を出そう」
「なら良いわ、私について来なさい」
上空200mのサボテンの頂上にまで到着し、サボテンの中央へと向かう。
するとサボテンの頭頂部中央には大きな穴があった。体育館が一個丸々入るぐらいの穴だ。
「高威力スキルで試しに攻撃してみたら穴が空いたの。他の部位とは違って再生が凄く遅くて、壊して数十分経過しても穴は塞がってない。
で、私達はここから使徒の内部に入れば使徒を殺せるんじゃないかと思って飛び込もうとしたら、ここから強風が吹いてきて皆飛ばされた」
「使徒はここに入られるとマズイと考えて抵抗をしてきた…と考えるのが自然だな」
「ええ。きっと中に急所があるはず。
だから仲間が一人でも戻って来たら私はこの穴の中に入って使徒を倒す。情報をバラ撒くのは止めないけど、この使徒を倒すのは暴食グループだっていうのは伝えておいてね」
「もう時間が少ないし、倒すのは厳しいと思うが…
まさか次のクエストでもサボテンの使徒は自分達に譲れとでも言うつもりか?」
「ええ、そうよ。
貴方たち強欲、怠惰、憤怒、色欲の4グループは次のクエストでも他の使徒を倒すつもりでしょ。
だったら他の使徒は譲るからこの使徒だけはちょうだい。一匹ぐらいいいでしょ?」
涼川は川崎にそう頼む時、鎧を全てインベントリに仕舞って薄着になって川崎に近づく。魅惑の美しいボディを見せつけ川崎を説得するつもりだ。
だが川崎は涼川が触れてくる前に涼川の頼みを受け入れる。
「まぁ…別に俺達は構わない。だが『嫉妬』と『傲慢』グループがどう動くかは知らないぞ。
特に傲慢の椎名は他の者と協力しようなんて思ってないみたいだからな、横取りされるかもしれないと警戒はしておけ」
涼川のその提案を聞き、川崎は受け入れる事にした。
涼川は思いの外普通に使徒を譲ってもらえて少し驚きを顔に出し、その後小さく微笑む。
「ご忠告どうも。身なりは30点だけど意外と優男なのね。私の経験上貴方みたいに身なりを気にしない男性は捻くれ者が多いから少し意外だわ」
「捻くれ者…ね。それじゃああんたのその経験則は間違ってないな。
原井、柏原、俺達はここを引くぞ」
こうして川崎はサボテンの使徒を涼川に渡した。ただそれは涼川の好意を買う為の判断ではなく、今後効率よく使徒を倒す事を第一に考えての合理的判断だった。
西園寺の使徒の位置を指し示すコンパスが無くても、サボテンの使徒は目立つので誰でも見つけられる。ならばこのサボテンの使徒は他のグループに任せ、自分達は他の使徒を倒しに向かった方が良いと考えたからだ。
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