第236話 深まる友情
40体も迫っていた魔物を、男はほぼたった一人で蹴散らした。
特に目立って強力なスキルなど使ってないのに、男は清水や梅垣に匹敵、もしくはそれを上回る動きで魔物達を蹂躙した。しかも片手に持つポータブルスピーカーに一つも傷を付けず。
最初は彼の事を諦め逃げようとしていた一同だったが、今は全員が目を見開いて彼の事を見ていた。
「な、なんだあの人…」
「明らかに変人なのに…動きが私達とは桁違いすぎますね…」
「ありゃ俺らじゃ相手にならんな」
怠惰メンバーも素直に負けを認めるほどの動きであった。
男は魔物を一掃すると近くの店にあった大きな鞄を盗み、それの外ポッケにスピーカーを入れ、またしてもサボテンの元に向かおうとする。
一同は話を聞くために彼の肩を抑え質問しようとするも、男はそれを避ける。
「すまないがサボテンの元に涼川さんを置いて来てしまっている所なんだ、俺は先を急ぐ。
上から見る限り魔物はプレイヤーのいる個所に集まってきているみたいだし、君達は他のプレイヤーを助けに向かうと言い。きっと困っているはずだ。
じゃ、さらば」
『涼川』という『暴食』を持つ名を持つ彼女の名前を出したので彼が暴食グループのプレイヤーだというのが分かるが、彼は言いたい事を言い切ると直ぐに『ロケットダッシュ』で一直線に道路を爆速で駆け抜けていった。
一同は彼の登場で危機を脱したもののあまりにも急な展開にポカーンとした顔で立ち尽くしていた。
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内野と進上の元に田村からこんな連絡が届いた。
〔サボテンの元に向かっていた使徒が、突然動きを変えた。今は大量の魔物が能力の範囲内にいるプレイヤーの元へ集まっている。まるで周囲にいるプレイヤーの場所が的確に分かっているかのように。
私も二人の元に向かっていますが、各々で無理だと判断したら即『帰還石』を使用するように〕
内野と進上もサボテンの範囲内にいるので、魔物が迫ってきている可能性があった。
さっき別れた田村達と合流できれば良いが、連絡を見た次の瞬間には大量の魔物が動いている音が遠くから聞こえて来たので、その余裕は無さそうだと二人は察する。
「…二人でやるしかなさそうですね」
「そういえば内野君と二人で戦うのはこれが初めてじゃない?
フレイムリザードの時は大橋さんがいたから3人だったけど」
今ここには居ない大橋の事を思い出す。
あの時は彼がタンク役として活躍してくれたからフレイムリザードに3人で勝てた。
2ターン目に入ってからは強い人に囲まれていたので、今思えばあの時が一番
やっぱり大橋さんにはここでリタイアして欲しくない、また一緒に戦いたい。
だから…彼の事を見つけて殺さないと…
内野は左手に黒曜の剣、胴に『恐れ無き虫の鎧』を装備している。魔力水と自動回復のお陰でMPも300まで回復して戦える状態になっている。
そして魔物が向かって来ている方向を見る。
「いきますよ進上さん。あの時みたいに大橋さんが攻撃を受け止めてくれないのでかなり危険ですけど」
「だね。でもあの時とは違って君には黒狼もいるし、やれるところまではやってみよう」
「…ですね」
黒狼は内野のスキルを勝手に使ったりするも、利敵行為などはしない。全て内野の身を守る為に能力を使う。なので内野の中ではもう立派な味方としてみなしていた。
(あの新島が家に来た時から一切喋らなくなったけど、味方って事で良いんだよな。信じてるからな)
内野が横目で哀狼の指輪を見ていると、遂に曲がり角を曲がってきた魔物や、建物を飛び越えてきた魔物が姿を現す。
大きさも種族も違う魔物が結託し、こちらに向かってきている。
そして二人はその魔物達を倒す為、自分達からそこへ飛び込んでいった。
内野は広範囲殲滅に使える『火炎放射』を使い先頭にいるの魔物達を焼き尽くした。
全ての使徒の討伐に関わっているので内野のレベルは80を超えている、しかも『強欲』のお陰で今の内野は全ステータス300越え。
通常のレベル80の段階では、全SPを均等にステータスを振っていかなに限りこのステータスは決して再現できないものだ。
そして相手の魔物の中にはレベル80相当の相手もいるだろうが、それらの相手も内野のステータスには敵わない。内野は防御力も均等に上がっているので全ての攻撃を避けねばならないわけでもなくかなり動きやすく、ステータスの低い魔物の攻撃は一切受け付けない。
今この場において、総合ステータストップは間違いなく内野だった。
そんな内野が放つMP90消費する『火炎放射』をまともに喰らった敵は、もがき苦しみバタバタと倒れたり、ステータスが低い相手は灰になっていく。
一発のスキルで6体魔物を殺し戦局を変える内野の姿は、もはや川崎や平塚の様に大罪らしいものであった。
進上もそれに負けじと前に出る。
『フレイムチャージ』という炎系統の技の威力を高められるスキルを使った後に『炎斬一閃』で大きな炎を纏い、魔物を切り殺していく。
進上のステータスは物理攻撃386、魔法力93と、あまり炎でのダメージは期待できず致命傷を与えているのは普通の刃部分だが、炎で相手の視界を塞げるという利点があるのでこのスキルを使用する。
炎を使い前面にいた魔物を容赦なく蹴散らす二人、その二人の姿は魔物達から見たら酷似していた。
二人は傷つきながらも魔物を倒していき、30分以上戦い続けて遂に残った魔物は一匹のみになった。
辺りには魔物の死体が散乱しており、赤黒い血が道路を覆い、血の匂いが辺りを包む。
二人の身体は動けない程では無いが既にボロボロ。切り傷の数は数え切れず衣服もほとんど破れている状態だ。
だが死ぬレベルの傷ではないので『帰還石』で逃げたりはせず、残った一匹の魔物の前に二人は立つ。
最後に待ち構える相手らしく巨体で強敵だと思われる魔物。
頭部だけでトラック程の大きさで、全長30m以上ある黄色のワニ。身体にある筋からは微かに光を放っており、二人が近づくとその筋から炎が噴出して自身の身を守る。
だが内野は迷わず相手に飛び込んだ。
何せ内野には『火炎耐性』があり、炎のダメージが軽減されるからだ。
魔物はまさか相手が普通に近づいて来るとは思っていなかったので反応が遅れ、その隙に内野はワニに飛び乗った。
そして黒曜の剣で鱗を突き刺すも、相手は防御力特化なのか鱗を貫通出来ない。
内野と同じぐらいの物理攻撃力を持つ進上も攻撃してみるが、同じ様に鱗は弾かれる。
物理攻撃は通らないと分かったが、今の二人には魔力はあまり残されていなかった。内野が新しく手に入れた『マジックショット』なら簡単に突破できるかもしれないが、その為にはMP200必要。
そこまで魔力水で回復するのも良いが、内野はここで一つ魔物を倒す手段を思いついた
「ちょうどいい、コイツに使ってみるか」
取り出したのは『哀狼の雷牙』。
この武器は黒狼を討伐した時にショップに並んだもので、説明欄には『自動で魔力が貯まり、本人のMP消費無しで雷を放つ事が出来る』とあった。
今までは中々使う機会が無かったが、今はMPが尽きている状況なのでちょうど良かった。
内野は暴れる魔物の鱗にしがみつきながらも片手に『哀狼の雷牙』の刃を当てる。そしてこの武器の能力を発動させてみた。
頭の中で能力発動と念じた瞬間、刃が一瞬帯電したかと思うと雷を一気に前方向に放出した。
まるですぐ傍に雷が落ちたのかと思う様な音と振動で、これを使った内野自身も驚く。
それは黒狼が最後のクエストで皆を追い詰めるのに使っていた力に似ており、それを至近距離で喰らった魔物は真っ黒こげになってそれ以上動く事はなかった。
雷の轟音の後は静寂が訪れる。
「これで終わりか?」と進上と目を見合わせ、魔物の残っていないのを確認すると、二人は深く息を吐きながらその場で地面に倒れる。
二人で30匹以上もの魔物を見事倒しきり、達成感を噛みしめながら二人は軽く拳を合わせる。
「中々厳しい戦いだったけど…やったね!」
「ええ…もう限界で身体が悲鳴を上げてますけど、やりきりましたね…」
「ははは…僕ももう身体動かすのがキツイよ…」
疲労した二人は並んで地面に横になっている。
しばらく達成感の余韻に浸っていたい気分だったが、内野はそこで仲間の無事を確認する為、あらかじめ倒壊した建物の瓦礫の影に避難させておいたスマホを取り出す。
二人共戦闘中に適当にスマホを避難させておいたが、進上のスマホは魔物の死体に潰されてしまっていたので、内野のスマホで連絡の確認をする。
どうやら他のメンバー(新島、工藤、松野、泉、田村、高宮)は再び合流出来たので、今こっちに向かって来ているという。
現在地のGPSを田村に送っておき、二人は皆が来るのを進上と共に地面に横になって待つ。
すると進上が口を開く。
「…ねぇ、もう敬語とか使わなくていいんじゃない?
さん付けして呼ぶのもやめちゃお、普通に進上って呼び捨てにして良いよ」
「で、でも年上ですし…」
「戦闘中に僕に何か言うときもわざわざそう呼ぶのも面倒だしさ、これからはこっちの方が良いと思うんだ」
「そうですかね…じゃ、じゃあそうします?」
「うんうん、そうしよう!僕も内野…いや、勇太って呼んだ方が良いのかな?」
「どちらでも良いでs…どちらでも大丈夫。呼びやすい方で呼んで」
一時は進上のとんでもないカミングアウトで迷ったが、この戦闘で再び進上との距離が縮まった。
血まみれの状態で笑顔で倒れている二人、異常な光景だがその二人の姿を見ている者は誰一人居ない。
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