第233話 束の間の休息

20分ぐらい内野は3人と共に一緒に食事を取った。

スーパーから取ってきた高級の刺身を堪能し、その後は色んなデザートを口にする。工藤のアイスの味のチョイスは相変わらず酷いものだったが、そんな些細なこと事でも笑えるぐらい内野の心は回復した。


「皆…俺の為にありがとう。

でももう大丈夫、自分に向き合う決心は付いたから」


内野がほんのりと笑みを浮かべられる様になり3人は安堵する。

工藤も胸にあった不安が少し薄れていた。


「前も話したけど、俺があんな感じになるのは初めてじゃない。

黒狼に襲われた時だとかも同じ様な事が起きて、あらゆる感情が消えて頭の中が鮮明になって…まるで別の脳が動きだしたみたいな感覚になったんだ」


「それって元リーダーの中村さんも経験があるんだっけ?」


「うん。自身が感情を感じる間も無く高速で思考するってやつ。

でも中村さんは全て自分の意思でやってるみたいで、俺は完全に無意識でやってる。違いはそこで、俺はどういう時にそれが発動するのか分からない。

ピンチに瀕して恐怖を感じた時に起こるのかと思ってたけど、今回発動した場面は全然そんな事なかったから違うっぽいし…」


そこで進上がご飯を頬張りながら質問をする。


「それが発生する時、内野君は何を考えていたの?」


「今回は、笹森を見てると胸の痛みが大きくなって、これ以上それを見たくないって思った」


「いつもみたいに恐怖の感情は?」


「多少はあったけど、そこまで大きくなかったはず。とにかく仲間があんな目にあってて胸が痛かったから…」


「それでは感情の大きさがトリガーになるのでは?」


4人で話合っていると、田村が入室しながらそう声を挟む。

田村は内野の顔が優れているのを見てホッとしてか肩の力を抜き、余っている椅子に座る。


「どうやら元気が出たみたいですね。外では時々ヘリの音や銃撃音はしますが、もはやそんな中でも食事を出来る程度には皆さん慣れましたか。」


「お陰様でゆっくり出来ました」

「無理言ってこんな場を作ってくれてありがとうございます」


「メンタルケアは欠してはなりませんからね、むしろこの程度で済むなら安いものですよ。

それより君に起きるその現象について話しましょうか。大橋さんの捜索などは皆に任せてね」


今は進上が元々いたグループがこっちに向かって来ているので、彼らが来るまではここでのんびり待機する事になった。

ちなみにこの建物にいるのはこの内野ら4人と、田村のみである。

内野の心を気遣ってか田村はいつもより口調が優しい。


「私は君のその力に可能性を感じました。心の逃げ道となる可能性をね」


「…確かに戦闘中は良いかもしれませんが…戦闘後は今みたいに皆に慰めてもらわらないと、戦闘中の自分の行いを受け止められないんですよ。

だからこれを使っても心の負担が戦闘後の自分に回るだけです」


「それで良いじゃないですか。他の者らに支えられる前提の心の逃げ道で十分だと思いますよ。

今貴方の周囲にいる3人は、全員蘇生石でいくらでも生き返る事が可能。決して消えない心の支えになり得るんですよ。君は好きな様に彼らを使えばいい、川崎さんみたいに少し我が儘になっても良いんです」


「川崎さんが我が儘…?そんな一面があるんですか?」


内野の力の話からは逸れるも、田村は快くその問いに答える。


「『怠惰』で捕りたい魔物の為に仲間を無理に引き連れたり、スキル検証の為に遠方に住んでいる仲間をこっちに来させたり…幾らでも思いつきます。

あっ…始めて強欲と怠惰グループで会った時、貴方に選択肢を選ばせたのも彼の我が儘ですよ。私は反対でしたし。

ただ…そんな純粋な一面があったからこそ私は彼の傍にいるんですけどね、そんな一面が好きなんですよ、息子に似てて」


一同は「結婚してたの!?」と声を揃えて言いたくなるところだったが、真面目な話の雰囲気なので声に出して驚くのは控える。

ただ、田村は皆が以外そうな顔をしていたのを見てこれを察する。

元の話から逸れすぎてしまうというのは分かっていたが、田村自身もこの話をしても良いなと思ったので、勝手に話始める。


「既に離婚しているのですが、ちょうど内野君と同じ年の息子がいます。

昔から好奇心旺盛な子で色々手が掛かりましたが、頭が良く私の自慢で大切な息子です。

…あの子の成長を見守る為に今、私は生きています。それだけが生き甲斐です。

だからクエスト失敗で世界崩壊…なんて結末にはさせない、あの子が育つこの世界を守ってみせる。それが私のクエストに対する思いであり、心の逃げ道でもあります。

…皆さん揃って驚いた顔してますね」


「ちょっと…子の為に戦う親ってイメージが田村さんに無くてですね…」


内野の言葉に他の3人も頷く。

だがこれで一同は田村に対するイメージが変わった。彼がプレイヤーの勝利を目指す理由が家族のためなのだと思うだけで、彼の厳しい言動が全て他の方向から見える様になった気がした。


田村はメガネの位置を指で軽く直し、一拍置いてから話を戻す。


「で、君の力についての話に戻りましょうか。

勝手な予想ですが、君にその現象が起きるのは大きな負の感情が発生した時なのかもしれません。

中村さんと違い無意識に起こるのなら、それは一種の防衛機制だと考えられます。大きな負の感情を消す為のね」


「ああ…それなら今回のやつの説明は着きますね。でも…負の感情っていうのに何が入るのか気になりますね。

怒りや悲しみとかも消えちゃうんでしょうか」


「今回起きたのは悲しみの分類に入る感情かもしれないので、可能性としては高いですね。

魔物に対して激情しても直ぐに冷静な状態に戻ったりするかもしれません。

…怒りに身を任せて行動しなくなるというのは利点ではありますが、怒りのままに暴れられないのもストレスになりうるので一概に良い力だとは言えないですね。

ただ、いずれそれを制御できる様になれば、きっとそれは君の最強の武器になると思います。『強欲』に並ぶ程のね」


内野だけはなく、他の3人もそうであって欲しいと願った。

進上は少し捻くれた考えを持っているものの、仲間を大切に思っているのは確かなので、純粋にそうであって欲しいと思う。


工藤はあの状態の内野に恐怖を感じてはいるが、それが彼の心の逃げ道であるのならば否定はしたくないと思う。


新島はこの力が彼の為になるモノならば、喜んで自分もそれの習得に協力しようと思う。


そして内野は、自分の為にも、仲間の為にもこの力を操れる様になりたいと思った。


__________________

西園寺は大橋捜索も兼ねてレベル上げの為に灰原、双子を連れて4人で行動していた。

もう今日は使徒を倒すつもりはないのでこれ以降は完全に自由行動である。


灰原は今回のターゲットであり、今日の戦闘にはあまり積極的に参加していなかった大柄の中年男。

そんな灰原に、双子の姉の方である小町片栗は一つ尋ねる。


「ねぇ、ね。なんで今日灰原こんなに無口なの?」


「そういえば僕も気になってた、なんか今日やけに静かじゃない?」


周囲にいるのが3人だけだからか西園寺は完全に気が抜けきっており、皆と行動していた時よりも砕けた雰囲気で灰原にそう尋ねる。

すると灰原は「なんで貴方がそれを知らないの?」というような驚いた顔をする。


「西園寺さんが皆の前では出来るだけ黙っとけって言ったんじゃないですか」


「え、はっ!?言ってないって、僕がいつそんな指示を出した?」


「3週間ぐらい前の、全てのグループで集まる時に「他グループのプレイヤーがいる時は出来るだけ口を開くな」って西園寺さんが…」


「ちょ待てよ、お前あの命令を今日も律儀に守ってたの?3週間前だよ?

なんだよ完全にただの馬鹿じゃん…」


灰原の馬鹿さ加減に呆れて頭を抱えるも、灰原は


「ところで、あの強欲の者についてですが…以前言っていた彼の評価を改める必要がありそうですね」


「ああ、あれで彼を見る目がかなり変わったよ。どうやら彼も立派なプレイヤーみたい、仲間として心強いよ。ま、もう後輩感覚で君呼びは無理そうだけど」


西園寺は大罪として新参者である彼にもしっかり適性があったと分かり、安心していた。

ただ訓練時などではあんな一面を見たことが無かったので、もう少し彼について知っていく必要があると思い西園寺は今後もちょくちょく訓練に顔を出して交流を深める事にした。


ところでもう一人、さっきから一言も発していない者がいた。

それは双子の弟の方である小町希望のぞみだ。

それを不思議に思い、姉の片栗が弟の頬をつねる。


「どうしたの希望?さっきからずっと黙ってるけど…」


「な、なんか…あのお姉ちゃんの事を考えると胸がポカポカして……他の事がどうでも良くなってきちゃった…」


希望は負傷し動けなかった所を吉本に助けられて以降、彼女の事ばかり考えていた。

激しい弾幕の中を走り助けてくれた相手に恋したのだ。9歳が14歳相手に。


それを聞いて西園寺と灰原は一度ポカーンとした顔になるが、西園寺は振り返って希望の頭を撫でる。


「その年にして恋か……ま、それなら今度怠惰グループの訓練場に行く時は連れてってやる」


「ほんと!?」

「わ、私も行きたい!あのお姉ちゃんにお礼を言うの!」


「分かった分かった、二人とも連れて行ってやるよ」


周囲が濃い血の匂いに包まれ建物が倒壊していたり死体が散乱していたりしなければ、きっとただの幸せな光景に見えただろう。


だが、西園寺の中には確かに野望があった。闇の様に暗い野望が。


(覚醒者の広報は順調に行ってるみたいだ、良かった良かった。このまま順調にステージが整えば、僕の野望も叶いそうだ。

絶対的な人類の希望、世界中の者が英雄として崇める様な光、それに僕はなってみせる。その為に毎日努力し続けてきたんだ。

この野望だけは絶対に叶えて見せる、これがが誓った復讐なのだから)

____________________

3章は今月中に終える予定です。

3章は展開の進みだとかよりも新しいキャラを出すのが目的の章で、まだ他グループのプレイヤーは現れますが、もう残り数人です。それにやっぱりメインは強欲、怠惰グループのキャラなので、新しく出たキャラはそこまで名前を覚える必要はありません。(久々に出るキャラは、出来るだけ何処で登場したキャラだったのか書くようにしますし)


それとこれ以降は少し駆け足気味になります。

まだクエストは2ターン目の2回目で、この調子で続けたらあと何年掛かるか分かったもんじゃないですからね。


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