第225話 追尾弾
使徒にEMP爆弾を当てる、これが使徒討伐の活路になると考え一同はそれを当てる為に使徒の動きを止める方向へとシフトした。
『傲慢』の椎名は遠くから西園寺達を見ており、手を出してくる様子は無い。
協力してくれないと考えるか、邪魔されないと考えるかによって、これが良いか悪いかという印象は変わってくるだろう。
西園寺が手に持っているのは、拳銃の様な小さな銃でEMP爆弾を射撃し飛ばすもので、これは西園寺自作の一品だ。
自分で設計図を作り、それを暗記していたから今一瞬でここで生成する事が出来た。
彼は自分の『色欲』の能力を最大限に活かす為の努力を一切怠っていないかった。
自分の持つスキルと組み合わせ強力になる武器の設計、このEMP爆弾の様に単体で役に立つものの設計、他にも偵察に使えるドローンだったりと色々あるが、それらを作る為にも科学の知識を蓄えていた。
なのでアイドルとして活動しながら、プレイヤーとして訓練し、勉強をするというハードスケジュールを毎日熟している。
以前7グループ集まった時など彼が日頃からスターっぽくなる度にポーズの練習をしてたり、休憩時間にダンスの練習をしているのは、隙間時間に少しでもアイドルとしての練習をしておくためだ。
〔前回こいつに遭遇してこれが効くか早めに試したかったから急ピッチで設計図を作ったものだけど…まさか今日こんなに活躍するとはね。でも完成品じゃないから性能はかなり低いし使い勝手も悪い。惜しいな、もう少し設計に時間を使えていたら楽ちんだったろうに〕
西園寺は皆の為にこれの性能を説明しようとするも、使徒はそんな時間を与えまいと再び接近してくるのでそれから離れながら説明を行う。
「射程は30mが限界で、着弾したら即起爆。今作れた弾は5個で爆発範囲は半径5m程度ね。皆の持ってるスマホとかもぶっ壊れちゃうから気を付けて!データのバックアップ取ってないならスマホを避難しといてね」
「使徒との戦闘中なのにいらん捕捉する余裕があるとは…アイドルさんは随分余裕そうだな!」
西園寺に向かう使徒を止めながら柏原はそんな事を言う。
そして柏原の攻撃を上方向に避けて西園寺に向かう使徒の前に、飛び上がった笹森と高遠が現れる。
高遠は長い腕で長い槍の端を持ちそれを振るうので、リーチはとてつもなく長い。
端を持っては当ててもまともにダメージは入らないが、スラスターで宙を浮かべる使徒に当てるにはこれが最適だった。
だが使徒はスラスターを切り返した事で僅かに軌道を変えそれを避け、ガトリング砲を前に向ける。
「高遠さん!足場お願い!」
「りょ」
高遠はそのまま振りきった槍を笹森の足元に向ける。そして笹森はその槍の持ち手を足場にし、使徒へ飛び掛かった。
この時ハンマーを前に出し盾代わりにしていたお陰で相手のガトリングは耐えたが、ハンマーが壊れてしまったので笹森は『サンダーランス』で雷の槍を出してそれを投げつけた。
使徒はまたしても攻撃を躱すも、プレイヤーの攻撃は止まらない。
その後も大罪、防衛対象のプレイヤー以外が使徒の動きを止める為に使徒へ攻撃を仕掛け続けた。
西園寺は使徒から適度な距離を保ちながらEMP爆弾を2発撃つも、命中精度、弾速が低く当てるのは至難の業だった。
それは傍から見ている内野からも分かった。
あの動きをする相手に当てるのはかなり辛そうだ…西園寺はもう一つあれを作ろうとしているが、時間が必要みたいでまだ一個しかないし、弾を作るのも時間が必要みたいだ。
皆が止めようとしているけども相手は常に西園寺を追い駆けているし、もう一個作るのはきつそうだ。
でも数人で囲んで撃たないない限り使徒にEMPを当てるのは厳しい気が…
その時、内野の目に入ったのは皆が使徒を止めようとしている姿。
精鋭メンバーではないが工藤も『アイス』で氷柱を操作し使徒を追尾させていた。
工藤のスキルの操作技術は精鋭メンバーにも劣らず、氷柱はまるで生き物かと思ってしまう様ななめらかな軌道である。
その工藤の氷柱の追尾性能を見て、成功する確信は無いが内野はある事を閃いた。
っ!EMP弾を工藤の氷柱に付けられたら当てにくさという弱点が消えるんじゃないか!?
衣類で縛ったりするのに時間は必要だが、やってみる価値はある!
そう思い立った内野は西園寺に声を掛ける。
「西園寺!1つ弾を渡してくれ!」
「ッ!?どう使うかは知らないけどある程度の衝撃を加えたら爆発するからね!落とさないでよ」
西園寺は手元に残っている3つの弾の内の1つを内野に投げ渡してくる。
弾を一つ投げたのを見て、使徒はそれを空中で撃ち落とそうとガトリングを発射する。
内野はキャッチしようと動いている最中だったが間に合いそうもなく、このままでは弾を破壊されてしまいそうだった。
だがそこで、使徒の攻撃とEMP弾の間に一人の男が入り込んだ。
それは盾を構えて防御の姿勢を取っている木村で、スキルで出した大きな盾と手に持つ盾を二つ構えて使徒の攻撃からEMP弾を守る。
しかし木村のステータスでは防御していても攻撃を防ぎきれず、使徒の弾は木村の腹を貫通してしまった。だがEMP弾は無事だ。
「木村君!」
「僕の事より弾を…」
内野は木村の行動を無駄にしない為にも彼ではなくEMP弾をキャッチしに向かう。
そして弾が内野の手に渡ったのを見て、使徒は西園寺の方に向かいながらも内野に向けてガトリングを撃ってきた。
咄嗟に内野はゴーレムの腕でそれを防御するも耐えられず壊れてしまったので、内野の身体には二発の弾丸がそれぞれ足と肩に直撃した。
普通の弾ではなく魔力の弾で、衝撃で直撃した周囲の肉がぐちゃぐちゃになり動けなくなってしまった。
しかしそんな内野を薫森が素早く抱きかかえて回収してくれたので、そのまま使徒に蜂の巣にされるのは避けられた。
「何するつもりかは知らないけど、その怪我を放置したら数分で死ぬレベルだよ。取り敢えず二階堂の所に送るよ」
今は余裕が無いので薫森は普段の語尾を伸ばす喋り方ではなかったが、顔には笑みが浮かんでいた。相変わらず戦闘好きなのか変わらない。
薫森が二階堂の所に連れて行こうとすると、内野は工藤の方を指差す。
「いや、工藤の所に連れて行ってくれ!アイツもヒールを使えるし丁度良い!」
「ん、何するつもり?」
「工藤の氷柱にEMP弾をくっ付ける。成功するかは分からないけどな…」
「なるほど、これで完全追尾式EMP弾の完成って訳ね」
内野のその考えを聞いて薫森は納得すると、内野を抱えたまま工藤の方へ走り出した。
使徒は逃がさまいと片腕のガトリングを向けてくるが、他のメンバーがカバーしてくれたおかげで無事に工藤の元へと辿り付けた。
工藤もさっきの内野の声が聞こえたのか、既に氷柱を空中に留めて待機していてくれていた。
そして内野はヒールを掛けてもらいながら作戦を言う。
「工藤、これを氷柱に付けるぞ!それでも氷柱は操作出来るな!?」
「それは問題無いけど…その薫森の肩に乗ってるのは?」
工藤の言う通り薫森の肩を見ると、そこには手の平サイズの虫の魔物が乗っていた。
敵の魔物かと思い薫森が直ぐに短剣でその魔物を殺そうとするも、その虫の魔物の身体から闇が出現し、そこから塗本が現れたので寸前の所で剣を止める。
「川崎さんからの伝言、その虫に弾を渡して氷柱に張り付けろだってさ。これなら川崎さんの命令でタイミングを計って起爆出来るから、成功する確率は上がると思う」
「助かる!」
衝撃を与えねば爆破しないのでただ氷柱に付ける場合は使徒に氷柱を直撃させねばならなかった。
だが川崎が機転を利かせてくれたお陰で直撃させる必要がなくなり、遥かに成功する確率が上がった。
内野は直ぐに氷柱に虫を張り付けEMP弾も渡した。
背中のEMP弾は繭に包み固定し、氷柱には針と足を刺して固定する。準備は整った。
「今から氷柱の操作にガチで集中するから、私を守るのは任せたわ」
「ああ、俺が抱えて動くから氷柱の操作にだけ意識を向けててくれ」
内野は工藤を背負い攻撃を避けるのに集中し、工藤は常に敵の方を見て氷柱を操作する。
こうして二人は役割分担をし使徒へと挑む。
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