第222話 破壊神サボテン

クエストが開始してからまだ50分、次の使徒が現れる前に色欲グループの使徒を殺せて幸先はかなり良かった。

しかも普通に殺すのではなく、川崎が『怠惰』で吞み込んだので仲間に引き込めた。


ただ、川崎は使徒を出してみるも出てきたのは使徒の本体の球だけだった。


「やっぱり植物部分の身体は蘇らないか。こんな身体だからほとんどうごけないし、本当は内野君に呑み込ませるべきだったな」


「『怠惰』で出した魔物を『強欲』で呑み込んだりっていうのは?」


西園寺の提案に川崎は首を振る。訓練期間中に一度試してみたがそれは出来なかったのだ。

『強欲』の闇に触れた瞬間に魔物の身体は崩れて闇に変わり、川崎の元まで戻ってくるので『強欲』での吸収は出来なかった。


ただ川崎は動けない使徒の使い道は頭に浮かんでいるみたいで、そこまで残念がってはいなかった。


「使徒の高ステータスが詰まっている玉だ。俺の出した魔物らの身体なら振動だけで壊せていたし、案外使えるかもな」


川崎の手に持つ使徒の本体を柏原が触っていると色欲グループの双子も触りたいと言い始めたので、柏原は使徒を持ちながら腰を下ろして二人の手が届く様にする。


「ああ~超カチカチだな。川崎さん、これ投げて使うんですか?」

「ボウリングの玉だ!」

「針刺したら強そう~」


「そうだな。これを投げて相手の身体にめり込みさせてから、相手の身体内部に魔物を出して攻撃を加えたりするのが今ある案だ」


「あ、さっきのゴブリンとカジキの連携みたいに、闇で出した魔物の中に他の魔物を予め潜らせておくってやつですね」


内野がさっきの事を例に出して答えると、双子は身体を一瞬ビクつかせて直ぐに西園寺の足元へと逃げていった。

戦闘時は内野よりもよっぽど動けていてとても子供とは思えない二人だったが、怯える姿は年相応の幼さがあった。


「「闇怖い…」」


「二人とも大罪スキルの闇が嫌いなんですよ。ま、あの闇が好きな人なんていないでしょうけど、二人は特に闇にトラウマがあるみたいでしてね」


「トラウマ…?」


「二人の元両親からの虐待の話です。この話はクエストが終わって余裕がある時にでもします。それよりも、次の使徒が現れるまで10分もありませんし今のうちに憤怒グループか怠惰グループの未合流メンバーと合流しましょう」


内野の問いに簡潔に答え、西園寺は残りのメンバーとの合流を提案してきた。

川崎は平塚と田村に現在地の確認をする


「ふむ…2グループともまだ離れてるな。憤怒グループはそもそも転移場所がここからかなり離れていたし、田村と吉本は厄介な敵に遭遇して戦闘せざるを得ない状況。

10分じゃ合流は無理だし、次の使徒の場所が確認できるまではクエスト範囲中央に適当に向かおう」


こうして川崎の指示により、内野らは道中の魔物を倒しながら来た道を戻っていった。



向かっている間、内野は西園寺に聞きたい事があるので魔物が周囲にいないのを見計らって質問をする。


「ところで西園寺…君?」


「同じ年だから呼び捨てで良いよ。こっちももう内野って気安く呼ぶ様にするし」


「分かった。

西園寺、使徒の実の生成部分を破壊した狙撃ってどんなスキルなんだ?

どうやってあんな正確に狙った場所に当てれた?」


気になっていたのは、かなりの距離があるにも関わらず狙った通りの場所を狙撃したあのスキルだ。

あれだけ距離があって正確に狙えたとなると、目視で対象を視認して撃ったとは思えなかったのだ。


「ああ…あれは『色欲』『ストーン』、それと火薬の合わせ技だよ。

もう僕の中で仲間認定した君らには言うけど、『色欲』はただコピーするだけの能力じゃない。頭に浮かべたものを基本的に何でも作れるんだ。

それで僕は特殊なスナイパーライフル…というよりかは砲身を作った」


明かされた色欲の新たな能力に皆は驚くも、大罪スキルならそれぐらい出来てもおかしくないと納得の表情でもあった。


「その砲身は僕の腕に同化しているもので、通常の『ストーン』よりも遥かに早く貫通力のある岩の弾丸となる。

それは火薬のお陰というのもあるけど、一番大きいのは『ストーン』の発射ベクトルの調整を魔力じゃなくてスコープと腕でやるから、全集中力を押し出すパワーに込められる点だね」


「…?」


内野はいまいち話を理解出来ず首を傾げていると、ここで川崎からの簡単な解説が入る。


「工藤ちゃんの『アイス』と中村の『グラビティ』を想像すると分かり易いな。

工藤ちゃんは氷柱の操作に集中しており、そういう所で魔力を使ってるから貫通力だとか威力は下がるんだ。

中村は『グラビティ』の範囲を縮めて魔力を一か所に特化させる事で、ある一点だけに超強力な重力を張れる」


「ああ…それじゃあ西園寺の『ストーン』は弾道の修正に一切魔力を使わず、ただ前に早く発射するのにだけ特化しているから貫通力が高いって事ですか」


「ピンポーン!

つまり僕のスキルは色欲と合わせて効率を上げる事で更に強化されるんだよ。ショップに並んでる武器なんかと比べたらよっぽど強力な武器さ。

まぁ、頭に構造を正確に浮かべないといけないから10秒ぐらい時間が無いと出せないけどね」


さっきは川崎さんの『怠惰』の使い方にも驚いたが、西園寺の『色欲』の使い方の工夫もそれに匹敵するぐらい凄い。

俺の『強欲』なんかまだスキル使用の工夫だとかは無いが…二人みたいな事出来る様になれるかな。


内野は二人の工夫に尊敬の念を抱いていた。

二人の様になれる事を願って。




クエストが開始し1時間経過すると、西園寺の持っている羅針盤の針がある点を指し始めた。

そして憤怒グループの方の針の方向も聞いてみると、ある程度使徒のいる馬車が分かった。


「東京ドーム方面だな。そっちに向かう道中には田村もいるし、憤怒グループとも合流出来そうだ」


一同はそれを聞き、ようやく全員揃う事が出来ると思い気分はあかるくなっていた。

決して油断をしていたわけではないが、さっき使徒をこのメンバーだけで倒せたので、憤怒グループらとも合流出来たらもう一体使徒を倒すのは容易いと思っていたのだ。


実際ここにいる全てのメンバーは1ターン目に使徒を戦っていたので分かるが、全精鋭メンバーが合流出来たら使徒に負ける事は無いと考えていた。多少の被害はあるだろうが、死ぬのが大罪じゃなければ問題無いというのが彼らの認識でもあった。


一同がそんな事を思っていると、スマホで他の仲間と連絡を取っていた川崎の表情が険しくなっていく。

何か悪い知らせがあったのだと一同は察した。


「…使徒が現れた場所付近には覚醒者の3人がいて、今彼らに同行している仲間から連絡があって一つ判明した。

今現れた使徒の正体は…巨大なサボテンだ。

前回のクエストで周囲1キロメートルにある全ての建物を破壊し、人と魔物の見境なく破壊しつくしたあのサボテンだ」


「え、じゃあそこの近くにいる覚醒者達と仲間は…」


________________

12時50分、魔物が現れて1時間経過した所で東京ドームの上に大きなサボテンが現れた。

そのサボテンの高さは200mほどあり巨大で、サボテンに生えている無数の針の一本一本の大きさもかなりのものだった。電柱並みの太さはある。


周囲にはまだ生存して一般人らがおり、彼らはそのサボテンを見て絶望していた。


「あ…あれってっ…!」

「し、知ってるあれ…確かネットに上がってた…周囲の町を破壊したやつだ…」


このサボテンの存在感は凄まじく、魔物災害で一番注目されていた。

なのでこの魔物?が及ぼした街への影響も知れ渡っていた。針を無数に飛ばして半径1㎞以上の建物と生き物の全てを蹂躙したという破壊神の如き厄災を。


このサボテンを視認した二人と負傷者一人は先程現れた魔物を殺す事に成功していたので、本人らはまだあまり気が付いていないがレベルが上がっていた。


そして今は負傷者を背に運んで逃げている最中だった。


だが彼らが居る場所はサボテンからそこまで離れられておらず、確実に奴の攻撃の範囲内にいた。


そして二人の顔が絶望色に染まっている所に追い打ちをかける様に、サボテンの全ての針がピクピク動き出した。


「に、逃げろぉぉぉぉぉぉ!」

「地下だ!地下への階段を探せ!」


二人は負傷者を背負ったまま必死に逃げようとするも、その数秒後には針はサボテンから離れて全方位へと飛んでいた。



キンッ!


飛んで来た針が建物を破壊し周囲の建物が倒壊する。だが彼らの元には針は飛んでこなかったので二人と負傷者は無事で済んだ。

ただ、背後で金属音が数回していた。

その一体針が何に当たった音なのかと気になり自分らの身体の無事を確認した3人はゆっくりと振り返る。


すると、彼らの背中には3人の者らが立っていた。

その3人の者らはそれぞれ剣と盾だとかを持っており、彼らの足元にはサボテンの針が落ちていた。


「あぅ…腕がめちゃくちゃ痺れる…」

「やっばぁぁぁぁ…これだけ固まっても一本防ぐのがやっととか…あれ強すぎ!」


あの針を生身の人間3人で防げるとは思えず、彼らが針から自分らを守ってくれたのだという考えは直ぐには湧かなかった。

だが中央にいる男が持っている盾にはちょうどあの針程度の太さの凹みが出来ていた。


そして中央にいる男は3人の方へ振り向く。


「そこの方々…大丈夫ですか?」


「え、えっ…まさかあの針から俺達を…」


「ええ。なんとか防いでみせましたよ。

さ、話は後です。今はさっさとあのサボテンから離れて魔物が居ない所を目指しましょう」

〔彼らには見えてないが、プレイヤーの方々が盾を支えてくれたから防げただけだけど〕


加藤らによる覚醒者の勧誘は進んでいた。

そしてこの3人は自分らの命を救ってくれた彼らへの恩返しの為に、後に勧誘される『日本防衛覚醒者隊』に所属する事になる。


この組織の隊長は名目上では西園寺となるが、基本的に3人の中で唯一再生スキルがあると判明している加藤を兵長とし、その補佐となる帯広、西織が中心に動き勢力を拡大していく。


そして組織はこのクエスト以降大きな拡大を見せ、世間にもその名が広まり、日本人の希望の象徴となるのは近い未来の話だった。

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