第209話 復活の元リーダー
梅垣がどこに向かっているのかも分からず内野は着いて行った。
梅垣には電車に乗る前に「時間が掛かるかもしれないが良いか?」と言われたが、内容までは行ってくれなかった。だが何処に行くのか気になるし、そんな急ぎの用も無かったので内野は黙って着いて行く事にした。
数駅分電車に乗って移動し住宅街まで来ると、とあるアパートの前まで来た。アパートはかなり錆びれており、いつ倒壊してもおかしくない程老朽化している建物だった。
「ここは…?」
「行きで言っていたの電車で言っていた元リーダーが住んでいた場所。
今後クエストの規模が大きくなるという西園寺の話を聞いてあいつらを生き返らせる決意がついた。こんな地獄に引き戻して恨まれるかもしれないがな…」
梅垣がアパートの2階の一室を見つめていると、ちょうどその部屋の扉が開き一人の男が出てきた。
見た目20代後半の男で、コンビニに行くところなのか財布のみ手に持っている。
「あ…あいつだ」
梅垣はその者の姿を見ると小声でそう呟き、手に『蘇生石』を取り出した。
そして梅垣が心の中で生き返らせたい者の事を頭に浮かべると、蘇生石が割れて中から緑色の光が出る。
その緑色の光が男の中へと入っていくと、男は突然手に持った財布を落としその場で棒立ちになる。
何が起きたのか分からない様子で、周囲を見たり自分の服を見ながら「え…あれ…」と言い困惑していた。
蘇生石で生き返るとその者の記憶は〔ロビーに転移する直前の記憶〕→〔現在〕にまで飛ぶので、困惑するのも仕方がなかった。
梅垣は塀から体を出し、困惑する元リーダーに歩み寄る。
内野もその梅垣の後を着いて行った。
元リーダーは梅垣の顔を見ると動きを止め、ホッとした顔で直ぐに駆け寄ってくる。
「おー梅垣じゃねえか!嘘かと思うかもしれないが俺今スゲー体験したんだぜ!?
なんか記憶が飛んだみたいな感じで気が付いたら…」
「アンタは死んだんだ。そして今蘇生石で生き返った」
「…へ?」
喜々として記憶が飛んだ話をしようとする男の言葉を遮り、梅垣は事実を述べた。すると男は再び困惑を表情に出すが、直ぐに「あ…そういう事か」と事態を呑み込んだ。
すると男の目は鋭くなる。
怒っているのか悔しがっているのゾクッとかは分からないが、その目となった彼には何とも言えない圧力があり、内野はその気迫だけでゾクッと鳥肌が立った。
梅垣は怒られるたり恨まれるのを承知で来ているので、何を言われても良いという覚悟をしていた。
「…なるほど…で、俺はどんな風に死んだんだ?最後までカッコ良かったか?」
ただその覚悟に反し、男の口から出てきたのは恨みだとか怒りをぶつける様な言葉ではなかった。自分の死に際がどうだったか興味深々に聞いてくるという誰にも予想出来ないものだった。
それに男の目はさっきの通常の状態の目に戻り、今は笑顔だ。
「いやぁ~俺だけが死んだとなると、多分敵の攻撃から仲間を庇う為に身を乗り出したりして死んだんだろうな。じゃなきゃ俺が死ぬ訳ないし。
あ、てかそっちの子は…もしかして新規プレイヤー?
どうも、俺の名前は『中村 純一』だ、これからよろしく!」
「よろしくお願いします」
気さくに挨拶をしてきたので内野もそれに返答する。梅垣は明るい中村の顔を見て軽くホッと一息を付いた。
「…長くなるだろうが、これまでにあった事の全てを話そう」
「俺も気になるし是非話してくれ」
元リーダーの男は部屋に二人を招き、そこでこれまでに起きた話を聞く事になった。
大罪や王、それに2ターン目のクエストだとかいきなり話されたら混乱する様な話をしたが、中村はそれを一切疑う事なく話を呑み込んでくれた。
実際に魔物災害の記事だとかを見せたりしてクエストの仕様変更を証明出来たのが大きかっただろう。
「ほ~それで今後規模が大きくなるクエストに向け、俺を今日生き返らせる決断をしたと」
「ああ、生き返らせたらまたあんたに魔物と戦うのを強いる事になるから今まで避けてはいたが…」
「大丈夫大丈夫。死んでる間に俺の偽物に俺のフリをして過ごされるよりかは、魔物と戦う方が圧倒的に良い。
それにしても…部屋の散らかり具合とか、空き缶の潰し方とか、完全に俺そのものだな。こりゃあ偽物だと知ってる者が見ないと見抜けないわ」
中村は冷蔵庫にある酒をグビグビ飲みながらそう言う。
偽物が本物の記憶を持っているというのは新島から聞いていたが、改めてその恐ろしさを感じた。
そして話が一区切りつくと、梅垣は中村と内野の方を交互に見ながら別の話を始めた。
「あんたを生き返らせたのにはもう一つ理由がある。
それは内野君と似ている気がするからだ」
「俺とこの子が?」
「俺と中村さんが?」
二人がお互いを見合い、口を揃えて同時にそう言う。
見事に二人とも同じ言動をしたので二人はハッと驚き「確かに似てる!」と思うが、梅垣はそれを見て飽きれながら首を横に振る。
「そういう所が似てると言いたいわけじゃなくてだな。
俺が似てると思うのは、通常時とガチモード時の豹変具合だ。例えば…内野君はさっき見たと思うが、自分が死んだと分かった時の中村の顔はどうだった?
今とは全く違うだろ?」
「ええ、凄い豹変具合でしたね。少し怖いとも思ってしまいましたし…」
「ハハハハハ、おっちゃんの顔怖かったか!
…いや、約3ヶ月死んでたから30歳迎えてない計算になるし、まだおっちゃんじゃないか。29歳はまだお兄さんって感じがするよな」
下らない事に本気で悩んでいる中村を無視し、梅垣は内野の方を見て話す。
「正直俺は内野君にも同じ様な感覚を覚えた事がある。
光の使徒に襲われた時の事は覚えているな?
あの時、目が見にくいながらも俺は内野君を引っ張り使徒から離そうとしていたが、その時見えた君の顔は中村似ていた。
普段とは違う鋭い目付きで、顔に一切感情を見せずに魔物思考し、そして行動した。その姿が中村に重なってね…二人を合せたいとずっと思っていたんだ。
似た者同士気が合いそうだし、何か互いの成長に繋がるんじゃないかと思ってな」
あの時は…確か急に恐怖が消える現象があったんだよな。
これまでに何度かあったが、あれがさっき見た中村さんに似てたんだ…
二人は「ほ~」と声を出しながら再び互いの顔を見る。
「俺のあれは………感情を消す為に頭を動かしているって言うのか…?
上手く言葉に出来ないが、高速で頭を動かすと感情が無くなるんだ。小学生の頃からの癖でな、イジメだとかで嫌な事があるとそうやって逃げてたんだ。
恐怖も消せるしそれが結構戦闘中にも使えるんよな~」
「え、恐怖を消せるっ!?俺が無意識にでたやつもそうでした!」
中村が言っている事に心辺りがあったので、内野はつい机に身を乗り出して中村にそう言う。
すると中村は内野とは対照的に暗い表情になり肩を少し落とす。
「そんなものを習得してしまう程嫌な事があったのか…
プレイヤーに選ばれる者は日々の生活で劣等感だったり負の感情があったりする奴がほとんどだから、少なからず何かしらあると分かっていたが…相当辛い目に遭ってきたんだな」
「い、いや…正直ぼっちだっただけでそこまで辛い目には…」
「無理しなくて良い。常日頃からやり慣れてなきゃ無意識にあんな事出来る訳がないんだ」
中村にポンポンと優しく背中を叩かれ、酒のつまみに食べていた枝豆を渡される。
中村の同情してくれる気持ちはありがたかったが、本当にそこまで辛い目には遭ってこなかったので若干の申し訳なささもあった。
そして長々と色々話している内に中村は次第に酔いが酷くなり、遂には二人がまだ家にいるのに寝てしまった。
ただ酔いながらも人の話をしっかり聞くし、内野の心配もしていたので、良い人というのは今日の会話だけで分かった。
「中村さん、生き返らせて良かったですね」
「…ああ、君との相性も良さそうだし絶対に力になってくれるはずだ」
「それもありますけど、中村さんを生き返らせて話している内に梅垣さんの表情も明るくなった気がするんですよ。
今までずっと引っ掛かっていた重りが取れたような感じです」
「俺の顔が…?」
本当にそうだとは言いきれないが、少なくとも内野はそう思った。
梅垣も改めて今の自分と今朝までの自分の心を比較してみると、少しだけ今の方が心が軽く感じた。
ああ…今ようやく自分でも感じれた。
これは…今の俺の心は黒狼が死んだと分かった時よりも晴々しくなっているな。
かつての自分のミスが消せた訳でもないのに、黒狼に殺された者を全員生き返らせられた訳でもないのにこの解放感。
人の心の支えはやっぱり『蘇生石』だったのか…
中村の部屋から出る頃にはもう梅垣はいつも通りの顔に戻っていたが、内野のみ真正面から梅垣の笑みをこの一瞬だけ見る事が出来た。
…やっぱり笑ってる方がいいですよ。
その顔なら多分どんな女性でもイチコロです……う、自分と比べると辛くなってくるからやっぱり考えるのはやめよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます