第208話 闇深きスター?
新しく出来た超強力な協力者に内野達は心躍らせていた。
そしてその興奮が持続したまま話は続く。
「実はね、さっき言った運の話にはまだ言ってない事が2つあるんだ。
一つは僕の仲間よりも前に2度あの白い空間に行った者がいるという話。もう一つはクエストのシステムについて。
先ずは2度あの白い空間に行った者の話からしようか」
西園寺は二本指を立ててそう言うと、内野の方を見る。
一瞬偶然目が合っただけかと思ったが、内野が顔を動かす度に西園寺は視線を合わせてくるので、内野はとぼけた様な顔になる。
「え、その隠していた話が自分に何の関係があったりする…なんて事があるわけ…」
「それがあるんだよね~
黒幕が具体例を出す時に言ってくれたんだけど。どうやら2度もあそこに行った者は、一回目に『独王』というスキルを強化させ、二回目は特別なアイテムを受け取ったらしいんだ」
「えっ!?」
そのスキルを所持していた者はただ一人、なので当然内野達に心当たりのある者は一人しかいなかった。黒沼だ。
思いがけない者の話が急に浮かび内野は唖然としているが、それを待ってくれずに話は続く。
「スキルの強化は、『独王』の効果がクエストの転移をされても解けない様にするというもの。
受け取ったアイテムは、あらゆる攻撃を防げるバリアを3分間自身に張るというもの。
その人はもう復活出来ない者だからって黒幕は潔く教えてくれたみたい。
川崎さんから話を聞いたから分かるけど、これって君が呑み込んだ相手だよね?」
黒沼の頼んだアイテムにも内野は心辺りがあった。たしか黒沼は闇に呑まれる直前にバリアを張るアイテムを使っていたのだ。
そして黒沼がもう復活出来ない者というのも合っているので、二度も白い空間へと行った者が黒沼なのは確定的だった。
「…ああ。完全に黒沼の話だ。『独王』ってスキルも今は俺が持っているし、黒沼のアイテムにも心当たりがある。
でも運を上げると黒幕に合えるなんて小野寺達からも聞いてないのだが…」
「俺も小野寺や薫森に聞いたが、誰一人黒沼からそんな話を聞いてなかったみたいで知らない様子だった。
それに全員の『独王』というスキルの認識は、効果はクエスト終了しても解けないというものだったし、黒沼はかなり早い段階で黒幕に合っておりスキルを強化してもらっていたのだろう」
たしかに…普通薫森達も『独王』の能力が変わった事に気が付くだろうしな。
でも黒沼がSPを運に使っていたのは知っていたが、そんなに早くから運を100にしていただなんて驚きだ。SP100なんてレベル20分のSPだし…
川崎が言っている事に皆納得し、西園寺は話を進める。
「今君が持っている『独王』が強化された状態なのかは分からないけど、取り敢えず次のクエストが来るまでは確かめようが無いからこの話はここで終わり。
次は隠していたもう一つの話をしよう。先ずターゲットに選ばれた者がそのクエストで死ぬと、蘇生石で生き返らせられないっていうのは皆知ってるよね?」
西園寺のそれを聞き、内野のみが小さく「えっ…」と声を出した。
他の6人はそれを知っていたので内野のその反応に驚くも、ここで田村が内野のみこれを知らない理由に気が付いた。
「ああ…そう言えば以前の訓練の時に皆にまとめて言いましたが、その時内野君は川崎さんと生見さんと話していていませんでしたね。
私はてっきり川崎さんが説明しているものだと思っていたのですが…」
川崎は少し上を向いてその時の事をじっくりと思い出す。
そして数秒後、川崎は「あ…」と小さく声を漏らした。
「…すまない、すっかり忘れていた。ちょっとあの時は他の話に夢中になり過ぎてな…」
「そんなに生見さんと白熱した話をしていたのですか…」
川崎のミスに田村は片手で頭を抱えるも、表情は明るく、どこか安心しているかの様な顔であった。
内野も川崎を責めるつもりなどなく、むしろ川崎の内面を見れたかのような気がして悪くない気がしていた。
「で、どうやら運100にして黒幕に頼めば、そういう普通の蘇生石で蘇生出来ないプレイヤーも生き返らせるみたい。名前は『超蘇生石』らしく…」
「それは本当か!?蘇生石で生き返れない者も生き返るのか!?」
話を再開し始めた西園寺だったが、途中で興奮した平塚に声を被せられて再び口が止まる。
平塚が声を荒げてまでそれを聞く理由はなんとなく想像が付いた。
初めて白い空間で黒幕に蘇生石について聞いた時、平塚は自分の娘と孫を生き返らせたいと言っていたから、恐らくそれだろう。
それを西園寺も察しており、平塚が次の言葉を発する前に首を横に振った。
「…残念ですけど、プレイヤーじゃない方はそのアイテムでは生き返らせられないみたいです」
「あ…あぁ…そうか…すまむ、声を荒げてしまい…」
「ただあくまでもそれはそのアイテムじゃ無理ってだけで、クエストで七人の王に勝てば願いを叶えてもらえるみたいなので、お二人を生き返らせる事も可能かもしれませんよ。
もしも次運を上げて黒幕に合える者がいたら聞いてみましょう」
西園寺は意気消沈する平塚に優しく声をかけ、隣にいる笹森が平塚の背中を摩って座らせる。
クエストでは『憤怒』という超強力のスキルで活躍する平塚であり、その背中は大きく見えたが、今の平塚の姿は年相応の弱々しい年寄りに見えた。
…それもそうだよな。大罪とはいえ、強いからといえ、クエストが始まる前までは普通の人だったんだ。俺と何も変わらない普通の人だったんだ。
そういえば俺って全て川崎さん達に任せっきりだけど、川崎さんだって人だ。全て任せてて良いのかな…飯田さんみたいに心が限界を迎えてたりしないよな…?
どれだけ強い人にも人としての弱い部分があるのだと内野は分かり、これまで川崎に色々任せていた事が心配になってきた。
だがこの場でそれについて聞ける雰囲気ではなかったので、今は口を閉じた。
その後の話で決まったのは、クエストの初動で使徒を倒す作戦についてとそのメンバーの話だった。
強欲グループは経験が少なかったり高レベルプレイヤーがいないので選出する者は少ないとし、残りの3グループで何人まで連れてくるかという話。
川崎の意見では、ヒールやサポートスキル持ちの者以外はレベル80越えで身勝手な行動をしない者という条件を付け、それを満たしている者なら人数には制限をかけなくて良いというものだった。
それには誰も意を唱えなかったが、平塚と笹森は微妙な顔をしていた。
「うむぅ…レベル80越えという条件を満たす者はいるのだが、身勝手な行動をしないという条件に引っかかる者が多いのぉ…儂らからはあまり戦力を出せないかもしれぬ」
「ですね…その条件となると平塚さんを含めて4人ぐらいしか連れて来られない気がします…」
「あ~憤怒グループには結構自由人が多いのですか。
ま、その連れて来れるメンバーだけで構いませんし、身勝手な行動をしないという条件も少し緩和して選んでもらっても良いです。
聞くところ怠惰グループは結構平均レベルが高い者が多く統制も取れているみたいなので」
西園寺が川崎と田村の方を見ると、二人は小さく頷いた。
以前も言っていた通り、川崎は戦えない者達は同グループであっても見捨てている。だが人数が少ない分戦えるメンバーのフォローだったり訓練が出来ているので、他グループに比べて高レベルの者は多かった。
クエスト前に精鋭メンバーの情報は共有しておきたいので、今度メッセージでやり取りする事が決まった。
そして西園寺は念の為と、前回のクエスト場所発表時の総プレイヤー人数についても聞いてきた。
今までどのグループもプレイヤー上限が200人だったのに、前クエストの新規プレイヤー数が多くて色欲グループは総プレイヤー数が200人を越えたからだ。
他グループも新規プレイヤー数は多いという話だったが、元の人数が少なかったから200人は超えなかったという。
それを聞き、西園寺は「あちゃ~」と言いながら頭を掻く。
「さっき全グループが揃ってる時に聞き忘れたな~
ま、次も新規プレイヤーが4,50人ぐらい現れたらプレイヤー上限が増えたのは確かな事になるから、今後クエストの規模が大きくなっていくという黒幕の発言を信じでも良さそうだね」
「あの黒幕は俺達を勝たせようとしているみたいだし、嘘だとかはつかないんじゃないか?」
「ははは、それもそうか。そんな僕らを混乱させる様な嘘を付くメリットなんか無いもんね。
いや~それにしても不思議じゃない?7グループあってこれだけ人数がいるのに、僕らってどうして2ターン目が始まるまで出会わなかったんだろう」
西園寺は内野の前の机の上に腰をかけると、そんな話題を振ってくる。
今まで他グループのプレイヤーがいると気が付かなかった理由はいくつか考えられ、それを田村が答える。
「他言無用というルールのラインが分からず、大きな行動を起こす者がいませんでしたから仕方ないでしょう。
クエスト歴があり強い者ほど他言無用というルールを破り死んでいった者達を何度も見てきたので、そこまで大きな事件が起きなかったのには頷けます。
ウチの者で馬鹿やった者はいますがね…」
「それは分かってるんだけど…これだけ人数がいて誰も魔力探知系のスキルで見つけなかったっていうのがね…」
西園寺の言葉に反応して梅垣はハッと目を少し大きく開き、ゆっくりと口を開いた。
「…俺の『魔力感知』は常時発動だが、2ターン目に入るまで同グループの者以外の魔力は感じた事など無かった。ある人が多い所にも行っていたし、今思えば明らかに不自然だ…」
「ふむ…クエスト歴が短いとはいえ一度も他グループのプレイヤーと会ってないというのは考えにくいし…魔力を感じなかったのは黒幕による何らかの介入があったからかもしれない、と考える方が自然だな。
一般人にのみプレイヤーを見えなくする事も出来てるし、黒幕ならそれぐらい出来るだろう」
川崎の考察にほとんどの者が「確かに」という反応を示す。
ただそれ以上の考察のしようは無かったので、西園寺がここで一区切りつける。
「どうして日本人だけなのか、日本でのみクエストが行われるのかだとか、黒幕に聞きたい事は色々あるし、さっそく運を100にして話を聞きに行ってくれる人が出てくれると助かるね。
じゃあ今日はもうこれでお開きって事で良いかな?」
全員が異論無しと頷き、こうして4グループでの話し合いは終わった。
内野と梅垣は皆に挨拶しながら会議室を出て、行く時と同じく二人で帰る事にした。
ただ梅垣が「帰る前に寄りたい所がある」と言うので、内野は自宅へ直行せずに少し寄り道をする事にした。
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皆がいなくなった会議室に二人残っていた。西園寺と、部屋の外で見張りをしていた者だ。
西園寺はスマホのカメラで自分を移して髪を整ており、見張りをしていた強面の男性はそれを傍で見ていた。
ただ今の西園寺は目と口を小さく開き、ぼーっとした顔で無の表情だった。
「お疲れ様です西園寺さん、どうだったでしょうか他の大罪達は」
「良くも悪くも個性的。
平塚さんと内野君は誠実で扱いやすそう。
川崎さんは頭が回るし良き協力者…と同時に警戒しなきゃいけない相手。
涼川さんはなんか僕の心を見通してる感じがするし少し警戒が必要。
あのデレデレキラキラネームは馬鹿、イジリ甲斐があるから良いけどね」
「今後の動きは?」
「扱いやすそうな二人から親密になろうと思う。クエストで共に行動しながらゆっくりね。
どうやら内野君は川崎さんと仲が良いみたいだし、ある程度信頼関係も出来ているはずだ。内野君と仲良くなれば川崎さんともより繋がれるし、先ずは彼からするよ」
西園寺は声に抑揚が無く無表情、普通の者が普段とのギャップを見たら少し恐怖を感じるだろうが、慣れているのか強面の男は普通に話す。
「…確か強欲の者とは同じ年ですよね?」
「あ~もしかして内野
なんか背が小さいし、心の闇が見えないし、素直だし、後輩感覚で呼んじゃうんだよね。
でも彼には親近感も湧いてるから見下してるって感じではないよ」
つらつらと大罪の評価を並べていくと、西園寺は強欲の刃を出してその闇を眺めた。
「もしかして似てるからかな?
『強欲の刃』で手に入れた豊富なスキルを使う僕の戦闘スタイルと、内野君の戦闘スタイルはきっと似ているはずだ。
僕は『色欲』を使って更に幅広い戦術を取れるけど、内野君には当たれば使徒ですら防げない『強欲』がある。違いと言えばこれぐらいだし」
「似ていると思う個所は…戦闘スタイルだけですか?彼のみt…」
強面の男がそう言った瞬間、男の目の前から西園寺はいなくなっていた。
だがそれと同時に男の首には尖がった物が当たる感覚がした。一瞬にして回り込んだ西園寺にボールペンを突きつけられてたのだ。
だが西園寺も強面の男も、両者平然とした顔をしている
「…強欲の刃じゃなくてよかったね。次そういう事言ったらガチでスキル奪うから、覚えといて」
「…肝に銘じておきますよ」
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