第207話 複製の闇
他の者からも特に話したい事などが無いのを確認すると、西園寺は扉の鍵を開ける。
「じゃあ今日の話はここまでにしておきましょう。あ、でも強欲・憤怒・怠惰グループの人とは今後の話をしたいし少し残っててね」
次々と席立ち人は消え、直ぐに会議室に残ったのは4グループの者達だけになった。西園寺の相方は外で見張りをしているので現在部屋にいるのは7人だ。
「じゃ、ここからは堅苦しい雰囲気無しに今後の事を色々話しよう。敬語とか正直苦手だし面倒なんでね」
「さっきから堅苦しい雰囲気なんてもの無かった気がするけどな」
「寝てたりナデナデしてもらってたりしてまともに話を聞いてない人がいたしね」
川崎と西園寺がそんな会話をする。ちょうど二人の関係に関して聞きたい事があったので、梅垣はそれについて尋ねてみる。
「二人はいつから話を合わせていたんだ?」
「月、火曜ぐらいからだ。少し話してみると西園寺の考えと合うのが分かり、共に覚醒者の育成をしようという話になってな」
「そうそう。それでどうせなら覚醒者の存在を共有すると共に、他にも協力してくれるグループがいないかと思って今日のこれを開いたって訳。
強欲グループがこっちに付くのは予め聞いていたので分かっていたけど、憤怒グループが来てくれたのは本当に嬉しいよ」
西園寺は憤怒グループの平塚・笹森の二人の方を見て微笑みかける。女子高生の笹森はイケメンから繰り出されるそんな眩しい笑顔に顔を赤くした。
以前も梅垣の顔に見惚れていたし、笹森は意外に面食いなのか…いや、こんなイケメンに微笑みかけられたらどんな女性でもこうなるのは仕方ない。
きっと新島や工藤だって………あっ、なんか複雑な気持ちなるからこれ以上顔の事を考えるのはやめよ。
へこんでいる内野には誰も気が付かず、そのまま今後の話へと移る。
「なるほど…それで儂ら憤怒グループは何をすれば良いのじゃ?」
「先ず覚醒者の育成についてだけど。今はまだ3人しかいないから次のクエストまでは彼らの育成は川崎さんに任せる事になる。
僕の色欲グループと憤怒グループが手を貸すのは、次のクエストで現れた覚醒者を日本防衛覚醒者隊に勧誘してからになるよ」
「確か覚醒者達は一般人と同じで私達の姿が見えないはずだが、どうやって勧誘するんだ?」
梅垣が手を上げて質問する、田村がそれに答え始めた。
「覚醒者の勧誘を行うのは現在傘下にいる覚醒者のお三方にやってもらいます。魔力探知スキル持ちのプレイヤーを同行させて覚醒者に3人を接触させていくというのを繰り返し、次のクエストでは20人ぐらいの規模には広げるつもりです。
今の3人にした説明では、プレイヤーとはこの魔物災害より前から魔物と戦ってきた者だと言ってあり、それ以外の詮索をするなとも言っています。ただ規模が大きくなればそれも破られるでしょうし、今後は覚醒者の訓練場所をプレイヤーと完全に分け、プレイヤーの存在を知っているのは今いる3人のみにします。訓練ももうほとんど彼らだけにやらせます」
「つまり今後はプレイヤーの存在を隠すつもりなんだな。だがそれでは育成など出来なくないか?
パワーレベリングにもプレイヤーの同行は必須だし、クエスト外での訓練も覚醒者達だけでは出来るとは思えない」
「もう以前の様に多数のプレイヤーが付きっきりで彼らのお助けをするなどという事はしません。
常に同行させるのは魔力探知スキル持ちの者と護衛二人ぐらい。その同行させる者達も、何故か私達と会話が出来る加藤という者に適宜覚醒者がいる方向を教えるのが仕事であり、基本的に戦闘はしません」
「プレイヤー→加藤→覚醒者達という経緯で命令を出させるのかという事は、覚醒者から見ればリーダーは加藤になるのか…
…取り敢えずクエスト中の動きは分かったが、彼らの訓練はどうする?」
訓練の話になると、話すのが田村から西園寺へと変わった。
西園寺は会議室の一番前にある蛍光灯以外を消して自分の下にのみ光が当たる様にすると、くるっと一回転してから決めポーズをする。
「そこで僕の出番!
訓練する時に僕が現れ「リーダーは加藤君だけど、実は一番強いのは僕だ!」と言い皆を指導するんだ!」
「…川崎さん、これは西園寺がふざけて言っただけですか?」
「いや本当だ。西園寺が俺達に協力をする条件は、自分が覚醒者達の頂点として君臨する事。だからこれはもう確定した話だ」
一瞬本当に西園寺がふざけて言った事かと思ったが、川崎が本当だと言うので認めざる得なかった。
「簡単な話さ。今後覚醒者の存在が公になった時に、魔物を殺す覚醒者の組織のトップである僕を世界中が注目する様になる様になるからだよ。
日本が僕のステージだとすると、魔物は僕を照らすスポットライトさ。魔物を殺して日本防衛覚醒隊の注目が大きくなる度に僕の名声が上がるって感じにね。
クエストの最中に同行していないのは、僕は一人で動けるぐらい強くて単独行動しているからだと適当に言っとくよ。
ずっと僕一人で全員の面倒見るっていうのはしんどいから、何人かは僕と同じ様な事をして覚醒者として振る舞ってもらうけどね」
「そ、そんなので大丈夫なのかな…」
「大丈夫大丈夫!嘘に嘘を重ねていくのは得意だからさ!」
自信があるようで、西園寺は自分の胸をトンと叩く。
そして西園寺は覚醒者の話を終わらせ、次のクエストの話へと移した。
「それで次のクエスト以降の話なんだけどさ、使徒が一体しか現れていない序盤のうちに使徒を一体仕留めたいと思うんだ。ここの4グループで協力してね」
「さっき見せた使徒の場所が分かるというアイテムで使徒を見つけるんだな」
梅垣がそう答えると、西園寺はどこからともなく出した〇×ボタンの〇を押し、ピンポーン!という音を出してから梅垣を指差す。
「そう!
4グループの精鋭メンバー+大罪が集めれば使徒単体を殺すのはそこまで難しくない気がするし、これを続けていけば8回目のクエスト以降は使徒がいない安全な環境でレベル上げに専念できる様になるはずだ!」
西園寺のテンションが急に上がった気がし、内野は川崎に小声で尋ねてみる。
「な、なんか西園寺のテンションがさっきから高くないですか?」
「西園寺は君と話すのを心待ちにしていたからな。西園寺、内野君に頼みたい事があったんだろ?」
川崎の言葉に反応し、西園寺と同じタイミングで顔を向かい合わせてしまいピッタリ目が合う。
内野は一体何を言われるのかとドキドキしていた。
「ああ、使徒のアイテムという唯一無二の超激レアアイテムを持っている君に頼みがあるんだ。一度そのアイテムを僕に貸してくれないか?ほんの1分だけで良いからさ」
その頼みの意図が分からず内野は川崎に視線を向けると、「大丈夫だ」と言う様に頷いていた。
なので内野は『哀狼の雷牙』を西園寺に手渡す。
西園寺だけでなく、使徒のアイテムと聞いて平塚や笹森も「ほぉ~」と物珍し気にそのアイテムを見ていた。
「これは哀狼の…
まだ使った事がないけど魔力貯めてを雷を飛ばせるアイテムらしい」
「ふ~ん、奇抜な見た目をしているね。でも面白いアイテムだ、僕の能力に合いそうだし」
西園寺はそう言い皆から一歩離れると、西園寺は無言で両手の平に闇を出現させ、武器を闇が包み込んだ。
一瞬ここで戦闘でもするのかと警戒して内野達も一歩下がるが、川崎と田村が一切警戒せずに座ったまま「大丈夫だ、そのまま見てれば分かる」と4人に声をかける。
一体何が始まるのかと4人が西園寺の手の闇を凝視する。
すると次第に闇が二つに分かれ、直ぐに片方の闇は哀狼の雷牙の見た目へと豹変した。そして元の哀狼の雷牙を包んでいた闇は綺麗さっぱり消え、西園寺の手の平には二本の全く同じ見た目の武器のみが残された。
え、これって…
「『色欲』の能力の一つ、物の複製だよ」
突然の能力のカミングアウトに4人は驚きを隠せなかった。
大罪の能力を明かすというのは中々リスクが高くて出来ない事のはずだが、それをこんな所で見せるなどと誰一人思ってもみなかった。
梅垣は驚きつつも、西園寺の持っている二つの武器に目をやりながら尋ねる。
「こんな簡単に見せても良いのか?それともこれが信用の証…とでも言いたいのか?」
「ま、そんな感じ。
この能力を使えば触れているどんなアイテムでも全く性能が下がらずに複製出来る。これを他の人に渡すのだって可能だし、クエストが終わったりしても決して消えたりしない」
西園寺はオリジナルの方の哀狼の雷牙を内野に返し、複製品の方をインベントリに仕舞う。インベントリに仕舞う時に現れる青色の光がいつも通りあったので、複製品でも扱いは普通のアイテムと同じであった。
戦闘には使え無さそうなスキルだと一瞬思うが、「どんなアイテムでも複製」出来ると聞いて内野は一つのとあるアイテムが頭に浮かんだ。
「も、もしかして…『強欲の刃』も…」
「ふふ~ん、当然」
内野の質問に答えながら、西園寺は両手の全ての指と指の間に強欲の刃を出した。
全部で8本で、本来一本辺り100QP必要なので今西園寺が手に持っているのは実質800QPだ。普通はこんなアイテムが8本も並ぶところなど見られないので、全員その8本の闇から目を放せなかった。
「強力なアイテムほど一回の複製に魔力が必要だからポンポン複製を作るのは無理だし、魔力水の複製品も回復値と消費値は同じだから無限に魔力を回復させたりっていうのは出来ない。
…正直言って戦闘に直接使えるスキルの大罪には戦闘面では劣るとは思う。でもそれ以上の強みが沢山あるから他より劣ってるスキルとは思わないよ。
現に僕の能力が役に立つと思ったから、川崎さんは僕の申し出を受けたんですもんね」
「その能力だとか運の話を聞いて総合的に判断したものだがな」
『強欲の刃』を収納すると、今度は西園寺はさっき皆の前で見せた羅針盤を手の平に出す。ただその羅針盤は横に二つ並んでいた。全く同じ見た目のものだ。
「「えっ!?」」
一同は声を揃えて驚く。
このアイテムは運を100にし、黒幕に頼んでようやく1つ手に入るアイテムだ。だがそんな超入手困難なアイテムが二つあるとなると、思い浮かぶのは一つだけ。
「それすらも複製を作れるのか…」
「そう。僕なら運特典のアイテムすらも魔力がある限り増やせる。これだけで僕との協力がどれだけ大きなメリットになるかは分かるよね?」
望みの強力なアイテムを運100にして黒幕に作ってもらい、それを西園寺に複製してもらえば自分以外の者もそのアイテムを入手出来るという訳か。
平塚さんみたいに直接戦闘に使えるスキルではないけどとても強力だ。
強欲の刃の複製してスキル獲得し放題なのは俺の『強欲』と被る所もあるが、汎用性は『強欲』と比べ物にならないぐらいある能力。
これは川崎さんが西園寺と手を組むのも完全に納得できるな…
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