第206話 覚醒者は敵か味方か

西園寺からの話は続く。

クエスト関連の話なのでほとんど全員が真剣な表情なままだが、2人だけは違った。


一人は『嫉妬』を持つ愛冠ティアラ

隣に座っている俊太の膝に頭を乗せてナデナデしてもらっている。


もう一人は傲慢グループの猫背でフードを被っている者。

机に顔をべたりと付けて気だるげに西園寺を見ていた。


愛冠はもうそういう奴だと分かってたけど…あのフード被った人も同類か。

でもあの人の相方の真面目そうな方や『暴食』の涼川さんはメモを取ったりしているし、話してはなくても評価が上がる人もいるな。


取り敢えずあの集中していない二人にはあまり話が通じ無さそうだと内野の中で結論付け、あの二人に対しては今後の立ち振る舞いを変える事にした。


西園寺もそんな二人には特に何も言わず無視し、次の話へと移った。


「さてさて、ここからの話がこの場に皆を呼んだ最大の理由になるからよく聞いて考えてもらいたい。

皆の仲間に魔力探知系のスキルを所持している者がいるのなら分かるのだろうけど、前回のクエスト以降、プレイヤー以外の一般人でも魔物を殺した者はステータスの力を発現させ始めた。

怠惰の川崎さんの情報では、彼らも負傷が高速で自己再生したりしたらしくスキルも持っているみたいなので、ステータスボードだとかが無い事以外僕達と変わらない力を持っていると言えるね。取り敢えず川崎さんの呼びに合わせて彼らは『覚醒者』と呼ぼう。

僕が聞きたいのは、皆がその覚醒者に対してどういう立場を取るかというものだ。ま、簡単に言えば友好的か敵対的かって話だね」


覚醒者の存在はこの場にいる大罪の全員が認知していた様で、そこに対する驚きは無かった。

ただ何人かは覚醒者に対する友好的な態度というのが何なのか分からず首をかしげていた。


一方、内野と梅垣が気になっていたのは川崎と西園寺が裏で繋がっていた事だ。


この話し合いの前にお互い色々相談していたのならさっきから川崎さんと田村さんが大きな反応を見せないのも、それに川崎さんが俺達に「警戒せずに来い」と言ったのも頷ける。

西園寺は川崎さんの目から見て信用に足る者という事か…


「少なくとも今回のクエストで覚醒者は50人以上生き残っているだろう。そして彼らから「魔物を殺したら強くなった」という情報が広まれば、クエストがある度に覚醒者の数は増えるだろう。

ここからは僕と川崎さんの考えなのだが、今後増えるであろうその覚醒者達を統制する組織を作っておこうと思うんだ。

現在川崎さんが覚醒者3人を育てて『日本防衛覚醒者隊』というのを作っているし、この組織を広げ僕らがその頂点に立つ事で覚醒者を統制したいと思う。そうすれば覚醒者達が好き勝手暴れる心配が無くなるしね」


西園寺の話が一区切りついた所で『暴食』の涼川が挙手をしたので、西園寺がどうぞと言って涼川に発言の許可を出した。


「少し考えてみたけど…覚醒者達を治める組織をわざわざ作るのはプレイヤーにとってはデメリットが大きいんじゃないかしら。

正直ショップやステータスボードが無いのなら覚醒者が私達の脅威になるとは思えないから警戒する必要は無いし、覚醒者に魔物を取られてプレイヤーが強くなる機会が失われるのは逆に私達は不利益を被る事になると思う。

だから覚醒者を育てたりするのはやめた方が良いんじゃない?」


毅然とした態度で発言した涼川に、西園寺は小さく頷きながら返答する。


「それがさっき出た、クエストはターン数を重ねる度に規模が大きくなるって話に繋がるんだ。

ターン数が増えてプレイヤーだけじゃ魔物を倒しきれなくなった時に、プレイヤーの代わりに魔物を狩るヒーローとして覚醒者達に活躍して日本を守ってもらいたい。

僕はこの国を守るのを最優先に考えているから、魔物を殺す人手が増えるのはありがたいと思っているし、彼らの育成にも手を貸そうと思っている。

勿論涼川さんの言う通りプレイヤーが狩れる魔物の数が減ってしまうという可能性はあるけど、そうなってきたらクエストに連れていく覚醒者の数を減らせば良いだけだし、いくらでも調整は出来るよ」


西園寺がこの国の事を考えていたという事が分かり、内野の中での彼の評価はかなり高くなっていた。


ただ涼川は西園寺の言葉を聞くと、小さくほくそ笑んだ。

美女の笑みなので美しくはあるが、その美しさの裏に闇がある気がして内野は純粋にその笑みに見惚れる事は出来なかった。


「一つ聞いてもよいかしら。国を守るのは…自分の為?」


「当然僕自身の為さ。この世界は僕を輝かせる為にあるステージ、それを魔物なんかに潰されるのは癪に障るからね。ステージを守る為には手段は選ばないよ」


「フフフ、欲丸出しのその発言…私は嫌いじゃないわ。正義感や善の心よりも分かりやすいもの」


西園寺の真意を聞くと、涼川は満足気に腰を下ろして着席した。

西園寺が純粋な正義感ではなく自分の為にこの国を守ろうとしているのは分かったが、別にそれで印象が悪くなるという事はなかった。

西園寺の裏を知れて逆に安心出来た様な気もあった。




「ここまで覚醒者について色々話してきたけど、皆の考えを聞かせてほしい。大まかに3つに分けようか。

1つ目は、覚醒者の魔物狩りを容認し、尚且つ日本防衛覚醒者隊を運営する協力をするというもの。

2つ目は、覚醒者の魔物狩りを容認するが、日本防衛覚醒者隊を運営する協力はしないというもの。ま、覚醒者の介護をする余裕が無いから覚醒者をまとめるのは僕らに任せたいってな感じで、我関せずというスタンスの人はこれを選んでね。

3つ目は、覚醒者の魔物狩りを許さないというもの。プレイヤーだけで魔物を独占したいから邪魔になる覚醒者は消しておきたいって人はこれを選んでほしい」


内野は川崎に完全同意なので当然選ぶのは1つ目の選択肢で決まっていたが、他グループの大罪達が頭を悩ませていた。


平塚さんは多分大丈夫だけど、問題は傲慢グループと嫉妬グループ。嫉妬は大罪の愛冠が全く話を聞いてないから完全に俊太だけの考えになるし、傲慢はそもそも大罪じゃない人が来てるから意見の統制を取れなさそうだ。

あ、でも暴食の涼川さんも心配だな…さっきの笑みにあった闇が俺の気のせいなら良いが…


そして内野が3つ目の過激な選択肢を選ぶ者が居ない事を祈っている所で、全グループの考えが決まった。


結果から言えば、この場に3つ目の選択肢を選ぶ者はいなかった。

内野の強欲グループは当然川崎達に賛同する1つ目の選択肢で、憤怒の平塚もこれと同じ意見。

残りの3グループは2つ目の日本防衛覚醒者隊の運営には関与しないというものだった。


ただそれはあくまでにいるメンバーの考えだというのが、ある男の言葉で強調された。


それは傲慢グループの大罪の代わりに来た男性。スーツを着ており背筋がピシッと伸びており、相方のフードを被った者とは違いさっきから真剣な表情を崩していない者の言葉だ。


「覚醒者も我々プレイヤーと共に戦ってもらえる方がありがたいと私は思う。

ただ生憎こちらのグループにはまとめ役がおらず、同グループプレイヤーの意見の統率をするのは不可能だ。だから中には覚醒者の存在を良く思わない者もいるだろうし、そんな彼らを止めるのも難しい。

私が椎名に変わりここに来たのは、ただ他に来る者がいないからであって…決して強いからじゃないものでね…」


『傲慢』の大罪スキル持ちの椎名が皆の上に立とうとしないので、傲慢グループにはまとめ役の様な者が居ないのは仕方が無かった。

ただ西園寺はそれにそこまで驚いておらず、直ぐに言葉を返す。


「なるほどなるほど…貴方はリーダーってわけじゃなくて、ただここでの話をグループの皆に共有する為に来たってだけですか。

それなら貴方にあまり重りは載せません。覚醒者を良く思わない輩の言論を統制しろだとか無茶な事は言いません。

ただこれだけ傲慢グループの者に伝えといて下さい。

「もしもこっちが育てている覚醒者を殺したりしたら、色欲・怠惰・憤怒・強欲の4グループがお前個人の敵になる」ってね。

あ、本気なのが伝わる様に今の口調のまま皆に知らせてくれると助かりますよ。特に「4グループがお前個人の敵になる」って所が重要ですので」


なるほど…あくまで傲慢グループの敵になるんじゃなくて、罪を犯した者の敵になるって事の強調か。

統制が取れていない傲慢グループのプレイヤーにはきっと黒沼達みたいに好き勝手やる者もいるだろうし、関係無い傲慢グループの者達にまで「あいつが好き勝手暴れたせいで自分らも4グループの敵としてみなされるんじゃ…」という不安が広がるのを避ける効果がありそうだな。


頭がよく回る者という評価も西園寺に付け加われ、内野の中での西園寺の評価と印象はまだ数時間も話した事がない者とは思えないぐらい高くなっていた。

そしてそんな者とも協力関係を結べた事に心底安心していた。



そして次の話は、魔物と使徒についてだった。

前回のクエストで見つけた使徒らしき強力な魔物に付いての情報を公開するというものであり、使徒ではないが強力な魔物についての情報でも構わなかった。


最初に上がったのは言いだしっぺの西園寺からの情報。

一体は光の能力を使う魔物。

1ターン目のクエストでも、色欲グループの所の使徒は同じような光の力を使っていたので、この魔物は使徒でほぼ確定。前回内野達も遭遇した魔物なので大体の事は分かるので説明は省略する。


もう一体は相手に恐怖を植え付けるという能力を持つ使徒。1ターン目のクエストで傲慢グループの所に現れた使徒と同じ能力なので、これも使徒でほぼ確定。

見た目は機械の人間。背の高さも体格も成人女性ぐらいなのだが肌は外からでは一切見えず、もはやロボットと言っても差し支えない魔物。ただ肌の代わりに肉みたいなものと血が各所で見える。

西園寺が腕にダメージを与えると、装甲の中にはしっかり生き物の肉があり血がそこから出てきたので、中に人型の生き物がいるのは分かった。それによく見ると常に本体が血を流しているのか、身体の足元には中の血を排出し続ける為の穴もあった。


注意すべきは使徒の両腕からガトリング砲の様に発射させられる魔力の弾。

避けるのが困難な上にそこそこ威力があり、建物の瓦礫に隠れたりなどが出来ないので近づくには防御役の者が必須になる。

だが近づいてからも大きな問題がある。

近づくと使徒の頭についているカメラアイが赤くなり、今度は傲慢の使徒の相手に恐怖を植え付けるという効果がある波が発射されるのだ。

西園寺以外の者はこれを避けれず恐怖に心を殺され、仕方なく味方の首を自らの手で刎ねる事になった。



次に情報を出したのは涼川。

前回涼川が戦ったのは1ターン目に嫉妬グループの敵だった使徒の能力、周囲の魔物を強化+凶暴化させる能力があり、こいつが使徒というのはほぼ確定。

その使徒の見た目を一言で言えば植物だ。

ハエトリソウの様なギザギザものが多数あり、接近すると攻撃をしてくる。植物だから動けない様に思えるが、小さな根やツルで普通に動けるし、人だって食べる。

一番警戒せねばならないのはその魔物の上部に大量にある赤黒い粒の実。使徒はそれを飛ばし地面に付いた数秒後に爆発する。その爆破に使徒の強化+凶暴化という能力があり、爆破に触れると魔物は我を失い暴れ始める。

ちなみにプレイヤーも爆破に触れると同じように我を失って暴れ始める。


ここで出た3体以外に使徒と思われる魔物の発見方向はなかった。

憤怒グループの異空間を作る使徒は既に死んでいるので残るは強欲・怠惰・暴食の使徒であるが、誰にも心当たりがなかった。


残りの警戒すべき魔物として挙げられたのは肉塊の魔物と、東京湾沿いに現れた大きなサボテン。


肉塊の魔物が攻撃してくる所を見た者はいないが、今の所平塚しか殺せておらず、念の為警戒はしておかねばならない。


そして大きなサボテン。極太の針を360度全方向に同時発射し、面の制圧力がとてつもなく高い。建物も針によって大量に壊され、魔物災害の被害を最も出した魔物であるのは確実だった。

少なくともサボテンの針は1キロ離れていても飛んで来る。



そして魔物の話が終わると沈黙が流れた。

なので次は何の話をするのかと平塚は手を上げて尋ねる。


「それで次は何の話をするのじゃ?」


「もう僕は無いよ。誰か何か話たい事が無ければ解散って事でいいかな。

あ、そういえばに3週間後に僕が所属するグループが出演するライブコンサートがあるんだ。僕からの招待なら特別席に5人まで連れて行けるから、誰がそれに来るかって話でも…」


そう言う西園寺の言葉を遮る様に次々と皆が席を立ち、こうして7グループが集う会議は1時間弱の短い時間で終了した。

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