第205話 運の力
部屋に入って先ず聞こえてきたのが
その先にいたのは案の定西園寺で、キレている
「いやいや、僕は話を聞いて思った事を言っただけだよ?
大罪のくせに憤怒の使徒の能力に閉じ込められて何も出来なかったなんて情けないってね」
「私にとっては使徒を殺す事よりしゅん君を守る事の方が重要なのよ!」
興奮する愛冠を落ち着かせに『高木 俊太』が間に入ったので少しマシになったが、愛冠の顔は不機嫌なまま。
だがもうそんな彼女の様子を見ても内野にはあまり驚きは無かった。
白い空間でも前回のクエストでもずっとキレて所しか見てないから…もう常にキレてる人って認識になっちゃってて特に驚きが無いな…
愛冠を見てニヤニヤしている西園寺だったが、入室してきた二人に目をやると空席の方を指刺した。
「あ、二人はそこの席ね。君は前回のクエストで怠惰グループと行動してたし、憤怒グループとも知り合いらしいから席は川崎さんと平塚さんの隣にしておいたよ」
「あ、ありがとう…」
思わぬ気遣いに驚きながらも内野はペコリと軽く頭を下げ、指定された席へと着席する。
怠惰グループの川崎・田村、憤怒グループの平塚・笹森。その4人ともが知り合いなので二人の心は緩んだ。
着席すると笹森が内野に小声で話しかける。
「久しぶりだね。平塚さんと生見さんから聞いたよ、内野君…あ、内野さんが使徒の力を吸収したって。凄いよ~他グループと協力したとはいえ使徒を1回のクエストで倒しちゃうなんて」
「皆の協力があってこそのものだよ、俺は美味い所を取っただけ。
それよりも笹森がここに来てる事に驚いているのだが…そんなに上の立場だったの?」
内野のその問いに答えたのは笹森の隣に座っていた平塚だった。
「本当は生見に来てもらう予定だったのだが、魔物の解剖で忙しいと言って聞かなくてのぉ…他のメンバーも自由人で予定があるとか言い出し、まともに話に付いて来れそうだったのが笹森しかおらんかったのじゃ。
テスト終了後で休みたい所だったろうに呼び出してしまい申し訳ないとは思っているのじゃが…」
「良いんですよ!この場にあの自由人達を連れて来たら何をしでかすのか分からなかったので自分から立候補した事ですし」
今の二人の会話からは苦労が窺え、内野は同情する。
生見さんみたいな自由人が多いのか…リーダーとして統制しないといけない平塚さんの苦労は一体どれほどのものなのだろう…
そして集合時間を過ぎるまで残り1分という所で最後の二人組、『傲慢』グループがやってきた。
ただ大罪の椎名が協力的じゃなく、来たのは椎名の変わり者で当然顔を知らぬ者だった。
一人は背筋が伸びた綺麗な姿勢をして歩いている誠実そうな30代の男性。もう一人は猫背でフードを被って眠た気にあくびしている20代の男性。
二人が着席して全てのメンバーが揃うと、西園寺は愛冠を煽るのを止めてドアにカギを掛ける。
「じゃあこれで全員揃ったし話を始めようか。
ここは防音室だし、念の為会話を一般人に聞かれない様に前に見張りも付けているから安心して話してね」
するとここで一人が挙手をしたので、一同そちらを向く。
手を上げたのは『暴食』の『涼川 佳恵』。ルックスとスタイルが芸能人級で、そんな人が上半身下半身共に露出が多い服を着ているので一部の男性陣の目を身体に集めていた。
内野も周りの者に気付かれない程度に少しだけ涼川の身体を見てはいた。
「最初に聞いておきたいのだけれど、わざわざここに集まる意味ってあるのかしら?
今日する情報交換なんて使徒だとか魔物についてだけでしょうし、スマホでのやり取りで十分じゃない?」
すると今回の集まりの主催者である西園寺はそれに答える。
「いや、話したいのはそれだけじゃないよ。ここで皆の考えを聞いておきたいと思ってね」
「私達の考え…?」
「そそ。今から最近判明したある事について話すのだけれど、それを聞いた上で皆の考えを聞きたいんだ。
何の事か分からないだろうし、先ずは取り敢えず聞いてくれ」
西園寺の言う通り先ずは話を聞こうと、一同は口を閉じる。愛冠も俊太にナデナデされて落ち着いたのか今は静かにしていた。
「先ず皆は初めてあの白い空間に言った時、最後に黒幕が何と言っていたのか覚えているかな?
覚えてない人もいるだろうから言うけど、彼は最後に「あと何か聞きたいのなら
で、今まではどうやってあの白い空間に自力で行けるのか分からなかったのだけれど、遂に僕の仲間がその方法を見つけた」
「「っ!?」」
この場に川崎と田村を除く全ての者が少なからず驚きを顔に出していた。
何故怠惰の二人は全く顔を変えなかったのか分からなかったが、それを聞く間もなく西園寺の話は続く。
「本来ステータスボードにある『運』を上げても特別なアイテムが追加されたりする程度だったけど、運を100にする事で白い空間に転移して10分間のみ黒幕に会って話せるみたいなんだ。
それにただ白い空間に行って黒幕とお喋りするだけじゃなくて、しっかり特典もあるという。
先ず最初に選択を迫られる。それは望みのアイテムをリクエストして作ってもらうか、自分の所持しているスキルを1つ進化してもらうか。
僕の仲間はこの時に望みのアイテムを作ってもらうという選択をし、黒幕にあるアイテムを作ってもらった」
西園寺はそう言うと手を前に出してインベントリからそれを手に出そうとする。
一体どんなアイテムが出るのかドキドキして一同は息を呑み、西園寺の手の上に現れるアイテムを見ていた。
そんな一同の注目を浴びながら西園寺の手に平に現れたのは、手の平サイズの羅針盤だった。
普通のコンパスとは違い針がそれぞれ別の層に7本あるもので、西園寺がコンパスを揺らす度に6つの針がプラプラと揺れ動く。
だが1本のみは内野達の方を向いていた。
一同はこれが一体何を示しているのかは分からなかったので、頭の上に?マークを浮かべる。
西園寺はそんな皆の顔を見てから一同のその疑問に答えた。
「このアイテムは使徒がいる方向を指し示すもの。距離は分からないけど、7つ針がある通り同時に7体までの使徒の方向を指し示せるみたい。
これを手に入れたのはつい先日でまだ針が動いている所を見た事無いけど、これをクエストで使えばある程度安全に動ける様になりそうだよね」
おお、使徒の方向が分かるっていうのは相当助かるだろうな。
使徒から逃げるのにも、逆に追いかけるのにも使えるしかなり良いアイテムな気がする。
ん…でもなんか一つだけ針が反応してないか?
使徒を示すアイテムが反応してるとなると…………まさか…
「その…一本の針だけ全く方向を変えてないみたいだけど、これ何処かを示してない?」
内野にとある予感が過った所で涼川がそう言う。
確かに針は一本だけ内野達の方に向きっぱなしだった。いや、よく確認すると内野達ではなく内野の方を向いていた。
…そうか、指輪になっても黒狼は使徒という判定に含まれるのか。
針の指す方向に内野がいる事に気が付き、西園寺はコンパスを手に持ったまま内野の前まで来る。
「…やっぱ君を指してるみたい。何か心当たりは?」
西園寺はコンパスを横に動かして針が内野を指しているのを見せつけ確認しながらそう問い詰めてくる。
ここまで来たらもう指輪について話さねばならないのは確定だが、一体どこまで話して良いのか分からなかったので川崎の方をチラリと見る。
「…バレてしまったのなら仕方ない。そのアイテムの効果以外については話してしまおう」
黒狼と話せたり、黒狼にスキルを勝手に使われたりするという効果以外全て話して良いという事か…
内野は川崎の指示通り、このアイテムが使徒のアイテムであり、しかも自分のショップにしか無い特別なアイテムだというのを説明した。
使徒の反応がするのはこの指輪に使徒の魂が入っているからだとも。
取り敢えずコンパスが反応する理由が分かり、西園寺達は納得した様子だった。
一応聞いてはみたが他にこんな事になっている者はどのグループにもいなかった。
そもそも使徒のアイテムがショップに追加されているのがこの場にいない『傲慢』の椎名のみなので、使徒のアイテムについての考察はそれ以上伸びなかった。
「ま、その使徒の魂が宿ったアイテムがどんな効果なのかは今は聞かないでおくよ。
取り敢えずこんな風に運を100にするとある程度望み通りのアイテムを貰えるみたいだし、黒幕に10分間クエストだとかについて色々聞けるみたいなんだよね。全ての使徒の能力を教えてだとかって質問には答えてくれなかったみたいだから、あまり踏み入った所までは答えられないみたいだね」
「ふむ…それで黒幕に会ったという者は他に何を尋ねたのじゃ?」
平塚が質問すると西園寺は室内前の台に再び戻ってから話を始める。
「先ずは今後のクエストについて。どうやらターン数を重ねる事に規模が大きくなるみたい。ま、クエスト範囲が広くなったり、プレイヤー人数や魔物の数が増えるもしれないね。
次はこれ以上運を上げても特典があるのかどうか。どうやらショップにアイテムが追加されるのは運80までで、それ以降100の倍数に到達する度に白い空間で同じ特典を得られる。
あ、それと運が大きいとガチャで良い物が手に入り易くもなったり、クエストでの転移で初期位置が強い人の近くになったりするんだって。
運って名前のステータスだけど、宝くじに当たりやすくなるだとかって感じにクエストに関係ない所の運には絡まないみたい。
そして最後に聞いたのがスキルの進化とはどういうものか。
黒幕がいくつか例として出してきたけど、一つは選択したスキル関連の上位スキル獲得。ここにいる者はもう上位スキルが何なのか分かっていると思うしそこは省くよ。
そしてスキル進化にはもう一つの選択肢がある。それは純粋に既に持っているスキルを強化するというもの。
例えば『ストーン』というスキル、これは詠唱での発動をすると岩を前に一つ飛ばすというスキルね。ここで進化の要望次第では変な形の岩を出せる様になったり、既にある他スキルと合わせられるんだって。
詳細は分からないけど、要望次第で唯一無二のスキルが完成するって事だと思う」
思わず「おお!」という反応をしてしまうような重要な話が沢山あった。
今後クエスト規模が大きくなるというのも今のうちに心構え出来るのは助かるし、運の効果を知っているだけでも運にSPを振るのか各々選択しやすくなりそうだ。
そしてスキルの進化。唯一無二の特殊なスキルが作れるというのも、上位スキルが手に入るというのも自身の直接的な強化になるものだ。
…でもどうしても一つ気になる事がある。
内野は挙手をして質問をしてみる。すると西園寺はにこやかな顔で内野に「どうぞ」と言い発言を許可した。
「スキルの進化って…大罪スキルは強化出来るのか言っていました?」
「ああ~それは僕も思ったよ。でもそれを聞くの忘れてたみたいで、今はまだ分からないんだよ。
とまぁ…皆も多分まだまだ黒幕には聞きたい事があるよね。そこがこの会議を開いた一つの理由で、全てのグループが繋がる連絡網を作って各々黒幕に聞きたい事とかを出しておかない?
これなら何処かのグループの誰かが運を100にした時にまとめて他の者の質問も聞けるし、その情報も共有できるから効率が良いと思う」
もっともな意見だ。誰も不利益を被らない処か、全てのグループが得をするものだし俺は賛成だな。
内野同様に他の者達もそれには賛同し、直ぐに7グループの賛同が取れたのでこの場で情報交換用のチャットグループが開設された。
ただ人数が多くて混雑するのを避ける為、入れるのは1グループ5人までというルールを設けた。
その間、内野は川崎と田村がさっき何も西園寺に尋ねなかったのを意外に思っていた。それにさっきから二人が特に顔に大きな反応を出していないのも気になっていたので、二人の顔を横目で見ていた。
二人とも全く喋らないし驚かない…まるで今の話を全て知っていたかのような……
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