第204話 現代で集う大罪人

2021年5月22日土曜日

横浜市、川崎市にて8時間にわたり15㎞×15㎞という広範囲に未知の生物が現れた。その生物達は現代に生息する動物に酷似している見た目ではあるが、どれもこれまでに目撃された事の無い特徴などがあった。火を吹いたり、岩を吐き出したり、爆発を起こしたりなどだ。

不思議な事に解剖してもどういう身体構造でそれらの能力を使用しているのかは一切分からず、何処から現れたのかすらも分からない未知の存在だ。

そんな生き物達を世間では『魔物』と総称した。


青い光と共に現れた『魔物』はほとんどが獰猛で、目に付く人間を殺し建物を破壊した。

この魔物災害の死傷者は40万人にも上り建物の被害も酷く、今も救出活動が行われている。だがもう既に魔物災害から1週間経過しておりもはやこれ以上の生存者は望めず、次第に瓦礫の撤去や死体の掃除が主な仕事へとなっていた。

これほど大規模な被害が出たので、一週間経過しても世界中の話題はこれで持ち切り。各国もこの災害の真相を解き明かす為に救助隊や軍隊を派遣すると共に、魔物の死体を国に持ち返り研究を進めていた。



ネット上には魔物災害関連の動画が沢山あった。被災地などに入ってそこの現場を移すだけで数字が取れるので、いくら警備をしていても夜中に被災地に侵入する者は跡を絶たなかった。とある配信が公開される2日前までは。


その配信とは夜中に被災地に忍び込んで死体を映そうとしているもので、チャンネル登録者数1000人程度の4人グループの男子大学生達の配信。

これはチャンネル登録をしている者しか見れない配信で、視聴者全員が彼らのファンで誰も通報などせず運営に通報される事なく死体などを移していた。

ただ1時間経過した所で異変が起きた。


4人で横に並んで歩いていると、端を歩いていた一人が突然姿を消したのだ。

その者が消えた瞬間はカメラには写ってはいなかったので場所が分からないが、3人はそれをイタズラかと思い「お前隠れんなってw出て来いよww」と笑いながら、その消えた者を探し始めた。

だが次の瞬間、カメラの目の前でチャンネルのリーダーである男が消えた。消えたと言っても一瞬にしていなくなったのではなく、真っ黒の地面に落ちる様に消えたのだ。

残った二人が焦りながらも地面を照らすと、そこの地面は真っ黒だった。ライトで照らしても光が一切通らない闇だった。



そして後日、その消えた二人は行方不明者としてテレビに報道される事となった。

被災地に出来た危険な黒い空間の危険性の説明と共に。

_______________________

〈土曜日〉

朝目が覚めてその配信をベッドの上で見て、内野はため息をつく。


彼らが落ちたのは憤怒の使徒が作りだした異空間。夜で真っ暗だったから見えなかったんだろうな。

この黒い空間の近くには人が行かない様に蛍光テープとコーンで敷居があったはずなのに、彼らはそれを飛び越えてしまったばかりに死んでしまった。

それ以降はその黒い空間を恐れて夜間に被災地に忍び込む輩は減ったけど、世間の不安はかなり大きくなったな。魔物が消えてもうこの災害を終わったものだと考えていた人が多かったのに、更なる犠牲者が出てしまったのだから仕方無い。

でも…まだこれは10回中の1回目に過ぎない、始まったばかりだ。今後の日本がどうなるのか想像は出来ないけど、10回もこんなことがあったら国としてどうなってしまうのだろうか…


そんな国の未来へ不安を抱えながらも新島達と共にまた訓練へと向かった。

今日以降の訓練は昨日のゲームでの公表結果を活かしたものであり、いつもとは違う事を各々やるというので気を引き締めて。



〈日曜日〉

翌日。この日は他グループの大罪と直接会って話すという約束をした日で、内野は梅垣と共に集合場所へと向かっていた。

集合場所はとある建物の会議室。『色欲』の西園寺がレンタルした場所らしく、分かっているのは建物の場所と部屋番号だけだ。


地図アプリで調べてみたけどそこまで大きな建物じゃないみたいだし、当然部屋もそこまで広くないだろう。戦闘する気は無いって言いたいのかな。


昨日の訓練時にも川崎と少し今日の事については相談していたが、川崎から「心配いらないから下手に警戒した態度を取るな。梅垣は隠密も使うな」と言われていた。川崎がそう言うなら特に気負わなくても大丈夫だと、内野の心は緩んでいた。

梅垣は内野と違い魔力感知で常にプレイヤーの位置を捕捉しておき警戒し、今回集まる14人以外の魔力の反応を感じたら即内野と川崎に報告すると言う。


電車内で内野と梅垣は二人隣合って座っているが、二人ともそんなにガツガツ話しかけるタイプでは無いので二人の間には沈黙が流れ続けている。

電車の音や周囲の者の声があったので静かではなかったが、お互い黙っていて気まずい雰囲気は感じざる得なかった。


内野が話題作りとして「何かゲームとかってやります?」と聞こうとしたが、それより先に梅垣は口を開いた。


「その…内野君に一つ聞きたい事があるんだ。君は黒狼の事をどう思っている?」


「どう…と言いますと?」


「これからは黒狼と共闘していくつもりなんだろ?

でも君の仲間はそいつに殺……やられた。そんな奴を心の底から信用出来るのか聞きたくてな。

それにあいつを倒す事を目標として過ごしてきた俺からすると…少々複雑な心境でな……」


梅垣は電車内なので、周囲の人にはあまり聞こえてないだろうが一応「殺された」という過激な言葉を避けて言い直す。


そうだ…梅垣さん黒狼に仲間達を殺されたんだ。そんな相手と俺が共闘していくとなって何も思わない訳が無い。俺だって新島を殺されて黒狼に怒りを向けていたしな。でも…新島を生き返らせてからはそんな怒り忘れた。

だから全面的に信用する訳ではないが、黒狼を利用してやるのは確かだ。


「…もしも『蘇生石』が無かったら、俺は黒狼を許していなかったと思います。でも新島を生き返らせてからはもう俺の中にはあの時の怒りはありません。

だから…クエストでより活躍する為に俺は黒狼と一緒に戦います。これ以上仲間を死なせない為にも」


「やっぱり心の救いは『蘇生石』か…」


梅垣は背もたれに背をべったりと付け一息吐く。

梅垣の言った「やっぱり」という言葉が引っかかり、内野は恐る恐る尋ねてみる。


「やっぱりっていうのは一体…」


「…迷っているんだ。かつて黒狼に殺された俺の仲間達を生き返らせるべきか、俺のエゴであいつらをここに再び引き戻して良いのか。

かつてのリーダーの戦闘の才能は確かなものだし、生き返らせれば確実に活躍してくれるだろうから…だからこそ迷ってしまう」


「あっ…黒狼に負傷を与えたというリーダーだった方ですか…」


「ああ。いつも通り合理的な判断を下すのならば生き返らせようと即決していただろう。だがあいつの真意が分からないし迷っていてな…」


相手の真意が分からず生き返らせるのを迷っていると聞き、内野は一瞬だけ新島を生き返らせたときの事を思い出す。

内野が新島を生き返らせた理由は、ただ内野が彼女に会いたかったからだ。新島が生き返る事を望んでいたかどうかなんて知らずに。

でもそれが間違っているだなんて思わなかった、思いたくなかった。


「その…また会いたいからって理由で生き返らせるのはダメなのでしょうか。松平さんが蘇生石を使ったのだって飯田さんに会いたいからって理由だったと思いますし、俺だってそうだったので…」


「…俺のはそういう感情とは少し違う。

第一、俺は別にグループでもそこまで話すタイプでもなかったしそこまで特別親密な関係の者はいなかった。ただ共に戦う仲間って感じでそれ以上の交流も無かったしな。

だからそんな俺が生き返らせてよいものか…」


ここで、梅垣の言葉を遮る様なタイミングで電車は目的の駅へと到着した。

二人とも話に集中していてアナウンスの音声が鳴るまでそれに気が付いていなかったので、話を切り上げて急いで降車する。


駅から出ても一度話を切り上げてしまったからか梅垣は再びその話をしようとはしなかった。

内野も梅垣が最後に言った「そんな俺が生き返らせてよいものか…」という言葉への返しが見つからなかったのでさっきの話を切り出せず、二人は別の話をしながら目的地へと向かう事になった。






集合場所の建物は駅から徒歩10分程度の所にあり、二人はその建物の前に立っていた。


「もう半分以上の者が一室に集まっている。どれも大きな魔力の反応であるが、以前クエスト前に会った時の川崎を超える大きさのものは無いな」


「単に川崎さん以上にMP上限が高い者がいないのか、他の人達も訓練しててMPが減っているのかのどちらかですね」


二人が建物を見上げていると、3階のとある一室の窓が開いてその中からある者が顔を出してきた。

その人物とは『色欲』の西園寺で、窓から顔を出して内野を見つけると手を振ってくる。


「あっ内野君か!もう結構集まってるから早くおいでよ!」


「あ、分かりました!」


西園寺はそれだけ言うと窓を閉めた。

その時、梅垣は顔に不信感を露わにしていた。


「あまりにも外を見るタイミングが良すぎるな。西園寺…あるいは奴の周りには魔力探知系のスキル持ちがいるのかもしれない」


「確かにそうですね。でも敵ではないですしそこまで警戒する事も無いと思いますよ」


「…すまない。この建物の中にいるのは全員が俺達よりも高レベルの者達で、警戒を緩めるのは中々難しくてな…」


今日集まる14人はそれぞれのグループのトップ、そんな者達の魔力を感じ取れてしまう梅垣が警戒してしまうのは仕方のないこと。

ただ川崎の言う通りにする為にも戦闘になる事はないと心を落ち着かせ、二人は西園寺達のいる部屋へと歩いて行った。



部屋は3階の端なのだが、部屋の前にはスーツを着た強面の中年男性が待ち構えていた。男は内野の顔を見ると何も言わずに部屋のドアを親指で差す。


その者を見て内野がキョトンとしていると、梅垣が耳打ちする。


「彼もプレイヤーだ。恐らくこの部屋にプレイヤー以外の者が入らない様に見張っているんだろう」


「なるほど。端っこの部屋なのは見張りやすいからですかね」


内野はそんな事を言いながらドアノブに手をかけて扉を開けた。


すると二の字に置かれている机に男女混ざったそれぞれ10人の者達が座っていた。見知った顔と見知らぬ顔の者が混じっている。


『怠惰』は川崎・田村の既に何回も顔を合わせている二人。

『憤怒』は平塚・笹森と、これまた二人とも知り合い。

(笹森は内野が初めて仮面達に襲われた時に助けてくれた同じ学校の下級生の者)

『嫉妬』は愛冠ティアラ・俊太で前回のクエストで会った者。

『色欲』と『暴食』である二人の相方は全く見知らぬ者達。

そして『傲慢』はまだ来ていなかった。

なので内野がこの場で全く知らない者は『色欲』と『暴食』の相方の二人だ。


そして部屋に入って開口一番に二人が聞いたのは歓迎の言葉などではなく、女の怒声だった。


「西園寺ぃ!アンタさっきから私を煽ってんの!?絶対ぶっ殺す!」


このメンバーで揉め者と言えばもう大体予想は付いていたが、大声を出していたのは愛冠ティアラだった。

____________

あまりここの話は長くするつもりはありません

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