第202話 結果発表

前回までのゲームのルールが曖昧だったので後付けで付け加えます。今回にも関わる話なので

・赤い帽子の者に直接触れたら捕まえたという判定になる

_____________


内野、田村、柏原が3人揃って脱落組に戻ると、川崎含めその場にいた全員が驚いた顔をしていた。


川崎は一番に前に来ると、田村の顔と内野の顔を交互に見る。


「まさか内野君が田村を捕まえたのか?」


「はい。『穴掘り』とさっき習得した『第三者視点』を使って田村さんを…」

「俺と協力し、俺の弟子が田村さんを捕まえた!どうだ凄いだろ清水さん!」


内野の言葉を遮って柏原が前に出ると、梅垣が居ない代わりか清水に自慢を始める。清水はそれ聞くと柏原の前に立つ。

そして片手で柏原の頭を無理矢理掴み持ち上げる


「せめてゼッケンを着て参加者と分かる様にしろ馬鹿」


「痛っ…イデデデデデ」


柏原と清水の二人がそんな事をしていると、他の青い帽子を被った者達やまだ残っていたゼッケンを着ている参加者が続々と帰ってきた。


怠惰グループのプレイヤーと薫森はゼッケンを着ている吉本・梅垣・松平・工藤・進上をここに連れてくると、一か所に集まり相談を開始した。

それぞれの番号の者の評価を纏めているのだろう。


その間は時間があるので、帰ってきたメンバーに声を掛ける時間が出来た。

先ず話すのはクエストの同期である工藤と進上。


「二人ともよく最後まで残れたね!工藤が氷柱に乗って逃げてたのは見たけど、進上さんはどうやって残ったんですか?」


工藤は氷柱に乗って逃げていただけなのか内野の言葉に頷くだけ。

進上は内野の質問に笑顔で返答する。


「戦って粘ってたんだ。前のクエストで習得した新しい技術を使ってね」


「真っ向から怠惰グループの人と戦って粘れたんですか!?で、その習得した新しい技術とは?」


「…試しに今から僕の攻撃を避けずに防御してみてよ。しっかり直前で止めるから」


進上が剣を出して皆から少し距離を取るので、内野は進上の前へと立つ。そして「行くよ」という進上の合図で、進上は内野の頭に向かって横に剣を振った。

内野は腕を立ててその進上を防ごうとする。



だが刃が内野の腕に当たる瞬間、進上の剣は青い光と共に消えた。

これはインベントリでアイテムを仕舞ったり取り出したりする時に起こる光で、攻撃の直前で進上は剣をインベントリに収納したのだ。


そして剣が消えた事で、本来内野が刃をガードして止まるはずだった進上の腕は止まらず、そのまま進上の手が内野の顔に触れた。


「これがインベントの収納を利用した技。本当は収納後すぐに武器を取り出せたりすると良いけど、まだ武器を仕舞ってから取り出すのには2秒ぐらい時間が必要だし実戦で成功させるのは難しいけどね。

これをした後、スキルを使い直ぐに攻撃すると相手は中々防げないから、結構良いダメージを入れられるんだ」


「な、なるほど!相手の意表を付いた動きが出来るので練度を上げればかなり使えるかもしれないですね」


インベントリをこんな風に使うなんて思いつかなかった…でもこれを使えたら戦術の幅が広がりそうだ。今度俺もやってみよう。


内野が褒めると、進上は嬉しそうに頭を掻いて笑みを浮かべる。


「でも薫森から聞いたけど、内野君だってスキルの練度がかなり上がっているらしいね。猛攻を避けながらもスキルを使い反撃してった聞いたよ」


進上が内野の話を出すと、不機嫌そうに腕を薫森がやってきて話に混ざってくる。

梅垣が大した傷を負っていないので、恐らく梅垣を捕まえられなくて不機嫌になっているのだろうというのが内野にも察せられた。


「無詠唱でのスキル発動はかなり集中力がいるし、あそこで君がスキルを発動出来たのは素直に称賛するよ~

でも一つ違和感もあったんだよね。身体が硬くなるスキルで俺の短剣を止めてたけど、その時君は驚いていたし次の行動が遅れていたよね?

あの岩を飛ばすスキルの時も驚いていたし、まるで君の意思とは別で勝手にスキルが発動したんじゃないかと勘繰るぐらい違和感があった。

…梅垣を捕まえられなかったのはその違和感が心に引っ掛かっていたからだ」


最後に梅垣に負けた言い訳をしてしまったのでこの発言は周囲の皆から「はいはい言い訳ね」と信用を失われいたが、当事者の内野は薫森の鋭さに驚いていた。


「あ…ああ。薫森の言う通りだ。あれは俺が発動したスキルじゃなくて黒狼が発動させたものだ」


「「えっ!?」」


内野の言葉を聞き、これは薫森の言い訳の為の嘘だと思っていた怠惰プレイヤー達は驚く。

皆からどういう事なのか聞かれる前に、内野は素直に黒狼がスキルを発動できる事を述べていく。


「どうやら黒狼は俺が無詠唱で使えないスキルだとかも勝手に使えるみたいで、薫森との戦闘中『ストーン』『装甲強化』というスキルを俺の意思と関係なく使いました。

二つともこの指輪を付けている左腕から発動したので、黒狼がスキルを使えるのは俺の左腕だけかもしれませんが、戦いにおいて役立つ事は確かです」


他の者達も当然驚いていたが、川崎だけは何が合点がいったのかスッキリとした顔をしていた。


「いきなり無詠唱で使用可能…か。もしや黒狼は『独王』『第三者視点』も使っていたんじゃないか?」


「えっ…」


「ほら、君は清水と戦っている最中に突然『第三者視点』を使える様になっただろ?それが黒狼の仕業なんじゃないかと思うんだ」


「なるほど、そう考えると黒狼が『第三者視点』を使っていたというのは分かりますが…『独王』を使っていたとは?」


内野がそう言うと川崎は塗本の方を指差す。

塗本は何をする訳でもなく脱落者達の近くである椅子に、ぼーっと遠い目をして座っている。


「実はさっき塗本にも青い帽子を被せて鬼役をさせようとしていたのだが、準備体操しながら「力がいつもより出ない」とぼやいていた。

君は『独王』で塗本と繋がったままのはずだし、黒狼が塗本のステータスを君に移しているんじゃないかと思ったんだ」


「なるほど。

そう言われると清水さんと戦った時よりも薫森と戦った時の方が少し動いやすかった気が…する様なしない様な……ちょっとあまり意識していなかったので微妙ですね。

てか…塗本は今なにやってるんですか?」


「同じ体に居続けているからかたまにあるんだ。魔物の頃の自分と、日本で暮らした塗本、双方の記憶があって自分を見失う事が。放置しておけば戻るから放っておいて大丈夫だ。

『独王』の話に戻るが、黒狼が『独王』で塗本のステータスを奪っていたとしてもさっき言ってた通り左腕にしか効果が無かったのかもしれないし仕方ない。

ただ次のクエストまでには明らかにしておきたいから、今後も検証は続けよう」


「はい」


川崎に返事をしながらも内野は塗本の方を見ていた。

二つの記憶があるというのがどんな感じなのかイメージ出来ないので分からないが、平然としている様に見えても塗本は結構苦しんでいるんじゃないかと心配しながら。





数十分経過すると鬼を務めていた怠惰プレイヤー達の話は終わり、皆の動きの公表が始まった。順番はゼッケンの番号順だ。

一応全員の評価は聞くが、人数が多いので頭に入るのは顔の馴染みの者の評価のみだった。

(久々に出るキャラの名前などがあるので、忘れている可能性が高いキャラは説明を入れてます)



1番…梅垣

「赤い帽子の者4人捕まえ、トップの成績。

三次元的な機動が相手を翻弄し、並みの怠惰プレイヤー以上の機動力を誇る。批評のしようがない」


5番…木村

「盾での防御がメインで、両手に持っている盾で攻撃を捌く能力はある。ただ足を動かしながらの防御は不慣れでほとんど防げていなかったので、今後は動きながらも相手の攻撃を読み防ぐ訓練が必要」

(正義感の強い中学二年生。ゴーレムのクエストの洞窟の中で初めて出会った)


13…川柳

「『ドリルウェポン』と合わせた槍の突きは強力だが、槍の技術が伴ってないので、今後はスキルの訓練よりも槍の技術を磨いていく」

(兜と下半身にのみ鎧を纏っている不思議な格好をしているおじさん。強欲グループではそこそこの古参。内野の学校に職場が近いらしく、仮面達に襲われた時にも助けに来てくれた)


15…松平

「赤い帽子の者を一人捕まえた。

遠距離からの弓の命中率はかなり良く、木の上に乗り射線を確保するのも早いので相手を常に監視し隙を突ける。日々迷彩服を着ている事も含め、森での戦闘は怠惰プレイヤーにも劣らない」

(元強欲グループのサブリーダー。伊達メガネと迷彩服が特徴で弓を使っている人)


16…飯田

「大楯での防御が得意で、防御系のスキルも豊富で怠惰プレイヤーにも劣らず前線には立てる。だが攻撃能力があまり無い。

契りの指輪で他の者と常に行動出来るが、今後は攻撃能力を伸ばすか、このまま防御に徹する様にするか早めに選択する必要がある」

(元強欲グループのリーダー、1ターン目のクエストが終わるまでリーダーという名の重圧に耐えていた。今はトップの役が実質川崎なので、解放されたかのような良い顔をしている)


25…大橋

「『サンドウォール』『サンドアーマー』の無詠唱使用時の砂の操作は良い。スキル操作の才能があり自由に砂で足場を作ったり出来ていたので、防御だけでなく皆の移動のサポートも可能だと踏み、今後は足場作りの練習だとかもする」

(フレイムリザードのクエストで出会った筋肉ムキムキの大柄な男性。豪胆な言動をしているが、クエスト経験はある方で判断能力も良く、意外に冷静だったりする)


26…泉

「弓の練度が足りず、動きながらの狙撃や遠くの敵への命中率が低いので弓だけでの戦闘は厳しい。なので剣など槍やらをサブウェポンとして扱えるようにする」

(フレイムリザードのクエストで出会ったメガネをかけた弓使いの女性。内野との絡みはあまり無いが、フレイムリザードのクエストで木村を残して逃げたりなどせず最後まで戦っていたので意外と内野の中での好感度は高い)


31…慎二

「戦闘慣れしておらず全体的に能力が足りてない。他の武器も手に合う武器があるかもしれないので、素早く動き回る訓練をしながらも武器を探した方が良い」

(怠惰の川崎賢人の弟。まだあまり関りが無いので詳しい事は分からないが、前回の横浜でのクエスト以降テンションが低い)


32…尾花

「鬼に突貫して即捕まったので評価は難しい。追試」

(黒狼のクエストが初クエストで、明るくムードメーカーになる者。妹を守る為に木村と進上と共に前回のクエストを行動した)


33…進上

「赤い帽子の者を一人捕まえた。

視野が広く常に周囲を見て動き続けられ、接近戦の能力は怠惰プレイヤーに引けを取らない。ただ、スキルを使おうとすると少し隙が出来る」


34…森田

「落ち場を被って隠密し、赤い帽子の者の隙を見てスキルで攻撃をするのは良い。だがあまりに動くのが得意じゃなく、追いかけるのも、逃げるのも中途半端。森を駆けたり相手の攻撃を避ける訓練を今後していく」

(メガネをかけ頭が良い雰囲気のある高校三年生。

黒狼のクエストが初クエストだが、その時に魔物を見てもあまり動揺しないぐらい冷静で、冷酷にもなれる者)


41…新島

「全体的に能力が足りていない。『闇耐性』持ちで重要な立ち位置にいるので攻撃能力よりも動いて逃げる方面の訓練をしていく」


42…工藤

「赤い帽子の者を捕まえられてはいないが、類稀なるスキルの操作技術で氷柱を操作し、数々の鬼からの追跡を逃れた。

逃げだけじゃなくて攻撃にも使える技術なので、更なるスキル操作向上を目指すべき」


43…松野

「『テレポート』があるので逃げるのは得意。この『テレポート』と不意打ちが強くなる『隠密の一撃』というスキルを合わせると良いコンボだが、その後の攻撃が弱い。

一発当てて逃げるというスタイルで戦うか、接近戦の技術を習得する」


44…内野

「赤い帽子の者を一人捕まえた。

多様なスキルで色んなスタイルの戦いが出来る。剣術だとかの接近戦特化の技術よりもスキルの練度を上げる方針で訓練する。黒狼に出来る事なども更に検証し、新しい戦術を考える」


45…吉本

「赤い帽子の者を二人捕まえた。

回避に技術は見事なものだが、攻めが苦手。清水との模擬戦で攻めの能力を鍛える」

(怠惰グループのプレイヤーで気弱な口調な中学1年生。口調は自信なさげだが意外にも大胆な所がある)


各々自分の評価に対して嬉しそうにしていたり悔しそうにしていたが、8割以上の者があまり良い顔をしていなかった。


特に内野の目に付いたのは新島の表情だった。

同期の他3人は全員良い評価だったが、新島だけが低かった。それなら普通は悔しそうな顔になったり表情が曇るはずだ。

それなのに、新島は何か決意を固め直したかのような真っ直ぐな目をしていた。


内野には新島のその決意に心辺りがあった。それは新島が内野の家に泊った初日に聞いた新島の武器についての話だ。


『それで私の武器はこれのお陰で手に入ったの。『自殺への勇気』という私以外誰も持っていないであろう武器を。自分から本気で死への一歩を出せた私は、今生きている誰よりも死への勇気を持っているという…』


『でも…運動センスも無く、工藤ちゃんみたいにスキルを使う才能も無い私にはこれしか無いの。命を使って戦うぐらいしか…』


内野はあの時の新島の言葉を思い出し、不安になって思わず新島の目を凝視していた。

新島も横の内野が見てきているのに気が付き目を合わせてくる。


なぁ…新島、まさか「やっぱり私には『自殺への勇気』という武器しか無い」だとか考えてないよな?


本当はここで内野は新島にそう尋ねたかったが、周囲に人が多くて今は新島に真意を聞くことは出来なかった。

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