第200話 更なる乱入者
「じゃあ…俺が本気を出せる様に頑張ってよ」
薫森はそれを合図に前に踏み込み内野に距離を詰めてくる。その間も『シャドウウェポン』は使っており内野は回避に徹していたが、そこに薫森の攻撃が加わるので余裕など一切無い。
しかも術者の薫森は『シャドウウェポン』の攻撃に喰らわないので自由に動け、『第三者視点』で見えていても内野に避けられる攻撃には限りがあり、ものの5秒も経たず内野の身体は傷だらけになる。
薫森の攻撃が貫通していないのは手加減のお陰か、それとも内野の防御力の高さのお陰かは分からなかったが、このままでは何も出来ずに終わるのは容易に読めた。
黒狼っ…何か無いのか!?
心の中で黒狼に何か手が無いか尋ねているが返事は無く、遂に飛び掛かってきた薫森の攻撃を捌ききれず、短剣の刃が内野の腕に刺さってしまった。
「ぐっ…」
内野が腕の痛みに少し声を出すと同時に、攻撃を負った内野と攻撃を当てた薫森の二人は異変に気が付く。
なんと刃が刺さった内野の左腕の皮膚が効果しており刃が抜けないのだ。
これは…『装甲硬化』!さては黒狼がやってくれたな!?
それはチャンスだった。
まだ薫森は内野の腕に刺さって抜けない短剣を握っている最中で、しかも地に足が付いてなく動けておらず内野の攻撃が十分に届く距離だったからだ。
内野は左手を開いて握っている剣を落下させると直ぐにそれを右手でキャッチし、そのまま薫森の身体を狙って横に剣を振った。
だが薫森は空中で自分に向かってくる刃を両手で白刃取りして防ぐ。
内野が状況を把握するのが薫森も早ければ通用したであろう攻撃だったが、残念ながら薫森が短剣から手を放す方が僅かに早かった。
内野は振り払う様にそのまま剣を横に振りきると、薫森は飛ばされるがまま横に飛んだ。だが空中で態勢を直すと木を蹴って足場にし、再び内野に飛んで来る。
その時に薫森は青い帽子が落ちてしまっていたがそんな事を気にする様子はない。
まさか一度も地面に着地せず反撃に切り返してくるとは思わず、防御も出来ずに薫森の膝蹴りを喰らってしまった。
「ごほっ…ぐ……が……」
「伸びしろあるね内野君~でも楽しい時間はここまでみたい」
黒狼が『ストーン』を再び内野の左手の甲から発射していたが今度はそれを避けられていた。
膝蹴りがみぞおちにクリティカルしたので内野は息が出来ず、あまりの痛みに倒れて悶える。
クソ…俺が『装甲強化』でのサポートに咄嗟に反応出来なかったせいだ……もっと息を合わせられればもう少し戦えたはずなのに……
内野は身体に力を入れ立ち上がろうとするも力が入らず倒れる。
それを見て薫森は満足気な顔をし、さっき飛ばされた時に落ちた青い帽子を拾おうと振り返る。
だが振り返ると、その青い帽子をとある者が持っていた。
「青い帽子を被っている奴が鬼のはずだが…お前は被っていないみたいだな」
「え、梅垣じゃん。お前いつから見てたんだよ~」
そこにいたのは梅垣だった。
ゼッケンの番号は1で、血で白い布のゼッケンの赤く変わっているが梅垣の怪我は大した事無さそうでピンピンしている。
「お前が内野君に飛ばされ帽子を落とした所からだ。
で、ルールじゃ白いゼッケンを着ている者を捕まる者は青い帽子を被っている者だけだったはずだ。
川崎さんが居ないから分からないが、帽子を被っていないお前が内野君に攻撃をするのはルール違反じゃないか?」
「ん、じゃあ青い帽子を被ってから捕まえるよ。早くその帽子を返してよ~」
「取ってみろ、次は俺と追い駆けっこだ」
「ハハハハハ、最高だね!俺もあんたとは戦いたいと思っていたんだ。いいよ、鬼になってやる!全魔力を使ってでも捕まえてやる!」
梅垣にそう言われた薫森は笑みを浮かべ、梅垣はいつ飛び掛かってこられても良い様に両手の剣を前に構える。
二人の戦いを間近で見れると期待し、内野は這いつくばりながらも二人に目をやり息を呑む。
森は薫森の『シャドウウェポン』が本領発揮する場、梅垣さんが負けるとは思えないし思いたくないけど……どっちだ?どっちが勝つんだ?
期待の目で二人を見る。
そして黙って向き合ったままの二人は、内野が息を呑んだのと同タイミングで動き出した。
梅垣は木を足場にして3次元的な動きを常にし薫森の『シャドウウェポン』を躱しながらも、隙を見て薫森に対して攻撃を仕掛け、薫森の反撃が来る前に『ステップ』で引く。
この動きを繰り返していた。
二人の勝負を少し離れて見ているというのに、内野は目で梅垣の動きを追う事が出来なかった。
速すぎて追えない…いや、目で追えないのは速さだけが原因じゃない!
本来ならある程度の軌道が読めて軌道の先に目をやれるが、梅垣さんは予測不能なタイミングで曲がっているんだ!
森で強くなるのは薫森だけでなかった。梅垣は平地ですら『ステップ』で3次元的な動きをしていたので、森ではその動きが加速していた。
梅垣を捕捉し『シャドウウェポン』でダメージを与える事は無理だと考え、薫森は『シャドウウェポン』を自分の周囲にしか使わなくなった。
〔目が3倍無いと追いきれないし、しかもヒット&アウェイか…じゃあ近づいてきた時に囲ってやるよ!これなら見るべき場所は限られる!〕
薫森は戦術を変えてそう心の中で意気込む。
そして梅垣は戦術を変えず、さっきと同じ様に薫森の裏を取ると剣で攻撃を仕掛けてくる。
薫森は梅垣の攻撃を防いでから『シャドウウェポン』で反撃に出ようとしていたが、梅垣は薫森の傍まで来ると『ステップ』でほんの少しだけ軌道を逸らす。
そして二人の距離が離れると梅垣は口を開く。
「これじゃあまるで俺が鬼だな」
「ッ!」
梅垣のその言葉は薫森の情緒を揺さぶるのには十分だった。
さっき薫森が行おうとしていたのは、梅垣が突っ込んできた所でカウンターを入れるというもの。
これでは梅垣が薫森を追いかける様にしか見えず、それはさっき梅垣と戦う前にいった薫森自身の言葉とは真逆だ、薫森はそれを許容出来なかった。
「クッソムカつくけど確かにそうだ…やっぱやーめた!正々堂々とお前を捕まえてやるよ」
薫森はそう言い梅垣を追ってふたたび動き出し、二人は内野がいる場所から離れていった。
梅垣さんのお陰で助かった…それにしても二人の戦闘は凄まじかったな。梅垣さんは相変わらず強いけど、これが実戦で薫森がカウンター作戦を使っていたら勝負の行方は分からなかったかもしれない。
俺も『ステップ』を持っているから梅垣さんみたいな事やってみようかな…
二人の戦いぶりに尊敬の念を送り、内野はゆっくりと立ち上がると赤い帽子の者を探し始めた。
森の中を歩いていると木が倒れていたり血の跡があったり、戦闘の跡が増えて来ていた。
さっきまで内野がいた所にもあったが、進むにつれてそれは酷くなっていた。
人が集中していたのか?あまりにも血の跡が多すぎる気がするのだが…
「私がいるからですよ。皆さん私を捕まえようとしている所を狙われて捕まったんです」
内野の心の中で浮かんだ疑問に答えたのは田村だった。田村は木の根元辺りに背を付けてメモ帳に何か書いていたようだが、今は視線を内野に向けている。見た所田村に傷は無い。
「…誰を捕まえられなかったんですね」
「ええ。私を捕まえられる可能性があるのは梅垣君ぐらいだと思っていたのこんなものでしょう。で、内野君はどうします?」
「追い駆けない訳がないじゃないですか」
内野がそう言うと田村はメモ帳とペンをスーツの内ポケットに仕舞いゆっくりと立ち上がる。
「では制限時間は10分。ここからあまり離れて逃げたりしないのでそれまでに私を捕まえてください」
「制限時間?」
すると田村は上を指差した。
内野はそれに従い上を向いてみる。すると、なんと上には木の枝にぶら下がっている青い帽子を被った者達が4人いた。
彼らは内野と目が合うとニタニタと笑みを浮かべたり、手を振ってきた。
「なっ!待ち伏せですか!?」
「いえ、彼らはまだ動きませんよ。10分経過しても私を捕まえられなかったら別ですけど」
「なるほど…だから時間制限と言ったんですね」
「ええ。ちなみに君であってもルールを変えるつもりはありませんよ。
ま、そろそろこのゲームを終わらせたかった所だったので最後に来たのが気味でちょうど良かったです。
さ、タイマーをセットしてください」
田村は上にいる者にそう指示を出し、内野の方へと向き直る。
薫森に続き、次は田村とのタイマン。逃げる側か追い駆ける側かという違いはあるが難易度が高いという事には変わり無いだろう。
誰も一切攻撃を当てられなかったみたいだが…やってやる!
内野はそう意気込み、一歩目を踏み出し…
「ちょっとまったぁぁぁぁぁ!」
内野が一歩踏み出そうとしたところで、どこからともなく聞こえてきた謎の声に内野だけでなく、田村と上にいる怠惰プレイヤー達も「なんだなんだ」と辺りを見回す。
内野の横の木の葉がガサガサと音を立てたと思うと、そこから一人の男が降ってきて内野の真上に着地した。
「内野、俺も田村さんを倒すのに協力するぜ」
「「柏原!?」」
その場にいる田村以外の者達がその者を見て声を上げる。
それは怠惰プレイヤーの柏原であった。ゼッケンを着ていないのでこのゲームの参加者ではないのは確定だが、何故かやる気満々だ。
一同はどうして柏原が参加しているのかは分からないが、「田村VS内野,柏原」の構図が出来上がった。
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