第199話 俺の相棒
薫森に遭遇してしまい、内野は急いで森の中を駆けて逃げる。
「あ~かなり敏捷性が上がっているみたいだね、学校での追い駆けっこの時に比べてスピード出る様になってるじゃん。俺の敏捷性は270ぐらいだし、結構数値は近いかもね。
でも君…森を走るの下手過ぎ。逃げる点数は今の所0点だね」
内野の敏捷性は247で数値で見るとそこまで大差は無かった。だが薫森は木々の間を縫い走るのに慣れているのか、着々と距離を詰めてきていた。
逃げてもだめだ…薫森が距離を詰めてきた所を光の玉で迎撃する!
内野は近づいてくる薫森をちょくちょく振り返り確しながら走り、反撃の機会を窺う。
そして薫森が短剣を持って飛び掛かってきそうな動作を見せた。
今だっ!
内野はブレードシューズの足裏に刃を生やしそれを軸として回転し、一瞬にして後ろを振り向く。
そして飛び掛かってくる薫森に向かってインベントリから出した剣を薙ぎ払った。
「おお、振り返りの速度は満点だね。だけど狙いはバレバレだよ~」
薫森は空中で飛び掛かる姿勢のまま短剣の柄でそれを防ぐ。ただ物理攻撃がそこそこ高い内野の攻撃を地に足付けてない状態でガードしたので、薫森は内野に剣を振られるがまま横に飛ばされた。
だが直ぐに態勢を立て直す。
「おほっ、結構力あるね~使徒を呑み込んだお陰かな?まともに喰らってたら危なかったよ、いや~ビックリ」
「…余裕そうに見えるが?」
「余裕だもん。だって所詮は高ステータスでのゴリ押し…黒沼みたいのね」
黒沼の名が薫森の口から出て、内野はある事が頭に浮かんで一つ尋ねたい事が出来た。
それは黒沼の本当の死についてだ。
「…時間稼ぎとかじゃなくて単純に聞きたいのだが…お前、黒沼が生き返れないって聞いたんだよな」
「うん。あの塗本って人が口を滑らせてくれたお陰でね~」
「で、その時に特に悲しんだりしなかったと川崎さん聞いたが…」
「そうだよ~
…え、もしかして仲間が死んだんだから悲しめよって言いたいの?」
「違うそうじゃない。ただ…お前と黒沼は『契りの指輪』でクエストを共に行動していたから、仲間の中で一番一緒にいた時間が長かったんだよな?
そんなお前が黒沼の事をどう思っていたのか気になって…」
「ああ…そういう事ね」
内野の言葉を聞くと普段よりも真剣な表情へとなり、変な口調で話すのを止めた。
「俺が黒沼と一緒にいたのは、アイツの『独王』があれば『傲慢』の椎名と戦えると思っていたからだ。
強い奴と戦いたいっていうのが俺の欲望…いや、強い奴と戦って勝ちたいって言った方が良いか。負けるのは腹立つし。
ま、その欲望の為に俺と黒沼利用し合っていただけなんだよ。
黒沼は魔物からの護衛と、プレイヤーを殺してレベル上げとQP稼ぎを行う為に俺を使う。
俺は椎名に勝つ為に『独王』を持つ黒沼に協力する…っていう関係だ。
愛着が無かった訳じゃないが、後半のアイツは可愛気が無かったし別に悲しくなんかないよ」
「後半のアイツは…って事は『独王』を手に入れる前の黒沼の事は…」
内野が更に深く尋ねようとすると薫森は両手を合わせて「パンッ」という音を発し、短剣を前に構える。
「今更しても意味が無い話は終わりにしよう。もう黒沼は君の心の中で生きてるって事で良いでしょ。
じゃ、再開するよ~今度はスキルを使用するから、加減はするけど頑張って避けてね~」
「ちょ…まだ話が…!」
内野は話をまだしたかったのだが薫森が勝手に動き始めた為、内野も動かなければならなくなった。
内野の足元から紫色の光が発光すると同時に、そこから槍が突き出してくる。過去に二度向けられた事があるスキル、『シャドウウェポン』だ。
地面や壁などから武器を生やせるというスキルで、森の中なのでそこら中にある木からも武器は生えてくる。
内野は必死にそれを躱しながら走るが、次第に武器が生えてくるペース早くなっていき、もう躱しながら逃げるのに限界を迎えていた。耐えられて数秒だろうというペースだ。
駄目だ…目が足りない!
森の中じゃあ四方八方から攻撃を飛んで来るから、必ず何処かしら死角が出来てそれに当たる!
薫森は内野から一定距離離れた所でただ『シャドウウェポン』を使うだけで余裕気だ。
もしも薫森がここで本気を出せば『シャドウウェポン』に加えて薫森自身からの猛攻も防がなければならない事になる。
そんな事は今の内野には不可能で、逃げ切る事も出来ないだろうと察し、もうこの時点でもう内野は半分諦めていた。
だが何故かそれから10秒経過しても、内野は『シャドウウェポン』の攻撃を躱しきれていた。
あれ…なんで俺この攻撃を避けれてるんだ?
攻撃のペースは確実に早くなっているのに、なんかさっきから急に動きやすくなった気がするのだが………あれ、おかしいぞ…何で俺の視界には
ッ!いや、これは『第三者視点』だ!
内野は気が付けば『第三者視点』で自分の後ろ姿を見ていたのだ。ゲームキャラクターを移す画面の様に自分の全身が見えている状態。
そのお陰で内野からは死角が無くなり、『シャドウウェポン』の猛攻を全て躱せていた。
ただこのスキルはさっきみたいに視界が塞がった時にしか使えないものだと思っていたので、内野自身どうして今発動出来ているのかは分からなかった。
もしかしてこれがスキルに慣れるっていうやつか?
上位スキルは扱いが難しいとさっき聞いたが、こんなに素早く習得出来るものなのか?
すると内野のそんな疑問に答える様に、指に付いている『哀狼の指輪』の狼の装飾の目が赤く光った。
それに気が付いた内野は攻撃を躱しながらもある事を閃く。
黒狼は俺の『強欲』を暴発させたし、もしかして俺の他のスキルも勝手に使う事が出来るのか?
それで今は『第三者視点』を使って俺をサポートしているのか?
…沢山プレイヤーを殺して黒沼を闇で呑んだお前は嫌いだけど。もしかすると戦闘中に俺をサポートする良い相棒にでもなってくれるの…か?
返答は返って来ないがなんとなくそんな気がし、内野は黒狼を試したくなった。
本当にサポートしてくれるのか。何が出来るのか。この状況を打開できるのか。
…ここでお前を試してやる。もう避けてばかりは終わりだ、攻めるぞ黒狼!
お風呂場で黒狼と会話した時の様に心の声が届くだろうと考え、内野は心の中で黒狼にそう告げると『シャドウウェポン』の猛攻を躱しながら薫森の方へと走り出した。
突然動きの変わった内野に驚きながら薫森は笑みを浮かべる。
「なになに、もしかして覚醒!?
躱す動きが良くなったと思ったら急にアグレッシブになったし…何か躱すコツでも掴んだ?それとも他に何か原因があるのかな?
ハハハ、これで少しは楽しくなりそうだね!」
長々とそう言いながら薫森も内野へと接近し、短剣で内野の振る剣を捌く。手加減の為か今は『シャドウウェポン』を使ってはいない。
内野が振るう剣は全て躱されるが、薫森の仕掛けてくる短剣での攻撃も内野は全て回避した。だが内野は全神経を回避に使っているので反撃に出る余裕は無い。
「あれれ、回避だけで余裕無さげだね?それじゃあこっちに来た理由は何だったのかな?」
ああ、俺には余裕なんて無いさ。
でも俺の指で高みの見物してるは奴はどうだろうな。
薫森が少しガッカリしながら勝負を終わらせようと更に内野に距離を詰めてきたその直後、剣を持つ内野の手の甲から薫森に対して岩が発射され、その岩が薫森の顎に横から直撃した。
それはさっき試しに使ってみた『ストーン』と同じものであったが、それは内野が念じて使ったものではなかった。そもそも内野はまだ『ストーン』を無詠唱で発動出来ないのでスキル名を言わねばならず、しかも手の平からしか発射出来ないのだ。
だから今スキルを発動したのは内野ではない、黒狼だ。
ナイスだ黒狼っ!
ステータスが高くてもスキルレベルが低く薫森をよろけさせる事しか出来なかったが、内野はその隙を逃がさない。
「ステップ!」
ステップで距離を素早く詰めながら薫森の腹に膝蹴りを入れる。薫森はさっきの意表を付いてきた攻撃に対する驚きを顔に浮かべながらも攻撃を手の平でガードする。
そして薫森は内野の顎を狙い拳を振り上げてきたので内野は後ろに下がってそれを避ける。
薫森は今の内野の動きに感心しており、驚きながらも目を輝かせていた。
「ま、まさかあんなに全力回避しながら無詠唱でスキルを使えるなんて思わなかったよ…もしかして回避するだけでいっぱいいっぱいって思わせる為に演技してた?」
「お前には教えねえからな」
「ふ~ん。まぁ、あれが演技だったかどうかは今から俺が本気を出せば分かる事だから…いいよ、別に教えてくれなくても。答えは俺が自分で判断するよ」
薫森が本気を出すと言いなんとなく雰囲気が変わったのを感じとり、内野は背筋が凍る。だがこの戦法でどこまで薫森に対抗できるのかワクワクもしていた。
これが俺の新しい戦闘方法…どこまで行けるか試してやる!
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