第198話 ゲームへの途中参加

前回描写し忘れましたが、清水と戦闘する前に内野は川崎達が用意した予備の服に着替えています。

なので槍で貫かれてボロボロになった服も、内野の着てきた服ではありません。

______________


清水との模擬戦も終わり、普通の訓練をする場所に戻ろうと4人は移動す。道中で吉本は「ふふふ…秘密を共有する仲ってなんか良いですよねぇ…」と嬉しそうに言っており、それとは対照的に川崎は悩んでいた。


「美海、お前は妙な所で積極的な言動をするから改めて釘を刺すぞ。絶対にあそこで知った事は口にするなよ?」


「はい、絶対に口には出しません!

と、ところで清水さん。柏原さんはお二人の決闘を見に行くといっていたのですが、さっき森で迷っていた時に空を飛ぶ柏原さんを見たのですけど…も、もしかして…」


「俺が投げ飛ばした。俺が早大と話していたら「清水さんはすっかり仮面の奴らの飼育員みたいな感じですね」とか言ってきたからな」


ああ…それで柏原は吹き飛んでたのか…


謎に吹き飛ばされていた柏原の謎が解けた。

此処はあの飛んできた場所からはかなり距離があるので、清水の物理攻撃力のステータスの高さを改めて実感する事となった。



川崎に付いて行き訓練場へと着くと、そこには衣服がボロボロになり血塗れの状態で倒れている者達が30人程いた。血まみれと言ってもヒールで傷は治っているので全員死にかけている様子ではなく、何故か全員それぞれ違う番号のゼッケンを付けている。

その中にいる顔見知りメンバーは新島・松野・大橋・木村・慎二・尾花・泉・川柳・飯田の9人で、皆レジャーシートの上でぐったりしている。


内野は直ぐに駆けつけ、一体何をしていたのか尋ねる。


「え、皆その服どうしたの!?そんなになるほどの厳しい訓練をしてたの!?」


「あ…ああ、内野か…そうなんだ、ちょっと厳しい訓練があってな…ここにいるのは全員脱落組だ」


松野が身体を起こさず倒れたまま、息を切らしながらそう言う。

一体どんなことをしたのかと気になり尋ねようとしたところで、川崎が説明を始めた。


「逃げながら追いかけるというゲームだ。

フィールドにいる赤い帽子を被った者を捕まえたら勝ちで、フィールドにいる青い帽子を被った者に捕まったら負けという単純なルール。

その帽子を被った者達は怠惰プレイヤーで、逃げる者視点と追いかける者視点で君達の動きを評価するのが目的だ。

だからずっと隠れてたりするのは何の意味も無いから辞めておけと全員に忠告はしてある。それに炎を出したり爆発を起こしたり、あまり派手に戦い過ぎるなともな。

そして、顔を覚えるのは大変だからそれぞれ違う番号のゼッケンを着てもらっている。ゲーム終了後に怠惰プレイヤーで話あってどの番号の奴の動きが良かったかだとかの公表をする。

ちなみに強欲プレイヤーの参加者は43人で、赤い帽子の者は5人、青い帽子の者は10人だ」


「なるほど…一応ルールは分かりましたが、何故皆こんなにボロボロなんですか?鬼は普通に俺達を捕まえれば良いんですよね?」


「森の中を駆ける動きだけじゃなく戦闘技術という面もみたいから、攻撃をして動きを封じてから捕まえろと俺が言ったんだ」


「じゃあここにいる皆は青い帽子を被った者にボコボコにされたと…」


ここにいる怠惰プレイヤーは全員が精鋭だ。そりゃあ勝てる訳がないよな…


内野がそんな事を思っていると、奥の方から一人の青い帽子の者が34と書かれたゼッケンを付けている男を担いで来た。

その担がれている男は森田であり、白目を向いて気絶していた。


青い帽子を付けている怠惰プレイヤーの者は森田をレジャーシートの上にゆっくり降ろすと、直ぐにまた来た道を戻って行った。


怠惰プレイヤーの人は一切怪我していなかったな。分かってはいたけど…多分ほとんどの人が怠惰プレイヤーの人にダメージを与えられてないだろう。


森田と強欲プレイヤーのこの惨状を見てそう思っていると、塗本が近づいて来てゼッケンを手渡してくる。


「内野君は44番ね」


「やっぱり俺も参加するんですね…」


さっきから塗本が44番のゼッケンを持ってこっちを見ていたのでなんとなく予想は付いていた。

内野は大人しくそれに従ってゼッケンを着用しようとすると、それと同時に清水が青い帽子を被り出したので焦り、思わずゼッケンを着る手を止める。


「ちょっと!?清水さんも参加するんですか!?

もしかして俺がゼッケンを着た瞬間にゲームスタートでリスキルをするんじゃ…」


「馬鹿、それじゃあ評価出来ないだろ?

しっかり指定の場所からスタートだ。それに俺が鬼役をする事になったのは、暴れている梅垣を止める為だ。どうやら追いかけてくる奴ほぼ全員を振り払ったらしい」


流石は梅垣さん、怠惰グループの人でも追い付けないスピードなのか。

てか知ってる顔でこの場にいないのは…工藤・進上さん・梅垣さん・松平さんの4人ぐらいか。松平さんと梅垣さんはともかく、あの二人はよくまだ捕まらずにいるな。飯田さんや大橋さんも既に脱落しているのに。


内野はその残っている4人に負けないぐらいの活躍をしようと意気込み、開始場所を案内すると言う川崎の後を付いていった。

これからゲームに参加する内野に、「頑張れ」と仲間達はそれぞれ言葉を掛けて手を振り見送った。






「その…どうして美海ちゃんもゼッケンを着ているんですか?参加者は強欲プレイヤーだけじゃないんですか?」


川崎に付いて行っているが、何故か隣にいる吉本も45と書かれたゼッケンを着ていた。


「美海にもこの訓練に参加してもらう。

美海は才能がまだまだ発展途上中だから指導者側よりも特別に訓練を受けさせる方が良いと思っての事だ」


「は、はいぃ…仲間の皆が追いかけてくるのを逃げ切れるか不安ですが頑張ります…」


そして川崎はある場所まで着くと「ここら辺で良いか」と独り言を言い、内野の方を向く。


「内野君はここからスタートだ。炎を吐いたり激しく戦うのはダメだぞ?

それにもしもMPが尽き生身の状態になってしまったら、その場ゼッケンを脱いでくれ。それがリタイアの合図で、青い帽子の者も襲ってこない」


「分かりました」


「じゃあ頑張ってくれ」

「私も応援していますから…一緒に頑張りましょう!」


二人はそう言ってその場を去っていき、ゲームが開始した。


なんかこうして森の中で一人になると最初のクエストの時を思い出すな。あの時はクエストが始まって急に一人になったから不安で堪らなかったけども、今は少しワクワクしている。

俺の力がどれぐらい怠惰側の人に通じるのか試したい。それに…清水さんとの模擬戦はただ相手が悪かっただけだと思いたいし。


取り敢えず周囲には青い帽子の者は居なさそうなので、内野は森の中を歩いて赤い帽子の者を探す事にした。


視界だけでなく聴覚も使い周囲を警戒しながら歩いて…


ん?


何処かから風を切るような音がし、内野は足を止める。方向は良く分からないがその音は確実に近づいて来ていたので、内野は急いで態勢を低くした。


何処だ?何の音これ?

人の足音でも無いが…え、これ結構近くない?


音が近づいてくるにつれて方向が分かってきて、内野はすぐに振り返る。

するとその直後、内野の頭上を大きな影が通過した。それが何なのか確認する為に内野は立ち上がった。


今内野の頭上を通過したのは、飛ぶ氷柱に手で掴まりぶらさがって移動している鉄の兜を被った女性だった。

氷柱、兜、女性、これらから連想出来る者はただ一人だった。


「工藤っ!?」


「悪いけど今は助けられないの!内野も直ぐ逃げて!」


工藤は氷柱にぶら下がり内野との距離を離しながらそう叫ぶ。以前から工藤は氷柱の操作が得意だったので、あの氷柱が木の間を縫って移動しているのには時に驚きは無かった。ただ自分で出した氷柱に乗って移動するという方法に対しては驚いていた。


ドラゴ〇ボールの桃白白タオパイパイみたいな移動方だな、すげー。

…って感心してる場合じゃない!逃げろって言ってたから後ろから鬼が追いかけて来ているはずだ!


内野は直ぐにその場から去ろうと走り出す。

が、その瞬間、視界の端に青い帽子を被った者が映った。


「あれれ~氷柱女を追い駆けてたら超大物はっけ~ん」


特徴的な口調を聞いただけで何者かが分かった。

工藤を追いかけて来ていたのは薫森だった。薫森は内野を見つけてニヤニヤと笑みを浮かべると、走るスピードを上げた。


「お前そっち側で参加してるのかよっ!」


「魔力感知を持っている梅垣が厄介らしく、5分前ぐらいに増員されたんだ~」


開始して1分もせず、内野は厄介な相手との鬼ごっこが始まってしまった。

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