第196話 VS清水
川崎について行っているが、その方向は皆が訓練している方向では無かった。
「皆とは違う所なんですか?」
「…今から特別に清水と戦ってもらう」
「えっ…一人で清水さんと!?」
「勝てるとは思ってない。ただ少しだけ君の力を見たいだけなんだ」
圧倒的格上との勝負と聞いて内野の中に大きな不安が現れるが、それと同時に川崎に「勝てるとは思ってない」というのに反抗してやろうというやる気も現れた。二人が驚く様な結果を出してやろうと。
そのまま進むと、周囲の木が少し伐採されていて他の所よりも見通しが良くなっている所にきた。
そしてそこには全く同じ姿の清水が二人立っていた。
一瞬目を疑ったが確かにそこには清水が二人いるので、内野は驚き声を上げる
「えっ!?もしかして清水さんって分身する能力を持っているんですか!?」
「は?何言ってんだ?」
「そうだよ~ん、清水っちは分身するんだよ~ん」
二人の清水は異なる反応をした。
一人はいつも通りクールな清水で、内野の言っている事が何なのか分からないという様子。
もう一人は、清水がするとは思えないアホみたいな口調で分身出来ると言う。ただその声は清水の声ではなかった。
内野が訳が分からず混乱していると、川崎がため息をつきながらアホ口調の清水を指差す。
「あっちの馬鹿は緑仮面の
「えっ…」
「はははーよく笑うのを堪えられたね内野君。いつもクールな人があんな事言ってたらツボらない?」
早大はそう言いながらスキルを解除して素の姿に戻る。
本物の清水は早大がしでかした事に不機嫌になり、早大の脇を肘で軽く突くと、早大はあまりの痛みにその場で膝を地面についた。
そして清水は内野の方を睨む。
「この馬鹿がやった事は忘れろ」
「はい、記憶から完全に消させていただきます」
完全に不機嫌になってるじゃん!
これから戦う相手が不機嫌な状態とか怖すぎる、加減とかされなかったら早大のせいだからな!?
内野は清水との決闘に臆して縮こまる。
そんな内野の様子を見て川崎までも不安げな顔をするが、直ぐにフォローの言葉を掛ける。
「あいつは『ヒール』要員としてここに呼んだ。だから手足が吹き飛ばされる程度の怪我なら問題無いぞ」
「手足が吹き飛ばされるのが問題なんですよ…余計に不安になってきました」
フォローになっていないフォローの言葉を聞いて不安は増えたが、内野は荷物を地面に置き、鉄の剣を手に出してから前に出る。
直ぐに戦闘が始まると感じ取った早大は「やっべ」と言いながら急いでそこから離れる。
内野と清水は10メートルほどの距離を開けて向かい合う。
そして川崎は早大がある程度離れたのを確認してからルールを説明する。
「内野君は『強欲』の使用禁止以外に制限は無い、全MPを使うつもりで全力で戦ってくれ。清水は全てのスキルの使用を禁止し、その槍一本のみで戦う事。さっきも言ったがこれは内野君の個の力を測る為のものだから、瞬殺は無しだぞ」
「分かってますよ」
清水はかなり大きなハンデを載せられているが、それでも内野に負けるなどと全く考えていない様で余裕気だった。
清水さんは油断しているしきっと戦闘中にもボロを出すはずだ。そこを突いて一泡吹かせる!
「俺のスマホのタイマーが鳴ったら試合開始だ」
川崎はスマホ5秒後にタイマーが鳴る様にセットし、起動する。
内野は剣を前に構え、清水も槍を自分の身体前に出して構える。そしてタイマーが鳴るのを待つ。
5,4,3,2,1…ポロンポロン♪
タイマーが鳴った瞬間、内野は剣を構えながら前へと踏み込む。清水は内野をその場で捌くつもりかその場から動かない。
動かないなら…
「火炎放射!」
内野は清水に向かって炎を吐くと、炎は清水だけでなく周囲の木を燃やしていく。木はもちろんの事、地面に生えている植物などにも燃え移った。
流石に放っておいたら不味いと川崎は水を出せる魔物を出して、内野の邪魔にならない程度に炎を消化した。
清水は炎を横に避けたが、炎の広がりはかなり大きく視界が塞がれ、お互いの姿を確認出来なくなった。
清水は少しだけ飛び上がり内野の場所を確認する。
〔…あいつ、潜ったな〕
上から見ても内野の姿は無かった。あるのは炎と、さっきまで内野がいた所にある穴だけだった。
清水が落下しながら槍を本気で振ると風が発生し、周囲の炎はその風によって払われ消えた。
清水は膝を曲げて着地すると周囲の地面を見渡す。だが地表からでは内野が何処にいるのか特定出来なかった。
だがそれは内野も同じであるはずだ、と清水は考えていたのでその場で動かず内野の行動を待つ事にした。内野が何を仕掛けてくるつもりか分からないが、それを受けてやろうと。
だが数十秒過した所で、内野が最初に地面に潜った穴から普通に出てきた。
清水はてっきり穴の中から隙をついて仕掛けてくると思っていたので、何も仕掛けず普通に地上に戻ってきた内野に驚いていた。
「奇襲を仕掛ける為に潜ったんじゃ?」
「そのつもりだったんですけど…清水さんが動かないから音で場所が分からないし、暗すぎて自分が何処にいるのかも分からなくなったので戻ってきました」
「そうか。足踏みして足音鳴らし続けておけば良かったな」
そんな事を言い合い、内野は顔に付いた土を払ってから再び武器を構える。そしてさっきと同じように内野のみが前へと走り出した。
さっきとは違い内野は『火炎放射』を使うつもりは無く、そのまま走って距離を詰めてくる。
だが清水の槍の間合いに入る直前で内野は右足で強く地面を踏み込むと、その衝撃で清水付近の足場が崩れ出した。
先程内野が地中に潜ったのは本来奇襲を仕掛ける為だったが、急遽予定を変更し、清水の足場付近の土を削って足場を脆くしていたのだ。
だから内野が強く地面を踏んだだけで地面は崩れ出した。
「ッ!」
「卑怯とは言わないで下さいね!」
内野は素早く槍を手に持つと、足場が突然崩れて態勢を崩した清水に向かい槍を投げつけた。
清水は空いている手で槍をキャッチするが、内野は更に追い打ちで清水に飛び掛かり剣を振るう。
これで片手は塞がった!そして今の清水さんには安定した足場が無い!今なら俺でも…
内野が飛び掛かりながら清水に向かい剣を振るった瞬間、脇に衝撃が走ったのと共に内野の身体は真横に吹っ飛んでいた。
内野はただ状況を理解出来ないままザザザっと地面を転がる。
「ゴホッ、ガハッ…何が…」
「視野が狭い…それに相手の持っている武器ばかり見てるな。良いか?お前相手なら俺の脚だって立派な武器になるんだから、常に俺の全身を視野に入れておけ」
そう言われ、ようやく自分が清水の蹴りで吹き飛ばされたのだと分かった。まさか地面が崩れて足場が安定しておらず、更には後ろに倒れそうな態勢だったのにあんなに脚を動かせるなど思っていなかったので、内野は心の中で清水を称賛すると共に、なんとか清水を出し抜く作戦がないかと頭を働かせていた。
真っ向勝負したって勝てっこないのは分かってる。あんな有利な状況でコレだし、ある程度の搦め手を混ぜないと話にならない。
恐らく俺の武器は、複数のスキルによる多種多様な戦闘方法を取れる事。それを今ここで考えるんだ!今さっき使える様になった『第三者視点』を含めて、実践でも使える手を!
内野がさっき清水の足場のみを崩せた理由は単純で、上の様子が見えていたのだ。
さっき川崎の前で目を瞑っても発動しなかったが、地面に潜って視界が真っ暗になった途端に発動した。
これが発動すると360°何処からでも自分の姿を第三者視点で見れる様になり、上にいる清水の姿までもが見えた。それで内野は足場を崩す作戦を思いついたのだ。
「どうした?もう打つ手無しか?」
「…いえ、まだまだありますよ」
清水の挑発に冷静に返し、内野はたった今思いついたある作戦を実行してみる事にした。
やはり先ずは距離を詰めねば始まらないので、内野はさっきと同じく鉄の剣を持って走る。
清水も今度は足場がしっかりしているのを確認し、迎撃の構えをとる。
ある程度近づくと内野は手に持った剣を換装し、左腕に出した『ゴーレムの腕』の手の平を清水に向ける。そしてそれと同時にゴーレムの左手から『光の玉』を9個出す。かつて黒狼に使った作戦と全く同じ作戦だ。(50話)
内野がこの閃光作戦を選んだのには理由が二つあった。
清水さんは前回のクエストで色欲の使徒に閃光を喰らった時、特に動きを見せなかった。だからいくら清水さんでも視界を潰されたら動けないはず。
それに俺の『第三者視点』が自分の視界が塞がった時に発動するものなら、自分の目が見えなくなってもスキルで前を見る事が出来るはずだ。だから一度で仕留めきれなくとも、ゴーレムの腕が壊されようとも、光の玉を拾えば何度でもこの作戦は可能だ!
そう考えての作戦だった。
清水は光の玉が現れた瞬間に目を逸らそうと顔を横に向けるが完璧には間に合わず、数秒間目が見えないのは確定。
そして内野はそのままゴーレムの腕を振りかぶり、清水に向かって真っすぐにパンチを入れる。
だが清水はそこで顔を隠す様に腕を組み、内野に向かってタックルを仕掛けた。
内野のゴーレムの腕と清水のタックルが真っ向から衝突すると、ゴーレムの腕は清水を一歩も止めれずに崩れてしまい、壊れたゴーレムの腕からは生身の内野の腕がモロ見えになる。
物理攻撃力4桁に到達している相手に真っ向からの力勝負。内野に勝てる訳がなかった。
清水は目が慣れてくると内野の腕を掴み、内野の目を見る。
「目潰しか…色欲の使徒から着想を得たのか?」
「いいえ、黒狼の時に思いついた技ですよ」
「悪くない、もしも俺に圧倒的物理攻撃力というゴリ押しの手段が無ければ倒せてたかもしれない作戦だ」
清水は内野の腕から手を放すと数歩下がり、槍を構える。
「最後は搦め手無しで来い」
「…分かりました、でも武器破壊は勘弁してくださいね」
内野は清水の指示通りに剣一本を構える。すると今度は清水から距離を詰めてきた。
といっても全力では無く、右腕でしか槍を持っていないので攻撃してくる箇所読み易かった。
ただそれでも槍の突く速さは早いので、内野が回避しようと身体を傾けた時にはもう槍は肩に刺さっていた。
「グっ…う…うぅ…」
「実戦ではいくら痛くたって目を瞑って下を向くなよ。戦場じゃ目は命だ」
清水がそう言って槍を抜くと、清水は川崎の方を見て軽く頷く。これが終了の合図だったのか、川崎は「これで模擬戦終了だ」と言い、早大に内野の傷に『ヒール』させた。
結果は惨敗、実戦だったらもう地面に潜った段階で死んでいただろう。
だが川崎達の顔は以外にも悪くないものだった。
「内野君はスキルを活用して多様な戦い方をする才能はあるみたいだな…剣術を伸ばしたりするよりもスキルの練度を上げさせる練習の方が良いかもしれないな。
ただ清水、お前目潰しでイライラしたのか知らんが、流石に槍の突きが早すぎるだろ」
最後あっけなく終わらせてしまったことが残念なのか川崎は清水にそう言うと、顔を少し背けて黙る。
「この前色欲の使徒相手に何も出来なかったのが悔しかったみたいでな。それで同じ様な手を使った内野君に八つ当たりしてると思ってくれ」
川崎のその言葉に反応して清水は弁明しようと一瞬口を開けたが、図星で何も反論出来ないからか直ぐに口を閉じた。
基本クールな清水にもそういう一面があるのだと内野は驚いていたが、イジったりしたら殺されそうなのでこの事には何も触れない様にしようと、内野は心の中で誓った。
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