第195話 魂の存在証明
坂を転がっていった柏原は放っておき、内野達は皆が訓練している場所へとやってきた。
そこでは怠惰プレイヤーにスキルだとか聞いたり、戦闘時のアドバイスを聞いている者達がいた。ここらには身体を激しく動かしている人はいないので、ここはクエストについての質問場所といった所だろう。
そこで、椅子に座りながらメモ用紙を見つめていた二階堂と目があった。
「あっ、内野君もやっと来れる様になったんだね!」
「はい。二階堂さんは今何を?」
「新規プレイヤーのクエストについての知識を増やす為のクイズの内容を考えてる最中なんだ。
まぁ私の話は良いとして、内野君は一度川崎さんの所に行った方が良いかもしれない。なんか憤怒グループの生見さんと一緒に内野君を待ってるよ」
あ、そういえば許可が出たから生見にこの場所を教えたんだった。
そして二人が揃って俺を待っているとなると…
「皆、多分話は長くなるから先に訓練やっててくれ」
長話になるのが予想できたので内野は皆にそう言っておき、二人が待っている場所へと向かって行った。
二人がいたのは更に進んだ所で、大きなテントの前で何かの話に白熱している所だった。
二人の会話からは「魂」「ステータスの力」という単語が聞こえてきたので、以前生見が内野に言っていた魂についての話をしているのだと何となく分かった。
川崎は向かってくる内野に気が付くと話を止めて手を振ってくる。
「あ、来たね内野君」
「おお、これで三人で話が出来ますね」
「こんにちは。生見さんがこの前言ってた魂の話ですか?」
内野がそう尋ねると川崎は頷き、「とりあえずここに座って」と折り畳み式の椅子を広げて内野に座らせた。
「生見の魂についての考察と俺の考察を交わし合っていたんだ。訓練に行く前に聞いて行くか?」
「はい、是非とも聞きたいです」
内野のその返事が嬉しいのか二人は少し笑みを浮かべ、川崎が説明を開始した。
「先ず大前提として言っておくが、記憶は脳に蓄積されるというのはこれまでの人類の研究によって明らかになっている。
この大前提を踏まえ、次の話を聞いて思った事を言ってみて欲しい。
俺は使徒を『怠惰』で捕まえ、その使徒の能力が魂を移すというものだと判明した。
使徒はMPが無い相手や気絶している相手の身体に魂を移して、自由に動けるという能力があるが、その相手の身体に魂を移した時、使徒は自分の記憶もあるし元の宿主の記憶もあるみたいだ。
…ここまで聞いてどう思う?」
「相手の身体に移ったのに自分の記憶があるのはおかしい…って事ですか?」
「そう。移ったのは身体だけだから脳はそのままの状態なのに、移る前の記憶がある。これは魂も記憶を蓄積するという証明になる。この話を踏まえると、『蘇生石』で魂が蘇るとプレイヤーの記憶が蘇るのも納得できる。
それじゃあ次の話に移ろう。
さっきの使徒の話では記憶についてしか言わなかったが、魂を移した先の身体でもステータスの力は自分のものだ。それは塗本という男の身体を乗っ取っている使徒が使徒の高ステータスの力を出している事から分かる。
ここまで話を合わせると、『魂』とは『記憶を蓄積してステータスの力の源になっているモノ』だと言える」
川崎の丁寧な説明なお陰でここまですんなりと頭の中に入っていったので、テスト終わりで頭が疲れている内野も直ぐに頷けた。
「言い換えれば『記憶を蓄積してステータスの力の源になっているモノ』を『魂』の定義とするって事だ。
魂だとか、聞いた人によって解釈が異なる曖昧な表現にはこうやって定義を定めないといけないから、今後私達が言及する魂という言葉は全部この定義を満たすものだと考えてくれ」
生見がそう言った後、生見と川崎は目を合わせ、再び川崎が話始める。
「君、梅垣君、新島君の三人にしかまだ上位スキルについて説明してないのでこれは他言無用にしてもらいたいのだが、俺は上位スキルを二つ持っている。
一つは、この前使っていた『オーバーパワー』というステータスの力を増加させるスキル。
もう一つは『ソウルダスト』というスキルだ。このスキルはまだ5回しか使っていないのだが、スキルを使った対象は即死するという能力がある。これで魔物を倒してもレベルが上がらないというデメリットはあるがな」
「えっ!?」
突然カミングアウトされた即死技の存在に内野は驚く。
そもそも『怠惰』も一度ハマったら抜けられない即死級の技なのに、それに加えてもう一つそんなスキルを持っているので、内野は仲間ながら川崎が恐ろしく思えた。
即死技にはデメリットもあるというのも分かったが、能力があまりにも強いのでこれは些細なデメリットでしかなく、内野の中の評価は揺るがなかった。
「ただ、これを使われた相手は不思議な事に植物状態になるんだ」
「じゃあ…呼吸もしているし心臓も動いている状態って事ですか?」
「そう。ちなみに植物状態になった身体を死に至らしめてもレベルは上がらなかった」
ここで話をするのは川崎から生見に変わる。
「『
でも不思議だよね、魂が抜けたら植物状態になるなんて。
そこで考えられるのは、魂にはさっき述べたものだけじゃなくてもう一つ役目があるんじゃないかって事。
植物状態は大脳が動かなくなった状態だから、大脳を動かす役目もあるんじゃないかと思うんだ」
そう考えれば辻褄が合うな。
そうなると、大脳が動いている生き物は全員魂を持っている事になるのか。それならプレイヤー以外の一般人にも魂はあるって言えるし、魂があるからプレイヤーじゃなくても魔物を殺す事でステータスの力も手に入りレベルが上がる…って事か。
「なんだか世界の心理に触れているみたいで楽しいですね」
「でしょ!?」
「だろ?」
内野が思った事を口にすると生見は前のめりに内野に顔を近づけ喜び、川崎はお茶を飲みながら静かに微笑み機嫌が良くなる。
「これまで魔力・ステータス・魔物の存在が無かったからこの世界で証明出来なかった事に私達は触れているんだ!
人類が積み重ねてきた数千年の歴史に一切無い真実に手を伸ばしているんだ!」
「もしもこれを世間に発表出来たら、魔物災害と共に歴史の教科書に堂々と載れるだろうな」
二人はすっかり盛り上がり、話に花を咲いていきそうになる。だが流石にそろそろ訓練をしなければないので内野はここで切り上げる事にした。
それを告げると生見は少ししょんぼりとするが、ある事を思い出して直ぐに晴れた顔になる。
「そうだ!なら使徒を吞み込み手に入れたスキルをこの場で見せてくれないか?」
「分かりました。先ずは『ストーン』というスキルを使ってみます」
その場でスキル検証が始まる。
川崎の用意した木の板の的を目掛けて腕を伸ばし、スキルを使ってみる。
「ストーン」
すると手の平から2メートル程の長さの細長い岩が発射され、その岩は的を貫通して奥の木まで貫いた。
岩か氷かというだけで、工藤の使う『アイス』に酷似しているスキルだった。
それを見ても二人は特に興奮せず、冷静に椅子に座っていた。
「むむむ、やっぱり普通の『ストーン』だ」
「という事は、使徒の持つ特殊な能力以外の力は俺達が持つスキルと同じなのか。ちなみに内野君、君の魔法力は幾つだ?それにスキルレベル幾つだ?」
内野は自分のステータスを開いて確認しながら川崎の質問に答える。
「えっと…今の魔法力は256で、スキルレベルは3ですね。自分で上げた訳じゃなくて手に入れた時からこれでしてた」
「なるほど、『強欲』で手に入れたスキルは最初からスキルレベルが上がっていたりするのか。どうりで威力と速さがクエスト歴がまだ一桁の者とは思えないものな訳だ…」
川崎達からの言及はそこで終わり、次は川崎達すらも知らない『第三者視点』というパッシブスキルの検証に入る。
だがここで内野は一つ疑問があった。それはステータス欄でこのスキルのみ表示が違う事だ。
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【パッシブスキル】
・物理攻撃耐性lv,6
・酸の身体lv,3
・火炎耐性lv,5
・穴掘りlv,2
・MP自動回復効率lv,1
〇第三者視点lv,2
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「川崎さん、このスキルだけ左側のやつが点じゃなくて〇になっているのですが…」
「ッ!?それは上位スキルの表示だ!」
内野がそう尋ねた瞬間に二人は目を見開いて驚き、川崎が椅子から立ってそう言う。
まさか『強欲』で上位スキルが手に入るだなんて思っていなかったので、流石の川崎も驚きを隠せずにいた。
(忘れている人向けの解説:上位スキルとはスキルレベルを10にした時に手に入る強力なスキル。ちなみにスキルレベルを10に上げるにはSP135必要)
だがスキルと違ってパッシブなのでスキル名を言っても発動せず、どうすれば発動するのか内野は分からなかった。
「…意識してみても何も変化が無いです」
「スキル名から察するにゲームみたいに三人称視点で自分を見れるのだろうが…発動しないか?」
「ダメです。『酸の身体』とかは意識したら使えたのですが…」
取り敢えず今はスキルを発動出来なかったので、スキル検証はやめて普通の訓練へと移る事になった。
生見はそれを残念がっていたが「気長に待つから焦らなくて良い」と言いその場に残り続け、川崎に案内されるがまま内野は山の奥へと入って行った。
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『ソウルダスト』で強敵を即死とかクソ展開にさせるつもりはありません。
ちなみに訓練パートを丁寧にやるのは一度だけで、それ以降は結構ダイジェストになりそうです。基本的にストーリーはサクサク進めたいタイプなので…
それなのにわざわざ長ったらしく魂の話をしてたのは今後それ相応の意味があるという事ですが、多分使うのはかなり先なのでぶっちゃけ今はあまり頭に入れなくても構いません。
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