第194話 訓練開始

火曜日は普通に学校に行き、放課後にテスト対策でまた昨日のメンバーを家に呼んで勉強会を開いた。

途中で休み時間としてテレビゲームで適度に遊びながらも、充実した勉強会を開けた。


そして水曜日からテストと同時に、川崎の訓練が始まった。

内野、工藤の学生メンバーは全員テストに集中するため訓練には参加しないが、松野は明日の科目に余裕があるからか参加するという。


訓練ってどんな事やってるのかな…ヒールがあるから怪我をしても大丈夫だし、結構厳しい事してそうだな。


などと皆がどんな事をしているのか考えながらも、内野はテストを受けた。




家に帰って勉強していると、晩飯前ぐらいに新島は帰宅してきた。

ここに来て三日目なので内野の両親に「ただいま」と挨拶すると、当たり前の様に内野の部屋まで来る。

ちなみに新島は基本的にリビングか内野の部屋にしかない。それにリビングにいるのは飯の時やテレビを見る時、後は寝る時ぐらいなので内野の部屋にいる時間が多かった。


「内野君も気になってるだろうから、どんな事をやってきたのか話に来たよー」


「おかえりなさい。見たところ服は汚れてないけど、今日はあまり動かなかったの?」


「いや、向こうに着いたら川崎さん達が大量に服を用意してくれてて、訓練の間はそれを着てたの。あのクエストの騒動に紛れてトラックに服を詰め込んでたみたい」


「それは…普通に犯罪だな。」


「でも盗んだのはどれも魔物や人の血が付着してたり、少し破けてたりして売り物にならなそうなものだったから、店としては盗まれて事で生じる被害は少ないんじゃないかな。そもそも魔物が来たというだけで致命的な被害を負ってる訳だし…」


それもそうか。あそこ一帯で店を構えていた人達は本当に災難だな…


内野は一度勉強の手を止めて新島の話を聞く事にした。

___________________

強が訓練の初日で、その訓練場所には強欲グループのプレイヤーは新規プレイヤー含めて30人近くいた。

現在強欲グループのプレイヤー数は合計57人なので半数以上が今日の訓練に参加した事となる。

そしてそこには3名プレイヤーではない者がいた。川崎さん達が覚醒者と呼んでいる、プレイヤーではないがステータスの力を得ている者達だ。


クエストの時とは違ってプレイヤーの姿を見れる様になっているので、前回プレイヤーを視認出来なかった二人はプレイヤーを見て驚いていた。

ただ彼らがプレイヤーではない以上、クエストについての話は出来ないし聞かれてはならない。なので川崎はその三人専属の者を二人配置し、少し離れた所で訓練させる事にした。


どうして彼らを訓練に参加させたのか疑問だったが、それは川崎の話によって明らかになった。


「彼らは『日本防衛覚醒者隊』というのを立ち上げ、クエスト時に魔物を殺して少しでも多くの者を助けたいみたいだ。

今後増えていくであろう覚醒者をまとめる組織を作れれば俺達の利になると判断し、俺はその手伝いをすることにした。

彼らにも警告しといたが、彼ら三人には近づいてはいけないからな。彼らと話したりして何か口を滑らせてしまえば危険だ、これは絶対に守ってくれ」


要するに、覚醒者をまとめ上げる『日本防衛覚醒者隊』の手伝いをして、実質的頂点に川崎が君臨すれば今後のクエストで動きやすくなるからだ。

今回のクエストで魔物を殺して回っている者の存在はかなり知られており、それを覚醒者の仕業にするつもりである。

そういう訳で、今後はプレイヤー以外の覚醒者も訓練に参加するという事を告げられた。


それを告げられた後は訓練が開始される。

だが新規プレイヤーが多いので、先ず最初に行われたのは既に所持しているスキルの確認だった。

基本的に最初から保持しているスキルはそんなにレアな物は無いので、どれも怠惰グループのプレイヤーは知っているものなのでこの確認はそこまで時間は掛からなかった。


新島は『耐性獲得効率上昇』のレベル上げに多くSPを割いた後は、他のスキル獲得の為にも『ポイズン』のレベルを上げて新しく二つのスキルを手に入れた。

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【レベル39】 SP10 QP278

MP 570

物理攻撃 9

物理防御 44

魔法力 123

魔法防御 33

敏捷性 175

運 3


【スキル】

・ポイズンlv,3 (30)

・ポイズンウィップlv,3(30)

・グラビティlv,1(20)


【パッシブスキル】

・耐性獲得効率上昇lv,7

・闇耐性lv,4

・魔力維持lv,1

・装備効果上昇(指輪)lv,1

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今回手に入れたスキルは『ポイズンウィップ』『グラビティ』。

『ポイズンウィップ』は手の平から茨の様な刺が付いている紫色の鞭が伸びて、遠くの対象を攻撃出来るというもの。ポイズンと名前にある通り、この刺に刺るとその部位には毒が注入される。その毒は『ポイズン』と同じく対象に苦痛・痺れを与えるというもの。


『グラビティ』は周囲内の重量を操るというもので、単純に重力を強くして押しつぶしたり、重力を上方向にして相手と距離を離せたりする。


スキルの確認が終わり、次の訓練メニューからはレベルごとにグループに分かれた。

大体現在のレベルの数値はこの様な序列になっている。


梅垣>前回怠惰グループと最後まで行動した者>前回怠惰グループと途中で分かれた者>新規プレイヤー


なので誰がこのレベル帯にいるのかを把握する為に、レベル5区切りでグループに分けた。

それで新島と同じグループになった知人は松野・慎二の二人で、その他に二人いるので5人グループだった。


グループ分けされて最初に行われたのは、川崎の出した魔物との実戦訓練。

実戦する事でその者の弱点だとか戦闘スタイルを見る事が出来るので最初からハードなものを持ってきたという。

ちなみに近くにヒールを使える者がいるので魔物は一切加減してこない。


最初は1対1での戦いなので新島は一人で魔物と対峙し、次は少し強い魔物と5人で対峙した。


そして次の訓練はパルクールみたいに森の木々を走り抜ける訓練だった。

ゴールが決められており道中に魔物がいるのでそれを隠れて掻い潜ってゴールを目指すというものと、最初から魔物に追いかけられながらゴールを目指すというものの、その二つが行われた。


そして今日最後に行ったのは怠惰メンバーとの模擬戦闘。プレイヤーは魔物と戦うのがメインなので人との戦闘技術は要らないと思われるが、魔物違い加減も出来るし、実際に戦う事で的確なアドバイスも出来るので訓練メニューに入った。


こっちは先程の5人で相手は田村一人だったが、新島側の攻撃は一度も田村には当たらなかった。

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「手数はこっちの方が多いのに、田村さんは木々の間をスルスルと抜けて避けていくから攻撃を当てられなかったよ~」


「松野も同じグループらしいけど、あいつ今までテレポートしか使ってなかったから戦いには慣れてなさそうだしな。そうだ、慎二君はどうだった?」


川崎の弟である慎二について尋ねると、新島は少し難しい顔をする。


「戦闘は普通に出来てたんだけど、何処か思い詰めてる様な顔をしてたの。声を掛けても「大丈夫です」の一点張りで何も話してくれなかったし、何か不安があるのかもしれない」


ふむ…単純にクエストが不安というのなら良いけど、川崎の弟という事で彼にしか分からない悩みでもあるのかもしれない。俺が大罪という立ち位置に重荷を感じてた様に。


ここで二人で話してもそれは明らかにならないので、ここで訓練の話は終わった。

そして内野は引き続き勉強へ意識を戻した。




(金曜日)


「やっとテスト終わったぁぁぁぁぁぁぁぁ~」


テストが終わり、教室で内野と松野が一緒にいる。テストが終わって解放された内野は思わずそんな声を漏らして机にもたれかかる。


「お疲れ、この後は訓練に参加するんだろ?俺も行くぞ」


「ああ。これでやっと手に入ったスキルの検証を出来るし楽しみだ」


多分ここ数日は受験生の頃よりも勉強した気がするし疲れた~

でもこれでようやく俺も訓練に参加出来るぞ!


内野はテストの疲れはあるが気を引き締め直し、家に一度寄って着替え、新島と工藤と合流してから集合場所へと向かった。




4人で訓練場所の山まで向かっていると、道中でテントを見つけた。中には怠惰グループのプレイヤーがいた。

その者は前回内野達と行動していた灰色のフードを被っている女性『原井 静子』だった。

無口で寡黙な者なので内野達を見ても、特に何の反応もせずにこちらをぼーっと見てくるだけ。


「ああ、あれが清水さんが泊ってるテント兼見張り場な。絶対に誰かしらがあそこで一般人が来ないか監視してるみたいだぞ。

それに川崎さんの小型魔物が山を囲う様に配置されてて、一般人が来るとこのテントにいる人に知らせにくるんだ」


「一般人に見られたら不味いから流石に厳重に監視してるのか」


内野達はこちらをぼーっと見つめる原井にペコリと軽く会釈をした後、前へ向き直り進もうと一歩前に出した。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


だがそのタイミングで何処かから男の叫び声が聞こえてきた。4人がキョロキョロと見回して声の主を探していると次第に音が徐々に近づいてきて、その声が上から聞こえて来ているのに気が付き一同は上を向く。


上空から降ってきていたのは柏原だった。

柏原は誰かに吹っ飛ばされたのか上から落ちて来ていた。


「原井ぃぃ!そのテント除けろ!」


しかもその軌道の先は原井のいるテントで、このままだとテントが潰される所だったので柏原は落ちながらもそう警告する。

原井はそれを見るとゆっくりと立ち上がり、落ちてくる柏原に向かって踏み込んで飛ぶ。そして空中で柏原に蹴りを入れて落下の軌道を逸らした。


「ごふっ!」


空中で蹴られた柏原は横に吹き飛び、そのままゴロゴロと山の坂を転がっていった。原井は転がっていく柏原を見ながらも、助けに行くわけではなくテント近くのキャンプ椅子に座る。

そしてまたこちらを見つめてくる。


え…あの原井って人、テントをズラよりも柏原をどうにかした方が良いって考えたのか結構えぐい事するな…

てか転がっていった柏原を助けに行ってあげて…

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分かる人は限られてますが『グラビティ』はGANTZのZガンみたいな感じです

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