第189話 勉強会後はお泊り会

生見に魂の存在を信じるかと聞かれ、訳が分からないながらも答える。


「俺はあると思います、蘇生石でも魂が再生されるだとかいう説明もありましたし」


「ふむふむ…実は解剖していた時に一つ気が付いた事があり、それを君に聞いてもらいたいんだ。もしかすると既に知っているかもしれないがね。

例えば物理防御力の高い者がいるとしよう。その者はあまりにも物理防御力が高いので全身が硬く、皮膚を傷つけるには攻撃力の高いプレイヤーの力が必要になる。

だがその硬い人間の死体は一般人でも簡単に解剖出来る様になるんだ。普通の死体と同じようにね」


「それって…死ぬとステータスの力は無くなるという事ですか?」


「そうなるな」


生見はそう返答するだけで、その後は沈黙が流れる。


…え、これで話は終わりなの?

じゃあさっきの魂がどうとかって言う話は何なんだよ!?


そう思っている間も見つめ合ったまま沈黙が続き、痺れを切らした内野は口を開く


「てっきり死ぬとステータスの力が消える理由は魂が消えたから…って言うのか思いましたが…」


「そう、それだ!それが蘇生石の説明文にある『魂』の定義に繋がるんだ!

普段は誰と話してもこっちからの一方的な話になっちゃうんだけど、少し興味深そうに私の話を聞いてくれる君なら返してくれると思って待ってみたんだ。

そして…君は自身の考えを述べてくれた!本来にありがとう!」


まるで内野が自分から口を開くのを待ち望んでいたかのように生見は嬉しそうに内野の両手を握る。


もしかして、憤怒には他に興味を持って話を聞いてくれる人はいないのか?

それが寂しくて、今の俺の適当な返答でもこんな嬉しがってるのか…でもこういう話は川崎さんが好きそうだし、案外俺以外にも熱心に話を聞いてくれる人はいるかもしれないな。


「その…『怠惰』の川崎さんもそういう話が好きなので、もしかすると今度川崎さんと会って話すのも良いかもしれません。今週の水曜日からとある場所で訓練しているので、許可さえもらえればきっと生見さんも来て大丈夫だと思いますし」


「なんとっ!『強欲』に続いて『怠惰』まで私の話に興味を持ってくれるのか!?

それは楽しみだ…許可が下りるか分からないが、それが叶ったら是非とも話してみよう。それじゃあ私を先を急ぐ、さらばだ!」


そう言うと生見は笑みを浮かべたまま前へと歩きを始めた。だがまださっきの話が終わってなく、続きが気になっていたので内野は急いで生見の袖を掴んで止める。


「え!「蘇生石の説明文にある『魂』の定義に繋がる」という話の続きは!?」


「ああ、申し訳無いがそれはまた『怠惰』の川崎さんが一緒にいる時にしよう。

これから何往復もして魔物の死体を車に詰め込まなないとならないんだ。魔物の死体を撤去されたり警備が強くなる前にね」


「ええ…車に死体なんて大量に積んだら車内に死臭が充満しますよね?」


「スキルで死体を凍らせた後にケースに入れるから、君が思っている程の臭いの心配は無い。車用の消臭剤で何とかなる程度だ。

今度私の研究室に来るかい?私の車で」


「…自力で走って行けるようにもっと強くなろうと思います」


こうして生見と話を切り上げ、内野は待たせてる二人の所へと戻って行った。



ファミレスでは魔物災害についての話を出来る雰囲気ではなかった。周囲にいる者も内野達と同じくボランティア活動で来た者だが、強烈な光景を目の当たりにして意気消沈状態の者が多いからだ。

なので3人はごく普通の高校生らしく学校の話やゲームの話などをして過ごした。




帰宅後、内野の家で勉強会が行われる事になった。理由は簡単、ファミレスでの会話で内野の成績が酷いものになりそうだと発覚したからだ。

そこで松野が3人で勉強会を開こうと考えた訳だ。


二人共内野の成績の心配を本気でしているので、スマホも弄らず、机にはお菓子なども無く、友達と喋って終わるだけの勉強会の皮を被った雑談会にはならなそうだった。




「ゆ、勇太!お、おお、女の子達が来たわよっ!」


三人で勉強を始めて3時間経過した16時頃、一階から内野の母のたじろいだ声が聞こえてくる。

この家に気軽に尋ねて来れる距離にいる内野の女性の知り合いといえば、工藤一人しか思い浮かばなかった。

だが内野の母は女の子達と言ったので少なくとも二人以上いる。一人が工藤だとしても、もう一人が誰なのかは思い浮かばななかった。


佐竹はキョトンとそんな内野の母の声を聞いていたが、その直後頭を抱え始める。


「内野に女性の知り合い…ね。もしかしておばさんって被災地で大変な目だとかに遭っちゃったのか…?」


「おい、勝手に母ちゃんの妄想だと決めつけるな」


そんな事を言いながら内野は一階へと降りていった。

そのやり取りを見て松野は

〔あ~佐竹は内野が女子と交流している所をあまり見た事ないんだな。俺はこの前内野が女の子におんぶされてる所を見たりしたから、家に女子が来たと聞いても変に思わなかったな〕

と、佐竹との内野に対する認識の違いを知った。



玄関前には驚きの表情で外を見ている母がおり、内野はその先にいる二人の顔を見る。


一人は金髪でツインテールの制服姿の女子高生、『工藤 鈴音』

もう一人は黒髪で黒いダウンコートを着ている女性、『新島 藍』。


「おお内野!一昨日ぶり!」

「工藤ちゃんに連れられて来ちゃった…急にごめんね」


二人は内野と目が合うとそれぞれ手を振ったり頭をペコリと少し下げてそう言う。


「えっ、二人ともどうして!?」


内野がそんな反応をしたと同時に、二人の声を聞いて二階からドタドタと誰かが階段を下りてくる音がする。

急いで降りてきたのは佐竹だった。


「おばさんの幻覚じゃなかった…マジで女性の知り合いが居たのか!

…俺の知らない間に成長したんだな」

「勇太に女の子の知り合いがいたのは知ってたけど…生で見れて安心したわ…」


内野の母は涙を流して喜び、佐竹は弟子の成長を見れたかの様に達観した様な目で内野を見ている。


そんな二人を放って無視し、内野のは二人の方へ振り返る。


「ええと…先ずどうして二人がここに?」


「新島と昼飯食べに行った後に私の家でゲームをしてたんだけど、暇だったから内野の家に行こうと思って来たの。ボランティアに行ったって報告をすれば欠席扱いにはならないし学校はサボちゃったけど」


「ご、ごめんね内野君…こんな急に来ちゃって…一応連絡したけど既読ついてないし多分気が付いてなかったよね?」


「ああ、マナーモードにして勉強してたから気が付かなかった。

とりあえずここに来た経緯は分かったが…ただ明後日にテストがあって勉強に力を入れないといけないから遊んでいる場合じゃ…」


内野がそう言いかけたところで、工藤もハッとした顔をする。何かを思い出した様だ。


「…まさかお前テストの存在を忘れてた?」


「…うん。ほら、最近色々あったからテストなんて忘れてて…。

今から自力でやるのは無理だし、勉強教えて…もらえると助かるわ」


同じ高校生なので当然5月中盤辺りにテストがある。

工藤も内野と同じく丁度水曜日からテストなのだが、今日は遊んで過ごしてしまっていた様で勉強の助けを求めてきた。



こうして勉強会に女性陣二人が加わった。

新島は良い高校を出てるのかそこそこ勉強が出来るので、工藤と内野の勉強を松野と佐竹と新島で見ていった。

内野の母は二人と話たい気持ちと、皆の勉強を邪魔したくない気持ちが混じったからか、10分に一度の頻度で差し入れを運びに部屋に持って来てちょくちょく会話に入ってきた。



「ところで二人は何処で勇太と知り合ったの?」


ある時、内野の母がそんな事を二人に尋ねた。佐竹もそれに興味があるようで興味津々に二人の方を見る。

二人は少し困った様な反応をするも、この場を切り抜ける為に新島が咄嗟に嘘を付く。

新島が目を付けたのは内野の部屋にあるゲームソフトだ。


「私達3人は『スライムクエストX』というオンラインゲームで知り合いました。

工藤ちゃんと内野君は偶然家が近かったみたいですが、私はここから結構離れているの気軽に来れない距離です。

なので私が魔物災害関連で要あって東京に来たこのタイミングで、内野君にも会いにきました」


「そ、そうそう!

モビルスーツに乗ってインクで陣地を広げて内政をしてコインを稼いでスターと交換するあのパーティーゲームよ!」


新島の上手いフォローが工藤のせいで台無しになったが、二人はなるほどなるほどと頷く。

母はゲームを知らないのでともかく、佐竹はゲームの内容をしっているので工藤のそれを冗談だと受け止めて笑っていた。





それから3時間勉強に集中し19時になった頃、工藤がもう家に帰らねばならないと言うので今日はお開きとなる。

意外に雑談と勉強のメリハリを付けられたので集中でき、内野達の勉強はかなり進んだ。

そして内野と内野の母は4人を玄関で見送る。


「じゃ、またな」

「明日は学校行くからな」

「私もテスト頑張るわ」

「おじゃましましたー」


新島が玄関を出ろうとした所で、内野の母が一声かける。


「そういえば新島ちゃんは何処に泊ってるの?」


「あ、昨日までは被災地近くのホテルに泊まってましたが、お金がカツカツなので今日はカプセルホテルに泊まる予定です」


「あら、それじゃあ今日はウチに泊っていかない?ご飯とお風呂付きで宿泊費は無料よ」


「…えっ」

「「え?」」


内野母の突然の提案に新島以外の4人は声を重ねて驚き固まった。


俺の母だが…一体なんて事を言う人なんだ!

設定上は俺と新島は今日初対面な訳だし、普通そんな相手の人にこんな提案しないだろ!?

社交辞令だとかじゃなくて100%善意で言っているんだろうけど流石に…


「あっ…ほ、本当に良いんですか…?」


「「え!?」」


全員内野と同じ様な事を思っていたようだが、新島の泊る気のある返答にまたしても4人は声を重ねて驚く。



勉強会が終わった後、こうしてお泊り会(新島のみ)が始まった。

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