第187話 狂気の欲

クエスト後に誰が何処で何をしていたのかだとかの話があるので、数話の間は場面転換が多いです。

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皆に撮影してもらった映像のお陰で両親を説得出来た内野は、昼前には家族揃って家へと帰宅した。


そして内野は家に着く前に佐竹の家へ寄り道をする。呼び鈴を押すとインターフォンから佐竹が玄関から出てきた。

部活が無いからいつも日曜日気だるそうな雰囲気を出しているが、今日はサッカーの試合中に見せる様な真剣な表情をしている。幼馴染の両親が災害に巻き込まれかけたと聞いて心配しないほど薄情者ではないからだ。


「良かった、本当に怪我は無いみたいだな」


「俺は巻き込まれてないから大丈夫だって昨日言ったろ?」


「そうなのだが…最近のお前は危なっかしいからそれも嘘なんじゃないかって少し思ってたんだ」


う、鋭いな…


このまま昨日の事を詰められても返答でボロを出しそうだったので、内野は話を変える。


「そういえば昨日のサッカーの試合はどうだった?確かトーナメントで強い所とは暫く当たりそうにないから、今回は順調に勝ち進めそうな感じなんだよな」


「試合には勝ったけど…後半戦は始まった所で魔物災害について報道されて、身内がそれに巻き込まれたって人が途中で抜けたり、皆不安で試合に集中出来なかったから…フェアな勝負じゃなかったな。相手はエースが試合を抜けちゃったし」


やっぱり色んな所に影響が出てるんだ…流石に相手チームには同情するな…


真剣勝負で勝ちを得たかった佐竹は不機嫌そうな顔でそう言う。だがその後何かを思い出し、いつも通りの表情へと戻る。


「そうだそうだ。市から郵便物があったんだけど、なんか魔力災害の被害者を介抱する医療スタッフや救出活動に必要な人手が足りないから、希望者は明日被災地でボランティア活動をしないかだって。

そっちに行けば学校を欠席した事にはならないみたいだし、明日は被災地に行かないか?」


平日の高校生にも人手を貸してもらわないといけないぐらい人手不足なんだな。まぁ…惨事を見てきたからそれは分かるけど。

多くの建物が壊れ下敷きになり救助を待っている人、負傷で動けず救助を待っている人、そんな人達が今どれだけいるだろうか。

…クエストで助けられなかった分ここで助けよう。


クエストの最中は一般人の助けを求める声を無視して進んでいたので、内野はそれを思ってボランティアへの参加を決めた。


「だな、一緒に行こう。でも昨日避難所見てきた俺だから分かるけど…怪我人の負傷具合は結構酷いものだぞ。そういうのを見慣れてない普通の高校生が行っても大丈夫なのかが心配だ」


「基本は倒壊した建物の瓦礫を持ち上げ、それの下敷きになっている人を助けるのが仕事らしい。だから怪我人を見ずに無心で瓦礫を持ち上げれば良いんじゃないか?

それなら血とかもあまり見なくてよさそうだし」


「なるほど」


「ちなみに手袋だとかは現地で渡されるから、準備するのは飯とか水だけで良いってさ。それじゃあまた明日」


佐竹と明日の予定の約束をし、内野は自宅へと向かう。


帰ったら川崎さんに今後の予定を聞こう。怠惰グループ監修の訓練を行ってくれるみたいだし、明日は被災地に行くから無理だが他の日にそれに参加できると報告を……


って…あれ、そういえば今週って水曜から金曜日ってテストあるよな?それに俺最近学校の勉強について行けてないよな?

やっぱり正樹には明日は学校に行くと言った方が……いや、でもさっきボランティアに参加してクエスト中に出来なかった人助けをすると決意固めたばっかだからな……


どうするが迷ったが、被災地に行くのを取り消して勉強しても頭に何も入らなさそうなので、早い内に切り上げて帰れば良いと内野は判断を下した。



家に帰って先ずやる事は川崎との連絡で、今後の予定について聞く。


〈訓練は今週の水曜日から開始する。内野君の家からは少し離れているが、俺の仲間が所有する山で武器の扱いやスキルの使い方など色々な訓練をするつもりだ。

人によって参加できる日時は異なるだろうが、基本的に怠惰グループのメンバーは昼夜問わず誰かしらそこにいるから来れる時に来てくれ。

ちなみに清水はテントを張ってそこで暮らしてるから、あいつは毎日訓練にいるぞ〉


怠惰グループのメンバーはほとんどが会社や学校を辞めててフリーで動けるからしい。生き死にが掛かっているから当然っちゃ当然だが、あの人達のクエストに対する覚悟は凄いな。

1時間あれば行ける所にあるし、俺は金曜日のテストが終わってから毎日行こうかな。『独王』だとか新しいスキルの練習をしたいし。


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時は遡り、魔物が消えて1時間弱経過した頃。

魔物災害の範囲にあるとある病院にて、人工呼吸器に繋がれている一人の女性が自衛隊員とボランティアスタッフに車両に運ばれ救出されていた。


「何故この女性と隣の部屋の両足を骨折している者は全く身動きできない中、この惨事を生き残れたんだ?」


『尾花 葉月』と言う名の彼女と、その隣の個室にいた両足を骨折している男性のみがこの病院で生き残っていた。

どうして二人揃って気絶している分からなかったし、他の患者・職員は魔物に皆殺しにされているのに何故この二人だけは無傷だったのかも分からない。


不思議な事はそれだけではなく、なんとこの病院には周囲と比べて遥かに魔物の死体が多かった。

生きている魔物は何故か全員来てたので死体だけが残っているが、どれも綺麗に首を斬られていたりする。


「この断面…誰かが刀で切った様にしか見えないが、多分魔物同士が争ったのだろう。刃が生えている魔物を見たという情報も聞くし、きっとそいつがこの魔物達を殺したんだ。人間の力でこんなにバッサリ太い首を切れるとは思えないしな」


「ただ、魔物の仕業にしては明らかに妙だぞ……魔物の死体は階段を塞ぐバリケードように積まれているし、生き残った二人を守る為にしている様にしか見えない。魔物がそんな事をするのか…?」


自衛隊がそう思うぐらいこの病院にある魔物の死体は異常だった。

だが二人共気絶しているので何が起きたのかは今は聞けないので、その場の状況から推測する事しか出来なかった。


「…もしや魔物を殺して人類を守っている奴がいるのか?」


「そんな人類の英雄を目指している様な魔物がいるとは思えないがな」




自衛隊がそんな会話をしている所を、ある3人の男達は彼らの真後ろでそれを聞いていた。

それは一般人には姿を見られない状態の進上・尾花・木村の3人だった。


「彼らの言う通り、魔物を殺して類を守っている人達はいるけど…それを言えないのがもどかしいですね」


木村は「人類の英雄」という言葉に少し恥ずかしさを感じ、頬を掻きながらそう言う。


3人がここにいるのは、一般人に姿を見られない状態が解除された所で尾花の妹とここから助け出す為だった。

だが救出活動者が思っていたよりも早めにここに来てくれたので、3人が尾花の妹を助ける必要がなくなった所であった。


「俺は透明状態が切れたら、たった今ここに駆けつけた風に見せかけて救助される妹に同行する。二人にこれ以上付き合ってもらうのは悪いし、今日はもう帰ってくれて良いよ。二人は俺の妹の為にあんなに動いてくれたし疲れてるだろうからね」


尾花は隣の二人にそう言うと、進上と木村は頷く。


「それじゃあ今日はもう帰りますね。後日訓練があるみたいなのでその時にまたお会いしましょう」

「また次のクエストで一緒に戦いましょう!」


「ああ!本当にありがとう!」


別れの言葉を言い、進上と木村は病院を後にした。

尾花はそんな彼らの背中を見ながら、今日共に行動した二人の事を思う。


〔木村君は誰が見ても分かるぐらい正義感が強くて、誰かの為に動ける子なんだな。そんな正義感の強い彼を利用してしまったのは今でも心苦しいが、同時にやって良かったと思ってる。じゃなきゃまだここまで彼と仲良くなれていなかっただろうし。

進上さんは…正直最初に魔物と戦っている所を見た時は畏怖の念を抱いた。

まだクエスト経験5回目らしいけど動きに一切迷いが無く、自分は訓練しても絶対にあんな動きは出来ないなという尊敬の念。魔物と戦っている時に彼がする純粋な笑顔への恐怖。この二つが混じっていた。

でも彼がいなかったら俺達は最初の1時間の段階で死んでいただろう。彼ほどの才能の持ち主と共に戦えて良かった〕


二人と戦友になれた事に思いながら、尾花は暖かい気持ちを抱きながら気絶している妹の顔を見て笑みを浮かべた。


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進上と木村は帰る方向が異なるので、病院を出た後に直ぐに分かれていた。


進上も今日の事を振り返り、尾花と同じく良い気分に浸りながら最寄り駅へと歩いていた。

ゆっくりと歩きながら回りの光景を見渡し、そこらに落ちている魔物や人の死体や、崩れた建物に目を向ける。

その時に町に設置されている時計が目に入る。時間的にもう透明状態が解除されている時間だった。


進上が時計を見ながら歩いていると、建物の曲がり角から飛び出してきた男とぶつかる。

ぶつかってきた男は髪を金に染めており、耳やら鼻やら色んな所にピアスを付けて手には血が大量についた鉄パイプを持っている。一目でやばい奴だと分かる見た目の者だ。


ぶつかった男は進上を見て笑みを浮かべる。


「お、竜二~ここにもまだ人がいたぞ~」

「マジ?なんか魔物消えちゃったしもう終わりかと思ってたが、まだ殺し足りなかったんだよな~」


男は後ろを振り返って誰かを呼ぶと、鉄バッドを持っている顔に刺青が入っている厳つい男が現れた。


「殺し足りないって…魔物を?」


「今の俺らの会話から何となく分かんない?

人だ、人を殺し足りないって言ってんだって」


「なんか魔物を殺してからえらく身体の調子が良くてな…火事場の馬鹿力を維持してるみたいな感覚なんだ。そんでちょっとこの騒動に紛れて人間を殺してみたのだが、思ったより楽しくてハマっちまってなぁ~」


二人が如何にもという風な悪役顔で笑みを浮かべると、一人が進上の後ろに回り込んで肩に腕を回してくる。


「なぁ…どうせ最後だしどっちがよりコイツに大きな叫び声を出させられるか勝負しようぜ」


「おう良いぜ。喉潰すのはルール違反な」


「では僕が先行でやってみましょう」


最後の言葉は進上のものだった。進上は何故かスマホの録画を付け、それを胸ポケットに仕舞う。

突然変な事を言い出し、変な行動をし始めた進上を笑おうと二人の男が口を開いた瞬間、進上の肩に腕を掛けていた男の目は進上の左手の人差し指と薬指で潰された。


「………へ?」

「……えっ…あ、グギャァァァァァァァァァ!」


少し沈黙を置き、感じた痛みから自分の目を潰されたと理解すると、男は大きな叫び声を上げた。

もう一人のバットを持った男は状況を理解出来ずその場で固まっている。


「とりあえずそれが現時点の最高スコアですね」


進上はそれだけ言うと、目を刺した二本指だけで男の身体を持ち上げる。視界を潰された男はがむしゃらに暴れるが進上の身体はびくともしない。

そこでようやく固まっていた男は動き出した。


「て、てめぇぇぇぇぇぇぇ!」


「貴方も彼とご一緒にどうぞ」


進上は素早く前にステップを踏み、残っているもう片方の手で一人目と同じように目を潰す。


「ギ、ギギャァァァァァァァァァァァ!」


「ああ、結構良い勝負をしますね。ここで判定出すのは難しいので、録画してあるやつで後でどっちが勝ったか確認しておきます」


進上は叫ぶ二人の顔を交互に見ながら聞き耳を立て、どっちの叫び声が大きいのか聞き分けながらそう言う。


「ご、ご…うごめんなさあぃぃぃぃ…ゆ、ゆるじてぇ…」

「や…やめぇてぇ……くださ…」


二人はこのままでは殺されると思い、武器から手を放して命乞いを始める。その二人の命乞いを聞き、進上はゆっくり口を開いた。


「ねぇ、奇遇な事に実は僕も生き物を殺し足りてなかったんだ。

どうやら内野君達には戦闘好きな人だと勘違いされてるみたいだけど、それは違うんだ。戦闘はあくまでも過程で、僕が求めているのは戦闘の結果の…『死』なんだよね」


「な…なにぃ…を…言って…」


「でもこんなの言ったらきっと仲間の皆に嫌われちゃうし、絶対に言えない。特に内野君には嫌われたくないんだ。まだあんまり一緒にいた時間は無い人なのに不思議だよね」


「助け…たじゅけ…」


「でもね、この世界なら魔物を殺した数だけ仲間に好かれるんだよ。

それって素敵だよね、だって僕の求めている『死』を手に入れると同時に仲間からの信頼が厚くなるんだもん。

だから僕はこのクエストが…って、あ。そうだ、君達にはこれ以上話したらダメだったんだ」


進上はそう言うと二人の目から指を抜き、インベントリから取り出した剣で直ぐに二人の首を刎ねた。

そしてそこらに転がっている水の入っているペットボトルを拾うと、それで指を綺麗にし始める。


「あ、ビデオ判定はまだだけど、多分鉄パイプを持っている人が勝ちだよ。それじゃあね」


進上はそう言い残すと歩いてこの場を去る。

残っているのは、恐怖の表情の固まっているの二つの生首と、二人の身体だけだった。

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