第185話 クエストの結末(覚醒者)

プレイヤーという加藤にしか見えない透明な謎の者達と行動していた3人、帯広、西織、加藤は道のど真ん中で立ち尽くしていた。

何故立ち尽くしているのかというと、突然プレイヤーと魔物の身体が青色の光を放ち、一人残らず消えたからである。


「…で、俺らはどうすりゃいいの?」


「いや、そう言われても私はあの人達を見れないから何とも…」


加藤と西織が困惑の声を出している。

7時間程共に行動したのでもうかなり仲が良くなり、お互いの事を色々話していたのである程度態度は砕けていた。

ただ帯広は家族以外にため口で話したりするのが苦手なので一人だけ完全敬語のままだ。


3人の情報を並べておくと


帯広おびひろ太知たいち

今年就職したての22歳。目付きが悪く体格が大きいが性格は温厚。引っ込み思案で話すのはあまり得意では無い。

今日ここにはフィギュアを買う為に来た。


加藤かとう勇気ゆうき

ジャージの下にタンクトップを着ている屈強な身体を持つ、先天性無痛無汗症を持つ高校三年生。痛みを知らないせいか随分と肝が据わっている。

日課のランニングで挟んだ休憩時間にファミレスに立ち寄った。


西織にしおり七海ななみ

20歳大学生3年生の女性。ショートカットの明るい女性で、こんな状況でも暗い表情を見せてない。

今日は友達が待ち合わせ時間に遅れていたんで時間を潰す為にこのファミレスに来ていた。(肝心な友人は寝坊で家にいたので生きている)


ちなみに今の3人がプレイヤーから聞かされた情報は、魔物を殺すと強くなる事や特殊な能力スキルが手に入ること程度で、ほとんどプレイヤーから何も聞かされていない。

そして能力スキルはまだ加藤の身体が回復した事以外にはまだ判明していない。加藤は怪我をしても勝手に再生するから回復系のパッシブスキルを持っているとされている。


プレイヤーとしては話せるものなら全て話したい所だったが、プレイヤーという単語を3人の前で出して良いのかすらも分からず、どうして自分達が透明な状態になっているのかも教えられないので、出来るだけ3人にクエスト関連の会話を聞かせない様にしていたのでこうなるのは仕方が無かった。



「取り敢えずここで待っていましょう。彼らが戻ってくるかもしれないですし」


帯広はそう言い地べたに腰を掛け、ビニール袋3重被せで保護したフィギュアを開封し始める。

騒動の間にそこらのホームセンターで手に入れた手袋とハサミを使い丁重にフィギュアの箱を開ける。

手に入れたと言っても盗んだわけではなく、しっかり値段分のお金はレジ前に置いて来ていた。


これには加藤も西織も少し引き気味に驚く。

こんな訳が分からない状況でもずっと大事にフィギュアを抱えていたので二人の帯広に対する印象は、相当心に余裕がある者なのか、とんでもない馬鹿なのかと、どっちか分からない状況だった。


「ずっと思ってましたけど…それってそんなに大事な物なんですか?

それとも帯広さんにとってこの程度の出来事など修羅場とは呼べない程のものなんですか?」

「その殺気が籠っているかの様な鋭い目も…相当過酷な経験を…」


「この目は遺伝だってさっきから言ってるじゃないですか!?

それにこれは私なりの現実逃避の方法です。訳が分からない事ばかり起きて頭を働かせるのが嫌にあったので、このフィギュアや家でプラモデルを作る事だけを考えているようにしたら楽になったのでずっと続けてただけです!」


帯広の弁明に二人は少し笑いながらも謝る。


「ごめんなさいごめんなさい、からかい過ぎました。

ですが帯広さんが凄い人だと思っていたのは透明な人達も同じみたいで、「あの目はこっち側の人間だ」「初めて魔物と遭遇したのに魔物にガン飛ばしていた彼は相当な才能の持ち主だ」だとか言ってましたよ」


「…勧誘とかされちゃうのかな」


「ふふふふ、その時は私達も一緒に行きますよ!

なんてったってもう今の私達は力持ちですからね、3人で掛かれば弱い魔物にも殴り合いで勝てると思いますし!」


西織は試しにガードレールを本気で蹴ってみると、見事に蹴った方向へと支柱と柵が折れ曲がった。

次に加藤が地面に向かい拳を叩きつけてみると簡単にアスファルトは砕けた。


西織の脚と加藤の手はそれでも一切怪我してない。痣すら無い。


「本来ならこんな全力で地面を殴ったら拳がボロボロになるはずなのにな、これでも地面に触れた箇所が赤くなるだけだ」

「今なら斧を片手に憎き杉の木を伐採できるかも…花粉症を今年で終わらせられるかな…」


「やっぱり私達3人は人外になってしまったみたいですね。魔物の次に人類と戦うなんて事になったりしたら…限定フィギュアがもう3,4個ぐらい無いと耐えられない…」


「あれば行けるのか」


そんな空気のまま、3人は透明な者達が帰って来るまで座って話す事にした。



数分の間は「帰ったら何をするのか」「恋人はいるのか」「力をどう使うのか」など普通の話をしていたが、途中で加藤は神妙な面持ちになって下を向いていた。


「二人共…一つ聞いても良い?」


「はい」

「なんでも聞いて良いよ!」


「その…さっき透明な人達が話していたのを聞いたんだけど、多分この魔物っていう凶暴な生き物が現れる現象は1回だけじゃ終わらないみたいなんだ」


二人はその言葉を聞いて硬直する。もう二度とこんな大災害など起きてはならないと思っていたからだ。


「え…それじゃあまた何処かでこんな事が起きて、また大量に人が死ぬという事ですか…?」

「それってあれよね…数千年に一度とかよね?

だって魔物が現れたなんて歴史で学んでないし、人間の文明が出来てから一度も起きてないならこの現象が起きるのは数万年に一度とかでしょ?なら私達には…」


「いや、一月ひとつき以内にはまた起こるだろうって言ってた…」


二人の希望的観測は虚しく加藤に潰され、二人は肩を落とす。ただそんな二人の反応を見て加藤は直ぐに言葉を続ける。


「それでさ、次もしもこんな事が起きても少しでも被害が減る様に、俺達が魔物と戦わないか?」


「「えっ…!?」」


この加藤の提案に驚き、二人は口をポカーンと開ける。二人はまさか魔物と戦おうなどと加藤が提案してくるなど微塵も思っていなかった。

この提案に帯広は全く乗り気じゃ無かったが、西織は案外アリかもという反応をしていた。


「なるほど!力を持つ私達が戦えば少しでも戦えば被害を抑えられるかもしれないですね!」


「でしょ?それにもう一つ案があるんだ。

透明な人達を俺らの事を覚醒者と呼んでたし俺も覚醒者って呼ぶけど、どうやら俺ら以外にも覚醒者がいるみたい。

だから他の覚醒者も募って「日本防衛覚醒者隊」みたいなやつを作るのもアリだと思う。募る方法はまだ未定だけど…」


「良いですね!」


ノリノリの西織に対し、帯広はボーっとフィギュアを眺めながら難しい顔をしていた。


「戦うと言っても…私達にあんなのと戦えるでしょうか?

それに今私が余裕そうな顔をしてるのは現実逃避して他の事を考えているだけであって、正直魔物の事が怖いですし…」


帯広は試しにこのクエストで出会った怖い魔物を思い浮かべてみると手が震えていた。

爆弾を羽の様に舞い落として飛ぶ巨鳥。地面から腕を出して地上の人間を無理やり引き摺り込んで殺すモグラ、人間を簡単に溶かしきる酸を撒き散らす大きな虫。


自分がそれらの魔物と戦えるとは到底思えなかった。

だから腕が振えるのだ。


二人には申し訳ないけど…無理だ…自分にはそんな勇気無い…


帯広が何も言わずともある程度察したのか、加藤は口を開く。


「別に帯広さんに参加を強要したいわけじゃないんです。俺だって魔物は怖いし、気持ちも分かるので強要なんてするつもりはありません。

ただ…きっとこれが俺の求めていたものなんです。だから俺は一人でもやるつもりです」


「求めていたものって…これが?この地獄が君の求めていたものなの?」


帯広は加藤の言っている事が分からずそう尋ねると、加藤はゆっくりと口を開く。その時の加藤の表情は決して明るくなかった。


「先天性無痛無汗症は名前の通り痛みを感じず汗を流せないというものです。

痛みを感じないと、怪我をしていても自分の目で視認しないと気が付かない。だから深刻な傷害を負う可能性があって俺はスポーツだとかを小さい頃はあまり出来なかった。

しかも汗を流せず体温調節も出来ないから、単純なスポーツでも危険だからって親に許されなかった。

でまぁ…運動に飢えていた俺は高校頃に親に提案したんだ。エアコンが効いている室内で出来て、常に身体の怪我に注意出来る運動ならしても良いかって。そしたらOKを貰えて、俺はジムに通えるようになった。

ランニングマシーンや、常に自分の鍛えている部位を見れて怪我をしても気づける筋トレだとか、それだけは許されたんだ」


「あ…それじゃあその身体はジムで鍛えたものだったんですね」


「うん。

でも身体を鍛えてて思ったんだ…これじゃないって。本当はバスケとかサッカーだとか…もっと激しく動き回りたかったんだって。

でもそれらのスポーツクラブや部活に入るのは許されず、高校3年の今までジムで我慢してきた。

そして今日、透明な人達の華麗な動きとかを見てた思っちゃった。あれが俺のやりたい事なんだと」


「そ、それじゃあ魔物との戦闘が加藤君のやりたい事なの…?」


西織の問いに加藤は小さく頷くと、そこらに落ちている魔物の死体に視線を向ける。


「俺には痛覚が無くて怪我をしても気づけないから今まで運動を止められてきた。

だが今の俺には再生能力がある。力がある。

そして痛覚が無いから魔物への恐怖も人より少なく立ち向かえる。それが誰かの為になる。俺が人を救える。

…それらが重なってこの答えに辿り着いたんだ」


加藤の言葉になんと返すべき分からない。ただ帯広には一つだけ言える事があった。


「君の覚悟は分かったし、その心は尊重するべきだと思います。でも…やっぱり無理ですよ…あんなのと戦った死んでしまいます…

私は…二人に死んでほしくありません…」


涙は流していなかったが帯広の声は震えていた。

それを聞いて西織も楽観視をやめて、魔物と戦う事について真剣に考え始める。


ただそのタイミングで、加藤は突然周囲を見回し始めた。


「あっ、また青色の光に包まれてあの人達が帰ってきた」


プレイヤーの帰還だ。

そしてプレイヤーが帰って来ると、加藤は二人に一言だけ述べる。


「さっき言った魔物と戦う事をこの人達に相談してみる。日本防衛覚醒者隊についても…」


______________________

これにて2章終了し、明日からは3章に入ります。

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