第183話 見る者によって地獄

見覚えの無いスキルがあり、ステータスが増え、レベルが上がっているという現象。

『ストーン』は使徒が使っていたと思われるスキル、それらから導き出される答えは…


「どうやら使徒を呑み込めていたみたいです。しかも使徒の『恐れ無き虫の鎧』というアイテムもあるので使徒を少人数で殺した事になっているようで…」


「俺の所にはそのアイテムは無いし、使徒を倒した分のレベルは上がってない。念の為他の者にも確認してみよう」


川崎はすぐさまスマホであの場に居合わせた者達に確認の連絡を取る。が、他に使徒のアイテムがショップに並んでいる者はいなかった。

よってこのアイテムは内野が単独で倒したという判定になっている事が確定した。


流石の川崎もこれは予想外で、下を向いて頭を抱える。頭を抱えると言っても落ち込んでいるのではなくむしろ逆で、興奮に心躍らせていた。


「君の『強欲』が『怠惰』と同じなら、完全に闇を仕舞い切らないとその魔物を殺した判定にならないはずだ。

となると…もしかしてさっきまで君が纏っていた闇にはまだ使徒は入っていたんじゃないか?」


「魔物を殺した判定になるのは闇が完全に消えた時、そして今回闇が完全に消えたのはクエスト終了後のついさっき。

…それじゃあ闇の中に入っていればクエスト終了後なのに転移せず、こっちの世界に残ってられるという事になりますね」


「ああ…そこで一つ確認したい事があるのだが、君が一番共に行動していた彼女に今回の獲得QPを聞いてみてくれないか?」


「え、新島ですか?良いですけど…どうしてです?」


「君のQPと彼女のQPを比べるんだ。

二人はほとんどで行動を共にしているから獲得QPはほとんど一緒になるだろう。だがもしもクエスト終了前に使徒を殺した判定になっていたら、君は使徒撃破分のQPが貰えているはずだ。

それで使徒が死んだのかクエスト終了前か後なのか判別できるだろう」


川崎の説明に納得し、内野はマナーモードにしていたスマホを開く。

マナーモードを切って最初に目に着いたのは、強欲プレイヤーが集うグループの通知の数。7,8時間見ていなかっただけで通知件数が「999+」とカンストしており、大半はクエスト経験のあるプレイヤーの忠告を聞かずにクエストに参加した新規プレイヤーの助けを求めるメッセージだった。


だが今はそれをじっくりみている暇は無いので直ぐに画面をスクロールして新島のチャットを探す。

スクロールしている途中で佐竹から100件近いメッセージと着信履歴があったが、今は返信している場合じゃないので無視して新島に獲得QPを尋ねてみる。

(久々の登場でお忘れかもしれないですが、佐竹は内野の幼馴染)


すると今回のクエストで手に入ったQPは270だという。内野の264よりもわずかに多い数値であった。


「これで確定だな。使徒はクエスト終了後、闇が完全に消えたタイミングで死んだと」


「そう…みたいですね。でもどうして黒幕は闇の中にいる使徒を回収しなかったんでしょうか。

あの黒幕は俺達を勝たせる為に協力すると言っていましたが、こんな事でルールを曲げるとは思えないです。それに魔物側の黒幕がそれを許すとは思えないですし…」


以前白い空間で聞いた話ではこのクエストの首謀者は二人おり、一人があそこで出会った黒い玉で、もう一人いるという。(82話)

黒い玉はプレイヤーを勝利に導き、もう一人の方は魔物を勝利に導く。つまり二人は対戦しているのだ。

だから片方がルールを勝手に捻じ曲げる事など許されるはずがないというのが内野の考えだった。


その意見には川崎も頷いていた。


「ルールを曲げるとは思えないというのには同意だ。だが一つ俺に考えがあってな…」


「考え…?」


「使徒を回収しなかったんじゃなくて出来なかった…という可能性だ。

梅垣君曰く、使徒が闇に包まれた瞬間に魔力を感じ取れなかったらしい。闇に魔力を遮断する能力があるのかは分からないが、もしもあるのならば黒幕のテレポートが闇に包まれていた使徒に届かなかったと…考えられる気がしてな」


「闇にそんな力が…

それじゃあこの大罪の能力は黒幕にも手が付けられない力って事ですか?」


「可能性はあるかもしれん…が、相手は十中八九『闇耐性』を持っているだろうし黒幕を殺してクエストを終わらせるなんていうのは無理だろうな」


そりゃあそうか。俺達に反逆される事を考えてあいつも『闇耐性』を持っているだろう。

それにしても…やっぱり大罪スキルって凄いな。ゲームでこんなのがいたら完全にバランスブレイカーだ。


改めて自分の力に驚いていると、さっきから黙ってスマホに高速で何か文字を入力している二階堂に気が付く。


「あの…一体何を?」


「今の話を全てメモしてたんだ!皆にここで話した内容を伝える為にも、クイズのネタにする為にも」


二階堂さんは本当にクイズが好きなんだな…


そんな話をしている所でヘリの飛行音が増えて来た。耳障りな音が増えた事によって3人は話を切る。


「もう内野君の闇は無くなったし普通に移動するぞ。どんなスキルが手に入っただとか聞きたいが、それはまた今度にしよう」


「はい」


こうして3人は再び動き出した。今度はもうヘリに追われる心配も無いので堂々と道の真ん中や建物の屋上を走って目的地へと。




透明時間が終わる20分前には内野の両親がいる避難所へとたどり着いた。

ここはクエスト範囲から1キロ程離れた所にある小学校で、ここには比較的軽傷の人達が集まっていた。そもそも重傷者はクエスト範囲から離れたここまで移動できないので、クエスト範囲に近い避難所ほど重傷者は多く悲惨な光景になっている。

それらの避難所を救急車が往復して重傷者を優先的に病院に運んでいたが、もはや病院に収まる人数ではなくそれも厳しかった。だから今は負傷者を運ぶのではなく、怪我の処置などが出来る者を避難所に運ぶ方向へ動いている。


3人は内野の両親を探しに、今回の件で負傷者した者達が休んでいる教室に足を運ぶ。

ただ、両親の大まかな場所はGPSで分かっているので二人のいる場所はおおよそ見当がついていた。

廊下を歩いている間、絶えず至る所からテレビのニュースの音声が聞こえてくる。そこで聞こえてくるのは魔物が突然全て居なくなった事に驚きを隠せていないニュースキャスターなどの声。


〈速報です!魔物が現れて約8時間経過しましたが、なんと突然全ての魔物が青色の光を放ち消えたみたいです!繰り返します、魔物が~〉

〈魔物が消えて難航していた人命救助がようやく手に付くみたいですが、負傷者の数は既に30万を超えており医療現場は非常に混雑し、今は避難所での応急処置を行っています。一般病院への移動も行っていますが~〉

〈被害者のご家族は避難所、または被災地へ向かう際に自動車の使用はお控えください。避難所近隣の道が混み救急車が~〉

〈スマホで息子の現在地が分かるのですが…被災地からずっと動かないんです…私の子に限って死んでいるなんて事はありえないので、一刻も早く息子を救い出してもらいたいです〉

〈魔物の全滅を確認し終わり次第早急に病院船を被災地に向かわせる方針だと~〉


スマホやテレビから聞こえてくる音だけでなく、負傷者の苦しむ声、医療スタッフの疲れきった声などが聞こえてくる。

3人はクエストが終わりやり切った感があったので大分肩の力は抜いていたが、彼らは違う。どれだけ負傷者の手当てをしても次々とやって来る負傷者が増えるので休む暇がなく、疲弊しきっていた。


クエスト範囲の光景も酷かったが…やっぱりここも酷いな。多分以前の俺なら目を背けて耳を塞ぎたいって思っていただろう。

…良くも悪くもこういうのも慣れるものだな。


内野がそう思っていると、両親二人の反応がある1階のある教室へと着く。ドアが開いていたので教室の中の声が聞こえてくる。見知らぬ男二人が話している様だ。


「俺は被災地から離れていたのに透明な魔物に引っ張られて危うく被災地に引き込まれる所だった。そこで自衛隊の方が透明な魔物に銃を撃って追い払ってくれたから助かったんだ。う、嘘じゃないからな!?」


「大丈夫です。貴方と同じ様な発言をしている者は他の所でも多数いますから。

それにそこで気絶している二人も同じ様に透明な魔物に引っ張られてここまで連れてこられた人です。ここで待機していた自衛隊が透明な魔物を追い払う所を私も目撃していたので信じていますよ」


教室の中では自衛隊員と服がボロボロに破れている男性が話していた。そしてその横には内野の両親が床に寝かされていた。


「あ、川崎さん。ここに二人がいました!」


「それは良かった。それに俺の出した魔物が上手く仕事をしたみたいだな。服は他の者同様にビリビリになってしまっているが、そこは許してくれ」


「ははは、そこまで高い服じゃないと思うので大丈夫ですよ」


二人の寝顔を見て、無事だと分かってはいたが内野は安堵して足の力が抜け膝を付く。二階堂と川崎もそれを見て薄っすらと笑みを浮かべる。


「それじゃあもう今日はここでお別れだ、もう一人で大丈夫だな?」


「今日は…ありがとうございました!本当に怠惰グループメンバー全員に感謝しています!」


怠惰グループと行動出来ていなかったらこんな結果には絶対にならなかった。感謝してもしきれないよ…


内野のお辞儀にされ、二階堂は「それじゃあね内野君、また次会う時も『ドキドキ!クエストクイズ!』を作ってくるから楽しみに!」と言い笑う。


川崎は「色々と話したいことは残っているから、次会うときは俺の長話を聞かされると覚悟しておいてくれ」と冗談めかして言い、二人は内野に背を向け学校の怪談出口へと向かって行く。



こうして一人になった内野は廊下の端に座り、スマホのメッセージを確認する。

さっき遠まわしにした佐竹へのメッセージ返しだ。

佐竹からは内野一家の心配のメッセージが届いており、クラスグループでも一切返信が無かった内野を心配している者が多数メッセージを送って来ていた。


佐竹は今日サッカーの試合で遠出していたので内野の家に行けたのがつい1時間前らしく、家に誰一人おらず、内野にメッセージを打っても返信が来なかったからそうと焦っていたみたいだ。


…仮面騒動で父ちゃん母ちゃんは俺に色々聞いてくるだろうし、正樹も全然返信しなかった事を起こってくるだろうな。

さ、透明時間が終わるまで言い訳でも考えていよう。


__________________________

これにて2章本編は終わりです!

あと数話だけ2章についての話があります。(クエストに参加していた工藤や松野達レベル上げメンバー、最初の方で離脱した進上や木村、外伝のプレイヤーじゃない3人の話だったり)

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