第182話 最高の結果

攻撃ヘリの機関銃から弾が発射された瞬間、内野は急いで新島を胸に抱いてヘリを背にして庇う。


「バリアっ!」


内野は新島を庇うと同時にバリアを張るが背中に何発か被弾した。だがステータスの力があるお陰で被弾した所が少しヒリヒリする程度で済んだ。


「内野君、ヘリを落とす訳にはいかないから逃げるぞ。閉所に行けば相手は追ってこれず諦めるはずだ。

内野君には俺と二階堂が付くから、残りのメンバーはここで解散してくれ」


「はいっ!」


攻撃ヘリの乱射に耐えながら川崎の指示を聞きそれに従う。内野は新島が被弾しないように自分が盾になりがら、瓦礫の影の安全な所へと新島を移動させる。


「それじゃあここでお別れだ、今日は本当にありがとう。新島に何度助けられた事か…」


「それは私も…私達もそうだよ、君に助けられたもん。だからお互い様だね」


別れの言葉をお互いに述べ、内野は小さく手を振りながら川崎と二階堂に付いて行く。

攻撃ヘリは内野しか見れないので当然内野を追い駆けに向かい、これで新島は安全にここから出れる様になった。


今日は内野君と一緒に行動出来て本当に良かった。

戦闘面じゃ私にはなにも出来ないから不安だったけど、この『闇耐性』のお陰で戦闘面以外で内野君を支えられた。

このスキルを持っているのは私・工藤ちゃん・進上さんだけだし、たとえ私が戦えないままでも彼の傍にいられる…かな?


新島は遠ざかる内野の背中を見ながら、自分が最初から持っていた『闇耐性』に感謝していた。




内野を先導するのは川崎で、『ヒール』を使える二階堂が内野の横を並走していた。

相変わらず闇が内野の視界の大半を塞いでいたが、最初と比べたら少しだけマシになっていた。


「もう銃程度じゃ怪我しないぐらい物理防御力があるんだ、私が同行しなくても良かったかもね」


「自分も驚いてます…いよいよこの世界の生物の域を超えた気がしてきました」


「ふふふ、思ったよりも思い詰めてなくて良かったよ」


内野は使徒を殺しきれなかった事に責任を感じていたので少しテンションは低かったが、それでも皆が心配していた程の落ち込み具合ではなかった。


川崎も内野を案じていたがそれが杞憂だと分かり、僅かに頬が緩んでいた。


「君の判断は何一つ間違っていなかった。使徒を『強欲』で吞み込むチャンスが現れ、君はそれに手を伸ばしただけだ。何も間違っていないし、それが正しい判断だ。

使徒を逃がしたのは惜しいが、今回のクエストで君は目の前の光を掴み取ろうと頭を働かせられる人間だと分かったのは大きい。俺達にしても、君自身にしても、だから損などはしてない」


「俺自身…?」


「ああ、君はまだクエスト経験回数が少ないから自分自身についても知らない事があると思う。クエストを通じて目覚める才能や、自分の思考回路のパターンだとかな。そしてそれらを知る事は成長と言えるだろう。

一人の人間が持てる思考回路は一つ、それを知る事は少しステータスを上げたりするのよりも遥かに大きな力となる。

だから使徒を吞み込めずにステータスは上がらなかったが、ステータス画面に映らない所が成長したと言えるだろう」


成長…か。確かに今日色々な事が分かったあったから自分の変化を実感し、色々な事に気が付けたな。


一般人を簡単に見捨てられる自分の冷酷さを知った。(133話)

工藤には怖がられたけど、多分これは俺の心が折れない為にも必要なものだしきっと俺の立派な武器になるだろう。


チャンスがあれば俺は使徒を呑み込めるかもしれないという考えになる事が分かった。そういえばこれと似た様な事が黒狼の時のクエストでもあったな。

アイツが動かなくなったのを良い事に『強欲』を使ったが、3回目の『強欲』使用で黒狼の前で気絶してしまった。あれは黒狼が自分の舌をかみ切るという謎の行動してなかったら本当にやばかった。(83話)

川崎さんはチャンスに手を伸ばすのは良い事だと褒めてくれたが、場合によっては悪い点にもなるというのは覚えておかないと駄目だ。同じ過ちを繰り返さない為に。


そして黒沼と本音で話し、今の自分と昔の自分には欲の有無の差がある事が分かった。(149話)

あそこで嫉妬についてよく考えていなかったら気が付いていなかっただろう。この差が俺にどんな影響を及ぼすかは分からない、だが今までの無気力な俺とは違う点が沢山出てくるはずだ。それを今後も見つけて理解していこう。


内野が今日学んだ事を頭の中で整理していると、後ろを追いかけてきているヘリの飛行機だけではなく、前方からも飛行音が聞こえてきた。


「応援を読んできたみたいだ。まぁ…向こうは内野君の闇しか見えなから魔物見えていて、ここらに魔物が居ないから君が最後に残った魔物…だと思っているんだろうな。結構闇は消えてきたから良かったが、あまりにも長い間消えずに残っていたらもっと大量に兵力を集中させてきただろうな」


川崎がそう言いながら建物の間の細い道へと先導するので、二人もそれに付いて行く。

すると追い駆けて来ていたヘリはそこから距離をとって上がっていった。諦めたのではなくそこに繋がる道を上から確認する為だ。


「細い路地裏ならヘリも攻撃してこないだろうし、一旦闇が消えるまではこそこそ細道を歩くぞ」


「俺なんかを追い駆ける為に人員を割くのではなくて、人命救助に人手を使ってほしいですしね」


「だな。一応君の両親がいる避難所方面に向かってはいるが、回り道ばかりだから遅くなりそうだ」


ようやく二人に会える…会ったのにまるで数日ぶりに会いに行くかのような感覚だ。

クエストの8時間中、俺は半分以上闇の中にいた。闇の中は何にも見えなくて退屈だったから実際の経過時間に比べて体感時間はかなり長かったからか、今日一日は物凄く長く感じた。

…二人に会えるのがこんなに楽しみに思えた事は無いな。


「あんな事があったんだしやっぱり両親に会えるのは楽しみだよね。私も後でレベル上げしてた仲間に会う事を考えるとニヤニヤしてきちゃうよ~」


二階堂が笑顔でこちらに向かってそう言ってくる。

気が付けば闇は完全に収まっており、内野の表情を視認出来るようになっていた。だから内野が両親の事を思い浮かべて笑みが浮かべていたのが見えたのだ。

内野は笑みを見られたのが少し恥ずかしもあったが、悪い気はしなかったので小さく頷き返す。

二階堂がそれを見て更に笑顔になるが、そこで一つ重要な事を思い出してハッとした顔に早変わりした。


「あっ、そういえば内野君。聞いておくけど今回でQPはどれぐらい手に入った?

今日でレベルがかなり上がった人が多いだろうけど、戦闘技術が伴ってない人が多いから今度怠惰グループメンバーで皆を鍛えようと思っているんだ。

スキルの扱いも教えるんだけど、魔力水を買う余裕がどれぐらいあるか確認しておきたいんだ」


「あ、確かQP264手に入ったと表記がありました…それで今は合計が…」


内野がステータス画面を開くと、ぱっと見で違和感があり言葉を止める。

___________________

【レベル71】 SP72 QP512

MP 732

物理攻撃 316

物理防御 304

魔法力  256

魔法防御 293

敏捷性 247

運 6


【スキル】

・強欲lv,8 ()

・バリアlv,4(50)

・毒突きlv,2(20)

・火炎放射lv,5(90)

・装甲硬化lv,5(25)

・吸血lv,1(10)

・独王lv,1(20)

・ステップlv,1(5)

・ストーンlv,3(30)


【パッシブスキル】

・物理攻撃耐性lv,6

・酸の身体lv,3

・火炎耐性lv,5

・穴掘りlv,2

・MP自動回復効率lv,1

〇第三者視点lv,2

_____________________


…あれ、俺って『強欲』で黒沼を倒してしまった判定になってレベル上がったけど、確かその時はレベル60ぐらいじゃなかったか?

てか…いつの間にか俺が知らないスキルがあるしステータスも上がっている気がするぞ。


・ストーンlv,3(30)

〇第三者視点lv,2


この二つのスキルは内野に見覚えは無かった。

だが、見覚えの無いスキルがあり、ステータスが増え、レベルが上がっているという現象はこれまでに何度もあった。

それは『強欲』を使い魔物を呑み込んだ時だ。




「ッ!?まさかっ!」


内野はある事に気が付き、急いでショップを開いてページを捲っていく。この時に思わず声を出していたが本人はそれに気が付いておらず、川崎と二階堂の「何があった?」という声も耳には入らなかった。


この『ストーン』ってスキル…あれだよな?絶対にあいつのだよな!?



そして内野が二人の声を無視してショップのページを進めていくと、あるアイテムの名前が目に入ったのでそれをタップする。


______________________

恐れ無き虫の鎧 必要QP50

『暗闇を恐れないという理由だけで使徒に選ばれた巨大な虫。

その使徒の身体を守っていた殻と同じ硬さの装甲を持つ鎧。

(兜・胴・籠手・脚部・ブーツのうち選んで購入)』


購入しますか YES/NO

________________________


「か、川崎さん…どうやら作戦成功してた……みたいです」


「……は?」

「……ほへ?」


内野の開いている画面が見えない二人はそう言われても内野が何を言っているのか理解できずにいた。

だがそれは内野も同じで、今起きている事が信じられずにいた。



その場にいる3人は困惑の声だけを出し、辺りにはヘリの飛行音のみが響いていた。

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