第181話 最悪の結果?
ただ前回と違う点があるとすれば、その場にいる全て大罪の口元には黒い靄がかかっており声を一切出せない事だった。
だから両隣にいる川崎と平塚が内野に何かを言おうとしていたが何も喋れず、当然内野が状況を聞こうとしても声は出ない。
え…あ、もしかしてクエストが終わったのか?
俺が気絶している間に何があったのかは分からないけど…二人の表情はあまり良いものじゃない、って事は…
「あっぶね~~~!危うく大罪が一人死ぬ所だった~~~~!」
内野が二人の表情から状況を理解しようとした所で中央にある黒い球、クエストの黒幕がそんな声を出した。
声変わりする前ぐらいの少年の声で、どこか気の抜けた声。だが今回は黒幕も動揺していたのか少しだけ声が震えていた。
内野はそれが何のことか分からずにいると、川崎が真っ先に黒幕に向かって憤怒の使徒の最後がどうなったのかを尋ねようとする。だが声は出ない。
「あ~悪いけどこの招集って質問コーナーを設ける為のものじゃないから君達の質問には答えられないし、声を封じて大罪同士の相談も出来ない様になっているんだ。
だから一方的にこっちの話を聞くだけになるよ。まま、直ぐに終わるけどとりあえずそこに座ってよ」
黒幕に言われるがまま、7人の大罪達は椅子に腰をかける。だが憤怒の使徒を呑み込めたのか分からないままここに来たので、平塚、内野、川崎の心は落ち着かなかった。
「ここにいるのは大罪だけだけど。プレイヤーの皆は前回同様にロビーでここの様子を見ているから、これはプレイヤー全員に向けてのお知らせだと思ってね。
一回目のクエストが終わった訳だから、先ずはいつも通りクエスト終了画面を見よう」
黒幕がそう言うとプレイヤー全員の目の前に小さな板が現れた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
内野 勇太 獲得QP264
〔防衛対象〕
〈レベル99〉二階堂 凛 生存
〈レベル82〉石井 圭吾 生存
〈レベル79〉芹澤 隆一 生存
〈レベル78〉早大 靖俊 生存
〈レベル68〉長谷川 瞬 死亡
〈レベル72〉相田 宗次郎 生存
〈レベル54〉川島 啓五郎 死亡
ーーーーーーーーーーーーーーー
上の方には自分の獲得QP、そしてその下には今回のクエストの防衛対象である者達の名前が並んであった。
二階堂・芹澤・相田の3人は怠惰メンバー、そして早大は緑仮面で最後の方怠惰グループと共に行動していた。
なのでこの4人が生きているという事は、怠惰グループは防衛対象の防衛に完全に成功したと言えるだろう。
「2人だけ死んじゃったけど、まだ結果は良い方じゃないかな。
相手は皆がまだこの現実でのクエストに慣れていない内に、ヒールだったり補助系のスキルを持っている者を殺そうと考えていたみたいだけど、それは阻止できたって言っても良いぐらいだよ。
ただ、防衛対象が二人死んだからこのクエストで生き残った魔物達は全員少しレベルが上がっちゃったけどね」
黒幕にそう褒められるが、使徒の結果が気になる3人肩の力は抜けずにいた。
そして黒幕は言葉を続ける。
「それじゃあ僕が勢い余って余計な事を喋っちゃう前に本題に入るよ。
これから君達はまたさっきの場所に戻るけど、そこから30分間の間はクエストの時みたいに姿が見えない様になるよ。だからその隙に軍隊の目とか掻い潜ってクエスト範囲から抜け出して。
ま、これって君達がクエスト範囲内で軍隊だとかに発見されて面倒な事になるのを避ける為に与える時間だから、もし見つかりたい人がいればクエスト終了の余韻に浸って待機してると良いよ。推奨はしないけど」
そうか、クエストが終わって魔物が居なくなったらクエスト範囲を囲っていた軍が動き出すもんな。
クエスト範囲で見つかったら保護されるだろうけど、多分何があったのかだとか色々聞かれるだろう。
そう言えば一般人はプレイヤーの事を視認できないから、当然戦闘も見れず魔物が勝手に死んでいった様に見えてるだろうけど、どうやって説明するんだろう。
「あ、このクエストで出来た傷や浴びた血だとかは全部無くなり綺麗になるからそこは安心してね。
それじゃ次の話に移るよ。
クエストの間は自然MP回復があったけど、クエストが無い間は自然回復しなくなるのに注意してね。あと9回この世界でクエストがあるけど、結構期間が空くから暫くの間は情報交換だったり訓練を頑張ってね~」
黒幕がそう言い終わると一同の身体が青く光り出した。普段なら次の瞬間には転移が始まっているはずだが、黒幕は最後に言い忘れていた事を思い出したので転移の青い光を一度消す。
「そうだそうだ!
誰の事かは…まぁここでは言わないけど、大罪スキルを酷使し過ぎないでね。
大罪スキルを使える回数に制限があるから普通はあんな事にはならないし出来ないんだけど…ま、次から気を付けて、やり過ぎると本当に死んじゃうから!」
内野はそれが誰に向けての言葉かは分からなかったが、何故か川崎と平塚と目が合う。
…え、もしかして俺?
そう思った瞬間、皆の意識はそこで途絶えた。
__________________________
そして内野が目を覚まして先ず目に入ったのは……いや、何も見えなかった。
自分はまだ意識を取り戻しておらず気絶しているのではないかとも一瞬思ったが、身体には誰かに抱き抱えられている様な人肌の感触がある。
「内野君!起きてる!?」
最初に聞こえてきたのは新島の声。その声は至近距離からし、今視界に闇が広がっている自分を抱えているのは新島だという事が分かった。
そして次々と自分の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
使徒を包んだ闇が内野の身体に戻っていっていたが、完全に戻りきる直前の所で転移があったせいでその場に闇が取り残されたのだ。
そして闇の中でまだ生きていたであろう使徒は消え、その場に取り残された闇が内野の身体に戻っている最中だった。
「ちょ、今どうなってるのこれ?」
「…え、えっと…今は転移前に使徒を吞み込んでいた闇が君の元に戻っている最中なの。
あの転移が起きたのは『強欲』の闇で使徒を吞み込み終わる直前だったんだけど、どうやら使徒を完全に吞み込むのには間に合わなかったみたい…」
「間に…合わなかった…?」
川崎達がステータスボードを見ても、誰一人使徒を倒した分のレベルは上がっていない。つまり使徒を殺せなかったのだ。
その作戦失敗という言葉を聞いて内野君の身体から力が抜ける。
ダメだった…欲張ったらダメだった…あそこであんな作戦立てずに普通に殺すという判断を出来ていれば使徒を殺せたのに…!
「仮に君があの提案を出さなかったとしても、俺はこの作戦を行っていただろう。だから君に責任なんて無い」
川崎の慰めの声が聞こえてくる。だがそう言われて「なら俺の責任じゃないな」と立ち直れる様な性格はしていなかった。
「取り敢えずもうここから退こうか。ほら、君の両親は確か自衛隊の保護下にある避難所にいるしそこに行こう。それに仲間の皆も待ってるよ」
唯一闇を身体に纏っている内野に触れれる新島は、ひたすら内野に優しく声を掛け、少しだけ頭を撫でていた。
確かに作戦は失敗したが、誰も内野と川崎の思いついた作戦が悪かったなどは思わない。
だがその作戦をしなければ良かったという後悔をしている者は少なからずその場にいた。
特に平塚は後悔の念が人一倍強かった、あの使徒の永遠に残り続ける異空間がどれ程危険か分かっているので、確実性を重視すべきだったと己の判断を後悔していた。
だが後悔の念に足止めされている場合ではない。今はここから退いてクエスト範囲外に逃げねばならなかったので、皆はこの場から立ち去る準備をしていた。
「反省会は後だ。取り敢えず向こうのグループと連絡してプレイヤーの犠牲者が居ないだけ確認し、軍の包囲網を抜けて所で解散するぞ」
川崎はスマホを弄り、もう片方のレベルを上げをしていたグループと連絡をしながらそう言う。
ここから動き出そうと他の者達も浮かない表情をしながら歩き出した。
だが一人だけ問題がありその場から動けない者がいた。
「なあ新島」
「どうしたの?」
「この闇っていつになったら消えそう?ずっと俺の視界の9割ぐらいを闇が塞いでいるのだが…」
「…確かに邪魔そうだね。さっきまでもっと闇を取り込むのが早かったんだけど、今は凄いゆっくりだね。でもそこまで量は無いしあと10分もあれば消えるとおもうよ」
内野の身体の周囲に纏っている闇の量はそこまで多くなかったが、消えていくスピードはかなり遅かった。
そして皆がそれに気が付いたと同時に、ヘリがこちらに向かって来ている音が聞こえてきた。
クエストの間は飛行を邪魔する魔物が居たのでヘリはあまり見かけなかった。だがクエストが今、クエスト範囲の中央の様子を見るために何機もの航空機が動き出したのだ。
そして一機の戦闘機ヘリが崩れた高速道路の様子を確認しにこちらに向かってきた。
闇のせいであまり見えないけど、これだけ高速道路が派手に壊されてたら来るよな。使徒の追跡の為にかなり動いたから結構クエスト範囲外ギリギリの所だし、やっぱり軍が来るのも早いな。
ヘリの音がうるさいので新島とあまり会話が出来なかったが、取り敢えず内野は視界がほとんど闇に覆われながらも自分の足で立つ。歩けないわけではなかったが、素早く動き回ったりするのは無理な程度だった。
一同が内野の消えぬ闇に少し心配していると、梅垣がヘリが上空からこちらを向いている事に気が付く。
「プレイヤーを視認できないから遠慮なしにこっちに来るな、早く移動しよう」
梅垣のその言葉を聞き一同は足早にその場から立ち去ろうとする、だがそこで内野は一つ思い出す。
…あれ…そういえば俺の闇ってクエストの間は一般人にも視認出来たよな。
闇のドームが身体に返って来る時に軍隊に追われた事を思い出した瞬間、内野目掛けて戦闘機ヘリから機関銃が発射された。
_______________
使徒が逃げてから一度も名前が出なかった『嫉妬』の愛冠と俊太は、異空間に囲まれて自力では出れず、『テレポート』持ちの人が助けにくるまでその場で待機するしかなかった。だからこっちにまで援護しに来れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます