第175話 嫉妬の闇
平塚が来た事によって使徒の行動を待たずして作戦を実行する事になった。
本来ならば『憤怒』を使えばもう清水が攻撃をする必要は無いのだが、地面が黒い空間化していると『憤怒』で大きい闇を作るのが危険で相手の身体全部を闇で消し飛ばすという事が出来ない。
どんなものでも削る憤怒が唯一削れないものは黒い空間で、それに闇が触れると闇が弾け飛んでしまいそれは周囲に飛び散るからだという。
なので今回憤怒で出せる闇はどうしても小さくなってしまい、それだと使徒を確実に殺せるか分からないので清水の攻撃も同時に行う事になった。
ちなみに『強欲』や『怠惰』で吞み込む事は今回はしないという。
使徒は討てる時に確実に撃つべきというのがほぼ全員の意見だったからだ。
川崎は『怠惰』で前回の使徒(塗本)を吞み込みを仲間にしたが、すると使徒の能力は消えていた。なので『強欲』で吞み込んでも使徒の能力は手に入らないと考えるのが妥当で、それなら無理に力の吸収を狙わなくても良いと内野も納得出来た。
作戦を下にいる者達に伝える為、川崎と清水以外は屋上から飛び降りて下に降りる。
清水が下にいる皆の様に横から攻撃するのではなくわざわざ上から槍を投擲するのは、万が一槍が外れた時に周囲の者に当たってしまう可能性があるからだ。使徒を殺すつもりで放つ攻撃なので、いくら防御のステータスが高かろうと当たれば軽傷では済まないだろう。
ダンゴムシ型の使徒は今大勢に囲まれて丸くなっている。今は岩も飛ばしておらず、ただその場で丸くなりプレイヤーの攻撃を耐えている。
多方向から攻撃を浴びせられているが殻に傷を付けられた攻撃はほんの僅かであるが、今行っている攻撃は相手をそこに止めておくのが目的なのでそれでも良かった。
「平塚さんの『憤怒』なら相手の硬さ関係なく切れるんですよね?」
「うむ、それにさっきの肉塊の魔物の時の様に扇状に広げれば相手を死体残さず消すことも出来るぞ。勿論周囲に気を配って使わないとならぬがな」
さっきのを見る限り俺みたいに隙無く発動できるみたいだし、やっぱり強すぎるよな…こんなスキルを持つ相手となんか戦いたくない、本当に人間で良かった…
内野が人間として生まれた事に安心している間に、一同は使徒を囲んでいるプレイヤーの所に到着する。
すると一人のプレイヤーが平塚に気が付く。
「あ、え!貴方は確か『憤怒』の…それにそっちには『強欲』の人も!」
一人がそう声が上げた事で他の者達も内野達を見る。そしてその時に使徒に浴びせ続けていた攻撃の手が一瞬だけ止まってしまった。
するとさっきまでその場で固まっていた使徒はこれをチャンスと見てかこの場から逃げ出そうと、攻撃が手薄になった方向へと逃げ出そうとする。
「やばい!そっち抑えろっ!」
「使徒の前だぞ!よそ見すんな!」
「誰かこっち来い!」
嫉妬グループの誰かがそんな事を言って使徒を抑えようとするが、近づいて無理やり抑えたりなどは出来ないので使徒は止まらず平塚達がいる方向とは逆の方へと逃げようとする。
ここで逃げられてはマズいと他方向を塞いでいた者達も駆けつけようとするが、使徒は横に方向転換して建物に突っ込もうとする。
使徒の突進力があれば建物を破壊しながらも進めるのでもはや道など関係なく、このまま逃げられてしまう……と内野が思っていると、ある声が聞こえる。
「姫ちゃん、彼らじゃ厳しそうだから止めてくれるかな?」
「も~う、しゅん君ったら忘れん坊さんなんだから♥私に何か頼む時は撫でながらって決めたじゃん♥♥」
「ああそうだったね。よしよし姫ちゃん、お願いね」
そんなイチャイチャカップルの会話が聞こえた次の瞬間、地面から10本の闇の柱が使徒を囲むように現る。使徒は進路を塞ぐように生えた柱にぶつかるも、その柱を一つたりとも破壊する事は出来なかった。
その10本の柱の上の方は中心に向かって逸れており、それはまるで使徒を閉じ込める鳥籠とも思えるものであった。
内野の知らぬ闇の能力。そして今この場にいる4人の大罪のうち能力が分かっていないのはある一人のものなので、それが誰の仕業かなのかは直ぐに分かった。
「姫ちゃん、ありがとうね」
「へへへ~もっと褒めて~♥」
『嫉妬』の大罪スキルを持つ高木だ。高木は足元から闇を出しながら傍にいる男の胸に顔をうずめている。
その男は頭部と胴体以外の所にゴツゴツの黒い鎧を着ており、内野と同じ年ぐらいのマッシュルームヘアの爽やかイケメン。その男はそんな高木の頭をよしよしと撫でている。
『嫉妬』はあの使徒の突進に衝突されても全く折れる気配がないめちゃくちゃ硬い柱を作れるのか。それだけじゃないが、高木がいればこの敵を逃がす事はなさそうだな。
そういえばあの白い空間で高木は「しゅん君の所に早く帰りたい!」的なことを言ってたが……あれがしゅん君か。
使徒を逃さずに済み、プレイヤー一同は焦って駆けつけよう動かしていた足と攻撃の手を止める。そして一人の嫉妬グループのプレイヤーが高木に礼を言おうと近づく。
「高木さん!申し訳ありません俺のミスで使徒が…」
「今話しかけんなァ!お前はいつになったらしゅん君とのイチャイチャを邪魔するなっていう私の命令を覚えんだ後藤っ!」
一人の男性が高木に向かって謝罪を述べに行くと、突然高木が鬼の様な恐ろしい形相でその者に怒号を飛ばす。
高木は感情が高ぶっているせいかさっきよりも身体の周囲に闇を出しており、叱られている男性はそれに肩をビクつかせ下を向いていた。
その男性以外の他プレイヤー達も、高木の激高にビビってか少し震えていた。
「私は全ての魔力をしゅん君に為に使いたいって何度も言ってるだろ!?
お前らのミスの尻拭いの為に魔力使わせんなカスが!」
「も、申し訳ございません…」
「まあまあ、姫ちゃんもそんなに怒らないの。きゃわわでベリーキュートなお顔が台無しだからね」
「しゅ、しゅん君…」
激怒している高木だったが、しゅん君と呼ばれる者が宥めるとすぐに高木は機嫌を直して笑顔に戻る。
そしてその間に後藤という叱られていた者に指示を出す。
「闇を出してるだけでもMP消費があるから、皆は今のうちに持ち場に戻って」
「「は、はい!」」
その指示通りに他のプレイヤー達は使徒の周りを囲い直しに行く。
そしてその時、高木にしゅん君と呼ばれる男と内野達は目が合った。
「あ!そこのお二人が大罪の方ですね。初めまして、嫉妬グループのリーダーを務めている『
え、高木って嫉妬の高木と同じ苗字だな。もしかしてもう籍を入れて…いや、嫉妬の方の高木はまだ中学生ぐらいだし流石に偶然………だよな?
「俺は名前は内野y…」
「ああ大丈夫大丈夫、お二人の名前は覚えてますよ」
相手に自己紹介をされたので、そんな事を思いながら内野は自分の名前を言おうとすると俊太に止められる。(二人の苗字が一緒なので次からは二人共名前で書きます)
そしてこの作戦の話へと入る。
「それよりも今はあのダンゴムシを殺すタイミングを伺っているのですが…お二人含めそちらのお仲間さんはこの作戦をご存知でしょうか」
「さっき川崎君に聞いてきたのでそれは問題無いぞ。儂のスキルならこのダンゴムシの硬い殻ごと破れるからそれも作戦に組み込み、もう相手の出方を待たずに仕掛けるというのが川崎の提案じゃ」
俊太は平塚の説明になるほどという風に頷く。
その間
「作戦は分かりました。それでは今から姫ちゃんに嫉妬で闇を解除してもらうので、その瞬間を攻撃の合図にしましょう。
同時に平塚さんの攻撃と清水という方の攻撃を浴びせて殺しますが、皆さんレベルを上げたいでしょうし今のうちに使徒に一発スキルがぶつけてはどうでしょう。嫉妬の闇は決して破壊出来ないのでどんなスキルをぶつけても大丈夫ですよ」
イチャイチャを邪魔すると問答無用でキレる愛冠とは違い、俊太は口調も丁寧でこちらに良い提案をしてくる。
さっきもこの人他の人を庇ってたし、この人が愛冠の首輪を握って制御し、グループを統制している感じか。苦労が絶え無さそうだな…
そう思っていたのは内野だけでなく、この僅かなやり取りで一同の俊太の株はかなり上がっていた。
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