第173話 異世界進化論

キリ良く終わらせたいのでこのクエストが終了した所を2章終了地点にする事にしました。

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生見は内野に謝罪をした後、すぐさま魔物の死体の方へと戻る。

それを見た後、佐々木は平塚に質問を投げかける。


「…どうして大罪の平塚さんがわざわざ時間を削ってまであの人の頼みを聞いているのですか?」


「生身の解剖のお陰で魔物の臓器の位置が基本的に現実世界の生き物と同じという事が分かり、それが戦闘の役に立つ事が結構多くてのぉ。

そして今回は普段見かけない魔物も多かったから、早いうちにそやつらの身体についても調べておくべきだと考えて儂と一咲が生見に同行しておる」


「戦闘の役に立つって…相手の心臓の位置とかですか?」


「それもそうだが、それだけじゃないっ!

魔物の持つ器官とスキルについての繋がりを知れるとより良い動き方が分かってきたりするぞ!」


二人の会話を聞いていた生身が死体を弄りながら話に入り込んでくる。


「この世界と向こうの世界の環境は大きな違いが二つある。それはスキルと魔力の存在だ。

そして、それによって生じた双方の生き物の進化の方向の違いが私の解剖によって明らかになったのだ!」


「進化の方向の違い…?」


「先ずは分かりやすく例を挙げるよう。毒を持つこちらの世界の生物についての話だ。

毒の持つ生き物には二種類あり、一つが自分の身体で毒を作る生物。これにはコブラだとかの毒ヘビなどが該当し、それらの生物には毒を生成する器官がある。

もう一つが毒のある餌を食べ、その毒を蓄える生物。こっちはフグなどが該当し、肝臓などに毒を貯めておく機能がある」


突然始まった生物講座だが、話を遮るとまた生見に怒られる気がしたので一同は黙って聞くことにする。

ただ佐々木のみ田村に小声で命令され、清水や川崎と連絡をする為に近くの建物の裏に離れる。


「だが異世界の生物には毒を生成する器官も、肝臓に毒を貯めている形跡も無かった。

それじゃあ奴らはどうやって毒を吐いているかって?ふふ…そこで登場するのがスキルだよ。スキルで毒を噴出するのだよ。『強欲の刃』で魔物もスキルを持っているのだと判明しているから、これは確定だ。


それじゃあ次はその『スキル』という存在が魔物の進化に与える影響だ。

私が以前クエストで遭遇した魔物は、額に空いている穴から毒を高速で噴出するという特徴を持っていた。

その魔物の身体がどうなっているのか気になって身体の構造を調べてみたところ、やはり毒に関する器官は無かった。毒を噴出していた額の穴が繋がっている気管のみで、スキルでそこから毒を出しているのが分かった。


まだ仮定の話だが、ここから私が導き出したのは〔魔物はスキルを効率良く使える身体に進化する〕という異世界ならではの進化論だ。

その額から毒を出すという特徴も、スキルで毒を出すと同時に気管から空気も噴出して更に毒をより遠くに飛ばす為にあるものだと考えられる。

それに、炎を生成する気管が無いのに炎を噴出する器官があったり、翼があるのに魔力が無くなりスキルを使えなくなると飛べなくなる鳥型の魔物だったり…まだまだあるが、これだけでもこの考えの説得性はかなりあると思わないかい?」


気が付けば内野は生見の話しに興味を惹かれていた。

改めて異世界について考えさせられる話で、生見が魔物の身体について調べたくなるのも分かった気がした。


「凄いですね…もしかしてあの魔物についても何か分かったのですか?」


「お、興味を持ってくれたかな。大罪の君に興味を持ってもらえたのなら幸いだ。

でも残念ながらあの死体を集める魔物については何も分かっていない。

君が戦ったこの魔物は死体の腕を操っていたけど、私達がさっき会った二匹はそれぞれ足と頭を操って動いていた。それぞれ操れる死体の部位が違うというのは分かったが、それ以上は何も判明していない。

自己再生的なスキルを持っているのは確定だけど、そのスキルだけでこんな身体に進化するとは思えないし…やはりこの進化論にはまだまだ穴があるかもしれないな。

あ、そういえば進化論と言えばこっちの世界の…」


「生見、うるせぇ」


生見が更に話を進めようとすると、コンビニのおにぎりを持った一咲が生見の足を軽く蹴って話を強制的に終わらせる。

内心それにホッした者もいたが、内野は正直もう少し話を聞きたいとも思っていた。


だがそんな休憩時間も佐々木の報告によって終わりを告げる。


「田村さん。他の3グループは向こうで合流したらしいのですが…今は憤怒の所の使徒と戦っているみたいです」


「ッ!儂らの所の使徒か!?」

「使徒解剖チャンスか!?」


使徒と交戦中と聞き一同はそれぞれ驚いてはいたが、その中でも特に驚いていたのは平塚と生見だった。


憤怒の使徒は真っ黒の謎の空間を作りだすという能力。

実際には見たことが無いのが、その空間は攻撃で消えないという情報があるので、そんな使徒が暴れ回ったら大変な事になるというのは容易に想像出来た。


そしてそれを平塚は誰よりも理解していた。


「あの使徒が作り出した黒い空間は奴を倒しても消えぬぞ。あんな危険なものが現実世界に沢山生成されるのは避けねばならない!

儂は直ぐに使徒の元に向かう、案内を頼めるか!?」


平塚の頼みに田村が頷き承諾したのを確認し、佐々木も頷く。だが行動に移す前に佐々木は一つ重要な報告があるという。


「案内するのは問題無いのですが、一つ言っておかないとならない事があります。

どうやらそこには川崎さんの他に『嫉妬』の高木愛冠ティアラもいて、共闘しているみたいです」


次に挙げられた報告も驚きのものだった。

まさかこっちの憤怒の平塚に続いて、向こうでは嫉妬の高木に遭遇しているとは思わなかったからだ。


高木は直ぐにキレるメンヘルのヤバイ奴だが、協力して使徒を倒そうとしているし案外まともなのか?

でもこうして大罪が集まれば、いくら使徒でも時間切れまでに倒せるはずだ。

そしてあわよくば『強欲』で使徒を…って、また黒狼が邪魔してくるかもしれないな…


「クエストの時間はもう40分弱しかありません、急いで行きましょう!」


佐々木を先頭に一同は川崎達の元へ動き出した、元居たメンバーに憤怒グループの3人が加わって。


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真っ白の空間に一人の青年がいた。

まだ高校生ぐらいの年齢の見た目で、そこらで買ったような安物のシャツを着ている。

その者は14つの大きなモニターを前方に出し、高所から監視カメラの様にある者達を観察していた。


7つはある魔物を中央に映し出しており、もう7つはある人間を中央に映し出していた。


「おおー。クエスト終了1時間を切った所で大罪が集まってきたね~これは流石に『深淵の王の使徒』ももう終わりかな?

一回目で使徒を倒せたら幸先良ぞ~。そう思うよね君達も?」


誰かに向かって話している様だが、その青年が話している相手はそこにはいない。

誰からも返答は無いが、青年は一人でモニターを見ながらそのまま話続ける。


「良い感じのあの子が効率良く内野君に『強欲』を使わせて育ててるし、『怠惰』の川崎君も見守っている。一先ず最大の心配だった彼についてはもう大丈夫そうだね。でも…問題はだなぁ…」


青年は内野が映っているモニターに触れてカメラのアングルを変え、道路に綺麗に並べられている魔物死体を映す。


「あいつ…この数時間でこんな生き物を作ったのか。

死体のみを集めて無限に再生する魔物。そんなに他世界の死体を自分の世界に持ち帰りたかったのな。

平塚君が結構倒してくれたから良いけど、持って帰られると結構面倒だぞ…

ああああーもう早く誰か来てよ、あの魔物は積極的に倒した方が良いって教えたいよぉ~~~~」


青年は頭を搔いて悩みを口にする。そして一度大きく溜息をついた後、モニターに映る内野に目をやる。


「はぁ…。

黒沼君が死んじゃってここに来る方法についての情報が途絶えたからな…もう1,2回ぐらいクエストが終わらないと駄目かも…」

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