第170話 死体の塊
梅垣達がいるであろうビルに内野達が向かっていると、新島がある異変に気が付いた。
「ここら辺全く死体が無いね、流石におかしくない?」
そういえばそうだ。魔物の死体も人間の死体も見当たらない。さっきのモグラと戦っていた場所の死体の数は普通だったのに、こんな急に数が減るのはおかしくないか?
それともここらには魔物が現れず、そのお陰で誰も死んでないとか?
いや、でも血痕の量は変わらないからそれは無いな。それにここらの血痕もさっきまでそこに死体があったかのようなものだし…
「死体を全部食べられた…とか?」
内野が呟いたその言葉に佐々木と吉本は同意する。
「さっき一か所大きな血貯まりがありましたし、そこに大きな魔物の死体があったのだとすると…し、それを食べてる魔物がいても不思議じゃないですね…」
「まだ乾いてない血貯まりもあったし犯人が近くにいると考えると、その死体食い犯の候補は田村さん達が今戦っている魔物だな」
二人に続いて柏原も頷きながら同意をする。
「死体を食べるなんて気持ち悪ぃ…俺ら人間様みたいにもっとマシな飯でも食っとけ」
「俺らが日頃食ってる肉も死体だからな」
「…ぁ」
大して何も考えずに喋ったのか柏原は直ぐに佐々木に突っ込まれ黙る。内野はまだ柏原と始めて喋ってから数分ぐらいしか経過していなかったが、既に内野の中では〔柏原は馬鹿〕だという認識になりつつあった。
だがそんな会話をしていると、数件奥の建物の屋上から2つの影が飛び出してくる。
一つは身体は血に染まり二刀の剣を持っている男、梅田だ。
もう一つは灰色のフードを被って長い剣を持っている女、原井という怠惰グループのプレイヤーだ。
「梅垣!俺の方が魔物を狩るの早k…」
「全員そこを離れろ!そこは奴の進行ルートだ!」
梅田を見て声を上げた柏原だったが、直ぐそれは梅垣の忠告の声によってかき消される。
そしてその直後、梅垣が飛び出してきた建物を体当たりで破壊しながら異様な見た目の魔物が飛び出してきた。
その魔物を一言で表すと肉塊、様々な生き物の死体で練り合わされて形成されている全長10メートルに及ぶ大きな肉塊である。
魔物は勿論の事、人間の死体やペットと思われる犬などの死体も混ざっており、その魔物の臭いは死臭そのものだった。
しかも移動手段は大きな魔物死体の腕で地面を張って進むというものなのに、腕の数が多いので時速40キロぐらいで動きもそこそこ早い。
そんな魔物を目の当たりにして一同は強い不快感を覚えるが、直ぐに梅垣の言う通りにその魔物の進行ルートから飛んで回避する。
そして全員が回避したのを見て梅垣は建物間を飛んで魔物を追い駆けながら喋る。
「その魔物は死体を吸収して大きくなるが、死体にしか目を向けずこっちには反撃してこない。だが今の所いくら攻撃しても再生能力で直ぐに回復されて足止め程度しか出来でない」
梅垣と原井は剣でその魔物の移動手段である腕を何本か切り落とす。すると一旦は移動速度が落ちるが、僅か10秒で全ての腕が再生して再び進み続ける。
梅垣の言った通りこちらには見向きもしない。
「どうやらこの魔物と二階堂・塗本ペアも遭遇して、そこに清水・薫森ペアも向かっている。田村さんは今川崎さんに連絡しているが、中々繋がらないみたいだ」
「…」
梅垣が説明している間も原井は魔物の腕を切り落とす事に集中しており喋らず、一人でかなりの数の腕を切り落としていた。
梅垣の説明を聞き、佐々木は自分らはどうするべきか尋ねる。
「で、この足止めを続けても殺せなきゃ意味無いですよね。倒す方法はもう決めてますか?」
「田村さんが『メテオ』でこの肉塊をバラバラにしても直ぐに再生した。その時にコアゴーレムみたいに核が見当たらなかったから、今は正攻法の殺し方が分かってない。でも『強欲』ならいけるんじゃないかと思ったんだ」
「俺の闇でこの肉塊全て吞み込むんですね!」
「ああ、闇ならこの魔物を吞み込めるかもしれない。そうすればこの再生能力も君のものだ。
だから君にはコイツの進行ルートの先に行って『強欲』を使って欲しい」
内野達は梅垣の作戦を理解したが、内野の頭には一つ問題が浮かぶ。
次に『強欲』を使うと、多分俺は気絶する。そればかりはもう3回目のスキル使用だから避けられない。
そして『強欲』を使っても相手は直ぐに闇に呑み込まれる訳ではなく、ある程度闇がコイツの身体を呑むのには時間がかかる。
だからコイツの進行ルートで『強欲』を使うと俺は成す術なくこの魔物に踏みつぶされてしまうんだ。
新島に背負ってもらいながら使うのも出来るが、新島も闇の中では動くのが遅くなるみたいだしそれは危険すぎる。
クソ…『強欲の刃』で刺して一気に闇は広がれば別かもしれないが、今はもう『強欲の刃』が無いから出来ないし…どうすれば…
「さっき言ってたあの方法がさっそく使えそうだね」
新島が内野に目を合わせながらそうぽつりと言う。そして思いついた、この問題を解決できる方法を。
そうか落とし穴か!
一旦コイツを深く落としてしまえば、踏みつぶされる前に『強欲』で吞み込めるかもしれない!
あのモグラにはこのスキルを上げさせてくれた事を感謝しないとな
作戦が決まり、内野は梅垣にそれを説明しながら魔物の進行ルート先へと走り出す。
「今からコイツの進行ルート先に大きな穴を作ってそこにコイツを落とします。それまで時間稼ぎをお願いします!」
「分かった!こいつは死体に向かって直進しかしないとはいえ、あまり離れると進行ルートからズレる可能性があるから気を付けろよ」
梅垣だけでなく佐々木達も作戦を理解し、佐々木が一同に役割を割り振る。
「俺よりも柏原と吉本の方が魔物の腕を斬れるだろう出来るし、二人は原井さん達と一緒に腕を斬り落とてくれ!俺は内野と新島さんの護衛をする!」
「おうよ!今度は梅垣と腕を落とした数の勝負だ!」
「わ、分かりました。3人共頑張ってくださいね…」
佐々木の言うとおりに二人は動き出す。そして内野、新島、佐々木は魔物の向かっている方向へと先回りしに向かう。
その時に新島は今度は佐々木背負ってもらう。
急がねばならないので新島は置いていくべきに思えるが、次の『強欲』で内野の気絶が確定しているので万が一の場合の為にも新島は連れていかねばならなかった。
「よし、ここら辺に穴を作るぞ」
ある程度先に行き相手との距離が200メートルほどになった所で内野が足を止め、地面に穴を掘り始めた。
手で一度地面を掻くとコンクリートがまるで砂の様にサクサク掘れていく。
だがあの巨体な魔物を落とせる程の穴を作るのは思いの外大変で、内野は穴を掘るのに集中して全力で腕を動かす。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
上から穴が掘られていく様子と魔物の接近を佐々木と新島は同時に見ていた。
二人から見る限り、穴を掘る時間を梅垣達が必死に稼いでいるがそれでも穴の完成はかなりギリギリである様に見えた。
「このままじゃかなり厳しいぞ…微力だが俺も向こうの足止めに…」
「シャァァァァァァァァ」
佐々木がそう思うも、穴掘り隊3人の元に蜘蛛の魔物が襲ってくる。
〔クソ…やっぱりダメだ、俺がここから離れる訳にはいかない。
でも向こう側も厳しいし…もう少しあいつの足止めが出来る奴がいないと穴を作るのが間に合わないぞ〕
もう少し離れた所で穴を作ればよかったという後悔もあったが、これ以上離れると相手の進行ルートからズレる可能性が高いのも事実。
なのでそんな後悔をしても無駄と切り捨て、佐々木は襲ってきた魔物と戦いながら必死に頭を回転させる。
するとそこに新島が声をかけてきた。
「…その蜘蛛の魔物の死体を使えないでしょうか。あの魔物がどの死体に向かっているのかは分かりませんが、その蜘蛛の死体で相手の動きをコントロールする事も可能かもしれません」
「っ!」
佐々木は直ぐに蜘蛛の魔物の頭を剣で突き刺し、魔物が死んだ事を確認してからその死体を脇に抱える。
「死体で釣るのは分かったが、死体を横に投げたりすると相手のルートが逸れるぞ。どうやって釣るんだ?」
「危険ですが、私がそれを持ってあの魔物の前をうろちょろと動き回ります。佐々木はそのまま内野君の護衛をお願いします」
「…分かった、任せる」
佐々木はそれだけ言うと死体を新島に投げ渡す。
キャッチする時に手に魔物の生暖かい血が付くが、もはやそんな事では不快感は感じない。
そして新島は死体を持って肉塊の魔物に向かって走り出した。
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