第169話 影口
魔物を地上に出し、柏原とも合流出来たのでそれ以降は苦戦する事は無かった。人数が多いので相手は攻撃を分散せねばならないが、そんな適当に繰り出した攻撃が当たる訳がない。
柏原が相手の脳天を槍で貫いたのを最後に、それ以降魔物は動かなくなった。
「内野!お前が死んだらヤバいんだから勝手に動くなって!」
「ご、ごめん。あいつの攻撃のせいで無駄にSPを使っちゃって…それでつい身体が勝手に…」
「はぁ…上げるつもりの無かったスキルにSPを100以上使って頭にくるのは分かるけど……」
詰め寄る佐々木に対して内野は数歩後ろに下がって弁明しようとする。SPの事を言うと佐々木は怒りを少し沈め、ため息交じりに呆れながら話す。
すると両者の間に柏原がずかずかと間に入ってきて、内野の肩に腕を掛けて背中を叩く。
「お前面白い戦い方するな!俺の名前は『
比較的クエスト経験が少ないのにあの清水さんとも渡り合った俺の名前だ、脳の容量の半分ぐらい使ってでもその名前を刻んどけ」
「え…あ、ああ、よろしく」
「柏原は内野と同じ年の男で、顔は良いが痛々しい発言が多いので残念な雰囲気がある奴だ。
それに清水さんとも渡り合ったって言ってるけど、それ二階堂さんの『ドキドキ!クエストクイズ!(超高難易度編)』で清水さんと同点だったってだけだから。しかも二人共下から数えた方が早い順位だから凄い奴とは思わない方が良い」
清水と同じぐらいの強さなのかと思っていたが、そうでないと分かり一気に小物臭が増した。だがこの明るさは嫌いでは無かった。
柏原はムードメーカーみたいな感じなのかもしれない。なんか最初精鋭メンバーに選ばれた時は梅垣さんを睨んでて不機嫌な感じがあったから避けてたけど
吉本はそんな3人を遠巻きに見ながらキョロキョロと周囲を見ていた。
「と、所でもう一人の方は何処に…?」
「そういえばそうだな。お前さっき「さっきどうだ梅垣!俺の方が魔物を倒すの絶対に速いだろ」とか言ってたけど、お前の相方は何処にいる?」
佐々木も周囲を見ながら柏原に梅垣の場所を尋ねる。
「あ~実は田村さんが自己再生能力持ちの相手を見つけたって聞いてから、二人でこっちに戻ってたんだ。
そしたらあいつの『魔力感知』で田村さん達とお前らの魔力の反応があってな、どっちも魔物と戦っているから二手に分かれて援護に行こうって話になった。
そこで俺が「俺は魔物が強い方に行く!どっち魔物の方が強いか教えろ」って言ったらこっちの魔物の方が大きい魔力の反応がすると言われてな、そんで今お前らの援護に来たって訳だ。
「あーそれでお前が一人で競ってたのな」
「いーや、ライバル関係だから絶対に向こうも意識してるな」
柏原の梅垣に対する対抗心が分かり、梅垣の実力が認められているのだと思い内野は何となくそれが嬉しくなった。
やっぱり梅垣さんは凄いな……たった20回のクエスト経験で40回以上クエストを受けている人達に実力を認められるなんて。
俺なんかまだ佐々木からして見れば護衛の対象だし、俺ももっと戦えるようにならないとな。
佐々木は柏原に田村達のいる方向へ案内しろと命じ、柏原は「早くあいつに勝利宣言してやりたい!」と言いながら先頭を走って皆を先導する。
今度はもう内野は自分の足で動いており、走りながらステータスボードを眺めていた。目を向けているのは『SP17』という表示で、それを見ると再び後悔の念が襲い掛かってきて内野は肩を落とす。
『穴掘り』スキルのレベルが最高になったからか、さっき軽く地面を掘ろうと手を振っただけで自分の思った通りに一瞬で穴が開いた。
思っていたよりもかなり使えるパッシブスキルだったけど、やっぱり『強欲』を最高レベルまで上げたかったなぁ…
それにこんなのにSPをほとんど使ったっていうのが田村さんにバレたら怒られそう…川崎さんにも情けない所を見せてしまう…
そんな項垂れる内野を見て、新島はそのスキルの有効な使い方について少し考えてみる。
新島はまだ吉本に背負ってもらっているので頭を使うのに集中出来ていた。
「そのスキルってさ、多分地面だけじゃなくて壁にも穴を開けられるんだよね?それに自分の思った通りに穴を作れるんだよね?」
「そう。さっき試しに崩れた建物の壁に使っても出来たし、俺が掘りたい通りにサクサク穴を掘れた」
「それじゃあ大きな穴に瀕死の魔物を貯め込んで、それを上から一気に『強欲』で呑み込むって作戦が出来るかもね。
さっき内野君が空中で作った闇のドームは重力に逆らわずに落下していたし、闇も重力に従って落ちるのが分かったから行けると思う」
「な、なるほど!
それじゃあ、あくまでも『強欲』の効率を上げる為にこのスキルにSPを使ったって言い訳をすれば問題無さそうだ!」
田村達に何も言われない為の言い訳の提供に内野は感謝する。新島は一体誰に対しての言い訳なのか気になり尋ねてみる。
「もしかして言い訳の相手って…田村さん?」
「…うん」
「あの人って仏頂面で冷酷だけど悪い人じゃないと思うの、だからそんなにミスを怯えなくても…」
「おっと、ちょっと待ってくれ」
新島の言葉を遮って佐々木が割り込んでくる。
「貴方がこのクエストでどんな田村さんを見たのかは分からないが、それは大きな勘違いだ。あの人は絶対に性格悪い、絶対にそう断言できる」
「な、なにがあったの…?」
「俺が田村さんに対して苦手意識を持っているのを知ってるのに、あの人平気で隣に座ってくるんだぞ。それに俺のミスを必要以上に責めてくるし。目が怖いし。
川崎さんの愛情ある叱責と比べると、あの人のやつは本気で俺の心を折ってくる勢いなんですよ」
そしてそれに同意するように柏原も頷きながら入り込んでくる。
「あの人は俺の才能を否定してきたな。俺が自分の事を〔スキルも体術も完璧なオールラウンダー〕だと言っていたら急に模擬戦しようともちかけられてボコボコにされた。あんなのレベル差の暴力だ」
いや…それは自信過剰になっている柏原の心を矯正する為じゃ?
内野と新島がそう思っていると、吉本が小声で一言だけ言う。
「で、でも…間違った事は一度も言ってませんよね…」
「「…」」
二人も何だかんだで田村の言っている事が正しいと分かっているので、二人はそこを否定できずに黙る。
吉本は「あ…わ、私のせいで沈黙が…ご、ごめんなさいぃ…」と不安になって涙目になり、新島が吉本の頭を撫でて「美海ちゃんのせいじゃないよ」と言いながら慰める。
ま、田村さんは容赦が無い人だけど正しい事を言う人って感じか。俺も木曜日の話し合いの時からあの人が言っている事が間違っているとは思ってなかったからな。
内野の田村に対する評価はそう決まった。
だが自分のこのミスを正直に話すかどうかはまた別…などと考えていると、突然数百メートル奥にある高層ビルが倒れ始めた。
激しく音を立てて崩れるそのビルがあるのは梅垣達がいる方向である。
「あのでっかいビルを崩すぐらいのパワーがある魔物か…さっきのモグラよりも手強い相手みたいだぞ」
「は?梅垣は魔力の反応が大きい方はこっちだって言ってたぞ。あっそうか、きっとあのモグラは俺の気迫に押されて本来の実力の3割程度しか…」
「ばーか、魔力量で魔物の強さが決まる訳じゃないって前も言ったろ。それにもしかするとその梅垣って人に嘘つかれた可能性だってあるだろ」
佐々木のその言葉を聞いて柏原はハッとし、「それじゃあ噓つくアイツよりも俺の方が性格が良いって事になるな、どちらにせよ俺の勝ちだ!」などと言い始める。
ちなみに佐々木は15歳でまだ中学生3年生だが、柏原は内野と同じ高校二年生。だがどっちの方が大人っぽいかは一目瞭然だ。
佐々木は柏原を無視して指示を出す。
「直ぐに加勢に向かうぞ。向こうには田村さん・原井さん・梅垣の3人がいる。
まずは田村さんから相手の情報を聞きたいから、俺は田村さんのサポートに回って田村さんが敵の説明をする余裕を作る。皆はそれを聞いてから行動してくれ。
だが相手の強さによっては余裕が無いかもしれないし、その場合は新島さんと内野は安全な所に置いていく。
あ、内野。そうなってもお前勝手に前に行くなよ」
テキパキと指示を出す佐々木を見て、川崎が自分の護衛に佐々木を選んだ理由が分かった気がした。
冷静にこんなに指示を出せる佐々木君の実力を川崎さん達は信じているんだな。もしかすると田村さんが厳しくするのは佐々木君に期待しているからなのかもしれないな。
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