第168話 穴掘り名人

内野が力ない驚愕の声を挙げていることに気が付き、佐々木は敵の攻撃を避けながら何があったのか尋ねる。


「な、なんだよその声!何があった!?」


「あ…ま、間違って大量のSPを…違うスキルに使っちゃった…」


「ッ…その話は後でな、取り敢えず今はあいつを倒すぞ。MPを温存したいから吉本が前に行ってくれ」


SPの重要性を知っているので流石の佐々木もそれには驚きを示すが、直ぐに目の前の敵に集中する。

そして佐々木の少し前に新島を背負った吉本が飛び出る。


「美海ちゃん、戦うなら私一旦降りた方が良いよね」


「あ…多分ここで降ろすよりも私の背中にいた方が安全なのでそのままでお願いします…あ、手足は引込めといて下さいね…」


「…私は『ポイズン』で毒を出せるけど、全くスキルレベルを上げて無いから多分視界を塞ぐのにしか使えないからね」


「も、問題ありません」


新島はこれから吉本が前に出るのに自分が邪魔なのではないかと心配していたがそれも杞憂に終わる、吉本は飛んで来る岩を軽々と避けながら前に出る。


相手はもう一度大岩を生成するが、今度はそれを小さく砕いてから一同に投げつける。小さな破片だがそのスピードは弾丸並み、散弾が飛んできているのと同じと言っても差し支えない程である。


「ライトニングシールド!吉本はそっちでなんとかしてくれ!」


「は、はい!」


佐々木は自分の周囲にライトニングシールドを張ってその散弾を防御するが、吉本はそれには入らず前へと進み続ける。回避に入る素振りは一切見せない。


「佐々木君!あの二人は…」


「まぁ見とけ、これで吉本がこの精鋭メンバーに選ばれたりが分かるから」


内野はその佐々木の言葉を信じ、黙って吉本の動き見る事にした。


飛んでくる石の弾丸を前にしても吉本は前に進み続けており、このままでは絶対に被弾してしまう。

内野がそう思った直後。吉本は一瞬だけスピードを下げて横にステップを踏み、身体を横に傾ける。


すると吉本と新島の身体には石は一切当たらず、全てが二人を通り抜けていった。そして吉本は新島の安否を確認する間もなく、一度下げたスピードを一瞬で戻して再び走り出した。


「ッ!あれだけで全部避けた!?」


「吉本の目は異常だ。

あの一瞬で飛んで来る石の軌道と速さを読み、最低限の動きで回避できるポイントを見つけた。あの常人は持っていない凄まじい目、あれがあるからあいつには川崎さん達も一目置いているんだ」


な、なるほど…つまり美海ちゃんの強さの秘訣は目なのか。だから光の使徒に目が潰されたことで何も出来なくなったと…


そんな佐々木が解説をしている間も吉本は着々と相手との距離を詰める。相手は続いて何個も大岩を砕いてそれを投げるが、それでも吉本どころか新島の身体に一欠片も当たらない。

建物の壁や空中で欠片同士がぶつかって変わった軌道すらも読み、吉本は出来るだけスピードを落とさずに相手に近づく。


これ以上の投擲は意味が無いと思ったのか、魔物は地面に少し潜って逃げる様に吉本から距離を置こうとする。

そこまで深く潜っておらず魔物の大きな一角のみが地表に出ている。まるで海上から見えるサメの背ビレだ。


相手の攻撃が止んだので佐々木はバリアを解除し、吉本の後に続いてその魔物を追い駆ける。

本来ならばその魔物は放っておいて良いのだが、ちょうど進行方向が同じなのでついでに土竜の魔物を倒すつもりである。

だが相手は逃げようとしているのに、何故角まで隠さないのかが不思議でならなかった。


〔異世界とは違って現代には地下にも色々あるからな、もしかして深くは潜れないのかもしれない………………ッ!?〕


佐々木がそう考えスピードを上げようとした直後、魔物の角の先端が赤く光ったかと思うとレーザーの様な細長い赤い光が吉本に向かって放射される。

不意の攻撃だったが吉本はそれを軽々避けるが、レーザーは周囲の建物に当たる。するとレーザーに当たった箇所は超高温で焼き切れて建物は倒壊し、それによって吉本の後方にいた佐々木と内野の行く手は阻まれた。


「クソ、回り道するぞ!」


「ここを超えるのじゃ駄目なのか?高いとはいえ俺でも越えられる高さだし佐々木君なら越えられるだろ?」


「あの熱線はこの瓦礫ぐらい平気で貫いてくるだろうし、もしもそうなれば俺らじゃ避けられない。だからそれは危険だ。

吉本ならあんな奴に殺されることは無いし、少しの間離れても問題無い。こっちから回り込むぞ」


佐々木は横の建物に向かい走り出す。敵のレーザーを経過して一度の高い跳躍で登るのではなく、細かく建物の外壁に足を掛けて3度の跳躍で建物の屋上へと上がっていく。


ちょうど魔物は角からのレーザーの標的を佐々木達に移して放射してくるが、その佐々木の細かい跳躍のお陰で一度も被弾はしなかった。


そして標的が移ったお陰で吉本はかなり魔物に距離を詰める事が出来た。

新島はレーザーを放射している角に『ポイズン』で攻撃を加えてみるも、やはり効果は無くただ毒液が蒸発するだけで終わる。


〔やっぱり私の攻撃じゃ通らない。それに相手は潜ってて目は隠れているし、毒液で視界を潰したりする事も出来ないから今の私に出来る事は……ってあれ?

何で後ろを見えていないはずなのにレーザーを正確に当てられるの?〕


進行方向的に相手の目からは内野達を見る事は出来ないはず、だがそれでも相手は正確に内野達を狙ってレーザーを放ってきた。


その異変に気がつき、新島は少し注意深く角を見てみる事にした。

ゴツゴツとして壁面の様な黒光りの角、そして何か所か横に入っている小さな溝の中、隅々まで目を凝らして見た。


〔ッ!もしかしてあれが魔物のもう一つの目なのかもしれない!〕


すると溝の奥に黒い円形の模様が等間隔にあるのが見えた。

正直言ってそれが目だという確信は無かったが、それが目ならわざわざ相手が角だけ出している理由も説明でき、あんな小さな溝にあるのは目を守るためだとも考えられるので新島はそれを吉本に報告する。


「美海ちゃん、あの溝にあるやつが相手の相手の目なのかもしれない!」


「じゃ、じゃあそこから潰しましょう…ただ細い溝ですし、私がそこに攻撃を通そうとするとどうしても隙が出来るので…」


「それは私がポイズンでやるよ。その為にはかなり近づいてもらわないといけないけどね」


作戦が決まり吉本は早速角に向かっていく。レーザーも流石にもう離れている佐々木達を狙っている暇は無く標的をこちらに向けてくる。

だが回避に専念している吉本に当たる訳もなく、新島は順調に溝に毒液を放出して視界を潰していった。


そしてある程度目を潰すと明らかにレーザーの標準がブレてきたので、新島のはこの考えが当たっていると確信出来た。


そうするともう相手は地中にいては外の様子が見れなくなる。だから次に相手が起こす行動は何となく予想が出来た。


「多分もう潜るのを辞めて上がってくるよ!」


「ですね…隙をついて普通の目も潰しちゃいます」


新島のその言葉どおり魔物は腕を振り回しながら地表に上半身を出してきた。隙を突いて吉本は魔物の顔に突いている二つの目も破壊しようとするが、レーザーを放出している上に岩も砕いてばら撒いているので、新島を背負ったまま近づくのは危険と判断した吉本は佐々木達を待とうと一歩下がる。



だがその直後、建物から魔物の大きな角に向かって一つの影が飛び出たかと思うと、魔物の角は突然根本ごと砕けた。


砕けた角から飛び出してきたのは梅垣と行動しているはずの柏原だった。


「しゃァァァァァ!どうだ梅垣!俺の方が魔物を倒すの絶対に速いだろ!」


柏原は地面に着地すると大きくガッツポーズをしてそう叫ぶ。だがまだ魔物の角が壊れただけなので魔物は健在で、柏原に向かって腕を振り払う。


「アイスボール!」


そこでようやく追いつけた佐々木が氷の玉を魔物の腕に投げつける。

すると球が砕けた瞬間にその周辺が凍り付き、魔物はそれ以上腕を動かせなくなった。


「柏原の馬鹿!油断すんな!」


「へ、今のは援護が無くても避けれたわ。所で…内野はどこに置いた?」


内野が見当たらず柏原は佐々木にそう尋ねると、佐々木は後ろを親湯で指す。


「アイスボールを投げる為にそこに置いた」


「…居ないが?」


「……………え?」


佐々木が振り返るとそこに内野はおらず、そこにあったのは人一人が入れるサイズの穴だけだった。




内野が居なくなり佐々木が焦って周囲を見ていると、魔物に異変が起きた。


「グギャぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


誰も何もしていないのに突然苦しみ始めた。新島は自分の毒が効いたのかと一瞬思ったが、すぐにその理由が判明する。


「これは無駄に使ったSPの恨みだぁぁぁ!」


そんな内野の声と共に魔物が急いで下半身を地表から出すと、地面から激しく炎が噴射された。


『穴掘り』スキルで地面を潜って相手の下に回った内野の『火炎放射』だ。内野が下から火炎放射で魔物の下半身を焼いたのだ。


そして内野は飛んで地表に上がり、間髪入れずに槍を投げて魔物の目を潰した。


「ハハっ、こいつおもしろ!」


「内野てめぇぇぇぇ!」


その様子を見て笑みを浮かべる柏原、それとは逆に勝手な行動にブチギレた佐々木。二人は内野に続いて魔物の追撃に向かっていった。

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