第167話 穴掘り
西園寺は去ったがまだ辺りで監視されている可能性があったので新島を闇のドームの中に行かせる訳にはいかず、暫くは闇が自然に小さくなるのを待つしかなった。
その間は全員がここで待機し、今後の動きについて話し合う事となった。
内野は今回のクエストでスキルを2回使ったので、次使うときは気絶する可能性がある。そうなると『強欲』使用時に無防備になる瞬間があるので、強敵にスキルを使うのはかなりリスクが高い。
だからこれから探すのは強敵じゃなくて有用なスキルを持っていそうな敵に変えようという話だ。
候補として上げられたのは魔力探知系統のスキル、隠密スキル、飛行スキル、回復スキルだ。
だがこれらのスキルを持つ相手を見つけるのは難しい上に、今は時間が無い。そこで何手かに別れて行動をする事となったので、以下の様に5グループに分けた。
〈行動班〉
川崎
田村・原井
二階堂・塗本
柏原・梅垣
清水・薫森
〈内野待機班〉
吉本・新島・佐々木
こうして行動班を分けて一同が動き出し10分程経過した頃。佐々木のスマホに田村から「自己再生能力持ちの魔物を発見」との報告がきた。
そして流石にもう西園寺はこの場に居ないだろうという田村と川崎の判断で、新島は闇に入って良いという許可が下りる。
新島は一刻も早く内野を闇から救い出したいという気持ちがあったので、そう告げられた瞬間にはもう闇のドームへと足を踏み入れていた。
闇耐性がある上に経験済みとはいえ、闇に入るのに恐怖が無い訳では無い。
闇に入ると先ず全身の感覚がおかしくなる。長時間正座をした後の足の痺れの様な感覚を全身で感じ、方向感覚もなくなる。
なので闇の中にいる間は常に今の自分の態勢がどうなっているのか意識して身体を動かさなければならない。
そしてそれを更に難しくするのは恐怖だ。
目を開けても何も見えないという恐怖で冷静さが欠ける。それによってかろうじで意識出来ていた自分の身体を意識出来なくなる。なので一回目の救出の時に4時間半も時間が掛かってしまった。
病院の入り口から内野のいる部屋まで最短ルートを通っても数十メートルはあるので当然だし、むしろそんな状態なのによく4時間半で内野を闇から救い出せたとも思える。
だがそれには理由があった。
新島が闇の中で方向感覚を失いまともに動けなくなって30分ほど経過すると、突然それが軽減されたのだ。
それは更に1時間、2時間と時間が経過する度におこり、気が付けば新島は闇の中で立って動けるようになっていた。
そこで新島の頭に思い浮かんだのは自分の持っている『耐性獲得効率上昇』というパッシブスキル。これのお陰で闇耐性が手に入ったのだと分かった。なので新島は闇の中でも内野を背負って闇から運び出す事が出来た。
そして闇から出た後にスキル欄を見ると『闇耐性』はレベル4に上がっていた。
つまり今の新島はあの内野を背負った時の様に闇の中でまともに動ける状態である。
なので今回、新島は目を瞑りながら闇のドームに入るとたった1分足らずで内野を引っ張り闇から救い出せた。
内野は突然腕を誰かに掴まれたと思うと、視界に光が差し込んできた。
「内野君…ごめんね直ぐに助けられなくて」
「な、何も出来なくてごめんなさい…わ…私は師匠失格です…内野さんに弟子入りしないといけないぐらい弱いですぅ…」
さっきまで真っ暗闇の中にいたのでいきなり瞳に差し込んできた光が酷く眩しかったが、それと同時に耳に新島の声と、吉本の泣き声が聞こえて来て心臓の髄まで安堵の感情が染み渡った。
10分以上も新島が助けに来てくれなかったので新島が死んでしまったのではないかと考えてしまっていたので当然だ。
「し、使徒は…?誰か死んじゃったりは…」
「大丈夫だよ、使徒はもういないし誰も怪我して無い。それに『色欲』の西園寺君が助け…ではないけど私達に使徒を倒すヒントをくれたの」
「えッ!?」
他の大罪に会ったと聞いて驚き、内野は直ぐに上体を起こそうとする。だがその直後、内野は何者かに肩を持たれて無理やり立たされた。
「皆と話したい所だろうが、今は時間が無いから移動しながらで頼む。」
「あ、佐々木君…って…え」
内野は周囲を見て驚き途中で言葉を止める。
周囲に佐々木、新島、吉本の3人しかいない事は良いのだが、問題は周辺の崩壊具合。爆発が起きたかの様な悲惨な光景はあまりに慣れてないもので、そこだけについては今聞かずにはいられなかった。
「これ…使徒が暴れ回ったの?」
「いや、田村さんが『メテオ』を使ったからだ。てか早く皆の所に合流するから吉本を泣き止ませてくれ…」
「う…内野さん…わ、私って本当にダメです…師匠とか言って調子に乗ってごめんなさいぃぃぃ…」
吉本は動けなかった自分を悔やんで泣いており、取り敢えず内野は吉本を宥めながら何があったのか話を聞きながら行動を開始した。どこに向かっているのかも分からないまま。
田村が居るという方向へ走って向かっているが、内野はまだ闇から出たばかりで動きが鈍いのでまたしても佐々木に背負ってもらっていた。新島は吉本に背負ってもらっている。
そしてこれまでの事の経緯を説明されて内野が最初に考えたのは…
「俺さ、これで自己再生系の能力を手に入れたら滅茶苦茶頑丈にならないか?
『物理攻撃耐性』『酸の身体』『火炎耐性』のパッシブスキルは勿論、『バリア』『装甲強化』ってスキルもあるし」
自分の防御面に寄ったスキルの事であった。
「大罪に死なれるのが一番困るからこれで良い。お前が一人で強敵に相対したとしても、勝てなくたって負けなければそれで良いって事だ」
「しぶとく生き残れって事だな」
「ああ、だからさっきみたいに捨て身で特攻して闇を出すだとかはもう辞めてくれ。…そうならない様に次は絶対に俺達が守るから」
佐々木の表情が少し曇る。
佐々木も吉本と同じく、守るべき対象である内野に逆に守れてしまい悔しさがあった。
いや、佐々木だけではない。それは今ここに居ない川崎達だって同じだった。だから皆その恩返しと汚名返上も兼ねて分かれて行動し、内野に良いスキルを持つ魔物を渡そうとしているのだ。
だが背負われている内野はそんな事に気が付かず、頭に浮かべていたのは『色欲』の西園寺の事だった。
あの白空間で会った時の印象は…なんとも言えないものだが、助言はしっかりしてくれたし悪い人じゃなさそうだ。
今後は川崎さん達みたいに協力してくれたりしないかな…
内野は背負われているので、道中に魔物の攻撃が飛んで来ても下の佐々木が避けてくれる。内野は背中の上で佐々木の肩を掴んでいるだけ。1ターン目の自分の足で走り回っていたクエストと比べらた物凄い楽だが、内野はこれに一つ思う所があった。
…今日おんぶで運ばれる事多くないか?
もうどんな風に手をかければ佐々木の腕の可動にあまり影響を与えず、邪魔にならないかだとか分かってきちゃった。背負われるのも板に付いてきたな。
と言っても俺はSPでステータスを上げられないから敏捷性を上げる手段がもう『強欲』しか無いみたいなものだし、敏捷性が低い間はこうするしか無いんだけどな…って、あ!
内野はここでようやく今の自分の所持SPがかなり増え、スキルレベルを上げられる事を思い出した。
黒沼を吞み込みレベルが急激に上がったのでSPが100を超えている。闇から出た後は4時間半経過していた間の事を把握するのに精一杯で忘れていたが、これだけSPがあれば遂に『強欲』のレベルをマックスにまで上げられる。
そうなれば次のクエスト以降では、この誰かに背負って行動してもらう殿様の様な事をしてもらう必要が無くなる。
そう思い立ったや否や、内野はスキルボードを出して『強欲』の文字に指を伸ばす。
「ッ!何か来ます!」
だがその直後、吉本の警告の声が聞こえてきたと同時に佐々木が激しく横に動く。佐々木は前方の交差点の中央にいた魔物からの攻撃を避けたのだ。
その魔物は両手を上に上げるとそこに大きな岩の塊を生成し、再び内野達に目掛けて投げつける。
30メートルは距離があるので、佐々木達はそれをかなり余裕をもって躱せる。
「あのモグラ邪魔だから田村さんの所に行く前にやっちまうぞ」
「わ、分かりました…」
佐々木と吉本の二人がそう言い、内野と新島を背負いながらモグラへと距離を詰める。使徒という強大な敵に会ったばかりだからか、この程度の敵では二人の表情はほとんど変わらない。
新島もそれが分かってかそこまで緊張していなかったが、この場でただ一人、一人のみ驚愕の表情で声にならない声を出していた。
「あ…あ…あぁ…」
内野は目の前にあるスキルボードに目が釘付けになっていた。
嘘であってくれ。
夢であってくれ。
そう願いながらスキルレベルが10になっているパッシブスキルの『穴掘り』という文字を見つめていた。
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新島のスキルレベルが上げっていた描写を忘れてたのでここで入れました
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