第166話 光殺し
西園寺との使徒についての重要な話なので、本来ならばすぐに内野を助け出して共に話を聞かせるべきである。
だがそれをしてしまえば新島の『闇耐性』が西園寺にバレてしまう。それを避けたかったので川崎は新島に内野を助けて来いと言わなかった。
そしてその川崎の考えが分かっていたので新島も内野を助けには向かわずにいた。
〔闇耐性については他のグループに言及しないって言われてるから今は助けに行けない。ごめんね内野君…もう少しだけそこで待ってて…〕
西園寺は「透過する光の状態になっても『魔力透過』で本体は見える」のが使徒を倒すのにおいて重要な情報だと言うが、それだけでは使徒を倒す方法はさっぱり分からず一同の頭の上には?マークが浮かんでいた。
それを見て西園寺はヒントを出す。
「まだ情報が少なすぎましたね、更にヒントを与えましょう。
さっき僕は、魔力の光だから普通のサングラスじゃ防げないと言いましたよね。そして『魔力透過』を使うと魔力の光が見れなくなるので外の
その上で考えてみてください。奴はあの爆発が発生した瞬間に攻撃を透過する光の状態になりましたが、僕は光になった使徒の姿を『魔力透過』で見れた。
…これで何かに気が付きませんか?」
何が言いたいのかさっぱり分からない…と一人を除く全員が思っていたが、川崎のみ何かを閃き自分の考えをまとめながらぶつぶつと話し始めた。
「『魔力透過』で見えなくなるのは魔力の光のみ、だが光になった使徒の姿を見れたとなると…光になった使徒は魔力判定ではない。
そして魔力じゃないという事は……光になった使徒は通常の光と同じなのかもしれない。だとすると…………鏡だとかで奴の軌道を曲げられるのか?」
川崎のその考察が上がっていたのか西園寺は驚いた顔をしながら拍手をする。
「せ、正解!このヒントでよくそこまで辿り着けましたね!
そうです。あいつ本体が光になっても、その光は魔力じゃなくて物理なんですよ。
なので光を反射するような物に奴が突っ込めば軌道を強制的に変えられますし、凹レンズだとかで光を散乱させられれば奴は自身の
「なるほど…それで元の肉体に戻ったあいつを殺せるんですね」
「軌道を一度変えられれば凹レンズへ誘導も簡単でしょうし、そこに総勢で出待ちをして一気に叩けると」
塗本と田村がそう言うと西園寺は軽く頷く。
そして誰かが口を挟む前に更にこの作戦の難点を口にする。
「ま、あいつは敏捷性500の奴でも余裕で突き放される速さで動くので、建物の中とかあいての軌道がある程度読める所じゃない限り反射物を良い感じの方向に当てるのは無理なんですよね。普通のプレイヤーなら」
「…普通のプレイヤーじゃない貴方ならそれが出来るという事ですね?」
「そういう事」
含みのある顔で西園寺は言う。当然ここまで聞いたら『色欲』の能力を教えてくれと聞く所だが、川崎は西園寺がそれを素直に教えてくれるとはあまり思えなかった。
〔西園寺は最初に内野君の能力を聞いたりだとか、最低限の警戒心を持ち合わせているし馬鹿じゃない。そう易々と教えてもれないだろうし、もっと沢山の情報を渡した上で交流を深めないと駄目だな。
だがそれは今やる事じゃない…〕
「貴重な情報感謝する。だがここでいつまでも話しているのも時間の無駄だから、一旦魔物狩りに集中しないか?」
川崎がそう提案した事に西園寺は意外そうな顔をしながらも、
「『色欲』について聞いてくるかと思いましたが…今聞いても無駄だと踏みました?」
「ああ。そんな無駄な口論に時間を割くのは勿体ないし、そういう話はまた後日で良いだろう」
「ほほ~随分と合理的な判断をしますね。もしかしてそこの男性を『怠惰』で吞み込んだのもその合理的判断によるものですか?」
西園寺は視線を塗本に移す。西園寺は塗本が川崎の闇から現れた所を見てしまったので、川崎が『怠惰』でプレイヤーを吞み込んだのだと勘違いをしてしまっている。塗本の正体が使徒だと知らずに。
そして川崎はそれについては何も言及せず、内野のいる闇のドームの方へと近づく。塗本についての嘘を付くつもりも無いし、本当の事を言うつもりも無いというスタンスだ。
「俺達はこのドームが消えるのを待って内野君と共に動く。だからあんたは先に行くと良い、俺達はあの使徒を追い駆けるつもりは無いからな」
闇のドームは少しずつだが小さくなっており、あと10~20分ほどで完全に消えそうなペース。
だが流石の西園寺も大罪ともっと話したいとはいえそれは待てず、川崎にそう言われるとポケットに手を突っ込み、そこから出したメモ用紙とペンに何かを記入して書き終えると、紙を川崎に渡す。
「そうですか、それじゃあこれ僕の電話番号ですので登録しておいてください。スマホは家に置いて来ちゃてるのでクエスト中に電話掛けても出ませんけどね」
「そういえば…大罪がこんな不用心に一人で行動してて大丈夫なのか?てかスマホが無いとなると助け何て呼べないし危険だろ」
スマホを持ってないと聞き、柏原は西園寺の周囲を見ながらそう言う。梅垣の魔力探知にも他のプレイヤーの反応は無いし、当然目視では他の人を確認できない。
「あ~1時間前までは5人ぐらい居たけど皆ダメになっちゃったから殺したよ」
仲間を殺したと、西園寺は一切表情を変えないまま平然と言う。そのダメになったというのが何なのか分からないので西園寺が悪い様に見える。だが次の言葉でその理由に全員が納得した。
「『傲慢』の使徒の恐怖を植え付ける能力、あれに全員当たって心が死んじゃったんですよ。その状態で蘇生石のセーブポイントを過ぎちゃったらもう完全に終わりになっちゃうから仕方ないですよね。
てかあれってさ、クエスト終了直後とかに当たったら詰みだよね!こっちの有能な奴とか潰されちゃったら溜まったもんじゃないよ。
ただでさえ今回のクエストで魔物と戦えなくなった人が多いのに…ほら、今回は人型の魔物がいたでしょ?
今まで普通の魔物を狩れてた奴らもそいつらの死体みたら吐いちゃって戦闘不能になったりして、そいつらに足並み揃えるのも面倒だったから一人で動こうと思ったんだ。そこで僕に無理やり着いてきた5人は勝手に使徒の攻撃に当たって今は一人で光の使徒と追いかけっこ…はぁ…先が思いやられるよ」
途中から溜まっていた不満が溢れ出る様に西園寺は喋っていた。もう最初の時みたいに敬語も使っておらず、立ち振る舞いお普通の男子高校生になっていた。
だが最後に溜息をついた後、ハッとして再び態度を戻す。
「おっと、ついつい素が出てしまいました。常にモデルとしての立ち振る舞いが出来る様に練習していたのですが…やっぱりまだまだダメですね、これじゃあ完璧なスターには程遠い…
あっ、それではもう僕は行かせてもらいます。『強欲』の彼にもよろしく伝えておいて下さいね」
それだけ言うと西園寺は手を振って「また今度と言い」、隠密スキル使って姿をくらませた。
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