第165話 色欲の大罪人

田村がスキルを発動すると手から大きな爆発が起こり、前方100mに亘る広範囲にあった建物や生き物の全てが吹き飛ばされた。

その吹き飛ばされた建物が周囲に飛び散ったりしたので被害範囲はもっと広く凄惨な光景だったが、田村達にはそんな事よりも使徒の行方の方が重要であった。


「薫森君、梅垣君、使徒の位置は?」


「あいつの魔力の反応はありませんでしたよ~」


「あいつは一切『魔力感知』に反応しなかった。もしも反応があればあんな奇襲喰らわなかったのだが…」


死体も見当たらず一見これで倒せたかと思うが、使徒がこんな簡単に死ぬとは考えにくく、一同は周囲の警戒をする。

田村は自分のステータス画面を確認してみるが、やはりレベルは上がっていない。


〔メテオの威力は凄まじいものですが、やはり倒せていませんね…〕


「まだ使徒は死んでいません、警戒を続けてください」


全員で円を作る様に背中を合わせて死角が出来ない様に周囲を見張り合う。

更に川崎は鳥型の魔物を出して上空から相手の場所を確認し、どこから奇襲を仕掛けられても咄嗟に誰かしら動ける状況を作った。




「あいつ逃げたからもう警戒を解いて良いですよ」


数秒の沈黙が流れた後、聞き覚えの無い声が皆の背後からする。

その正体不明の声を聞いて一同は同時に振り返ると、そこには一人の男が立っていた。


「どうも、5日ぶりですね」


「ッ!?あんたはッ…」


「『色欲』を持ち、1ターン目にあの光の能力を持つ使徒を倒した西園寺さいおんじ ひかるですよ。流石に名前は覚えてくれてますよね?」


そこにいたのは川崎が以前あの白い空間で会った『色欲』の西園寺。西園寺は全員の注目を浴びると頭を少し後ろに倒して髪を手でかき上げ、まるで雑誌に載る写真を撮るかの様なポーズを川崎に見せつける。


謎に見せつけてくるポーズへのツッコミはさておき、川崎は直ぐに疑問を尋ねる。


「いつからそこにいた?」


「そこの人が爆発のスキルを使ってからですよ。バレずに回り込めたのは『強欲の刃』で手に入れた『隠密』のお陰ですけどね」


「なるほど。で、単刀直入に言うがあいつの倒し方を教えてもらえないだろうか。勿論こっちも相応の情報を渡すつもりだ」


「ええ、構いませんよ。ただ…少し条件があります」


川崎の提案その提案を聞くと西園寺は少しも悩む素振りを見せずにそう返答する。


「貴方の『怠惰』は魔物を出せる能力ですよね、それは見ていたので分かります。ですが…あれじゃあまだ彼の『強欲』の能力が分からないので、先ずはそれを教えてもらいます」


西園寺は内野を包んでいる闇のドームの方を見ながらそう言う。

今回の闇のドームは前回よりもかなり小さく半径10メートル程のもの。空中で闇を暴発させたが闇は重力に逆らわず落ちてきたので、今は地面に面してある。


そして川崎は西園寺のその提案を一切渋る事無く受け入れた。


「分かった、教えよう。

彼の『強欲』は呑み込んだ相手の力を奪うというものだ。魔物を呑めばその魔物のスキルを使え、ステータスも上がり、レベルも上がる。つまり自身の成長に特化したスキルだ」


そんな簡単に教えてしまって大丈夫なのかと新島達に不安はあったものの、川崎の判断なので特に口は出さない。


「あ~それじゃあもしもあそこで使徒を呑み込めていたら、彼は奴の光系統のスキルを得ていたかもしれないんだ。妬いちゃうぐらい強いスキルだね。

大器晩成型って感じだし、殺るなら今のうちにって事か…」


西園寺のその言葉を聞いた瞬間、闇の中にいる内野と戦力にならない新島を除いた11人で西園寺を囲み、全員が武器を構えて臨戦態勢へと入った。


すると西園寺は両手を上げて慌てて弁明をする。


「あ、僕は彼を殺ろうだなんて考えてないよ。今のは、プレイヤーに彼と敵対するつもりの者がいたらそうするだろうなって事。

ほら、『強欲の刃』で大罪スキルを盗めないっていうのを知らない馬鹿達が未熟な彼を襲わないとも限らないでしょ?」


「…だと?」


「うん。今のを聞いて思ったんだけど、『強欲の刃』で大罪スキルを奪うのは無理でも、『強欲』なら大罪スキルを奪えるかもしれないよね。

その可能性があるから、彼が力の欲に溺れる様な人間なら僕らの安全の為にも今のうちに殺っといた方が良い。

だから彼を殺すかは彼の人間性を見次第決めるって事」


川崎も『強欲』なら他の大罪スキルを奪えるのではないかと、一度も考えなかった訳ではなかった。

大罪が『強欲』で吞まれそうになったら『強欲の刃』で刺された時の様に闇の暴発が起きるのかは分からないが、内野が一回目に生み出したドームの大きさは自分の時のものよりも遥かに大きかったので、もしかすると『強欲』に自分の放つ闇ごと全て呑み込まれてしまうのでは無いかと、川崎はずっとこの考えが頭にあった。


なので西園寺の言っている事はすんなりと呑み込めた。

だが川崎は西園寺と違って内野がそんな事をするなど微塵も思ってなかったので、それは不安や疑いで構成されるマイナスな考えではなく、好奇心で構成されるただの知的好奇心であった。


「人間性なら既に見極められた、だから彼なら大丈夫だって自信を持って言える」


そう言い切る川崎に真っ向から見つめられ、更に周囲のほとんど者にも同じ様な目を向けられ、西園寺も少しおちゃらけた雰囲気を無くして真剣な表情へと変わる。


「結局は僕が彼をどう評価するのかが重要ですけど、取り敢えず今は貴方達のその考えを信じて彼には何もしません。まぁ…あの闇のドームの中に居る相手には何も出来ないですけど」


西園寺は一先ず川崎達の言葉を信じ、そのまま話を進めていく。


「で、次はこっちが情報を渡す番ですね。

情報は渡っているとは思いますが、あの使徒の力は全て光に関係するものです。

自身の身体を光にして攻撃を透過しながら高速移動、強烈な光を飛ばす、あの槍みたいに出した光で攻撃、光で自身の分身を作る等々…色々やってきます。

ちなみに使徒が出すフラッシュだとかは普通の光と違って魔力の光だからサングラスじゃどうにも出来ない。なので多分魔法防御のステータス依存になりますね」


「一つ質問なんですけど、最後あいつは突っ込んで来る時に周囲の槍で自分を守ってましたよね。

でも身体を光にして攻撃を透過出来るならそんな必要無いと思うのですが、もしかしてあの形態って攻撃を透過出来ない形態なんですか?」


直接使徒を見ていた塗本はその疑問を口にする。それを西園寺は「良い質問だ」と言うと回答を始めた。


「一見あいつの見た目は光だし、あれが攻撃を透過する光になっている状態だと思いますよね。でもそれは違います。

奴が攻撃を透過する状態っていうのは、さっきの奴の突貫時よりももっと細く、糸にしか見えないぐらい細くなった時の事。だからあれは透過の状態じゃないんですよ。

それに、そもそもあの光の鳥って使徒の本体が作った着ぐるみみたいなもので、本体はもっと小さい鳥なんです。あいつは周囲の槍で身を守っていたのはその本体が中にいるからですね。


「つまり、あらゆる攻撃を透過する状態っていうのはがわと本体そのものが光になって細くなった時の事ですか?」


「そうそう、いや~それにしても本体が鳩よりも小さい鳥で驚きましたよ」


その本体を見たとしか思えない西園寺の口ぶりだ。それが気になり川崎はまたしても尋ねる。


「その口ぶり…あんたはその本体を見れるほど奴を追い詰められたのか?」


「いや、さっき向こうにいた一つ目の魔物を『強欲の刃』で刺して手に入れた『魔力透過』ってスキルで見ただけです。でもそのお陰で良い収穫がありましたよ」


西園寺は得意げな顔で三本の指を立てる。


「1つ目、本体はスキルで作られた光の鳥の中にいるけど、本体はその中で自由に位置を変えられる。

2つ目、闇は透過できない。

3つ目、攻撃を透過する細い状態になっても『魔力透過』で本体は見える。

重要なのはこの最後のやつです。これで僕が以前の使徒を倒した方法が使える可能性が滅茶苦茶高くなりました」


西園寺は笑みを浮かべて自信満々に皆にそう言う。

西園寺の整った顔で出された純粋な笑みは世の中のほとんどの女性が魅了されるのでは無いかと思うほど綺麗であった。


この場にいる女性は新島と吉本と二階堂の3人。

新島は内野の心配が大きくあまり反応を示していなく、吉本も同様に内野のいる闇のドームの方を向いている。だが二階堂のみぼ~っと西園寺の顔を見つめていた。


〔なッ!?に、二階堂さん…まさか惚れてないですよね!?〕


そんな二階堂を見て、佐々木は二階堂が西園寺に惚れたのではないかと密かに危機感を感じた。そしてそれと同時に西園寺に対する嫌悪感も生まれていた。

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