第164話 逸材の闇
目くらましで動けなくなった直後、川崎は『怠惰』で使徒である塗本とその他数十匹の魔物を身体から出していた。
塗本の声によって状況を理解した川崎は魔物達に命令を下す。
「全員を佐々木の所に!」
その命令の通りに魔物達は全員の身体を引っ張り誘導し、仲間全員が佐々木の近くへと集められる。
佐々木は内野をおんぶしていたが直ぐに降ろし、スキルを使用する
「ライトニングシールド!」
スキルにより12人を囲むように青い雷が蜘蛛の巣の様に広がる。まだ最近手に入れたばかりのスキルなので練度が低く無詠唱が出来なかったので、スキルを発動している間にもう光の槍はすぐ傍にまで迫って来ていた。
一応田村も見えないながらも周囲にスキルで作った岩を浮かべて結界の防御力を上げていた。
光の槍がライトニングシールドや岩に触れると光の槍は消滅したが、降り注ぐ数が多いので3割ぐらいの光の槍は雷の間を抜けてくる。
「抜けてきたのは任せてください!」
塗本はその雷を抜けてきた光の槍に手を向け『ウィンド』を使う。すると手から発生した風が刃の様に光の槍を切り裂いた。
他のスキルに比べて威力が低いスキルだが、使徒の高い能力があるのでこれだけでも光の槍を消滅させる事は出来た。
放った光の槍が消されると、光の鳥は身体の周囲に光の槍を6本浮かべる。その6本の槍は先程よりも光が強く太かったので、間違いなくさっきの数撃てば当たるという様な適当に撃ってきたものとは比にならない威力のものだと佐々木達は察して警戒を強める。
だがその直後、相手は二人の警戒や想定を上回った。
なんと本体の光の鳥までも一瞬にして大きな細い光へと変化すると、周囲の槍と同時にこちらに突っ込んできた。しかも本体や周囲の光の槍もさっきより遥かにスピードが速い。
離れている内に少しでも佐々木が『フレイムボール』、塗本が『ウィンド』で光の槍を消し本体を落とそうとしても間に合わない。本体に飛んでくる攻撃を防ぐように周囲の槍が配置されているので、本体を落とすのは不可能であった。
流石の佐々木と塗本も死を覚悟する。だが決して諦めたわけではないなかった。
〔防ぐのは無理だ…こうなったら皆だけでも…〕
被弾までに微かに残された1秒程の時間で、川崎達を遠くに飛ばして犠牲者を自分達だけに抑えようと動こうとしていた。
もう数秒あれば仲間の目が復活して相手に反撃出来ると確信していたので、佐々木は勝利の為に自分を犠牲にする覚悟で味方を突飛ばそうと手を伸ばす。
だがその直前に佐々木の視界に一つの影が現れた。それは佐々木の背後から飛び出たものであり、一人の男の背中であった。
それは本来ならば自分の後ろにいるはずの内野の背中だ。
「下がれ!」
内野は一言だけ言うと跳躍し、自ら相手へと向かっていく。この自殺行為としか思えない行動に佐々木と塗本の二人は焦り、つい皆を突飛ばそうとしていた手が一瞬止まってしまった。
〔あの馬鹿野郎ッ!お前が死んだら意味ねぇだろうが!〕
〔内野君!?死ぬつもりか!?〕
閃光が皆の目を奪う直前、内野は大きな溜息を付いた佐々木が気になり佐々木を見てた。
背負われた状態で頭を見ていたので、視界のほとんどが佐々木の後頭部で塞がれていた。なので内野は閃光の被害が少なかった。
だがそれでも一瞬は目が見えなくなり、そこで塗本が相手は使徒だと言った事により恐怖が大きくなり戦慄していた。
多分ほとんどの人の目が駄目になった!このままじゃ目が見えないまま殺される…皆やられる!
この時の内野は恐怖と焦りが入り混じって冷静ではなかった、目が見えないが音が聞こえるというのがより一層恐怖を増幅させる。
目が見えない時間は5秒にも満たない時間だが、それが酷く長く感じ、更に冷静さは欠けていった。
だがその時、またしてあの現象が発生した。
始めてのクエストで帰還石を買えずにいた時、突然恐怖が消えた。(5話)
フレイムリザードのクエストで黒狼に追われている最中、突然焦りと恐怖が消えた。(50話)
そして今、目が見えない中襲ってくる魔物に対する恐怖が消えた。そして頭の中が澄み渡り冷静になる。
まただ…またこれだ、でも今はそれについて考えている暇は無い。
この時には薄っすらと瞼を開ける様になっていたので、内野はゆっくりと瞼を開けながら状況を把握する。
内野が目を開いたタイミングは佐々木と塗本が飛んで来た光の槍を消している所だった。
あれが使徒…確か『色欲』の使徒は身体が光に変化して高速移動する能力。光になっている間は攻撃が透過するから攻撃は当たらないけど、相手も透過を解除しなければこちらに攻撃出来ないんだったな。
それじゃあ今光の槍を出して攻撃してきているという事は、あの状態はこっちの攻撃も通る状態なのか?
川崎経由で聞いた使徒の能力を分析し、この状況を打開する方法を頭の中で模索する。
だが相手はそんな暇を与えてくれない。
飛ばした光の槍が消されると今度は6本の槍を作り自身もそれと同じ様な細い光になり、周囲の槍と共にこちらに突貫してくる。
佐々木と塗本が本体を撃ち落とそうとするも周囲の槍に阻まれ届かない。だがそこで内野は一つ確信を得た。
本体が透過する状態ならあんなに周囲のやつで守る必要は無い、つまり今のあいつは攻撃が通る状態って事だ。それなら…
内野は佐々木達の前に飛び出る。
そして「下がれ!」とだけ二人に言った後、使徒に向かって跳躍して黒沼戦前に川崎から貰った『強欲の刃』を手に取り出す。
『強欲』で闇が広がるスピードより『強欲の刃』で刺された時の方が速かったし闇の量が多かった。
だけど自分で刺してもさっきみたいになるか分からないし、さっきのはこの指輪…黒狼がスキルを暴発させらからイレギュラーな闇の量になったのかもしれない。だから二つ同時に使ってやる。
黒狼!お前が何で黒沼を俺に呑み込ませようとしたのかは分からないが、聞こえてるならあの時みたいに力を貸してくれ!
「強欲ッ!」
そしてスキル発動と同時に自分の腕に『強欲の刃』を刺した。
するとMPが全て無くなり生身の状態になり、更に本日二回目の闇の放出なので激しい頭痛が内野を襲う。
だが刺された箇所から多量の闇が溢れ出し、たちまち内野の身体全てを吞み込む程の大きさへとなる。
自身に『強欲の刃』を刺して動けなくなった内野に出来る事は、僅かに闇の隙間から見える相手を睨みながら、相手の選択を見守る事だけだった。
ほら…避けるかこのまま突っ込むか選べ!
このままこいつが闇を油断して突っ込んできてくれれば使徒を吞み込めるだろうし、避けてもらえれば川崎さん達の目が回復する。どっちを選ばれたって構わない!
そして内野の視界は完全に闇に塞がれ闇に包まれた。
だが一回の時とは違って恐怖は無い。恐怖が消えるこの現象のお陰なのか、それとも自分を救い出してくれる新島が近くにいるからからなのかは分からないが、平静を保ったまま闇の中へと身をゆだねる事が出来た。
突然発生した大きな闇。使徒は闇がどんなものなのかは知らなかったが本能でそれを危険だと察知し、闇に触れる直前で横に軌道を変えて闇を回り込む形で一同に突貫してくる。
だがこの少し遠回りのお陰で自分の命は助かったのだと佐々木は理解していた。
本当は俺が守るべきだったのに…あいつに助けられちゃったな。
これまで内野の事は「良心を捨てきれなかった頃の自分」に重ね、近しく感じていたと同時に見下してもいた。まだその段階なのか、だとか思い今度は俺が成長させてやろうと上から見ていた。
でも今ので分かった、こいつはあの頃の俺とは似ている様で違う。
人助けを考えていたり甘々な所があるのは確かだが、自分に出来る最善の判断を瞬時に出来る能力がある。
この能力はあの時の俺には無かった。あの時はただ誰も死なせないなどと自分の身の丈に合わない目標を掲げ、その目標に呪われた様な判断ばかりしていた。大事なのは自分の力に見合った判断だというのに気付かずにな。
だからたった数回のクエスト経験でそれが出来るあいつを、田村さん達は逸材と言うのか…
佐々木はクエスト歴の後輩である内野の事を、不覚にも格好良い・心強いと思ってしまった。
だがそれは佐々木の先輩としてプライドが許さず、直ぐに頭から取り除く。そして目の前に迫ってきている使徒にのみ集中する。
といっても、もうさっきみたいに二人だけで全員を守らねばならない訳ではなかったので佐々木の心は平静を保っていた。
ここは俺じゃなくてあの人が適任だ、後は任せましたよ…田村さん
「ええ、任されました。それでは目を瞑って耳を塞ぎ衝撃に備えて下さい」
読心術で田村がそう返答し、その言葉に続いて次々と目が治ったメンバーが光の使徒の方へと歩いて行く。
そして田村は最前列に立つと手の平を敵がやって来ている方向へと向ける。
「メテオ」
田村がスキルを発動した瞬間。耳をつんざく爆発音、台風の様な爆風、さき程の閃光並みの光、地震が起きたのかと錯覚するような衝撃が同時に発生した。
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