第162話 第一印象
一週間トレーニングするという予定が決まってしまったが、気を取り直して次に内野は一人で小野寺の元へ行く。
小野寺を見つけるとそこには他の仮面達3人もおり、4人は暗い雰囲気で話していた。
「そ、そうか…黒沼は死んだのか…」
「ああ。川崎さんにはまだ黒沼に蘇生石を使う許可が出ていないから、生き返らせるのにはもうしばらく時間が掛かる」
「最後は内野君の説得によって改心したらしいけど…蘇生石で生き返るのはそれ以前の黒沼だからな…相応の準備をしてからじゃないと駄目らしい」
元青仮面の『
小野寺の目には少し涙が浮かんでいたが、内野が思っていたほど思い詰めてはいなかった。それどころか袖で涙を拭うと内野の方に向かってきて笑顔を見せる。
「約束守ろうとしてくれたんだな…ありがとう」
「いや、結局俺があいつを殺しちゃったのと同じだし…」
「…最後は改心してたんだよな。それってさ、蘇生石で生き返えらせらあいつも絶対に改心出来るって事だと思うんだ。だからその可能性を見せてくれただけでもう…感謝してもしきれないんだよ…本当にありがとう」
最初は小野寺の言葉を素直に受けとめられなかったが、小野寺が心の底から感謝しているのが伝わり、内野もようやくこの結果に納得が出来た。
そんな時、突然何者かに背後から肩を叩かれた。なので内野は直ぐに振り返って背後を確認する。
するとそこには、頭から血を流しボロボロになっているゾンビの様な魔物がいた。
「ッ…!?」
振り返った途端にそんなものと目があってしまい、内野は声にならない悲鳴を上げながら剣を取り出し魔物に切りかかる。
するとその魔物は手を前に出して「待て待て!ドッキリ、これドッキリだから!」と焦って声を出す。
そしてそれと同時に、新橋(青仮面)が内野の腕を掴んで剣を振り下ろすのを止める。
「切りたくなるのも分かるが待て。そいつは
「え、それじゃあこの見た目は…」
「『幻影』で俺の姿がゾンビ見える様にしてるだけだぞ!
と言っても術を掛けたのは君だけだから、他の奴からすると普通の俺の姿に見えるけどな」
ゾンビが親指を立てて陽気に話してくるのが不自然でしかなかったが、そうと分かり内野は剣をインベントリに戻す。
早大のこの陽気さだとまだ黒沼の死を知らないのではないかと思ったが、話を聞くとそういう訳ではなかった。
待ち合わせ場所を教えられたのと同時にこっちで起きた事を全て教えてもらったので、作戦が失敗して黒沼が死んだ事なども全て知っている様だった。
そして今ここにいるのは、待ち合わせ場所で先に会えたのが田村グループだったからだ。
だが緑仮面の陽気とテンションは到底仲間が死んだばかりのものとは思えないものであったので、島之上(元黄仮面)がそれを叱る。
「26歳の社会人のくせに…少しはデリカシーを持て。今はふざけて良い場面じゃないぞ。
小野寺が本気で黒沼を心配していたのはロビーで分かっただろ?」
「すまんすまん。でも、ぶっちゃけ黒沼に「逆らったら『独王』でステータスを奪う」って脅されてからは見限ってたし、死んだのもあいつの自業自得だからあんまりテンション下がらないんだわ。だからいつものノリをしちまった」
「落ち着くどころか黒沼から解放されてテンション上がってるな…内野君すまない、このノンデリカシー野郎が馬鹿やった。それに小野寺も、あの時は何も出来ず申し訳なかった」
島之上は早大の頭を掴んで無理やり謝らせる。そして小野寺にも謝罪した。
それで二人が頭を上げると、今度は早大の口から謝罪される。
だが謝罪と言っても良いのか分からないほど軽い口ぶりだ。
「あ、『幻影』を使って脅かした事も謝る。ごめんな。
でもこれからはあんた達と協力関係を結んでいくんだろ?第一印象って大事じゃん、だから…な?分かるだろ?」
「分かるだろって言われてもゾンビ姿で来るのはサッパリ分かりません。てか初対面は俺を襲ってきた時だから、第一印象は最悪ですよ」
「ああ、そっか。なら『怠惰』の川崎は初対面だしそっちにこのドッキリを…」
「「やめろ!」」
小野寺含めた他の元仮面達4人に殴られ、早大はその場で倒れてぐったりする。久々に仲間と戯れられて小野寺は笑顔であったが、やはり一人欠けているのが引っ掛かるのか満足気な笑顔では無かった。
他の者達も再会を果たして喜びに浸っていたが、暫くすると川崎が皆の前で喋り出す。
「さ、喜び合うのはこれぐらいして次の行動へと移すぞ。今から名前を呼ぶから、呼ばれた奴はこっちに来てくれ」
先ず呼ばれたのは怠惰グループのメンバーであった。
「怠惰グループは清水、田村、二階堂、佐々木、吉本、柏原、原井に俺を含めた8人だ」
川崎、清水、田村、二階堂、佐々木は木曜日の話し合い時点で顔見知りのメンバー。そして吉本にはおんぶしてもらったので、勿論この6人は内野にも分かった。
柏原という者は梅垣と一緒に内野の両親を救いに行った男性
原井はクエスト開始前に川崎の近くにいたフードを被っている女性(132話)
二人の事はあまり知らなかったが、内野は二人と目が合ったので軽く会釈する。だが原井は視線を下に向けるだけで会釈すら返して来ない。
柏原は一応会釈を返してきたが、視線をすぐに一同の方に移す。誰かを探している様にも見えた。
そして次は強欲メンバーの番となる。
「…こっちの人数は少ないが、内野・梅垣・新島の3人だ」
川崎から告げられた3つの名前。一つは自分のものなので言われるまでもなく分かっていたし、梅垣の名前があるのも納得出来た。だが新島の名前がある事は予想だにしなかった。
それは新島も同じで目を丸くし驚きを隠せずにいた。
「あの人って誰?」
「へぇーあの人も強いんだ」
二人に比べて圧倒的に認知度が低い新島の選出にそんな声が聞こえてくる。だがその後の新島の一言でこの場に居る全員がこの選出に納得する事となる。
「わ、私が入ったのは…さっきと同じ様に内野君の闇が暴発した時の為ですか?」
「そうだ、何があるか分からないから一応な。
工藤という子も『闇耐性』を持っているみたいだが、彼女が君に行かせた方が良いと言っていたからそれに従い君を選んだ」
それを聞いて新島が視線を工藤に移すと、工藤は腕を組んで視線を逸らしながら口を開く。
「私は闇の中に足を踏み入れられなかった、だから新島が行くべきだと思ったの。悔しいけど…私は心が弱いからきっとまた同じことがあっても闇の中には入れない…だから…任せるわ」
工藤の中には悔しさと申し訳なさが入り混じっている。4時間半も時間があったので闇に入れなかった自分を悔いる時間はたっぷりあった。
それによって今の自分では確実に無理だと分かってしまい、今こうして新島に全てを任せる事になってしまった。
そんな工藤の気持ちが何となく伝わったので、新島は工藤の目を見て軽く頷く。そして何も返さずに選出メンバーの方へと歩き出した。
内野、梅垣、新島は選ばれたメンバー側の方へと行く。
すると柏原は梅垣の身体に肘をぶつけて「次こそ俺の方が活躍してやる、よく俺を見とけ」と言う。
これだけで柏原が梅垣にライバル意識を持っている事は分かったが、梅垣は「またか…」と呆れている様子でこれは一方通行のライバル意識だと分かった。
そしてこれで川崎と共に行動するメンバーは全員揃ったのかと思ったが、追加で川崎は一人の名前を口にする。
「あと…薫森にも来てもらう」
「え、俺?」
「お前は出来るだけ目を放したくないし、戦力にもなるからな。お前だけは来てもらう」
本人すらも予想していなかった者の名が呼ばれる。
敵であった者が選ばれ佐々木や柏原などの選出メンバーは警戒し、顔が少し険しくなる。
その様子を見て、薫森は両手を上に上げて降参のポーズをする。
「あーそんなに怖い顔しないでよ。数時間前に川崎さんに成す術も無くボコボコにされた訳だし、逆らったり逃げようなんて思ってないからさ~」
「あんたに背中は預けるつもりは無いからな、最前線で戦えよ」
薫森はそう言うが、警戒心の高い佐々木は警戒を解かない。
それぐらいの警戒は必要であると考えているのか川崎もそれを止めるつもりはなく、そのまま話を続ける。
「今呼んだメンバーはクエスト範囲中心に向かい動く。内野君の『強欲』でそこそこ強い魔物を呑み込むまで帰って来ないつもりだし、かなりの距離離れる事になるから何かあってもそっちの救援に向かうのは無理だ。だからここからは命最優先で無理せず動いてくれ。
プレイヤーとは別の力を持つあの3人の様子は引き続き監視を続けておいてくれ」
「「はい!」」
怠惰メンバー一同は川崎の言葉に各々返事をし、すぐさま行動を開始した。
内野は川崎が最後に言っていたプレイヤーとは別の力を持つ3人が気になり、離れる前に一目だけどんな人なのか見ようと背伸びをする。
すると真っ先に一人の男が目に付く、男が小脇に抱えている物に目が付いたのだ。
それは厳しい予約競争で勝った者しか手に入らないと言われているとあるアニメのヒロインのフィギュアだ。
あ…そういえばあれって今日発売だったな。あの人も他の店舗で買ってればこんな目に合わなくて済んだのに…災難な事だ。
でもこんな事に巻き込まれても絶対にフィギュアを放さないなんて…あの人の執着は凄いな。
それにあの人服は血で汚れているけどフィギュアの箱は綺麗なままだ、こんな状況でそれを出来るのって結構凄くないか?
内野が初めて帯広を見たのはこの時で、帯広の執着心と信念が伝わり第一印象はかなり高かった。
まさかプレイヤーの頂点にいる大罪に意識されているなどと、この時の当の本人は気が付いてなどいなかった。
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